第4節 無償資金協力
開発途上国に対する資金協力のうち,相手国政府に返済義務を課さない,いわゆる2国間無償資金協力は,技術協力を除く一般の無償援助(一般の無償資金協力),食糧援助(国際小麦協定の一部を構成する食糧援助規約に基づき実施され,一般にK・R援助と称されるもの。)及び賠償・準賠償から成つている。2国間無償資金協力の目的は開発途上国の経済・社会の発展・福祉の向上及び民生の安定に寄与することにあり,わが国と開発途上国との友好関係の増進に大きな貢献をなしている。
わが国が75年において行つた無償資金協力の支出額は1億1,377万ドルである。これを前年の支出額1億3,510万ドルと比較すると約15.8%の減少となつたが,このような減少の主たる理由は,無償資金協力関係予算の総額の減少(48年度471億円,49年度429億円,50年度388億円)によるものである。(図及び表参照)
一般の無償資金協力は,一部の例外を除き外務省所管経済開発等援助費に計上される予算を外務省が支出することにより実施しているものであり,69年度に始まつてその後毎年開発途上国の社会開発関連分野を中心として拡充の一途をたどつてきたが,73年度以降は横ばい状態となつている。食糧援助は,国際小麦協定の中の食糧援助規約に基づき,67年以降毎年約1,430万ドル相当の米及び被援助国が希望する場合には農業物資をアジアを中心とする食糧不足国に無償供与しているものである。賠償・準賠償は第2次世界大戦の終了に伴う賠償及び対外債務の処理に関連するものであり,現在賠償についてはフィリピン,準賠償についてはビルマ及び太平洋諸島信託統治地域すなわちミクロネシアに対して供与しており,韓国に対する準賠償は75年12月をもつて支払いを完了した。現在実施中のものも77年までにはすべて終了することになつている。なお,食糧援助及び賠償・準賠償は何れも大蔵省所管予算に所要経費が計上され,支出委任を受けた外務省がこれを実施している。
わが国が75年中に行なつた無償資金協力の概要を以下に略述する。
(1) 医 療 分 野
(イ) ビルマに対する生物医学研究センターのための施設の建設援助
ビルマにおいては結核・癩病はもとよりヴィールス性諸疾患が曼延しているため,わが国は1967年以来同国のヴィールス研究に対し技術協力を行つてきており,その結果として同国の基礎医学研究のうちヴィールス部門は現在完全に自立しうる水準に達した。このわが国技術協力の成果を背景として,わが国はヴィールス部門を主体とした生物医学研究をビルマが今後主体的に推進する為のセンターの建設に協力することとし,75年8月16日付交換公文により,同国政府に対し生物医学研究センターの研究棟等の建設のため7億円を限度とする額の贈与を行つた。
(ロ) ヴィエトナム共和国に対するチョーライ病院全面改築計画等のための援助
70年度よりわが国が協力してきたチョーライ病院全面改築工事が完成したので,わが国は,75年1月28日付交換公文により,チョーライ病院の講堂,食堂等をヴィエトナム共和国に譲与し,また,同日付交換公文により医薬品購入のため1億円を限度とする額の贈与を行つた。
(2) 教 育 分 野
韓国に対するソウル大学校工科大学のための実験機材の供与
わが国は,ソウル大学校の総合化建設計画の一環として企画された同大学校工科大学の老朽化した実験施設の更新と新規の実験設備機材の拡充計画に協力することとし,74年度に5億円を限度とする額の贈与を行つたが,更に各種測定器,探査機,記録機,試験装置,計算機,顕微鏡等の学生実習用の実験機材の供与のため,大韓民国政府に対し,75年8月29日付の交換公文により,5億円を限度とする額の贈与を行つた。
(3) 農水産分野
(イ) モルディブ共和国に対する漁船動力化機材の供与
モルディヴ共和国の周辺海域は水産資源の豊庫となつており,同国漁民は約5千隻の帆船によりカツオ・マグロ等を漁獲し,加工の上輸出しているが,これは同国の総輸出額の99%以上を占めており外貨獲得の主要源となつている。このため同国政府は漁業の近代化のための,漁業開発振興計画を策定した。わが国は,同計画中漁船動力化計画に協力することとし,75年1月31日付の交換公文により,同国政府に対し1億5千万円を限度とする額の贈与を行い,同国政府はこれに基づき漁船用エンジン,工作工具及び工作金属部品を購入した。
(ロ) ガイアナに対する棧橋等の建設援助
南米北岸沖海域は約7万5千平方海里のエビ漁場を形成しており,特にガイアナは同海域におけるエビ漁業の基地として中心的役割りを果たしている。同国はその第二次開発計画において,食糧自給政策との関連で漁業基地建設を計画した。わが国は,これに協力することとし,漁業基地の内,特に早期建設が望まれている棧橋等の建設のため,同国政府に対し75年8月5日付の交換公文により,3億4千万円を限度とする額の贈与を行つた。
(ハ) パプア・ニューギニアに対する国立漁業訓練大学設立援助
パプア・ニューギニアの周辺海域は太陸棚の存在等の特徴もあり海産生物相は多岐にわたつており,有用魚種も豊富である。しかるに,同国漁民のほとんどは,昔ながらの漁法により珊瑚礁の周辺で自給自足的な漁業に従事している状況にあるため,同国政府は漁業開発計画を進めている。わが国は,この一環である国立漁業訓練大学設立計画に協力することとし,同大学の設立に必要な諸施設の建設及び漁業訓練船1隻を含む機材の調達のため,同国政府に対し75年11月28日付の交換公文により,6億6千万円を限度とする額の贈与を行つた
(ニ) タイに対する口蹄疫ワクチン製造センターの施設の建設援助及びワクチン製造用機材の供与
タイ政府は,家畜の悪性伝染病の一つである日蹄疫の防疫に努めているが,ワクチン製造能力の不足から充分な効果をあげ得ないでいる。このため,同政府は近代的なワクチン製造方法を導入した製造施設を建設し,ワクチン製造能力を現在の約7倍の680万頭分(現在80~100万頭分)に引き上げることを計画した。
わが国は,本計画に協力することとし,75年11月14日付の交換公文により,同政府に対し口蹄疫ワクチン製造センターの研究棟,製造棟及び動力棟の建設並びに同センターで使用するワクチン製造用機材の供与のため,10億円を限度とする額の贈与を行つた。
(4) 経済復興・難民救済等の分野
(イ) ヴィエトナム民主共和国に対する経済の復興と発展のための機材の供与
わが国は,ヴィエトナム民主共和国の経済の復興と発展に協力することとし,農地開懇及び公共土木事業に必要なブルドーザー,その付属品,石炭開発に必要な運搬用トラック,公共土木事業及び石炭開発に必要な掘さく機,鉄道復旧に必要なボギー車等を供与するため,ヴィエトナム民主共和国に対し,75年10月11日付の交換公文により,85億円を限度とする額の贈与を行つた。
(ロ) バングラデシュに対する繊維製品の供与
バングラデシュは72年独立以来経済の安定及び開発のために努力を行つていたが,74年の雨期に異常な大洪水に見舞われたこと等の事情により,農業をはじめ諸産業の生産が停滞した結果,食糧等の大量輸入と輸出の不振が国際収支を圧迫し,従来相当部分を輸入に頼つてきた同国国民の衣料を確保することが緊急の課題となつた。わが国は,バングラデシュの経済の安定及び民生の向上に寄与すべく,繊維製品(綿布及び合成繊維製の布)の供与のため,バングラデシュ人民共和国政府に対し,75年3月28日付交換公文により,15億円を限度とする額の贈与を行つた。
(ハ) ラオスに対する民生安定物資等の供与
わが国は,ラオスにおける難民救済,民生安定,並びにラオスにおける平和の回復及び民族和解の達成に寄与するため,74年3月29日付交換公文により,ラオス王国政府に対し難民村建設,民生安定物資の購入等のため8億円を限度とする額の贈与を行つたが,その後,同国の再度の援助要請に応えわが国は,更に75年4月22日付交換公文により,同国の民生安定,マラリヤ撲滅計画及びヴィエンチャン技術学校の追加建物の建設に協力するため,同国政府に対し8億円を限度とする額の贈与を行つた。
(ニ) 国連及び国際赤十字のインドシナ緊急援助計画に対する現金拠出わが国は,国連及び国際赤十字が主として南ヴィエトナム及びカンボディアのインドシナ難民を対象として計画・実施中の緊急援助計画に対して75年中に次のとおりの現金拠出を行つた。(括弧内は支出月日)
(あ) 国際赤十字のインドシナ救援グループ(IOG)に対して6億円(4月28日)
(い) 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)及び国連児童基金(UNICEF)が中心となつて実施中のインドシナ緊急援助計画に対して6億円(11月7日)
(う) 国連難民高等弁務官事務所による国外インドシナ難民援助活動に対して3億円(11月7日)
(え) 国際赤十字のインドシナ緊急援助計画に対して5億円(11月7日)
(5) 災害救済等のための緊急援助
わが国は75年中に外務省所管経済開発等援助費を支出して災害救済等のため次のとおりの緊急援助を行つた(なお,このほか同援助費以外の経費から若干の災害見舞金等が支出された)。(括弧内は支出月日)
(イ) パキスタンに対する震災救済(日本赤十字経由)5千万円(1月23日)
(ロ) ケニアに対するコレラ撲滅(日本赤十字経由)1,500万円(2月10日)
(ハ) モザンビークに対する早魃救済(国連難民高等弁務官経由)1億2千万円(6月18日)
(6) 国際収支の支持のための基金への拠出
わが国はラオス王国政府との75年7月15日付交換公文に基づきラオス外国為替操作基金(FEOF)に対し米貨180万ドル(5億5,440万円)を拠出した。
(7) モンゴルに対する救急車援助
わが国は,モンゴルに対して日本赤十字社を通じ救急車の援助を実施してきたが,モンゴル赤十字社より日本赤十字社に対し追加の援助要請がなされたため,75年にも救急車の援助として2回にわたり合計5,246万円を支出,日本赤十字社を通じモンゴル赤十字社に対して実施した。(3月22日2,367万円,12月27日2,609万円それぞれ支出)
(1) 食糧援助はもともとガットのケネディ・ラウンド関税一括引下交渉の一環として成立した1967年の国際穀物協定の一部をなす1967年食糧援助規約に基づいて行われていたが,この国際穀物協定に代わる1971年の国際小麦協定が発効してからは,同国際小麦協定を71年小麦貿易規約とともに構成する71年食糧援助規約に引継がれている。(なお,同規約の当初の有効期間は71年から3ケ年となつていたが,開発途上国に対する食糧援助の必要性が依然として強いため,その後同規約加盟国間で協議の上有効期間を再三延長している。)
(2) わが国としては元来開発途上国に対する食糧援助義務を穀物協定の中に盛り込むことは本来需給の調整を目的とする商品協定の性格からいつて筋違いであり,わが国の如き穀物の大輸入国にまでもかかる援助を強いることは納得できず,また,開発途上国の食糧問題は基本的には農業開発により解決されるべきであるとの立場をとつている。このような立場から1967年に小麦貿易規約と食糧援助規約からなる国際穀物協定が採択された際には,わが国は同食糧援助規約への署名に当り,その第2条の受諾を留保した。しかし開発途上国の食糧問題の重要性は,わが国も十分認識しており,また,過渡的措置としての食糧援助自体の必要性をも否定するものではないので,留保にあたつて,わが国の拠出義務量22.5万トンに相当する穀物を現金換算し(1,430万ドル),これを米を含む食用穀物又は受益国の要請により農業物資(肥料,農機具,農薬等)の形態で援助を行う旨の意図を表明した。その後わが国は国際小麦協定の成立,同協定の延長に当つても同様の留保を付し,米又は農業物資の援助を行つてきているが,このためわが国の援助形態は,主に小麦による現物供与を行つている他の加盟国に比し特異なものとなつている。なお米と農業物資がわが国食糧援助に占める割合は平均各々約90%及び約10%である。
(3) 本援助は規約上海上輸送費等を含まない建前(いわゆるFOB建て)となつているが,被援助国の中には援助物資の海上輸送費,海上保険料がかなりの負担となり財政上困難となる場合があることに鑑み,わが国は73年度以降の予算から輸送費,保険料に必要な経費を計上し,外貨事情の特に苦しい国等に対してはこの分野において応分の協力をしている。75年度予算においてはこれら輸送費等に100万ドルを計上した。
(4) わが国は75年中に次の食糧援助を実施した。
(イ) 74年に援助を約束したが,同年中にはその実施が完了しなかつたネパールに対する107.8百万円相当の農機具(灌漑用ポンプ),及びアフガニスタンに対する107.8百万円相当の肥料による援助を完了した。(ネパール,アフガニスタンそれぞれにつき別途海上輸送費,海上保険料を負担した。)
(ロ) また,ガーナに対し3月13日付交換公文に基づき4億40万円相当の農業物資(農機具及び農薬)の供与,バングラデシュに対し3月25日付交換公文に基づき800万ドル相当のタイ米及びビルマ米の供与(別途海上輸送費,海上保険料を負担した),フィリピンに対しては3月31日付交換公文に基づき150万ドル相当のタイ米の供与をそれぞれ約束しかつ実施した。
(ハ) さらに,上記の他,UNRWAに対し7月5日付交換公文に基づき200万ドル相当のエジプト米の供与,ホンデュラスに対し10月20日付交換公文に基づき50万ドル相当のアメリカ米の供与,スリ・ランカに対し12月9日付交換公文に基づき100万ドル相当のタイ米の供与,バングラデシュに対し12月27日付交換公文に基づき130万ドル相当のタイ米の供与を約束した。(うち,ホンデュラス,スリランカ,バングラデシュに対し,別途海上輸送費,海上保険料を負担した。)
(1) 賠 償
わが国が第2次世界大戦後に賠償請求国との交渉の結果締結した賠償協定に基づいて賠償支払いを行つたのは,ビルマ,フィリピン,インドネシア及びヴィエトナム共和国の4カ国である。この中フィリピンに対する賠償(協定総額5億5千万ドル)のみ現在実施中であるが,その賠償供与も76年7月までに完了することになつている。なお56年の対フィリピン賠償に始まる賠償支払開始以来,75年末までに総額約5億3,078万ドルを支払済である(75年中のみの支払額は,2,807万ドルである)。
対フィリピン賠償の対象は,鉄道車両・船舶・プラント類(セメント・製紙・織物等)・一般機械(工作機械等)・基礎資材(銅線・電線等)・自動車類等が主なものである。
(2) 準 賠 償
準賠償は,賠償ではないが終戦処理の一環として対外債務を処理するためのいわば義務的支払いであるが,75年においては,ビルマ・韓国・太平洋諸島信託統治地域(ミクロネシア)に対してそれぞれ協定に基づく無償の経済協力が実施された。75年中の支払額は,4,652万ドル(143億円)である。
(イ) ビルマについては,賠償協定の条項に基づいて再検討が行われた結果,63年3月に経済技術協力協定が締結され,いわゆる4プロジェクト(大型車両製造・小型車両製造・農業機械製造及び家電製品製造プロジェクト)を主な対象として,65年4月16日から12年間に総額1億4千万ドルの生産物及び役務を無償で供与することになつている。75年末現在の支払実績は1億2,505万ドルであり,75年のみでは約1,357万ドル(41.8億円)である。
(ロ) 韓国については,日韓国交正常化との関連で,両国間の財産及び請求権問題の解決のため,65年6月に無償3億ドル及び有償2億ドルの供与を10年間均等な額で行うこと等を内容とする「財産及び請求権問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」が締結され,同年12月18日発効以来,実施に移されてきたが,75年12月17日清算勘定相殺分を含み無償分の総額3億ドル(1千21億円)の供与(支払)が完了した。なお,75年中の支払額は,3,101万ドル(96億円)である。主な供与対象は,農業用水源開発,干害対策,農業増産,畜産計画(機械化促進等),水産振興計画,送配電施設計画,科学技術実験実習計画,浦項総合製鉄所建設等の関連機器資材及び原資材等であつた。
(ハ) 太平洋諸島信託統治地域(ミクロネシア)については,同地域とわが国との間の財産請求権問題を解決するために,69年4月,わが国と同地域の施政権者である米国との間に「太平洋諸島信託統治地域に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定」を締結した。この協定に基づき日米両国は,同地域の住民の福祉のために,それぞれ18億円及び500万ドルの自発的拠出を行うことになつている。日本側の拠出(18億円)はわが国の生産物及び役務を購入するために使用されることになつており,現在実施中である。また,わが国の拠出については,75年3月末までに米国政府名義の特別勘定に全額払込済である。
なお,本協定に基づく生産物等の供与期間は,75年5月26日までであつたが,調達状況にも鑑み,76年10月15日まで延長されている。