第4節 エネルギー・資源問題

 

 

1. 石油・エネルギー問題

 

(1) 国際石油情勢

(イ) はじめに

 73年秋から74年初頭にかけての4倍近い原油価格の大幅値上げ,及び,景気低迷下の75年9月の10%値上げは,エネルギー需要の大半を石油に依存している先進工業国に大きな影響を及ぼしたが,75年はかかる先進工業国における不況の長期化が,OPECを中心とする産油国へも深刻な影響を及ぼした年でもあつた。

 すなわち,世界経済の不況の長期化による石油需要の大幅後退は,原油販売の不振と,需給緩和による価格軟化傾向を現出させ,産油国に対し石油収入の大幅な減少をもたらし,他方,原油価格の高騰は,先進工業国における工業製品価格にもはねかえり自国の開発に必要な資材の購入を先進国からの輸入に依存している産油国へも影響が及んだ。

 この石油収入の減少,輸入価格の上昇等が,直接ないし間接の誘因となつてOPEC各国の利害関係が必ずしも一致していないことが浮き彫りにされ,とくに価格問題をめぐつて石油収入の吸収力の高い国と低い国の対立が表面化した。

(ロ) 需 給 動 向

 75年の世界の石油需要は,世界経済の低迷を反映して減退し,74年に続いて2年連続前年実績を下回つた。

 73年までの過去10年間,年率平均約7.7%の伸びで推移してきたOECD諸国の石油消費量は,石油危機を境にして74年には一転して前年比マイナスを記録したが,75年の消費量は,74年の水準をさらに4.9%下回る約17,6億トンにとどまつた。これは,戦後最大の消費量であつた73年と比較すると10%の減少にあたる。

 このような需要の減退を反映して原油生産量も大きく後退した。すなわち,OPEC加盟13カ国の原油生産量は,75年を通じて低水準に推移し,途中8,9月は,10月以降の値上げを見越した仮需要もあつて増産となつたものの,平均では2,712万バーレル/日にとどまり,3,000万バーレル7日の大台を大きく割つた(過去の最大実績は,73年9月の約3,300万バーレル/日)。

 国別動向では,クウェイト,ヴェネズエラなどが資源保護を目的に政策的減産を維持したのをはじめ,ほとんどの国について需要の後退に伴い減産となつた中で,例外的に,イラクが前年に比べ20%以上の増産となつたこと,また,サウディ・アラビアが最高841万バーレル7日(9月)から最低587万バーレル7日(10月)の間で生産量を調節し,いわゆる"需給調整弁"の役割を果たした点が注目される。

(ハ) 価 格 動 向

 OPECは75年9月の第45回総会で,標準原油(アラビアン・ライト原油)の販売価格を従来の10.46ドル/バーレルから11.51ドル/バーレルへ10%引き上げて,76年6月末まで据え置くことを決定した。

 しかし,9月総会では,標準原油以外の各油種の価格水準を設定するための格差基準問題が未解決のまま終わり,各国が独自に価格を設定したため,値上げ実施状況はまちまちで,平均では8.5%程度の値上げにとどまつた。また,その後も各国は,格差調整を口実に公式,非公式に値下げを実施するなど,価格は,75年10月以降も多分に流動的に推移した。

 このような一連の値下げ行為は,値下げ幅も小さく,また,需要減退の著しい重質原油に限定されており,その意味でこれが原油価格全体の値崩れにつながるものとは考えられないが,いずれにしても,石油危機以来,強固な団結力を後盾に,価格問題について頑なな態度をとり続けてきたOPEC諸国のうち一部の国が公式に値下げを実施したことは注目される。

 この石油収入の減少は,産油国の強大な経済開発計画の推進に伴う輸入支払代金の急増とあいまつて,一部産油国に深刻な国際収支の悪化をもたらしている。74年には全ての加盟国が大幅黒字を示したOPECの国際収支も,75年に入り大部分の国が一転して赤字,ないし赤字寸前に転じた。

 前にも述べたように,75年9月,世界的な不況と原油需給の緩和という悪材料の中でOPECが原油価格を引き上げたことは石油価格決定権が基本的にはOPECの掌中に帰していることを示したものといえるが,その後の格差調整問題を中心とする混乱や,値下げをめぐる非難の応酬は,OPECの結束が必ずしも従来言われてきたような一枚岩ではなく,人口の多寡,経済規模,資源の賦存量などにより利害の相違が存在していることを浮彫りにしたものと言えよう。

(ニ) 経営参加動向

 75年には,ドバイ,ヴェネズエラ,クウェイトが各々石油資源の100%取得を達成したのをはじめ,イラクも最後の外国系石油会社BPCの国有化を完了した。他方,このような100%経営参加ないし国有化の急速な進展の中で,アブ・ダビが現在の60%参加の状態を76年中維持することを発表していることが注目される。

 経営参加をめぐる交渉における産油国政府と石油会社の確執は,各産油国の石油政策等の事情も絡み,石油会社の資産に対する補償及び供給保証とそのほか,引渡し価格の問題,経営参加達成後の開発,生産活動に対する石油会社の役割をめぐつて複雑な動きを示しており,その結果,各産油国毎に経営参加形態の内容及び交渉の進捗状況はそれぞれ異なつている。

 いずれにしても,経営参加交渉の進展に伴い,世界の石油市場における産油国による直接販売原油(DD,GG等)の比重が,今後ますます高まる傾向にあることは確実であるので,石油資源のほぼ全量を輸入に依存せざるを得ないわが国としては,安定供給を確保する上で,供給源の多角化はもとより,供給方式の多様化を図つていくためにも,産油国の経営参加の進展状況,ないし参加達成後の石油政策に十分注目していく必要がある。

(2) 主要消費国のエネルギー政策

 わが国においては,75年12月の総合エネルギー対策閣僚会議において,エネルギーの安定供給の確保を目途に,「総合エネルギー政策の基本方向」が決定されたが,先進主要国においてもエネルギー政策の確立ないしは見直しが行われた。

(イ) 米   国

 フォード米大統領は,「エネルギー独立計画(プロジェクト・インディペンデンス)」をふまえ,総合的なエネルギー法を議会に要請するとともに,輸入手数料の引上げを行つたが,高価格エネルギー政策はインフレを昂進し不況を悪化させるとして,議会は,大統領と鋭く対立した。しかしながら,75年後半に入ると,大統領が価格規制の取扱い問題につぎ議会に歩みよつたこともあり,12月末にフォード大統領が署名した「エネルギー政策及び節約法」の成立をもつて一応議会との妥協が成立した。この法律は,国内原油の価格規制(7.66ドル/バーレル)と規制レベルの漸進的引上げ及び40カ月後の撤廃,戦略石油備蓄の保有等々広範な内容を有すものである。

(ロ) 英   国

 英国は,北海における石油並びに天然ガス生産に大きな努力を傾注しており,75年11月には石油・パイプライン法を制定し,また,国有石油公社を設立した。また,80年には自国の消費をみたした上でさらに輸出余力を有することとなるとの見通しのもとで,他のEC加盟国とは若干トーンの違つた主張をエネルギー分野で行うことが目たつに至つている。

(ハ) フ ラ ン ス

 フランスは,75年初頭にエネルギーに関する基本政策を策定し,その政策の中で,85年の同国のエネルギー消費量を240百万トンに抑制すること,エネルギー輸入依存度を55~66%とすること等を目途に,節約の強化・石油業法の再検討・自主開発の強化・原子力の増強等々広範な国内施策に着手した。また,同国は,当分の間エネルギー輸入依存度を低減しえない事実を直視して,OPEC諸国との対話に外交努力を払い,その一つの成果としては75年12月に国際経済協力会議が開催されたことが挙げられる。

(ニ) 西   独

 西独は,73年9月に策定した第1次エネルギー計画を74年10月に見直し,新たな目標を達成するために,国内炭の消費確保等の強化,自主開発の強化,エネルギー研究基本計画に基づく新規エネルギーの研究開発の推進等を行つている。また,同国は,緊急時におけるエネルギー消費の規制を確保するため,石油危機時に成立し,74年末に失効した「エネルギー保全法」に代る同名の新法律を75年より施行した。

(3)消費国間協調

 74年11月にOECDの枠内に国際エネルギー機関(IEA)が設立されて以来,エネルギー分野における消費国間協調はIEAを中心に行われてきたが,75年にはIEAは初年度の活動としてかなり注目されるべき成果をあげた。

 IEAの活動は大別して次の4つに要約できる。

・石油の需要抑制,石油備蓄取崩し及び相互融通の実施を行うことにより,異常な供給不足時に,ある程度の石油の安定供給を可能とする緊急融通スキームの確立

・国際石油市場に関する情報制度の確立及び国際石油会社との協議システムの確立

・参加国の輸入石油依存度の減少のための節約,代替エネルギー開発等長期協力計画の樹立及びその実施・産油国及び開発途上の石油消費国との協力関係の強化

 これら4分野におけるIEAの活動状況は次のようなものであつた。

(イ) 緊急時対策

 緊急時の自給力強化のため,国際エネルギー計画(IEP)においては加盟国は最低60日分の輸入量に相当する備蓄を持つべきこととされているが,IEAにおいては,76年初頭を目途に,備蓄水準を70日に引上げることとなつた。更に,90日備蓄の達成については,とりあえず80年を目標とすることとなつた。

 また,緊急時における石油融通を実施するための緊急時作業要綱の作成を進めた。

(ロ) 国際石油市場に関する情報制度

 IEAは,緊急時における作業に必要な特別情報システム及び総合エネルギー・データ・バンク制度の創設の検討に着手し,情報制度の枠組みはほぼ完成した。

(ハ) 長期協力対策

 長期的に輸入石油に対する依存度を低め,石油市場の安定を期すための長期協力対策としては,節約・代替エネルギー開発及びエネルギー研究開発(R&D)があるが,75年にはこれらの各分野でIEAは活発な活動を展開した。

 節約面では,75年末までに節約策を行わない場合に比し,1日当たり200万バーレルの石油の輸入削減を行う旨決定し,更には,76年,77年についても石油輸入量,石油消費量,一次エネルギー需要量各々につき節約目標を設定した。また,各加盟国の節約対策につき国別審査を実施し,望ましい節約対策の例示一覧表を作成した。

 代替エネルギー開発促進面では,各加盟国の代替エネルギー開発政策の全般的審査を実施するとともに,将来にわたるエネルギー開発投資の促進策としてプロジークト毎の協力方式及び投資に対するリスクを防止するための最低保証価格制度につき検討を進めた。

 R&D分野については,石炭技術,太陽エネルギー,原子力安全性等9つの分野で共同研究計画の作成のための努力が続けられてきた。

 11月にはIEAの今後の活動におけるR&Dの重要性に照らし,R&D特別理事会が開催され,総合的な研究開発戦略を76年中に確立すること,多目的高温ガス炉,地熱等の7つの新しい分野での協力計画を検討することが決定された。

 他方,IEAは,長期的施策の推進のための全般的枠組みを策定し,この枠組みに沿つて,節約・代替エネルギーの開発のためのプロジェクト毎の協力方式及び最低保証価格制度・新規エネルギーの研究開発の促進並びにエネルギー市場のアクセスの改善等を実現すべく長期協力計画の作成に努力し,76年1月末に開催されたIEA理事会において採択されるに至つた。

(ニ) 産油国との協力促進

 IEAは,その目的の1つとして,石油消費国と産油国との間の一層の理解を深めること及び対話等の方法により協調関係を増進することを掲げている。IEAはこれらの目的を達成するため,産油国・消費国間対話の実現のために加盟国間の意見交換に努め,また,対話(国際経済協力会議)の準備会合にはオブザーバーとして参加した。

(4) 国際経済協力会議

 フランスのジスカール・デスタン大統領が74年10月に開能を提唱した主要石油輸出国,先進消費国,非産油開発途上国の代表国からなる国際会議のための準備会合は,75年4月7日より16日までパリで開催され,日,米,EC(以上先進消費国),アルジェリア,イラン,サウディ・アラビア,ヴェネズエラ(以上産油国),ブラジル,インド,ザイール(以上非産油開発途上国)の計10カ国が出席した。

 産油国と消費国の間の対話の必要性については,73年秋の石油危機以降各方面より説かれてきた。フランスのイニシアティブによる産油国・消費国会議実現のための準備が開始された背景には,産油国との話合いを開始するにあたり,あらかじめ先進消費国間の結束を固めておくことを主張していた米国が,74年12月15・16日の米仏首脳会議において仏提案を支持するに至つたこと,また産油国側においても,75年3月4~6日のOPEC(石油輸出国機構)頂上会議において,討議議題をエネルギー問題に限定せず開発途上国が関心を有する一次産品,国際通貨,開発の問題をも扱うことを条件に,同会議の開催に原則的に合意を与えたこと等が挙げられる。

 準備会合では,産油国,開発途上国側がエネルギー問題と同列に一次産品,開発の問題を本会議の議題とするよう主張し,また,エネルギー問題を討議する見返りとして石油を含む一次産品の輸出所得の購買力の維持,産油国金融資産の価値保全を求め,先進国側がこれに難色を示したこともあり,合意が成立するに至らなかつた。

 その後,中断した対話の再開のため,米国のキッシンジャー国務長官は5月27日のIEA(国際エネルギー機関)閣僚理事会において,新たにエネルギー,一次産品,開発に関する委員会を設置することを提案した。フランスはこの米国の提案を受けいれ,準備会合を再開するためのコンセンサスの策定を開始し,日本,米国などの先進国側参加国もまた関係国間の意見調整を行つた。この結果,第2回の準備会合が前回と同じ参加国の出席の下に,10月13日から16日までパリで行われた。

 この第2回の準備会合では,事前の意見調整が十分に行われていたこともあり,12月16日より閣僚レベルの本会議を27カ国〔先進国8,開発途上国(産油国を含む)19〕により開催すること,また,本会議に採択すべき一連の手続き事項を勧告することにつき合意かえられた。なお会議の名称もこの会合で,「国際経済協力会議」とすることに決定された。

 国際経済協力会議の閣僚会議(12月16~19日,於パリ)では,準備会合に参加した10カ国と,先進国グループと開発途上国グループ(77カ国グループ)のそれぞれの内部で追加的に選定された17カ国(先進国5,開発途上国12)が一堂に会し,2回にわたり開かれた準備会合の討議を基礎に審議を行い,76年1年間を通じて活動するエネルギー,一次産品,開発および金融の4委員会の設置とこれら委員会の作業の基本方針について合意し,「最終コミュニケ」を採択した。同コミュニケには,これら4委員会の活動に関し,その構成(先進工業国を代表する5カ国,および開発途上国を代表する10カ国),開催地(パリ),作業開始時期(76年2月21日より),オブザーバー(国連事務局ほか11の国際機関),議事手続(「コンセンサス」の原則により,決定,勧告を採択する)等の手続事項に関する決定が盛られているほか,第1回の閣僚会議後6カ月を経過すれば高級官吏レベルの本会議会合を開くことができること,第1回閣僚会議後約12カ月後に再び閣僚会議を開くことが明記されている。なお,この第2回の閣僚会議には,4委員会の1年間の活動の結果が相互にリンクされて付託されることも決定されている。

 わが国からは,この閣僚会議には宮澤外務大臣が政府代表として出席したが,会議後,外務省は情報文化局長談話を発表し,正式に発足した4委員会の活動に関し,「わが国としては先進工業国と産油国を含む開発途上国との間の不断の建設的対話と相互理解によつて,双方にとつて受け入れ可能な解決策が探求されるべきものと考えており,このため関係国とも協力しつつ積極的にこれらの討議に貢献したいと考える」旨明らかにした。

 なお,エネルギー,一次産品,開発および金融の4委員会の構成国の選定が,閣僚会議直前に行われたが,わが国は4委員会全てに参加することとなり,また,一次産品委員会の先進消費国側の共同議長国に就任した。

 

〔別表1〕 国際経済協力会議参加国

先進国側-日本,米国,EC(以上準備会合参加国),オーストラリア,カナダ,スペイン,スウェーデン,スイス

開発途上国側-アルジェリア,サウディ・アラビア,イラン,インド,ブラジル,ヴェネズエラ,ザイール(以上準備会合に参加した4産油国および3非産油開発途上国),インドネシア,イラク,パキスタン,ユーゴースラヴィア(アジア・グループの4カ国),カメルーン,エジプト,ナイジェリア,ザンビア(アフリカ・グループの4カ国),アルゼンティン,ジャマイカ,メキシコ,ペルー(ラテン・アメリカ・グループの4カ国)

 

〔別表2〕 4委員会の共同議長国および参加国

 

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2. 一次産品問題

 

(1) 経緯と見通し

(イ) 一次産品とは,食糧,農産品,工業原材料,燃料など,加工される前の原料形態のままの産品を指すが,南北問題の一環としていわゆる一次産品問題といわれる際は,通常,燃料は除かれる。これら一次産品の生産は開発途上国に限られるわけではないが,開発途上国は輸出所得の大きな部分を一次産品に依存しているので,一次産品問題は,生産国消費国間の問題であると同時に,いわゆる南北問題としての側面を有する。後者の側面は主として国連,UNCTAD等の場でとりあげられてきたところ,75年2月にUNCTAD事務局により一次産品に関する「総合プログラム」(注)の構想が打ち出されて以来,開発途上国側は,本プログラムにより一次産品問題の包括的解決を求めるにいたつた。

  また4月の産油国消費国準備会議において産油国・開発途上国側が一次産品問題を石油問題と同列に扱うことを主張するにいたり,一次産品問題は,更に注目される課題となつた。

(ロ) 75年における一次産品問題の推移においては,後述のごとき個々の産品別の動きのほか,南北問題としての開発途上国側の要求に対し,先進国側が解決等の検討には応じるとの柔軟な態度を示し,一次産品問題をめぐつて南北間の対話の実現へと動いたことが指摘される。

 2月にECとアフリカ・カリブ海・太平洋(ACP)諸国間で署名されたロメ協定は,関係途上国の関心を有する12品目につき輸出所得補償スキームを含むものであり,国際的な反響をよんだ。5月1日,英連邦首脳会議においてウィルソン英国首相は「商品に関する一般協定」を提唱し,ついで5月12日および13日にキッシンジャー米国務長官は,一次産品に関する開発途上国の問題に理解を示し,解決等の検討に応ずる旨の演説を行い注目された。

 5月28日より2日間開催されたOECD閣僚理事会において,加盟24カ国の閣僚は一次産品問題を主要なテーマの1つとして討議し,その結果「より積極的,かつ広範なアプローチを執り,開発途上国の本分野についての関心に応えていくべきこと」につき合意をみるにいたつた。

 そのフォローアップは,時期を同じくして設立されたOECD 一次産品ハイレベルグループの場を中心として行われ,同グループは年末までに4回にわたる会合を開き,(a)価格・市場安定化,(b)輸出所得安定化,(c)投資促進の3点につぎ討議を行い,12月には中間報告書をとりまとめたつその要旨は次のとおりである。

(a) 価格・市場安定化については,銅・天然ゴム・ジュート等7品目につき検討した結果,品目によりかなり事情を異にするので,すべてを一律に救済する解決策は困難であり,当該品目の特性に応じた対策を探求すべきであることに意見の一致をみた。

(b) 輸出所得安定化については,市場メカニズムに直接介入することなく,一次産品輸出開発途上国の所得安定に寄与しうる点が評価され,種々の案が検討されたが,この分野では,IMFの輸出変動補償融資制度の改善が高く評価された。

(c) 投資促進は一次産品の長期的需給安定のため必要とされ,この観点から投資環境の改善,投資ソースの多角化,国際的融資機関の活用の有効性等が検討された。

(ハ) 一次産品問題をめぐつての南北の対決から対話への流れは,75年9月の国連経済特別総会,更には75年12月16日の国際経済協力会議(CIEC)の開催という形で具体化されていつたともいえる。

 第1回CIEC一次産品委員会は,76年2月中旬に開催され,総合プログラムの考えに立ち一次産品問題の包括的解決を要求する開発途上国側と,産品により特性を異にするので個別問題別アプローチの必要性を主張するとともに,総合プログラムの各エレメントにつき問題点の指摘を行つた先進国側との間で討議が進められた。その後もUNCTAD,CIEC等種々の場において,国際的な対話が推進されている。

(2) 鉱物資源問題

(イ) 需給・価格動向

 75年は前年に引き続く世界的な経済活動の沈滞により,産業の基礎原材料である主要鉱物資源の需要は軒並み大幅に減退した。この需要の大幅減退に対応すべく国際的な生産調整努力が種々行われたが,需給バランスは同年中には達成されなかつた。

 こうした需要の大幅減退,供給過剰状態を反映して銅,鉛等の国際市場価格は低水準で推移した。74年4月にトン当たり1,400ポンドという史上最高値を記録した銅のLME(ロンドン金属取引所)価格は75年を通じて500ポンド台で低迷を続けた。一方亜鉛生産者価格およびボーキサイト価格等はおおむね74年の水準が維持され,またニッケル生産者価格,鉄鉱石価格等はコスト上昇を反映して引き上げられた。

(ロ) 資源保有国の動向

 資源需要の大幅減退および一部にみられた市場価格の低迷により,鉱物資源輸出に大きく依存している開発途上国は大きな経済的打撃を受けるに至つた。特にチリ,ペルー,ザイール,ザンビアのCIPEC(銅輸出国政府間協議会)設立メンバー4カ国の経済は銅価低迷の長期化により深刻な局面を迎え,74年12月以降実施している10%銅輸出削減措置を4月以降強化し,削減幅を15%に拡大することを決定した。さらに75年11月の閣僚会議においては76年6月までこの措置を継続し,併せて価格安定を目指して消費国と話し合いを開始すること,また新たにインドネシアを正式加盟国として,オーストラリア,パプア・ニューギニアを準加盟国として迎え入れることに決定した。他方米国,カナダ等の先進資源保有国においても同様に減産措置がとられたが,需要の落ち込みはそれ以上に大きく,75年中には価格の回復をみるには至らなかつた。

 IBA(ボーキサイト生産国機構)については,75年11月の閣僚会議においてボーキサイトの最低価格に関する勧告が採択され,各国はボーキサイト価格の引上げに努めるよう勧告された。これに伴い同閣僚会議で加盟を承認されたインドネシアがボーキサイト輸出価格引上げにつきわが国に協力を求めてきた経緯もあり,今後の動向が注目される。

 鉄鉱石輸出国連合については,74年11月の閣僚会議では連合設立につぎ結論が出す,その後事務レベルでの連合設立協定案の詰めを踏まえ75年4月の閣僚会議において協定案につき最終的な合意をみた。この結果75年10月に主に情報・意見交換を目的とする穏健なAIOEC(鉄鉱石輸出国連合)が正式に発足し,現在までにアルジェリア,オーストラリア,チリ,インド,モーリタニアペルー,シエラ・レオーネ,スウェーデン,チュニジア及びヴェネズエラの10カ国が加盟している。

(3) 国際商品協定

 わが国は小麦,砂糖,すす,コーヒー,ココアを対象とする国際商品協定に参加している。1975年には上記協定のうち,すす,ココア及びコーヒーの各協定について更新交渉が行われ,次のとおりの新協定が採択された。

(イ) 「第5次国際すず協定」-1976年7月1日より有効期間5年。

(ロ) 「1975年国際ココア協定」-1976年10月1日発効予定,有効期間3年。

(ハ) 「1976年国際コーヒー協定」-1976年10月1日発効予定,有効期間6年。

 以上の3協定は各国の署名,受諾のため開放されているが,わが国としては引き続きこれら協定に参加するための手続を進めている。またこれらの協定の交渉にあたつては最近の市況又は開発途上にある輸出国の立場を反映して,種々の新たな提案が行われたが,結局のところ従前の協定内容と大差のない形のものとなつている。

 また国際小麦協定についても,第3次延長議定書(有効期間2年)が採択されたが,これは経済条項(価格帯や輸出割当て等に関する規定)を含まないものであり,新たな協定の準備作業は国際小麦理事会において精力的に続けられている。

 国際砂糖協定についても小麦と同様,新協定の準備作業が国際砂糖理事会において進められているが,交渉会議開催の目途はついていない状況である。

 商品協定の対象産品の市況は,73,4年の高騰時から鎮静化しているが,依然として需給が均衡又は窮迫気味のもの(小麦,コーヒー,ココア),先進国の不況等により低迷しているもの(すず,砂糖)があり,新たに作成された協定を含めて商品協定がどの程度に有効であるか必ずしも断言し得ない。

 しかしながらわが国としては,開発途上国の立場ないし要望を十分踏まえて作成された協定の運用,特に理事会を中心とする輸出国,輸入国の隔意のない意見の交換が当該産品の安定した市況実現に効果あるものと期待している。

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(注) 開発途上国の一次産品貿易の価格安定と輸出所得安定化等を目的とし,開発途上国の主要関心18品目を対象として国際緩衝在庫の設置,これら国際緩衝在庫のファイナンスを行う共通基金の設置,補償融資制度の改善,その他種々の方法を組み合わせて一次産品問題の総合的解決をはからんとするもの。