第7節 そ の 他
環境問題に関する国際協力は,各国の経験と情報交換の必要性,広域汚染の存在,国際貿易上の悪影響の調整の必要性,開発援助における環境保全のための配慮等の観点からその重要性を増している。
国連及びその関係機関,OECD,二国間等の場でこの分野での協力活動が活発に行われている。以下においては,第4章において取り上げられる国連での活動を除く主要な活動を概述する。
(1) 日米公害閣僚会議と日米環境保護協力協定
日米公害閣僚会議は,70年9月発足して以来,すでに3回にわたり開催され,日米両国の環境問題に関する政策レヴュー,情報交換等を行つている。このほか同会議の下部機構として,光化学大気汚染,下水処理技術,廃棄物処理,自動車公害対策,環境アセスメント,有害汚染物質を含む堆積汚泥処理,大気汚染気象等の専門部会が設置されている。
この閣僚会議が多分にアド・ホック的なものであるので,環境問題に関する日米間の協力を更に拡大拡充せしめるための法的枠組みを作る気運が高まり,日米両政府間で交渉が行われてきた。その結果,75年8月,三木総理訪米の際,宮澤外務大臣とキッシンジャー国務長官との間で,上記閣僚会議を更に拡大発展させた「環境の保護の分野における協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」が署名された。同協定は,全文10条および合意議事録から成り,大気汚染,水質汚濁,海洋汚染防止等の環境問題について,両国間で各種の会合,科学者の交流,情報の交換を行うほか,合同企画調整委員会を設置し,主要な環境政策問題について協議することを定めている。
同協定に基づき,上記公害閣僚会議の下で実施中のプロジェクトについて,レヴューが行われ,これらプロジェクトを正式に本協定に基づくプロジェクトとして継続させることとされている。
(2) OECD環境委員会
75年の本委員会の活動を特色づけるものとしては,低成長下において環境政策を全体的な社会・経済政策の枠組みの中でどう位置づけるかに対する模索がなされたことが挙げられるが,特に11月に本委員会において「現下の経済情勢の環境政策に与える影響」について討議が行われたことが注目される。
他の主要なものとして,次の活動が上げられる。エネルギーと環境の分野についてタスク・フォースが設けられ,エネルギー施設の立地,沖合における石油及び天然ガスの開発等の問題が検討され,エネルギーの生産及び利用の環境への影響について勧告案を含む報告書が作成された。また本委員会の下部機構が改組され,従来の大気,水,都市,化学品の部門別検討グループに加え,廃棄物管理,都市環境指標,越境汚染等合せて20に及ぶグループないしパネルが設置され活動を開始した。さらに76年にわが国の環境政策についての分析・検討のための会合をOECD加盟各国の参加を得て東京で開催することが決定された。環境政策の国別検討を本委員会で行うのは,75年のスウェーデンに次いで第2回目であるが,本会合においては,多くの成果をあげているわが国の環境政策を詳細に検討することにより,共通に学ぶべき点及び問題点を拾い上げ,もつて全加盟国の環境政策に寄与することが期待されている。
近年,わが国漁業をめぐる国際環境は,水産資源に対する各国の関心が高まつたことから,世界各地域に存在する地域漁業機関や二国間漁業交渉の場において資源保存のための規制強化の動きが顕著となつてきており,急激にその厳しさを増している。現在開催されている第3次海洋法会議においては,200海里の排他的経済水域設定はもはや動かし難い趨勢となつており,かかる国際的潮流を背景として,資源ナショナリズムに立つ沿岸国の主張はますます強化され,沿岸国による領海あるいは漁業水域の拡張が相次いでいる。また一方では,米国を中心に鯨等の海産噛乳動物保護運動が相変らず根強く展開されている。
(1) 規制強化の動き
遠洋漁業に依存するところが大きいわが国は,多くの多数国間条約に加盟するとともに多くの二国間協定を締結し,資源保存,関係国間の漁業調整等に積極的に協力している。しかしながら近年,開発されてきた資源が既に満限状態まで乃至はそれ以上に利用されていることから,随所で減少傾向が見られるようになつたため,資源保存措置の必要性が強く叫ばれ,沿岸国が一方的に規制措置をとつたり,或は各種漁業委員会,国際漁業交渉の場において,海洋法会議の結論を先取りするが如き沿岸国の主張とも相俟つて厳しい規制措置が次々と採択されている。
北西大西洋漁業国際委員会(ICNAF)は,北西大西洋の漁業資源の保存を目的として1950年に締結され,種々の漁業規制を行つてきたが,資源状態が悪化したことから,71年に魚種別漁獲量の国別割当規制を,73年にはオーバーオール・クォータ(特定水域の漁業資源に対する許容漁獲量)の国別割当規制を採用した。これら国別割当に際し,沿岸国である米加は海洋法会議の審議を背景とし,許容漁獲量から沿岸国の漁獲可能量をまず取り,残りを遠洋漁業国間で配分する方式を主張しているが,遠洋漁業国の海洋法会議以後の思惑もあつて現在のところおおむね同方式に則つて配分が行われている。
ICNAFと同様に漁業資源の保存に関しては長い歴史を持つ,北太平洋の漁業資源の保存を目的とする北太平洋漁業国際委員会(INPFC)及び東部太平洋のまぐろ類資源の保存を目的とする全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)においても近年資源の減少傾向に伴い規制強化がはかられるとともに,海洋法会議の審議を念頭に置いた沿岸国の優先的配分の要求(IATTC)が強まつている。
その他,1960年代後半からFAOの提唱により,大西洋のまぐろ資源保存を目的とする大西洋まぐろ保存国際委員会(ICCAT)及び南ア,アンゴラ等沖合の漁業資源の保存を目的とする南東大西洋漁業国際委員会(ICSEAF)が条約機構として,モーリタニア,セネガル等沖合及びギニア湾の漁業資源を対象とする中東大西洋漁業委員会(CECAF),インド洋の漁業資源を対象とするインド洋漁業委員会(IOFC)等がFAO内部の機関として設置され,調査研究の進展に伴い規制措置が採択されつつある。
また,わが国が締結している二国間協定の場においても同様に厳しい規制措置がとられる傾向に変わりはない。特にわが国漁業のうち,漁獲量で80%,金額で50%を占める北洋漁業は,海洋法会議の動向を念頭に置いたソ連及び200海里漁業専管水域法案の施行を前提とした米国との交渉いかんによつては今後操業形態を再検討しなければならない状態にある。
74年のわが国漁業総生産は前年の1,076万トンと殆んど変わりない1,081万トンにとどまつた。遠洋漁業の生産量は前年に比べ若干増加したが,大部分の地域漁業委員会で海洋法会議の動向を考慮に入れた規制が今後強化されこそすれ,弱まることはないものと考えられる。
(2) 海産哺乳動物保護の動き
ここ数年,世界的に高まりをみせている捕鯨反対運動により,日ソ等の捕鯨国はひたすら後退を余儀なくさせられた。75年6月の国際捕鯨委員会(IWC)第27回年次会議においては,前年開催された同委員会第26回年次会議で採択された鯨資源を資源状態に応じて3つのカテゴリーに分類し管理を行つていくという管理原則(豪決議)にしたがつて,捕獲枠が決定された。その結果,わが国が関係している海区の捕獲枠は前年に比べ2割減の29,663頭となり,わが国では従来の操業規模を維持できなくなつたので,76年2月水産各社は捕鯨部門を分離再編成し,母船式捕鯨を行う共同捕鯨株式会社を発足させた。捕鯨反対運動は現在表て立つた動きを見せていないが,捕鯨国の対応いかんによつていつでも激化する状態にあり,今後とも注意を要する。
また,米国内の環境保護グループは,鯨以外の海産哨乳動物の保護についても強い関心を示しており,米国は76年10月に失効する北太平洋おつとせい保存条約の延長を検討した当事国会議(75年3月及び同年12月ワシントンで開催)で鯨におけると同様,現行条約をおつとせい保護の観点に立つた条約に改正すべきことを強く主張した。同会議では現行条約の4年延長等が合意されるにとどまつたが,毎年開催される北太平洋おつとせい委員会において,おつとせい保護の主張が強まつていくものと思われる。
わが国としては,海産哨乳動物は魚介類と同様科学的知見に基づき適正に管理しつつ人類の利用に供すべき水産資源であるとの基本的認識に立ち,かかる海産噛乳動物保護の動きに対処しているが,捕鯨反対運動が日本製品のボイコット運動等政治的動きを呼び起こしている点も認識しつつ,今後ともわが国の事情を十分説明し各国の理解を求める等地道にかつ慎重に対応していく必要がある。
〔別表〕 わが国が加盟している漁業条約,協定(76年3月31日現在)
1. 多数国間条約
(1) |
国際捕鯨取締条約(国際捕鯨委員会) |
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(2) |
北太平洋の公海漁業に関する国際条約(北太平洋漁業国際委員会) |
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(3) |
北太平洋のおつとせいの保存に関する暫定条約(北太平洋おつとせい委員会) |
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(4) |
大西洋のまぐろ類の保存のための国際条約(大西洋まぐろ類保存国際委員会) |
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(5) |
全米熱帯まぐろ類委員会の設置に関するアメリカ合衆国とコスタ・リ力共和国との間の条約(全米熱帯まぐろ類委員会) |
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(6) |
北西大西洋の漁業に関する国際条約(北西大西洋漁業国際委員会) |
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(7) |
南東大西洋の生物資源の保存に関する条約(南東大西洋漁業国際委員会) |
注:( )内は地域漁業機関
2. 二国間協定
(1) 日ソ漁業条約
(2) 日ソかに協定
(3) 日ソつぶ協定
(4) 日米漁業協定
(5) 日米かに協定
(6) 日韓漁業協定
(7) 日・ニュー・ジーランド漁業協定
(8) 日豪漁業協定
(9) 日中漁業協定
(10) 日ソ昆布協定(民間)
(11) 日・インドネシア漁業協定(民間)
(12) 日・モーリタニア漁業協定(民間)
近年における世界経済の大きな情勢変化や開発途上国からの要求活発化の動きに対して,先進諸国は,単に短期的観点から扱うのみならず,中長期的視野に立つて検討・研究を行い,世界経済の諸問題に対処していこうとの認識が高まりつつある。OECDにおいても最近,次のような中長期問題を扱う幾つかの特別のプロジェクトが発足しており,今後の研究成果が期待されている。
(1) マクラッケン・グループ
近年,多くの先進諸国が厳しいスタグフレーションを経験したことなどから,「インフレなき持続的な成長」を達成するためのより効果的な政策措置の研究の必要性が広く認識されるに至つた。そして75年5月のOECD閣僚理事会において,キッシンジャー米国務長官は,このような趣旨からOECDにおいて本政策課題を各国の著名エコノミストに中長期的観点より検討せしめ,政策提言を行わしめるよう提案し,各国の関心を集めた。その後において本件具体化のための検討が進められ,マクラッケン元米国経済諮問委員会委員長を議長とし,わが国の小宮隆太郎東大教授を含む計8名のエコノミストが個人的資格で参加する専門家グループ(議長の名をとり「マクラッケン・グループ」と通称される)が設けられた。本グループは75年11月に第1回会合を開催し,76年末又は遅くとも77年初までに研究成果をOECDの事務総長に報告することとなつている。
(2) 将来の世界経済の調和的発展に関する研究構想
わが国は,かねてより,極めて長期的な観点から,「先進工業社会の将来と開発途上国の将来との調和ある繁栄のための研究構想」をOECDにおいて実施するよう示唆してきたが,75年5月のOECD閣僚理事会において本構想を宮澤外務大臣が紹介したところ,米国等多くの国が関心を示した。その後,OECDにおいて関心国の専門家(わが国より大来海外経済協力基金総裁が参加)により,本件具体化作業が進められ,本件プロジェクトは76年1月より正式に発足することとなつた。本構想は経費400万ドルを要して,3年間にわたり研究を行うこととされており,わが国は発足と同時に1億円の拠出を行つた。
(3) 工業委員会・産業構造アド・ホック作業部会
OECD工業委員会において産業調整問題の検討が行われた際,わが国は本問題の検討にあたりまず産業構造の長期見通しと,これと整合性のある政策の検討が必要であることを強調し,中長期の経済展望・産業構造展望及び世界貿易モデルの作成を提案した。これを受けて75年6月,同委員会内に産業構造アド・ホック作業部会が設立され,本件の本格的検討が開始されることとなつた。