第2節 大 洋 州 地 域

 

 

1. 豪   州

 

(1) 政 治 情 勢

 75年前半においては,内政はほぼ平穏に推移したが,同年年央から後半に至り,不況,インフレの継続に加え,政府の外資導入にからむ問題から野党が国民に信を問うため早期に選挙を実施するよう要求するに至り,政局は激動した。

 まず,野党の自由・国民地方党連合は早期選挙実施の要求を貫くため,10月に上院における予算審議を拒否した。このため,長期にわたり予算案が成立しないという異例の事態になつたが,ここに至り,カー連邦総督は,11月中旬,ウィットラム首相の解任という豪州史上例のない手段に訴えるとともに,暫定首相にフレーザー自由党党首を任命し,12月13日に上下両院総選挙を行うことを決定した。

 選挙戦では,労働党側は総督による首相解任の合憲性を争点の中心としたが,自由・国民地方党連合は終始国民の最大の関心事である経済問題を中心に選挙戦を展開した。選挙の結果は,自由・国民地方党連合の地滑り的圧勝に終つた。この結果労働党は政権担当3年間にして野に退き,フレーザー氏を首班とする自由・国民地方党連立内閣が,12月22日に発足した。

(2) 外 交 関 係

 外交面では,前年に引き続き,ウィットラム首相の欧州,アジア中南米等の歴訪,ウィルシー外相のわが国を含むアジア諸国の訪問等,精力的な首脳外交の展開が目立つた。

 また,5月に南越臨時革命政府を承認し,8月に同政府と外交関

係を樹立した。

 他方,74年7月に外交関係を樹立した北朝鮮との間では,75年10月,北朝鮮が駐豪大使館員を突如引き揚げ,11月には平壌の豪州大使館員の引き揚げを要求した結果,両国外交関係は中断することとなつた。

 12月に発足した自由・国民地方党連立政権は,アンザス体制を基軸とする対米関係の緊密化及び日本,ASEAN諸国との友好関係強化の立場をとつている。また,対ソ関係はバルト3国併合承認(前労働党政権の決定)の撤回にみられるように,従来より後退の傾向にある。

(3) 経 済 情 勢

(イ) 概   説

 豪州経済にとつて,インフレ・失業対策は前年に引き続き最も重要な課題であつた。インフレ対策として75年3月再び金融引締め措置がとられたが効を奏せず,コストアップ等のため74/75年度の消費者物価上昇率は16.7%(73/74年度は12.9%),また国内不況を反映して75年11月の失業率は4.8%(前年末4%)と記録的な高水準となり,労働党政権の人気低下の一大要因となつた。

(ロ) 国 際 収 支

 75年の豪州の輸出は87億6千万豪ドル,輸入は72億4千万豪ドルであつたが,貿易外収支は21億2千万豪ドルの赤字,資本収支は1億6千万豪ドルの赤字となつた結果,総合収支では7億6千万豪ドルの赤字(74/75年度は4億7千万豪ドルの赤字)となつた。

(ハ) 輸 入 制 限

 豪州政府は国内産業不振,失業増加を背景として,国内産業保護のため,74年末頃より繊維,自動車,家電製品等をはじめとして相次いで輸入制限措置をとつた。

(ニ) 資源・外資政策の見直し

 豪州政府は75年9月,新外資政策を発表し,鉱物資源の豪州資本比率を,ウランについては例外的に100%とするも,石炭,天然ガス等の鉱物資源一般については50%までとするよう緩和した。12月発足した保守政権の資源外資政策は,豪州による所有と支配の強化の原則は維持しつつも,政策・実施面では,柔軟な姿勢を打ち出すものと期待されている。

(4) わが国との関係

(イ) 日豪基本条約

 基本条約締結の話し合いは,75年中も引き続き行われた。

(ロ) 日豪閣僚委員会

 5月キャンベラで第3回日豪閣僚委員会が行われ,わが方から宮澤外務大臣,安倍農林大臣,河本通産大臣ほかが出席して率直な意見交換が行われた。

(ハ) アンソニー副首相の来日

 76年2月,新政権成立後初の要人としてアンソニー副首相兼外国貿易相兼国家資源相が来日し,三木総理はじめ政財界要路との会談において,新政権の貿易・資源政策を説明した。この訪日にさきだち,フレーザー首相は,対日関係の重要性を強調する声明を発出した。

(ニ) 貿易・経済関係

 75年のわが国の対豪輸出は17億3,800万米ドル(豪州による輸入制限もあつて対前年比13%減),輸入は41億5,600万米ドル(対前年比3.3%増)となつた。豪州にとつてわが国は前年に引き続き第1位の貿易相手国であつたが,わが国にとつて豪州は第4位の貿易相手国(74年は第2位)となつた。食肉の豪州からの輸入,工業製品の豪州への輸出をめぐり両国間で調整すべき問題が生じたが,両国が重要な相互依存関係にあることを考慮し,双方の間で解決への努力が行われた。

(ホ) 要 人 往 来

 わが国からは,閣僚委員会に出席した前記の3大臣のほか,石橋社会党書記長が訪豪した。

 豪州からは,ウィルシー外相,コナー連邦鉱物・エネルギー大臣,ヘイドソ連邦社会保障大臣,オーバン連邦上院議長,スコールズ連邦下院議長,コート西豪州首相等が来日した。

(ヘ) そ の 他

 11月に漁業に関する交換公文が行われ,また,76年2月に文化協定が発効した。

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2. ニュー・ジーランド

 

(1) 政 治 情 勢

 ニュー・ジーランドでは,72年末に成立した労働党政権の任期満了に伴う総選挙(一院制議会)が11月末に実施され,野党である国民党が労働党を抑え圧勝した。これは,深刻な不況とインフレに直面した国民が,国民党の経済再建策を選択したことを示したものと評価される。

 これに伴い,マルドゥーン国民党党首を首班とする内閣が,12月12日に発足した。

(2) 外 交 関 係

 外交面では,労働党政権施政の3年目は,アジア・太平洋重視の基本方針を堅持し,なかでも対ASEAN外交を中心に推移した。また,国連ではフィジーとともに南太平洋非核地帯構想を提案し,決議案の採択に成功した。

 新政権は,外交の基本方針に変更はないとしつつも対米関係を従来以上に重視する立場を示している。また,わが国を重視する政策の維持を確認しているほか,南太平洋諸国との緊密な関係を維持するものとみられる。

(3) 経 済 情 勢

(イ) 概   説

 ニュー・ジーランドにとつても不況とインフレ対策が最大の課題であり,8月に15%のNZドル切下げを行い,他方,賃金上昇抑制の所得政策を打ち出した。しかし,消費者物価の上昇は抑えきれず,10~12月の対前年同期比上昇率は15.7%に昇つた。

(ロ) 国 際 収 支 

 一次産品輸出の不振と輸入品価格の増加のため,75年のニュー・ジーランドの輸出は18億8千万NZドル,輸入は24億8千万NZドルとなり,貿易外収支は3億9千万NZドルの赤字,資本収支は8億3干万NZドルの黒字となつた結果,総合収支は1億6千万NZドルの赤字となつた。

(ハ) 輸 入 制 限

 ニュー・ジーランド政府は,繊維製品輸入の急増,在庫増により国内メーカーが生産,雇用両面で圧迫されるようになつたとの理由で,4月以来繊維製品に対し輸入制限措置をとつている。

(4) わが国との関係

(イ) 貿易・経済関係

 75年のわが国の対ニュー・ジーランド輸出は3億9千万米ドル(前年比19%減),輸入は3億7千万米ドル(前年比9%減)であつた。ニュー・ジーランドにとつて日本は輸出入とも第3位の貿易相手国であつた。

(ロ) 要 人 往 来

 75年中,ニュー・ジーランドからティリカテネーサリバン観光兼環境相,野党時代のマルドゥーン国民党党首,ティザード副首相兼蔵相等が来日し,他方,わが方からは安倍農林大臣が同国を訪問した。

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3. パプア・ニューギニア

 

(1) 政 治 情 勢

 パプア・ニューギニア(以下,PNGと略称)は,9月16日に豪州から独立した。これに先立ち,制憲議会は,8月15日,275条から成る憲法を採択し,独立への途を開いた。

(2) 外 交 関 係

 PNG独立後直ちに,日本,豪州,米国,英国,ニュー・ジーランド,インドネシア等主要国がこれを承認するとともに外交関係を樹立した。

 PNGは,旧宗主国たる豪州をはじめ,日本,インドネシア,南太平洋諸国との関係を特に重視している。

(3) 経 済 情 勢

(イ) 国 際 収 支

 73/74年度のPNGの輸出は6億8千万米ドル,輸入は3億1千万米ドルであり,貿易外収支は3千万米ドル,資本収支は9千万米ドルとなつた結果,総合収支は4億9千万米ドルの黒字(72/73年度比277%増)であつた。

 ただし,74/75年度(数字未発表)は,銅の輸出不振,輸入品価格の高騰等により黒字は大幅に減少の見込みである。

(ロ) キナ貨への移行

 75年4月新通貨として,キナ(1豪ドル相当)及びトエア(1豪セント相当)が発行された。

 従来の豪州貨幣は同年末まで新通貨キナと共に流通を認められた。

(4) わが国との関係

(イ) わが国は,75年1月,ポート・モレスビーに総領事館を開設した。その後9月の独立と同時にこれを承認するとともに外交関係を樹立し,12月にはポート・モレスビーに大使館を開設した。他方,PNGは,独立と同時に東京に大使館を設置した。

(ロ) 貿易・経済・経済協力関係

 両国間の貿易は,わが方の大幅入超ながら,総額は着実な増加を示している。

 11月,力ヴィエンに漁業訓練大学を設立することについてのわが方援助に関する両国政府の合意が成立した。

 また,11月,PNGO地先沖合における本邦漁船の操業及びPNG港への本邦漁船の寄港に関する両政府間の合意が成立した。

(ハ) 要 人 往 来

 独立式典にわが国から小島徹三衆議院議員が特派大使として出席した。また,11月,レア国家開発大臣を団長とするPNG投資視察団が来日した。

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4. 南太平洋地域

 

 わが国と南太平洋における4島嶼国(フィジー,ナウル,トンガ,西サモア)との間の関係は着実に発展した。ナウルのデ・ロバート大統領が75年1月,5月,8月の3回にわたり,非公式に来日した。

 7月に,第6回南太平洋フォーラムがトンガで開催され,ニュー・ジーランド等の主唱による南太平洋非核地帯構想支持の立場が打ち出された。また,第15回南太平洋委員会が,10月ナウルで開催された。

 英領ソロモン諸島は,76年1月に自治に移行した。

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