第6節 食 糧 問 題
(1) 72年における世界穀物需給の逼迫,価格の急騰以来,世界の食糧需給は73年の一時的緩和と74年の逼迫を経験したが,世界的な景気後退から穀物消費が減退した結果,74年終りから穀物価格は下落を始め75年6月の小麦価格(シカゴ相場)は74年ピーク時のほぼ半分にまで下落した。
(2) しかるに,75年6月天候不順から,穀物の生産に大きな打撃を受けたソ連が,米国から穀物を大量に輸入する動きが表面化し,穀物価格は再び上昇し始めた。
(3) このような背景の下に,8月初旬米国政府は対ソ穀物輸出を一時停止し,ソ連と穀物協定締結の交渉を始めた。本協定は10月20日に締結され,ソ連は,76年10月1日以降5年間小麦及びとうもろこしにつき年間600万トンの輸入義務を負い,800万トン以上の輸入については米国政府と協議することが定められた。これにより当面はソ連の急激な輸入増大による世界穀物市場の攪乱の恐れは緩和された。
(4) 加えて,75年の米国の春小麦,とうもろこし等は大幅な増産を記録し,この増産分だけでも75年11月現在のソ連への輸出成約量を完全にカバーして余りあることも相俟つて,穀物価格は10月半ば以降下落を続け11月末にはほぼ同年6月の水準にまで落ち込んだ。
近年主要穀物輸出国における在庫が低水準に落ち込んでいるため,世界の食糧需給における緩衝機能が大幅に低下している。このような事情を背景として,在庫の積み増し,あるいは,備蓄の問題が種々の国際的な場で検討されている。
食糧需要の大きな部分を海外からの輸入によつて賄つているわが国としては,主要穀物の供給及び価格の安定について重大な関心を有しており,穀物備蓄に関する次のような国際的検討に積極的に参加している。
(1) FAOにおける穀物備蓄問題
FAOの場においては,バーマFAO事務局長が提唱し,国連世界食糧会議でエンドースされFAO第64回理事会において採択された「世界食糧安全保障のための国際的申し合わせ」についての検討が進められている。75年2月,FAO事務局長よりFAO加盟国及びその他の関係国に対し,上記申し合わせを求める書簡が発出された。75年11月時点での本申し合わせ受け入れ国は,66カ国及びECである(わが国は75年4月に受入れを表明している)。
75年5月に開催された世界食糧安全保障に関するアド・ホック協議においては,上記申し合わせの各国の受諾振り,食糧安全保障委員会の設置及び今後の本件スキームの具体的進め方等につき協議した結果,以下のような勧告が採択され,本勧告は6月の第66回理事会でエンドースされた。
(イ) 申し合わせを受諾していない国に対する参加呼びかけ。
(ロ) 穀物に関する国際的協定についての交渉の続行。
(ハ) 申し合わせの趣旨に沿つた在庫政策の確立。等
また,75年11月のFAO第18回総会において食糧安全保障委員会が設立され,今後は上記勧告を含め本件スキームの実施についてはこの場で検討されることとなつた。
(2) IWCにおける穀物備蓄問題
IWC(国際小麦理事会)は,現行1971年国際小麦協定の規定に基づき,経済条項を含んだ新たな小麦協定の草案を準備するために,75年2月の理事会において新協定準備グループを設置した。この準備グループは,新たな国際小麦協定に含まれるべき諸要素につき,75年3月,5月,76年1月と会合し,予備的な意見交換を続けている。
米国が主張する3,000万トンの穀物備蓄計画も,この新協定の一つの要素として議論されているが,「食糧安全保障」のための備蓄を主張する米国や,仮りに備蓄を行うとしてもそれは価格安定のものとすべしとする諸国等から,様々の意見が出されており,わが国も穀物の大輸入国として,新協定作成にあたつては輸入国側の利益が十分反映されるよう努力している。
(3) MTNにおける穀物備蓄問題
MTNにおいては穀物サブ・グループを設けて,穀物貿易につき,関税,非関税措置の軽減撤廃の問題のみならず,価格と市場の安定化,開発途上国に対する特別措置等輸出入国の協力による多角的解決策の問題が討議されてきているが,穀物備蓄問題は価格・市場の安定化問題と関連して取上げられている。しかしながら,備蓄問題の取扱いにつき,IWCO場を主張する米国と,MTNの場を主張するECとの対立もあり,実質的討議は未だ進展していない。