第5節 国際投資問題

 

 

1. わが国の海外投資

 

(1) わが国の海外投資の概況

(イ) 72年以来,急増してきたわが国の海外直接投資は,74年度において,許可ベースで前年比31%減となつたものの,75年度では,前年より8.9億ドル増加し(前年比36.9%増),32.8億ドルに達した。

 75年度末現在の海外直接投資許可累計額は,159.4百億ドルとなつた。

(ロ) 75年度の海外直接投資は,75年末頃から欧米を中心として世界景気が徐々に回復し,民間企業の資金の余裕が出てきたところから,大きく盛り返し,ほぼ73年度の水準に回復した。業種別にみると,製造業が10.3億ドルと全体の31.3%を占めており,商業は前年に比べて約2倍近く伸び(6.7億ドル),構成比20.5%となつた。鉱業は6.1億ドルで同18.4%である。地域別にみると,アジア向け投資の11億ドル(構成比33.6%)を筆頭に,北米9.1億ドル(同27.6%),中南米3.7億ドル(同11.3%)が続いている。

(ハ) 75年度末の許可累計額ベースの業種別構成をみると,製造業は,51.6億ドル(構成比32.4%)で,アジア及び中南米へ集中しており,両地域向け投資額は,製造業の69%を占めている。鉱業は,41.3億ドルで同25.9%,商業は22.2億ドルで同13.9%となつている。

 地域別にみると,アジア42.2億ドル(構成比26.5%),北米39.2億ドル(同24.6%),中南米28.8億ドル(同18.1%)である。

(2) 開発途上国の投資環境の変化

(イ) 世界的不況の同時化と長期化は,開発途上国の経済発展段階,資源賦存状況等とも関連して,これら諸国の投資環境に変化をもたらした。

(ロ) アジア諸国では,1973年頃は,外資選別基準の強化あるいは外資系企業の現地化などの外資規制策が相次いだが,その後の景気後退に伴い,自国の経済回復のため,外資導入の重要性に対する認識が強まつている。すでに,韓国,シンガポールでは外資導入基準の緩和,優遇度の引き上げの動きがみられる。また,このような制度的緩和と相俟つて,地域開発に外資を活用する国々もみられる。

(ハ) 中南米諸国においては,出資比率の制限,業種制限及び国内経済政策と密着した外資の活用など多くの点で共通した方針がみられるが,これら諸国の外資政策の基調は,外資を選別的に導入し,それによつて工業化,地域開発,輸出振興を強める傾向にある。わが国の投資実績が多く,開放経済体制を続けてきたブラジルにおいてすら,経済ナショナリズムが強まり,同国政府は,経済開発のために,政府企業,民族企業と並んで外資を活用することを基本方針としているものの,一方では同国経済の先駆的部門の投資を促進するなど選別的方針をとるに至つている。また,メキシコにおいても,同国にとつて有益なものに限り,外資を歓迎する姿勢をとつており,かかる外資はメキシコ資本に従属的関係に立つてこれを補足する役割を果たすことが要求されている。

(ニ) 中近東諸国では,膨大な石油収入を背景として,各々の国情に応じて,インフラ部門を中心に投資環境の整備が行われている。このような過程での政府ベースの経済協力,民間企業の協力プロジェクト参加が,外国資本にとつて投資機会を増大させており,今後は,技術水準の向上および工業化において果たす外資の役割が注目される。他方,リビア,イラクなどで進行してきた国有化の動きは,サウディ・アラビア,クウェート,バハレーン等へ波及しており,今後もこのような動きが強まるものと思われる。

(3) 投資保証協定

(イ) 近年,わが国の海外投資が飛躍的に増え,今後も増加することが予想されることに鑑み,かかる民間海外投資を二国間協定により保護し,より一層促進する必要性が認識されている。このような状況を背景に,わが国は,まず,エジプトとの間で,投資保証促進協定を締結する方針を決め,そのための努力を行つている。

(ロ) 投資保証協定は,海外投資の相互促進を確保し,民間海外投資資産の保護および紛争解決手続を規定するもので,すでに,英国,西独等の主要先進国は,多数の開発途上国との間で締結しており,かなりの成果をあげていると思われる。また,かかる協定には,(a)相手国内での事業活動に対する最恵国待遇,(b)国有化による収用に伴う補償措置,(c)事業活動等に伴う紛争の解決方法等を規定している。

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2. OECDにおける多国籍企業問題の検討

 

 多国籍企業を含めた国際投資一般に対するOECD諸国の基本的考え方は,資本の自由な流れの確保を通じて世界的規模での資源の最適配分をはかるべきであるというものであり,国境を越えた投資は各国の経済発展に寄与するものとしている。また多国籍企業は,その規模の大きさ,経営資源,情報量の大きさ及び意思決定と行動の機動性に富んでいることなどの特質により,その活動が国内及び国際経済の発展に貢献してきたと一般的に認識されている。しかし,多国籍企業はこれらの特質の故に,各般にわたる問題や懸念が生じることは否定しえないとして多国籍企業ガイドラインの策定と取り組むに至つた。

 75年におけるOECDの本問題に関する活動は,それまでの各種専門委員会での分野別検討に加えて,「国際投資・多国籍企業(IME)委員会」を中心に行われた。IME委は75年1月に設立され,3月に第1回会合を開催し,75年末まで6回の本委員会および9回の非公式グループ会合をもつた。

 IME委の作業の主たるものは,(1)多国籍企業の行動指針,(2)外資系企業に対する内国民待遇の供与,(3)国際投資の促進要因及び抑制要因政策に関する協議,についての3文書をとりまとめることである。後2者の文書は,資本の自由な流れを確保するという考えに沿つたものである。

 多国籍企業の行動指針の内容は,途中多少の変更はあつたが,序文,一般政策,情報公開,競争,財務,課税,雇用・労使関係,科学・技術等の項目が含まれる方向で検討が重ねられてきた。この行動指針は多国籍企業に対し,何ら法的義務を課するものではなく自主的遵守努力を要請するものである。しかしながらこの行動指針の実効性を確保するため政府間協議手続規定を設けることが考えられている。

 外資系企業に対する内国民待遇供与の規範は,その実施の確保のため通報・協議・検討手続を設けることとされている。国際投資の促進要因及び抑制要因に関する文書は,各国は,投資促進要因及び抑制要因となる措置をとる際,他国経済に与える影響を配慮すべしとし,更にこの投資措置により自国利益に重大な悪影響を受ける国は協議を要求できる旨規定している。

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