第3節 国際金融通貨問題

 

 

1. 国際通貨情勢の推移

 

 75年の国際通貨情勢は,米ドルが年初に低落し,若干の足踏みの後,初夏から秋口にかけて急騰し,その後はおおむね一進一退を続けたこと,他方欧州通貨では,特にフランス・フランが春頃から強調を示し,7月には共同フロートへの復帰が実現したこと等が注目される。

 米ドルは年初よりの短期金利の低下,不況の深刻化等によつて,弱含みで推移していたが,3月に入り,米国景気の底入れ感等が為替市場で歓迎され,ドル高基調に変り,それが4月月央まで続いた。しかし,その過程においても,貿易収支の好転,高水準の国内金利等に支えられたフランス・フランは,米ドルに対し安定的に推移するとともに,EC共同フロート参加通貨に対し強含みで推移し注目された。

 4月後半から6月初めにかけては,米ドルは米国の景気回復テンポに対する懸念等により弱含みで推移した。フランス・フラン(74年1月19日EC共同フロートから離脱)は急騰し,5月9日にEC共同フロート復帰の方針が明らかにされるに至つた。

 その後米ドルは,8月に一時的に横這いとなつたものの,米国の景気回復等に支えられ,再び騰勢を続けた。なお,フランス・フランは,7月10日EC共同フロートへ復帰し,その後も比較的強調に推移した。この間,8月末のIMF暫定委員会において,為替相場制度問題についてもクォータおよび金問題と一括で解決されなければならないことが合意された。

 9月下旬に至り,米ドルは,米国の財政赤字の拡大,ニューヨーク市財政の深刻化等が反映し,その騰勢を止め,11月初旬まで弱含みで推移した。

 11月中旬に入り主要国首脳会議が開催され,通貨面において,米・仏間の歩み寄りが見られ,かつ為替相場の無秩序な市場状態またはその乱高下に対処すべく行動する旨の参加国の合意が得られた。

 その後,12月19日,パリで開催された10カ国蔵相会議を経て,76年1月のIMF暫定委員会において,当面の経済情勢に対応したフロートの認知等を含むIMF改正案第4条につき,合意が得られた。

 このような通貨制度に関する動向に呼応して,11月中旬以降11月終りまでは緩やかな米ドル上昇傾向が続き,12月はほぼ平穏に推移し,越年した。

 以上の如く,比較的平穏であつた欧州為替市場は,76年に入り,まずイタリアにおいて,政局の不安定,経済の先行き不安感からリラが大量に売られ,1月21日に為替取引所が閉鎖されたことに端を発し,様相が一変した。リラをめぐる動揺は,他の欧州通貨に波及し,フランス・フラン,ベルギー・フラン等のへの売り圧力,西ドイツ・マルク,オランダ・ギルダーへの買い圧力をもたらした。その過程でEC共同フロート参加諸通貨間の強弱関係がより明確となり,3月15日にはフランス・フランのEC共同フロートからの離脱及びベネルックス3国の縮小変動幅(ミニ・スネーク)の解体をもたらした。復帰後8カ月でフランス・フランが再離脱した原因としては,EC共同フロ-トを支える2つの柱である西独・仏間の物価上昇率テンポの違いを含めた経済力の格差,イタリア・リラ,イギリス・ポンド等の為替相場下落による仏の輸出競争力低下への懸念等のほか,金融緩和下での豊富な国際流動性の存在等種々の原因が指摘されよう。

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2. 国際通貨制度改革

 

 71年8月のいわゆるニクソン・ショックを契機としてブレトン・ウッズ体制が事実上機能しえなくなつて以来,国際通貨基金(IMF)は,20カ国委員会,暫定委員会等の場において国際通貨制度の改革作業を行つてきた。75年においては,11月以降における前述の如き進展をみたのち76年1月にジャマイカのキングストンで開かれた暫定委員会で,為替相場制度や金の取扱い等の主要事項を含む国際通貨制度の諸問題につき一括して実質上の合意に達した。その後これらの合意事項を案文にまとめる作業が進められ協定改正案が決定されるに至つた。

 本協定改正案による主な改正点は,次のとおりである。

(1) 為替相場制度

 現行協定は,加盟国に固定平価を基礎とする為替相場制度の採用を義務づけているのに対し,改正案では,各加盟国は,変動相場制を含め自由に相場制度を選択することができることとなる。将来世界経済が安定したと認められるにいたつたときは,IMFは,85%の多数決により平価制度の導入を決定することができる。

(2) 金 関 係

 現行協定には,ドルを基軸通貨とする金為替本位制という見地から金に関する規定がなされているが,改正案では,国際通貨制度における金の役割を漸次低下させる方向で,金の公定価格の廃止,IMF増資の金による一部払込み義務の廃止等の改正がなされるとともに,これに代り,特別引出権(SDR)が国際通貨制度における中心的準備資産になるとの目的を助長するため,SDRの使用範囲の拡大をはかるための改正がなされる。また,IMFが保有する金の処分方法を拡大し,85%の多数決により,金を(イ)市場価格で売却し,売却益を開発途上国のための国際収支援助等に利用すること及び(ロ)1975年8月31日現在の加盟国に対し旧公定価格で売却することを可能にする。

(3) IMFの機構改革

 国際通貨制度の管理及び適応を監督すること等を目的として,IMFは,85%の多数決により,理事会構成国の大臣レベルの代表者(20名)から成る評議会を設置することができることとするほか,その他運営上の諸規定の整備をはかる。

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