第4節 国際連合の諸活動に対する協力

 

 

1. わが国の基本的態度

 

 国際連合は,世界の最も普遍的な国際機構であり,わが国はこれに加盟して以来その活動に積極的に参加し,協力してきた。国際連合は発足当初に意図されたものとはかなり異なつた形で発展してきてはいる。しかし,それは国際連合が国際政治の現実を端的に反映する機関であるということに由来するものにほかならない。国際連合及び関連諸機関は今や構成国の飛躍的増大,取り扱う問題の複雑化,多様化等により,国際平和の維持,軍縮,経済,社会,人権,文化その他各種行政面における国際協力等広範な分野において極めて有益な枠組みを提供するに至つている。これらの諸分野における国際協力の促進を目的とする国際連合の諸活動に積極的に参加し,協力することはわが外交の基本政策のひとつである。

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2. 1975年におけるわが国の国連活動

 

 75年においてもわが国の国際連合での活動は活発に続けられたが,その主要なものは次のとおりである。

(1) わが国は安全保障理事会,経済社会理事会,国連工業開発理事会,国連環境理事会,食糧理事会等の理事国として,建設的な貢献を行つた。わが国がその作業に参画した主要理事会及び委員会は総数33のうち28にのぼり,わが国は国際連合において最も活躍している加盟国の一つである。

 また75年には国際連合の主要な司法機関である国際司法裁判所の判事の選挙が行われ,小田滋教授(東北大学)が故田中耕太郎判事に次いでわが国から戦後2人目の判事として当選している。このようにわが国が多くの重要なポストに推挙されていることは,国際連合におけるわが国の役割に対する期待を示すものである。

(2) わが国は,安全保障理事会において,75~76年の2カ年を任期とする非常任理事国として,積極的な役割を演じた。同理事会の審議においては,中東,サイプラス,東チモール問題等に関し,わが国が困難な選択を迫られる場面もあつた。しかし,わが国は,終始関係国が対話と協調の精神に基づき問題の実効的,かつ,相互に受諾可能な解決のために真摯な努力を行うべきであるとの基本的態度をもつて臨み,このような態度は関係国によつて高く評価された。

(3) 第30回国連総会の軍縮問題討議においては,25というかつてない数の軍縮関係決議が採択されたが,特にインドの核実験後の第29回総会及び75年5月の核兵器不拡散条約再検討会議の流れを受けついで非核兵器地帯設置問題を含む核拡散防止問題が大きな焦点となつた。この関連で平和目的の名のもとに行われる核爆発をいかに規制するかという問題に関し,わが国は核拡散防止のために効果的な措置を速やかに生み出すための努力を結集するよう訴え,オランダ,カナダ等とともに平和目的核爆発に関する検討継続を要請する決議を推進し,右決議は採択された。

 このような中で,わが国国内においても核兵器不拡散条約批准の実現に向かつて大きな進展がみられることとなつた。

 わが国は核兵器の拡散が核戦争の危険を増大させ,世界の平和と安定にとつての重大な脅威となりかねないとの認識に立つて核兵器不拡散条約の作成に積極的な態度をとり,70年2月にはこれに署名した。その後,この条約の批准のために必要な手続を進めるにあたつて国内において安全保障,核軍縮,原子力の平和利用等につき活発な論議が行われた。75年4月,政府はそれまでの国内的討議等を踏まえた上で,国会に対しこの条約の批准につき承認を求め,これを受けて国会でこの条約をめぐる諸問題が慎重に審議された。(なお,76年5月24日同条約の批准につき国会の承認を得,政府は6月8日英国,ソ連及び米国の3国政府に同条約の批准書を寄託し,わが国は同日付をもつてこの条約の締約国となつた。)

(4) 朝鮮問題については,いわゆる韓国支持決議案及び北朝鮮支持決議案という内容的に相矛盾する2つの決議が採択されるという結果となり,問題の具体的解決のための糸口を見出すことはできなかつた。わが国は朝鮮半島における平和と安全の維持を重視し,南北両当事者間の対話の促進を希求するとの立場より,カナダ,ニュー・ジーランド,米国等とともに韓国支持決議案を推進し,同決議案の採択に尽力した。他方,内容的にこれと矛盾する北朝鮮支持決議案も同時に採択されたことは国際連合の意思の整合性及び決議の履行の確保の見地からも問題を残した。

(5) 国連強化のための国連憲章の再検討につき,わが国は,第29回総会決議に基づき設置されたアド・ホック委員会に参加するとともに,第30回総会においても,本件作業への支持基盤の拡大を図る「憲章及び国連役割強化に関する特別委員会」設置決議案のコンセンサスによる採択に尽力した。

(6) 国際連合は経済・社会分野でも重要な役割を持つている。75年9月には開発と国際経済協力に関する第7回国連特別総会が開催され,「開発と国際経済協力」に関する決議がコンセンサスで採択された。この会議において,わが国は対話と協調」の必要性を強調しつつ,先進国・開発途上国を問わず全ての国がよりバランスのとれた衡平な世界経済関係の醸成に向つて着実な前進を図るべきことを訴えた。なお,上記決議で取り上げられた実質問題は,76年5月の第4回国連貿易開発会議においてさらに討議されることとなつた。

 わが国は,74年の世界食糧会議のフォロー・アップとしての農業開発国際基金の設立作業にも参加してきている。

 わが国のイニシアティブにより第28回総会で設立が決議された国連天然資源回転基金は,75年に至り運営細目が確定したことから実動段階に入つた。

 また,東京に本部が開設された国連大学が活動しうる段階に至つたことにもかんがみ,第30回国連総会においては,わが国としても協力の意図を重ねて明らかにすると同時に国連全加盟国の積極的な支持が得られるよう呼びかける「国連大学に関する決議案」を推進し,この決議案はコンセンサスで採択された。

(7) わが国は経済,開発,労働,交通・通信等の分野で活動を行つている14の国連専門機関の諸活動にも積極的に参画した。

(8) 国連の主催する第3次海洋法会議の第3会期が1975年3月17日より5月9日までジュネーヴで開催され,わが国は安定した,かつ,衡平な新海洋法秩序確立を目指して,審議に積極的に参加した。

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