第5節 諸外国との相互理解の促進と文化交流
国家間の相互依存関係がますます深まりつつある現在の国際社会にあつては,諸国民間に単に政治,経済面での協調が進められるにとどまらず,十分な相互理解が存在することが従来にもまして重要となつている。文化交流を通じて,諸国民との間に政治,経済の分野での変動に耐え得る心と心のつながりを基礎とする友好関係を樹立することは,平和外交を進めるわが国にとつて不可欠の課題となつている。
このような文化交流にあたつては,海外の諸国民に対して自国の考え方,生活様式,さらには学術・芸術・技芸などを積極的に知らせ理解を得るため多様な活動を行うとともに,他国の文化を理解しようとする努力も等しく必要である。特に,独自の伝統の上に新しい国造りを進めている開発途上諸国に対しては,従来の形での文化交流のみならず,教材・文化的資材の援助,更にこれら諸国の文化・教育の開発・振興を目的とする文化関連施設の整備,史蹟の保存のための文化協力,教育協力を行つていく必要がある。
文化交流の形態はわが国の学者・芸術家・文化人・スポーツ指導者などの諸外国への派遣,諸外国からの日本研究者や日本に関心を有する学者・文化人・芸術家の招聘などの人物交流,わが国の芸術品の展示会,演劇・音楽などの公演,また,諸外国における日本研究の促進,日本語普及のための協力援助,図書・視聴覚資材の供与や日本紹介視聴覚教材作成への協力など多岐にわたつている。諸外国からの留学生に対する配慮や東南アジアの日本留学経験者を日本に招聘する事業も人物交流の推進において重要である。またユネスコ・東南アジア文相機構等の国際機関を通じて,各国との間に専門家の派遣,フェローの受け入れ等を行つている。
わが国は,各国との文化交流を組織的かつ安定した基盤の上で効率的に行うため,72年10月,国際交流基金を設立した。政府は同基金に対する政府出資金を順次追加し,75年度までの出資金は,300億円余,予算規模は約34億円余となり,前述したような人物交流,日本研究の促進及び助成,日本語の普及,展示会・公演の開催及び援助,資料の作成・頒布等の活動を行つている。
また,75年3月から4月には,東南アジア諸国から学識経験者を招いてこれら諸国との文化交流に関するセミナーを開催し,またフィリピン,マレイシア,タイ及びインドネシアの4カ国からそれぞれの伝統芸能の専門家を招聘して「アジア伝統芸能祭」を実施するなど,東南アジアとの文化交流を進めている。
国際交流基金の事業は,アジア・北米地域が大きな割合を占めているものの,その他の地域を含め全世界的に行われている。
更に,文化交流の実施に当つては民間団体の行う文化交流とも調和がとれるよう留意し,わが国全体としての均衡のとれた効果的文化交流が進められるよう努力している。