2.わが国が行った重要演説
(74年3月28日,コロンボにおいて)
議長,代表各位,御列席の皆様
私はまず日本代表団を代表して今次総会の議長及び副議長に対し敬意を表するとともに,今次総会がすべての参加者の協力によって実り多き成果を収めることを期待したいと思います。私は,また,今次総会の副議長の1人に選出されたことを極めて光栄に思います。また今次総会を招請されたスリ・ランカ政府と国民に対し心からの感謝の意を表したいと思います。私は今次エカフェ総会出席の機会に初めてこの美しい緑と輝く太陽の国を訪問できた次第でありますが,この国が新しくスリ・ランカの国名のもとにゴパツラワ大統領及びパンダラナイケ首相の英遇なリーダーシップの下に新たな国造りに真撃な努力を続けられている様子を目のあたりに見て大きな感銘をうけております。私はスリ・ランカのこの国造りへの努力が結実して輝かしい成果をあげられることを心から期待しております。
議長
ここで私が改めて述べるまでもなく,国連は「第2次開発の10年」のもとに1970年代における開発途上国の経済的・社会的開発の推進という大事業に取組んでおります。この世界的規模での大事業を達成するためには,私は世界の人口の五割を越える20億強の人口をかかえて,また地理的にも大きな部分を占めているアジアが特に重要な比重を占めていることを忘れるべきではないと思います。アジアの経済社会開発に中心的役割を果たしているエカフェへのわれわれの期待はますます大きく,またそれに応えてエカフェが今後果たすべき責務もますます大きいものがあると確信しております。エカフェはその発足以来,アジア地域の政治,経済,社会の分野における多様性と複雑性を克服して,エカフェ域内の総合的な経済社会開発という困難な事業に取組み,多くの分野で優れた業績をあげてまいりました。わが国も1954年にエカフェに正式加盟して以来、いろいろな分野でエカフェの活動に積極的に参画してまいりましたが,その間アジアは政治的にも経済的にも様々な変革をとげ,特にここ2,3年来アジアにおいては大きな情勢の変化が見られ,この地域全体の経済社会開発を通じて民生の安定と向上をはかり,平和の基礎固めを行うことの重要性が強く認識されています。
このような事情のもとに,昨年の第29回エカフェ東京総会においては,変動するアジアの諸情勢に対応するためにエカフェは一層強化され,新しい方向を目指して発展すべきであるとの提案がわが国を含め多くの加盟国よりなされ,その趣旨が決議として採択されました。私はエカフェはその良き伝統をふまえつつ,総合的長期的見地からアジア諸国の経済社会開発にとって真に必要な新たな開発戦略を探究すべき時期に来ていると確信しております。
議長
エカフェは昨年8月新しくマラミス事務局長を迎えました。マラミス事務局長は前任者が築きあげた数々のすぐれた事業を引き継ぐとともに,域内諸国の必要性を一層考慮に入れた新しい分野におけるエカフェ活動の強化をめざしてすでに評価に値するイニシアティヴをとり,積極的にエカフェ機構改革に取り組まれていることは注目に値します。私はここに新事務局長の精力的な活動に対し深い敬意を表したいと思います。
すでに述べましたように,エカフェは発足以来,メコン河開発計画をはじめとする数々のすぐれたプロジェクトを遂行してきましたが,同時に,機構の拡大に必然的に伴う弊害が目立ちはじめたことも事実です。一方では機構の複雑化,活動の重複がみられ,他方ではアジア地域にとって真に必要な分野に十分な考慮が払われていなかったことは是非とも改善されるべき点でありましょう。今後エカフェは常に問題のプライオリティを考え,老朽化し存在意義を失いつつあるプロジェクトを整理してアジアの経済社会開発にとって真に必要な分野のプロジェクトを優先的に取上げていく必要がありましょう。
この意味から,昨年の第29回総会においてわが国首席代表は,エカフェが今後農業開発問題について従来以上に積極的に取り組むべきことを主張し,農業委員会の設立等を提案いたしました。幸いエカフェ機構改革の必要性及び農業分野の活動の重要性の認識につきコンセンサスが成立し,その後昨年開催された2回の常駐代表会議の討議を経て本総会に機構改革案が提示されていることは,加盟国及び事務局の改革への熱意を示すものであり,これら一連の迅速な措置に対し関係者の努力を高く評価いたしたいと思います。私は,特に農業開発委員会と常駐代表諮問委員会については,その付託条項のガイドラインが提示されており,また,その課せられた任務の重要性及び緊急性に鑑み,本総会においてその設立が承認されるとともに,第2回常駐代表会議にて合意された方向で本格的活動ができるだけすみやかに開始されることを強く希望するものであります。
議長
次に私はエカフェが新しくアジアの経済社会開発のための戦略を検討するにあたってのアプロ-チとして次の2点を指摘したいと思います。
第1にエカフェは従来ややもすればエカフェ活動の分野において,部門別にプロジェクトを推進し,各プロジェクト相互間の調整が計られず,エカフェ事務局も各部局が独立して各自のプロジェクトを推進してきた傾向がありました。このような各部門別のアプロ-チは個別のプロジェクトとしては成功しえても総合的には各分野間のバランスを欠くことになりかねません。かつてエカフェが個別的には優れたプロジェクトを実施していながら、総合的開発戦略としては有効な成果をあげることができなかった点は反省すべきではないかと考えられます。今後,エカフェは農業,工業,貿易,運輸,人口,教育,衛生,環境,資源開発等の多部門間の調整をはかりながら域内国の必要性にもとづいた最優先分野を選択することが必要であり,その開発戦略の策定にあたってはいわゆるインテグレイテツド・アプロ-チを計る必要があるものと考えます。
第2に,すでに述べた通りエカフェ地域は地理的に広大でありかつ多様性に富みさらに経済社会発展段階においても相違しております。従ってプロジェクトによっては一挙に野心的なエカフェ地域全体をカバーする地域的アプローチを計るよりも,同質的な国々の間の小地域的アプローチを目指す方がより現実的な場合もあると思われます。われわれはかつてエカフェがあまりにも性急に地域的アプローチを計ったため失敗したケースを知っております。したがってエカフェは今後プロジェクトの性格によっては小地域ベースの地域協力を推進し,これを必要な場合にはエカフェ地域全体の地域協力に拡大統合していくことも研究されるべきでありましょう。
議長
次にエカフェがアジアの経済社会開発のため最も高い重点を置き真剣に取組むべき問題として,私は,以下の諸問題が検討されるべきだと考えており,これらに対するわが国の基本的考え方と二,三の提言をいたしたいと存じます。
第1に現在エカフェが緊急に取組むべき問題は食糧不足の問題であると考えております。この点はマラミス事務局長の今次総会への報告においても,また昨日のパンダラナイケ首相の開会演説においても強調されたところであります。私はエカフェ事務局がこの問題に真剣に取組む姿勢を示していることを高く評価したいと思います。食糧は人間のエネルギーと活動力の源泉であり,食糧不足の続くかぎり民生の安定はおろか,われわれの目指している経済社会開発は望みえません。したがってわれわれはまず農業の生産性を高めることにより食糧供給の確保と安定をはかる必要があります。また食糧不足が永続化すれば恒常的栄養不足をもたらし,これは現代よりもわれわれの次の時代のアジアの開発を担う世代にまで影響を与えるといわれており,極めて重大な問題でありましょう。私は現在アジアの農業の近代化と多角化を計ることによって民生の安定と生活水準の向上をもたらし,健全なる工業化への基礎を固めることが最も重要であると確信しており,農業開発はアジアの経済社会開発の成否を左右する重要性をもっているといっても過言ではないと思います。
かかる見地からわが国は農業開発の分野におけるエカフェ活動を側面より支援する一環として1974年度に4名の農業専門家派遣経費をエカフェ事務局に拠出する用意があります。またわが国は目下最終的な検討段階にあるアジア農業機械センターに1974年度30万ドルの拠出を行う用意があります。わが国はアジア農業機械センターは,アジアの農耕に適した農業機械の研究開発普及により,アジアの農業生産性を高め,又は農業関連産業の育成を通じて工業化にも資するという点においても重要な役割をはたすものと期待しており,国連開発計画(UNDP)を中心とする関連国際機関との協力のもとに1日も早く同センターの活動が開始されることを要請したいと思います。
議長
第2に私は農業開発と同時にアジアの経済社会開発に重要な役割を占めている人口問題について触れたいと思います。アジアにおける過剰人口問題は食糧問題,雇用問題及び総合的社会開発問題との関連でアジアの大衆貧困の重要な原因となっております。FAOの調査が指摘するごとく,世界の人口が現状の増加率で増大していけば多くの開発途上国において食糧不足はまぬがれえず,われわれ人類社会が何らかの有効な措置を講じなければ,この10年の間にも食糧不足と人口過剰の問題は解決不可能な問題となる危険性がありましょう。また本年の「アジア極東経済概観」が指摘する如く,1972年におけるエカフェ開発途上国の農業生産は前年比2.4パーセントの減少を示し,1人当り食糧生産については事態はさらに深刻で前年比4.9パーセントの減少となっております。アジア各国がこの問題の解決に真剣に取り組まないかぎり,国連第2次開発の10年の成長目標の達成は困難となりましょう。
わが国もアジアにおける人口問題の重要性は十分に認識しており,1972年11月には第2回アジア人口会議を東京に招致し,同会議では「開発のため人口戦略宣言」が採択されました。本年は世界人口年に当り,8月にはルーマニアのブカレストで国連主催の世界人口会議が開催されますが,わが国は第2回アジア人口会議の成果が世界人口会議における「世界人口行動計画」に十分に反映されることを希望します。また昨年10月,国連人口活動基金(UNFPA)及び国際家族計画連盟(IPPF)の主催によるアジア人口事情視察団が組織され,わが国の各界代表及び国連機関等よりも代表が参加し,インド,タイ,インドネシア,フィリピンの四カ国を歴訪しアジアにおける人口問題の重要性が再認識されました。このようにわが国における世界の人口問題に対する理解は深まりつつあり,わが国は国連人口活動基金に対し1974年度は昨年の拠出額を倍増して500万ドルを拠出することを予定しております。今後ともわが国はアジアの人口問題解決への一助として,エカフェを通ずる協力を検討する用意があり,具体的要請があれば,専門家の派遣,会議及びセミナーの開催等を検討したいと考えております。特にわが国としてはアジア各国の人口動向が正確に把握される必要があると考えており,そのためにエカフェ事務局が国連人口活動基金との協力のもとにアジア各国に専門家を常置して人口動向のモニターリング・システムの拡充のための検討を行うことを希望しております。
議長
第3にこアジアの経済社会開発に占める他の大きな要因として教育の重要性を指摘したいと思います。本年のエカフェの「経済概観」は「教育と雇用」の問題を取り上げておりますが,充実した健全な教育によりすぐれた技術を身につけた次の世代のアジアを担う人的資源を育成することは,いわゆる経済的価値では測定しえない重要性を有するものと考えられます。経済社会開発の担い手は結局は人間であり,その意味で開発のために資本及び技術を使用しコントロールしうる人間を育成する必要があり,そのためには技術教育の重要性を無視することはできません。
また同時に,総合的な経済社会開発を推進するに当り,雇用機会との関連でいかなるレベルと分野の教育に重点を置くべきかにつききめの細かい検討が必要であると思います。この意味から,アジアにおける農村地域開発と教育との関連についても,一層の研究が行われることを希望いたします。
議長
わが国は1969年にウ・タント前国連事務総長により国連大学が提唱されて以来,積極的にこれを支持してまいりました。昨年の第28回国連総会においては国連大学憲章が採択され,国連大学の中枢機関である大学本部がわが国に設置されることになりました。
私は国連大学が将来アジアにおける教育,研究,訓練の分野で貢献しうるものとなることを期待しておりますが,このためにも国連大学が工カフェ域内の研究,訓練機関との協力を通じてエカフェ域内諸国への教育水準の向上に貢献しうるよう工カフェ事務局が積極的役割を果すことを期待しております。また国連大学が将来研究のテーマとしてエカフェ地域に共通の諸問題を取り上げることができれば望ましいと考えられ,私はその一つとしてアジアにおける人口問題の重要性に鑑み,経済社会開発と人口との相関関係についての研究を行うことを示唆したいと思います。
議長
次に私はマニラに設立が予定されている社会福祉調査訓練センターについて触れたいと思います。わが国もアジアの社会開発を促進するためには社会福祉要員の育成が必要であり,かかる地域的施設のないアジアにとって本センターの設立はアジアの社会開発に多大の貢献をなしうるものと考えております。しかしながら本センターの事業が真にアジアの社会福祉の向上に資するものとなるためにはエカフェ事務局が本センターへの参加国と協力して主としてエカフェ域内諸国の大学,研究訓練機関,エカフェ域内における各国際機関との協力及び調整,さらにはエカフェ域外のこの種研究訓練機関との協力関係を樹立することが必要だと考えられます。わが国は将来本センターがこのような方向に進むことを期待して本センターへの専門家の派遣及び応分の資金拠出を行いたいと考えております。
議長
最後に最近のエネルギー及び資源問題に関し,若干の見解を述べたいと思います。
ここ数カ月問われわれが経験したエネルギー危機の影響は,今日の世界がいかに狭く,相互依存の関係がいかに深くなっているかを改めてわれわれに想い起させました。エネルギー危機の影響は経済発展段階の差を問わず全世界に及びつつあり,このまま放置されれば,世界経済全体の後退,とりわけ開発途上国の経済社会開発推進に今後大きな支障が生ずるおそれがあります。わが国もこの影響の例外ではなく深刻な影響を受けております。このためわが国の経済全般の活動水準の鈍化が予想され,1974年度のわが国の実質経済成長率は2.5%程度にとどまらざるを得ないものと見込まれています。しかしながらわが国はわが国自身の困難にもかかわらず,貿易,援助,通貨の諸分野における積極的国際協力を通じ,開発途上国の困難,また究極的には世界経済全体の当面している諸困難解決のためにできうるかぎりの貢献を惜しまないとの態度を持している次第であります。
私は今日の世界の緊密な相互依存関係という現実に照らし,開発の程度を問わず,また産油国たると消費国たるとを問わず,すべての国が相互依存の網の目をよく認識し,自己の立場と利益のみにとらわれず,共通の利益を見出して問題を解決する協力関係を作る必要があると考えます。
このような意味においてマラミス事務局長のイニシアティヴにより最近バンコックで開催された「エカフェ・エネルギー危機政府間会議」は誠に時宜を得たものであったと考えております。エネルギー危機という極めて困難な問題にもかかわらず,この会議においては対話と協調を求める各国の強い熱意が反映され問題の主要点につき大よその共通認識が醸成されたことは成功であったと考えております。
次に重要なことはエカフェ・エネルギー会議でも認めているように現下のエネルギー危機が極めて多面的な性格を有していることであります。単にエネルギー資源の需給関係や価格問題の他にも代替エネルギー源や省エネルギーシステムの開発等幅広い長期的努力が必要であります。加えて,世界経済システム全体の中でエネルギー資源の開発・供給・消費・保全の諸問題を総合的に再検討する必要も生じています。またエネルギーを含めた資源一般についての需要と供給の現状,その将来の見通し等の問題について世界経済全体の運営の立場から,冷静かつ合理的な検討のメスを加える必要がありましょう。
議長
今次エカフェ総会終了後直ちにニュー・ヨークでは「資源と開発問題」に関して第6回国連特別総会が開催されようとしております。わが国は国連への協力及び国際開発協力の推進という立場からの特別総会の開催を支持いたしました。私が上に述べてきましたことからも明らかなように,資源と開発の問題は全世界的な見地から取組まれる必要があり,わが国はこの総会が対話と協調を通じて建設的な国際膓力の必要性を確認する場となることを希望しております。
議長
アジアは解決すべき多くの問題をかかえており,その何れをとってみても一国のみの努力では解決しうるものではありません。わが国はアジアの一国としてエカフェ諸国と共に手をたずさえてアジアの平和と繁栄のためにできるかぎりの協力を続けて行く所存であります。
有難うございました。
(1974年4月11日ニュー・ヨークにおいて)
議長
私は,日本政府を代表して閣下が昨年の第28回国連総会議長に引続き第6回国連特別総会の議長の重職に就かれたことに祝意を表するとともに,今次特別総会が閣下のすぐれた,かつ公正なる指導力のもとに実り多き成果をあげることを期待いたします。わが代表団は閣下がこの重大な責務を遂行されるために協力を惜しまない所存であります。
次に私は今次特別総会を提唱されたアルジェリアのブーメディエンヌ革命評議会議長に敬意を表したいと思います。わが国は国連への協力と国際開発協力の推進という立場から,また現下の世界の経済情勢より見て今次特別総会の開催は時宜を得たものとしてこれを支持いたしましたが,今次総会のテーマである資源と開発の問題はわれわれ人類共通の重要問題であり,この問題の解決のためには資源を持てる国も持たざる国も全世界的な立場から「対話と協調」を推進すべきことをまず第1に要請したいと思います。私は今次特別総会が「対話と協調」を通じて建設的な解決を見出すための場となることを心から希望しております。
議長
われわれは,第2次大戦後世界各国の共通の繁栄のために富める国も貧しい国も共に開発への努力を続けてまいりました。特に国連はこのために大きな役割を果しており,「国連開発の10年」の名のもとに開発問題の重要性に対する世界の世論を喚起し,国連の各機関の能力を結集して多くの分野で評価に値する業績をあげてまいりました。
議長
しかしながら,昨年秋以来われわれが経験したエネルギー事情の急激な変化等もあって,われわれ人類はより安定した国際経済社会実現をめざして諸般の改善努力を結集すべき転期に達したといいえましょう。
事実,最近われわれの経験は,今日の世界がいかに狭く,相互依存と連帯の関係がいかに深くなっているかを改めて想い起させました。いうまでもなくエネルギー情勢はいわば危機的な段階にまで達しており,その直接・間接の影響は経済発展段階の差をとわず,また社会・経済体制の相違をとわず,全世界に遍く及びつつあります。なぜならば,今日,各国間の経済的相互依存関係はわれわれ人類がかつて経験したことのない程にその緊密度を増しており,いかなる国と言えどもこの緊密な経済的依存関係を通じて伝播されるエネルギー事情の急激なる変化の諸影響から自らを隔離し,あるいは孤高を保つことは不可能な状況にあると思われるからであります。
議長
現下の情勢は開発途上国,特に石油を産出しない開発途上国の経済社会開発の推進に重大な影響を与えております。これらの国に対しては石油価格の大幅上昇という直接的打撃に加うるに,先進諸国の経済活動の停滞,輸出入余力や経済援助力の低下に伴う間接的な影響が今後深まることも危惧されております。こうした直接間接の影響が続くかぎり, 「第2次国連開発の10年」の目標達成はおろか,世界の安定にとり不可欠な要因の一つである開発途上国の経済社会開発は望みえません。
議長
資源の供給を大きく海外に依存しているわが国も深刻な影響を受けており,このためわが国経済活動の鈍化が予想され他の先進工業国の経済停滞とも相まって開発途上国の経済,特にアジアの開発途上国の経済にも大きな影響を与えることが憂慮されます。
今日の世界では,一国だけが他国の犠牲において生きていくことのできない相互依存の協力関係が次第に形成されつつあり,新しい安定と調和を必要とする時代が訪れつつあるといいえましょう。
議長
次に私は以上述べてまいりました相互依存の新しい国際連帯関係における資源と開発の問題について,わが国の所信を明らかにしたいと思います。
最近のエネルギー事情の変化はエネルギーを含めた資源一般についてのわれわれの考え方を根本的に再検討する一つの契機を与えてくれました。現在のみならず未来社会の発展のために,人類がエネルギーを含めた資源の開発,供給,消費,保全の諸問題を総合的に再検討することの必要性を認識せしめました。われわれ人類は世界的な人口増加と生活水準の向上に伴い急速に拡大する世界の資源需要に対応するため,さらに開発途上国の経済社会開発の促進のために,地球上の資源をいかに有効に開発し利用するかという問題の解決を迫られております。
議長
この問題の解決のためには,まず,資源を持てる国も持たざる国も共に「対話と協調」の精神に基づき,共同の責任と努力を引受けるべきであると考えます。このような観点より,次に私は,資源問題解決のための国際的協力の在り方について述べたいと思います。
第1にわれわれは,開発途上国を含むすべての国が自国の天然資源をその経済発展と国民の福祉の向上を目途として開発し利用する権利,すなわち天然資源恒久主権の原則を認めるものであります。わが国は開発途上国が,自国の資源の開発を基礎として経済揮発ならびに国民の福祉向上を推進せんとする熱意を理解するものであり,またこのような開発への自主的努力を高く評価し,わが国もこれら諸国の国造りへの努力にできるかぎりの協力を惜しまない所存であります。
第2に私はこのような前提のもとに,資源保有国も消費国も共にその能力に応じて協力すべきだと信じます。世界には資源に恵まれた国も資源に恵まれない国も存在しております。しかし,何れの国も発展し,繁栄を求めることが認められるべきであり,このような立場に立ってこそ世界の真の平和と安定が達成しうるものといいえましょう。このようにみれば,能力を有するすべての国は,自国の発展のためばかりでなく,他の恵まれない国々のために,それぞれその能力に応じて協力し,世界の経済発展,ひいては平和と安定のために貢献すべき国際的連帯責任を有しているものといいえましょう。
わが国はすでに述べたとおり資源に恵まれておりません。しかしわが国は資本と技術を有しており,世界の経済発展,特に開発途上国の経済開発に貢献しうる能力を持っております。今回のエネルギー事情の変化によりわが国のこのような能力が低下したため,これが多くの開発途上国,特にアジアの開発途上国の経済開発に支障を来たすことが危惧されております。いずれにせよ,世界経済の相互依存関係がますます緊密化するにつれて,資源を持てる国も持たざる国もこのような連帯関係にあり,世界は一つであることを改めて認識し,共に世界経済の繁栄に努める必要があることを指摘したいと思います。
第3にわれわれ人類は,将来の世代のために地球上の有限なる資源については節約,保全を真剣に検討する必要がありましょう。しかし,開発途上国を含め世界のエネルギー需要は今後とも増大することはさけられないと思われるので,代替エネルギー源や省エネルギー ・システムの開発等の分野での新しい国際協力の方法を見出すべきでありましょう。
しかし地球上の資源の有限性を論ずる場合,われわれは単に既存資源の枯渇のみに限定せず,今後の科学技術の進歩,経済成長と人口増加,環境上の制約等の諸要因を考慮に入れたインテグレーテッド・アプローチを志向すべきであると思います。海底資源を含めた探査技術,再生利用を含む資源の効率的利用と節約のための技術,代替資源の開発技術等技術革新の分野は広いものがあり,資源の枯渇のみを唱えることは望ましいアブローチとは考えられません。この点に関し昨年2月ニューデリーで開催された国連の第3回天然資源委員会において「成長の限界」の概念に対して多くの代表より否定的見解が提示され,地球上の資源を国際協力により開発し世界経済の発展に活用すべしとの積極面が支持されたことは注目に値します。ここでわれわれが問題とすべきは,現在,技術的経済的に開発可能であるにもかかわらず,国際的に資源開発を促進するための十分な協力関係が存在しないことであります。私は国連がかかる問題に対し,その積極的役割を果すため,資源開発の分野での国連機能の強化を要請したいと思います。
議長
私は右の目的に資するため国連は次の2つの機能を備える必要があると考えます。その1は,世界の資源需給等に関するデータの分析,普及を強化する措置であり,その2は,恵まれぬ開発途上国の未開発の資源の開発を援助し,また資源保有国の資源保全及び一層の開発を助けるためこれら諸国が必要とするタイプの科学技術を普及するための有効な技術援助の強化であります。
以上の考慮から,わが国は次の5つの具体的提案を行いたいと思います。
第1は,資源関係のデータの分析・普及のための国連資源情報センターの設立を検討することであります。
第2は,天然資源探査のための国連回転基金の早急な事業開始の要請であります。
わが国は同基金に1974年度に150万ドルの拠出を行う用意があり,また,明年度以降も同基金の進捗状況を勘案しつつ,できるだけの資金拠出を行うよう努力する方針であります。この機会に各国の同基金に対する積極的な寄与及び国連開発計画(UNDP),世銀等の国際機関の協力を強く希望したいと思います。
第3は,国連総会において設立された国連大学がエネルギー問題を中心とする資源の長期的かつ基礎的研究を行うことであります。
第4に,わが国は国連の天然資源開発の分野での活動に対するわが国の協力の一環として第4回天然資源委員会を明年の適当な時期に東京に招致することを提案いたします。
最後に私は国連の資源問題に関する有識者諮問グループの設立の検討を提案いたします。
同グループのメンバーは国際的に著名な有識者の中から選ばれ,各国の立場を離れ個人的資格において全人類の繁栄のために全世界的かつ長期的観点から資源分野での国際協力の在るべき姿とそのための指針を国連に対し提示することを任務とするものであります。
議長
次に私は新しい国際協力関係の中での開発援助の問題について触れたいと思います。
第1に私は世界経済の相互依存性を認識して先進工業国は従来にも増して政府開発援助の量質両面にわたる拡充を推進すべきであると確信いたしております。総援助量の対GNP比は近年減少傾向をたどっており,また現下のエネルギー事情の変化を契機として先進工業国よりの援助の停滞ないし減少の可能性も論じられています。このような時期においてこそ開発援助の真の意義が理解されるべきではないかと考えます。
私は現下の世界経済情勢が開発途上国の開発努力に与えつつある影響とこれに対する対策の必要性を強調したいと思います。
推計されるところによれば原油価格の高騰に伴い生ずるであろう開発途上国の直接的間接的追加負担は1974年に約150億ドルのオーダーにも達するものとみられております。これは1972年の政府開発援助(ODA)の2倍に近い巨額なものであります。
かかる事態に国際社会全体として対処するためには従来の援助のため国際協力体制そのものについても再検討が要請されてしかるべきでありましょう。
第2に私は新らしい国際協力関係のもとでは,援助能力のあるすべての国が,真に援助に対するニーズの高い国にその開発協力を行うべきであると考えております。その際,経済基盤がなお十分確立せず,現下のエネルギー事情の与える影響により経済開発の推進上大きな困難に遭遇している開発途上国,特に後発開発途上国に対して特別の配慮を行なう必要がありましょう。
この点でわが国はイラン皇帝が最近とられた積極的なイニシアティヴを始め,産油国側の協力姿勢を歓迎いたします。また,その後EC委員会より発表された「世界基金」構想,先日コロンボで開催された第30回エカフェ総会におけるスリ・ランカのパンダラナイケ首相による「世界肥料基金」構想等の提案が行われております。わが国としてはこれら諸提案が,グロ-バルな視点より総合的に関連諸国際機関において早急に検討されるべきものと考えており,能力を有する諸国の協力を前提とする国際的成案が得られる暁には,これに対し,誠意ある協力を行って参りたいと考えております。
第3にわが国は前述の如く現下のエネルギー事情により先進工業国中最もきびしい影響を受けておりますが,わが国の先進工業国としての国際的責任を自覚し,かつ国際的連帯意識に立って貿易,援助,通貨の諸分野における積極的国際協力を通じ,開発途上国の困難,また究極的には世界経済全体の当面している諸困難解決にできるかぎりの貢献を惜しまない所存であります。
わが国は,天然資源に恵まれていないものの,過去百年にわたる近代化の過程で外国の技術を導入し,かつ自からの力で技術の開発に努めてまいりました。従ってわが国はすぐれた技術を身につけた人材を多く擁しており,わが国が世界に貢献しうる道の一つは,技術協力にあると確信しております。わが国は産油国を含め開発途上国に対しそれぞれの必要と希望に沿った技術協力を今後とも一層強化したいと考えております。
議長
世界経済の無差別,多角的,自由の原則に基づく発展のもとての貿易立国を旨としているわが国といたしましては,現下の世界経済情勢のもとにおいでこそ自由貿易の維持拡大が更に推進されるべきものと確信しております。わが国は多角的貿易交渉開始の意義を認め,ガット東京宣言の合意にも積極的な努力を払った次第であります。
現下のエネルギー情勢等の結果として多くの諸国では国際収支上の困難の発生や経済活動の鈍化が危惧されておりますが,かかる状況のもとでの諸困難を理由に貿易上の保護的措置が蔓延することになれば,わが国を含め世界の諸国がこれまで営々として積上げてきた貿易自由化の努力は瓦解する恐れがあります。
わが国としては,現下の諸困難にもかかわらず,自由貿易の維持推進の大義のもとに多角的貿易交渉を通じて意義ある成果をもたらすべく努力する所存であり,この際,各国の同様の努力を強く呼びかけるものであります。また,わが国はかかる努力は開発途上国の経済発展にも貢献することとなるものと信じており,東京宣言の精神に沿って開発途上国特有の事情にも十分配慮しつつ交渉をとり進めるべきものと考えております。
議長
貿易と並び今一つ重要な国際経済活動として国際投資の問題があることに私は注目したいと思います。世界の国際投資による海外生産額は,今や貿易額を凌ぐものがあり,かつ急速に増大しつつあります。また開発途上国は世界全体の対外直接投資の約3分の1を受入れ,しかも,その半分が天然資源開発関連のものであるという事実の重みも十分認識すべきでありましょう。かかる国際投資活動は,資源の合理的利用と資本・技術等の移転を促進することにより開発途上国を含む世界経済全体の発展と繁栄に大きく寄与しつつあります。
もつとも,国際投資活動,なかんずく,直接投資活動は,受入国において継続的な経済活動を営むものであり,貿易に比べ,はるかに受入国・投資国双方,特に経済基盤の弱い開発途上国の経済に与える影響は直接的でありかつ広範であります。この結果,国際投資活動は,受入国・投資国の双方に種々の経済的・社会的摩擦を生じる可能性が多いことを認識する必要がありましょう。
かかる国際投資に随伴しやすい種々の摩擦の除去と防止にあたっては,世界経済全体の共通の利益を増進するとの観点から,企業自体の努力はもとより,政府間協力の必要もあると考えます。わが国政府といたしましては,企業家が,開発途上国等投資受入国の真の経済発展に資する形でその投資活動を進めていくべきことを基本理念としていきたいと考えております。
この関連で,国連においては,目下,国際投資の一形態である多国籍企業の実態につき,検討が進められつつあります。私は,客観的かつ地道な実態把握努力をもとに,行動規範の導入の可能性の検討を含め,多国籍企業,ひいては国際投資一般の健全な発展をはかつていくための国際協力上の諸方策につき各国が知恵を出しあっていくことを歓迎するものであり,わが国としても,かかる国際的努力に積極的に参加していく所存であります。
議長
わが国は,国際経済社会の円滑な発展をはかるためには,永続的かつ安定的な国際通貨制度が必要であるとの認識のもとに,20カ国蔵相会議(C-20)における改革作業に積極的に参加してきており,今後も同様の努力を引き続き払っていくこととしております。この関連でわが国としては国際通貨制度の改革にあたっては,開発途上国の利益にも然るべき形で配慮が払われなければならないと考えており,改革後の通貨制度の運営にあたっても開発途上国の有効かつ責任ある参画をはかる必要があると考えております。
この間,最近の国際通貨情勢をみるに,最近のエネルギー情勢の結果,右に述べた通貨制度改革作業と関連して,新たにかつ,早急に検討すべき諸問題が発生するにいたっております。すなわち,原油価格の上昇の結果,放置すれば国際流動性は一部の産油国に集中して蓄積され,他の多くの原油輸入国においては流動性不足が発生することが見込まれております。この場合,産油諸国に対してはその資産の国際的運用にあたり一定の節度と国際金融情勢への配慮が要請されると同時に,原油輸入国としてもその流動性確保にあたっては同様の考慮を払う必要があるものと考えており,国際通貨・金融情勢の円滑さと安定をはかるための関係諸国間での十分な協議と協調の必要が生じていると思われます。
議長
私は今改めて資源問題の重要性とともにその複雑さを認識しております。したがって,われわれは早急にその対案をたてるとともに,長期的解決への地道な努力を続けるべきでありましょう。私は今次総会で提起されるであろう重要なる諸問題は国連全機関の能力を結集して十分に検討され,解決への道が見出されるべきだと考えております。このための一つの方策として,私がすでに提案した国連の資源分野における機能強化のための五項目提案に対しても,今次特別総会において十分な検討が行われることを要請いたします。
いずれにせよわれわれは世界は一つであるとの認識に立ち,南北の区別や資源保有の有無やあるいはイデオロギー・政治体制の相違を超えて共に生き共に繁栄するために,かかる人類共同の事業に協力すべきでありましょう。「対話と協調」はこのための不可欠の要請であることを再び強調して私の発言を終ることといたします。
有難うございました。
PROSPECTS FOR U.S.-JAPAN RELATIONS:
THE DURABLE PARTNERSHIP
Address by
His Excellency Masayoshi Ohira
Foreign Minister of Japan
Japan Society Annual Dinner
New York,21 May 1974
Iam greatly honored to be with you this evening.The Japan Societyoccupies a very special place in Japanese hearts.For nearly three quarters of a century the members of this Society have persisted-through good times and bad-in the search for deeper mutual understanding and closercooperation between our two peoples.This is a rare record in the historyof intercultural relations.And it is the more remarkable because of the unique character of the Japanese-American partnership.Never before in history have two such distant peoples,so different in their culture and language,developed such close and enduring ties.You may take pride in your contributions to the building of theunparalleled partnership.
For nearly a dozen years,and in a number of capacities, I have been directly or indirectly involved in the major political and economic negotiations between our two countries.You will appreciate that the climate for these encounters tended,on the Japanese side,to be charged with emotion.This was inevitable because,throughout the postwar period,our close ties with the United States-expressed in the Japan-U.S.Security Treaty-have been the cornerstone of Japan's foreign policy,and therefore a frequent focal point of public debate.
Our central concern throughout this period-from the Korean war,through the prolonged Vietnam conflict,into the present relativeIy stable situation in East Asia-has been to maintain the viability of the Security Treaty relationship.We have considered this essential to peace-building in Asia.The treaty also provides for continuing consultation and cooperation in the management of our economic relations.In fact,some of the most delicate and difficult of our past negotiations have been in the economic area-Japan's import and capital liberation,the U.S.import surcharge,the textile contro-versy,and most recently the bilateral trade imbalance.
Looking back,I can see that each of these issues reflected a new stage in the evolving Japanese-American relationship,and corresponding changes in our responsibilities.During this period,as you recall,a new diffusion of power has taken place with the re-emergence of Japan and Western Europe,encouraged and supported by American forejgn policy.This has created certain mutual adjustment problems for the community of industrial democracies,
Japanese-American problems over the past decade or so,in other words,have been problems of transition for both countries-in relation to each other,and in a changing global context.
Yet every one of these problems has since been resolved to our mutual satisfaction,or brought under reasonable control,through our joint efforts.The bilateral trade imbalance,for example, which reached $4.1 billion in1972, was slashed to $1.3 billuon in 1973.In fact, in the first quarter of this year the United States realized a $290 million surplus in its trade with Japan.This has been the result in part of unilateral Japanese import liberalization,since the Hawaii summit meeting in mid-1972,and vigorous Japanese efforts to promote imports from the United States. The trade turnaround was also stimulated by the international currency realignments,which greatly increased the competitiveness of U.S.manufactured exports,and by the rise in value of U.S.agricultural exports.
By our determination to work together in solving these problems,our two governments have demonstrated that the interests which bind us together are far more durable than the problems which occasionally divide us.
Thus we have reached the point where there are hardly any burning bilateral issues on our agenda,and no realdisagreements on how to conduct our relations.We have rectified the imbalance in our trade,not by protec-tionism and the restriction of this trade,but by expanding it and thus creating jobs in both economies.
There is now widespread recognition in both countries that the Japan-U.S.Security Treaty constitutes an important part of the international political framework on which peace and stability in Asia are predicated.Our two governments are making steady progress on the realignment and consolidation of U.S.military bases in Japan,harmonizing the demands of the people in areas around the bases with the function of the U.S.forces.As a result,problems associated with the Security Treaty now figure less prominently in Japan's domestic politics than in the past.
In the progress we have made together there are grounds for satisfaction,but not for complacency.Even more challenging tasks lie ahead,especiallythe multilateral challenges of a world which is now undergoing profound changes in structure.The break up of the postwar order of the quarter century has made it the most urgent business of mankind to set about building a new and more stable world order.In this enterprise,Japan and the United States are already actively collaborating.In the political realm-whether in the normalization of relations with China or the pursuit of a Middle Eastern settlement-our contributions are necessarily distinctive,but nonetheless complementary,This is so because Japan and the United States share a common vision of the future.We both seek,out of the world's present upheaval,a more open,stable and peaceful international order in which the rights of all nations are respected,regardless of differences in internal systems,
One of the more encouraging political developments is that we have apparently transcended the rigid,monolithic and dangerous confrontations of the early cold war. We have seen initial, hopeful steps toward the building of more normal relations between ideological adversaries...for example,in the rapproachement between the United States and China,and in the difficult but earnest talks now under way between the United States and the Soviet Union on limiting the arms race in strategic weapons.Japan is broadening its exchanges with both China and the Soviet Union,as are the United States and Western Europe.Our common motive is to reinforce the momentum away from confrontation and toward peaceful cooperation.
As you know,Japan has been expanding trade and other exchanges with the People′s Republic of China since the normalization of relations in September 1972.Iderive great satisfaction from the fact that our relations are being placed on a stable basis with the conclusion of a governmental trade agreement and the recent air agreement,which the Japanese Diet approved in its current session.
Unfortunately,our aviation relationship with Taiwan was suspended.However,there is no change in our position that non-governmental relations with Taiwan be continued. Isincerely hope that an aviation relationship with Taiwan be restored at an early date.
With regard to the Soviet Union,we are soon to proceed with the negotiation of a peace treaty,which should place our relations on a more stable basis. Talks will also continue on Japanese-Soviet cooperation on the development of Siberian natural resources.
Recognizing the futility of mutual annihilation,former antagonists are becoming more pragmatic in dealing with each other.This is healthy,but it does not justify any relaxation of vigilance. Peace still depends on effective deterrence and on continuing cooperation among the democratic powers on political and security affairs.
For its ultimate security,Japan will continue to rely on the U.S.deter-rent,while limitng the mission of the Self-Defense Forces to protection of its own territory against conventional attack.Irestate these policies to emphasize how groundless is the speculation,in some quarters,that Japan,especially in the wake of the energy crisis,may be contemplating substan・tial rearmament and possibly even the development of nuclear weapons.
I cannot state too forcefully that these options are not being considered by any responsible political leader or policy-maker in Japan.Indeed,it is fancifulto pretend that small,crowded and vulnerable Japan could defend itself against a determined aggressor or that Japan could send its military forces overseas to secure sources of raw materials for its industry.
Japan is irreversibly committed to a nonmilitary role in world politics.Hence our determination,in concert with the United States and the other democracies,to seek more flexible relations with our communist neighbours. Hopefully our joint efforts will in time make war obsolete.
Not only in the political-security realm,but also in the economic,the search for a more stable world requires renewed forms of global coopera-tion. The basic challenge is to strengthen our international trade and financial structures in response to the new economic realities.This under-taking was formally initiated last September, at the GATT Ministerial Meeting in Tokyo. Last February, the United States and other major industrial nations met in Washington to seek ways of dealing with the energy crisis.
In all fairnessIthink we must admit that the growth and prosperity of the industrialized democracies throughout the post-war period has depended in large measure on the availability of unlimited supplies of inexpensive fuel.This era came to a sudden end last fall,first with the temporary embargo and cut back in oil supply and then with the quadrupling of crude oil prices.Other than world war,Idoubt that the international economy has faced a more pervasive and difficult adjustment in the recent past.
Those developing countries which are already suffering from balance of payments deficits are surely the hardest hit by the new high oil prices and the resulting high prices of semi-finished and finished products.Even if there is some reduction in these prices,the developing economies will need expanded assistance from potential donor countries, including the newly rich oil-producing states,to finance their essential imports and prevent serious interruption in their economic development programs.The recent special session of the UN General Assembly,here in New York, explored this formidable problem.Japan,Iassure you,is actively cooperat-ing in the search for workable solutions.
It is one of the ironies of our age that the world's progress toward politicaldetente could be overshadowed by upheavals in the world economy. Fortunately we have avoided a serious confrontation between the oil-consuming and oil-producing states.But a potential confrontation exists within the developing world, between the resource-rich and the resource-poor countries.Even greater dangers are posed by the rise-in both the developed and developing regions-of economic nationalism,protectionism,regionalism,and exclusive trading arrangements.These are the trends which threaten a complete breakdown of the postwar economic order.
This order has been guided by the principles of freedom,equality,fairness and mutual benefit.In economics as in politics,such concepts continue to be of utmost value.Unfortunately,however,these same lofty principles are too often invoked to obtain selfish advantages,or to extract unequal concessions.This is especially so in times like the present,when all the world's nations-large and small, rich and poor, developed and developing-are caught in the crossfire of conflicting interests.
No side can win at the expense of another in this new and many-sided situation.If the energy crisis has taught us anything,it has demonstrated the delicate interdependence of the total world economy.No one nation or bloc of nations is really self-sufficient any longer.Yet these hard facts need not dismay us if we are willing to take advantage of our inter-dependence.
Japan, for example, has been cited as the most vulnerable of all industrialized economies to the oil cut back and now the high oil prices.This is correct, since Japan is 70 percent dependent on oil for its total energy consumption,and virtually 100 percent dependent on imports for its oil supply. As a result of the new prices,Japan's oil import costs will jump from $7 billion last year to between $15 and $18 billion this year,with serious consequences for our balance of payments.However,Japan will not seek a short-range solution to its balance of payments problem.
Japan's rise in real GNP during 1974 will be the smallest since postwar reconstruction. Over the longer run, perhaps the next 20 years, some experts predict that average annual growth will not exceed 6 or 6.5 percent.This may be a high growth rate by North American or European standards,but it is low for Japan.Nevertheless,it is an adjustment the Japanese people are prepared to make.Indeed,there are expectations that some slowing of economic growth,especially in the resource-consuming industries,is now desirable in order to shift resources into important quallty-of-life activities,such as environmental protection,better housing,and improved social services.
In short,despite its vulnerabilities as a resource-poor country,Japan is basically a strong and resilient economy.This strength rests in a skilled and hard-working population,a tradition of high savings and investment,and the world's highest productivity rates.The creative energies of the Japanese people,mobilized through a stable parliamentary democracy,welcome these new international challenges.
Our only fear is that the current economic uncertainties may tempt some countries to adopt measures such as restricting trade, staging export drives,or devaluing their currencies.Such self-centered acts can lead only to a global economic contraction and possibly a repetition of the economic collapse of the 1930s.This temptation must be resisted at all costs.The fact of our worldwide interdependence demands a cooperative approach by all trading nations to these problems.Our common goal is,of course,to restore international economic equilibrium.But we must seek this equilib-rium,not at some shrunken level of world economic activity,but through harmonious expansion of our trade, investment, and other economic exchanges.
In this spirit,the United States,Japan and other world‐trading nations agreed last fall to launch a new round of multilateral trade negotiations. We face in these negotiations the critical choice between strengthening our economic interdependence or allowing the world economy to fragment.
Japan,for its part,is fully committed to keeping its economy open to foreign goods and capital.Although I have heard the fears expressed,Ican assure you that our government will not mount any new export drives,despite balance of payments pressures.In fact,increases in our export volume will be limited by increases in the prices of our products.This decline in our export competitiveness is the result of higher oil and other raw materials costs and wage rises of up to 30 percent this past spring. What we hope for is a healthy rise in exports in both directions.To repeat,we must seek equilibrium in our multilateral trade at rising levels of trade.Only in this way can we generate sustained,worldwide economic growth.
Looking to the future,I have a feeling of confidence and even optimism. Much of my confidence is based on the demonstrated vigor and durability of the Japanese-American partnership. We have weathered some stormy times together in recent years, but our mutual trust and respect have matured in the process.We shall have honest differences in the future,but we have learned not to take each other for granted,and how to talk out our problems before they reach crisis proportions. We are treating each other as mature partners.
This is important because it equips us to deal more effectively with the global challenges we face in common,The tasks ahead are not easy ones.But they are more manageable because we face them together. Our respective policies willat times reflect specific interests and differences in our capabilities.Yet our common interests are overriding.They include the easing of political tensions throughout the world,and the strengthening of the world economic structure.
The finest test of the Japanese-American partnership is just beginning.It is to join forces,with renewed confidence in each other,to convert our shared vision into the reality of a more open,more peaceful and more prosperous world.
(4) 第3次国連海洋法会議第2会期における小木曽代表一般演説(仮訳)
(1974年7月15日カラカスにおいて)
議長閣下,代表各位
日本代表団を代表し,冒頭私よりこの歴史的な海洋法会議の議長に就任されたアメラシンゲ大使に対し,心からの祝意を表したいと思います。われわれは,議長閣下の卓越せる指導力の下に,今次会議が世界の海洋に新しく公正な普遍的に受け容れられる秩序をもたらすという目的を達成するために有意義な進展を遂げることを確信するものであります。わが代表団は,貴下がこの極めて困難な任務を達成されるにあたり全面的協力を誓うものであります。
同時に,私は,この機会にヴエネズエラの政府と国民が今次会議を主催されたことに対し深甚なる感謝の意を表したいと思います。カラカスでの能率的な運営と心のこもった歓待は,会議自体の成果とともに,常にわれわれの記憶に留まるでありましょう。
過去の多くの機会に,わが代表団は,日本が海洋法の問題及び今次会議の結果を非常に重要視しているということを表明してきました。島国であるという地理的特殊性から,わが国民の活動の多くは海へ向けられており,それ故われわれの生存は,基本的に海洋に依存せざるをえないのであります。われわれは,われわれの国民経済の基礎となる物資の供給について海運及び通商に大きく依存しているのみならず,われわれの畜産能力が限られているため,魚類は,何世紀もの間,わが国民にとって欠くことのできない食料源となってまいりました。現在,魚類及び魚製品は,全動物性蛋白質の供給のうちの半分以上を提供しています。われわれの全漁獲量の約45パーセントは,200マイルの経済水域により包含されるであろう海域から得られております。なお,この漁獲量の90パーセントは,先進国沖合の北太平洋及びそれに隣接する水域からのものであります。したがって,わが国民が200マイルの経済水域という問題に多くの関心を示すのは無理もないことなのであります。
かように日本の如き海洋に囲まれ,資源の乏しい国にとりましては,海運と漁業は,まさに選択の問題というより,自然条件により余儀なくされた生活の条件そのものなのであります。海洋をこえて物資を滞りなく入手し,食料供給を確保することにより国民生活の基本的必要を満たすという要請が,すなわち,われわれの海洋問題への対処の姿勢の背景となっているのであります。
しかしながら,日本が海洋及びその資源に決定的に依存しているという事実は,決して海洋の使用に関する日本の利益が他国のそれと衝突することを意味するものではありません。むしろその反対に,日本の基本的な国家的利益は,他のすべての分野におけると同様に,海洋における国際協力を維持し発展させることにあります。もし,そうでなく,海洋の秩序が維持されなければ,その悪影響を真先に被るのは日本でありましょう。わが代表団の海洋問題に対する基本的姿勢は,私が以上申し上げた諸考慮に基くものであります。
議長閣下
すでに多くの国々から,既存の国際法の若干の部分は,これらの国が海洋における正当な利益と考えるものを適切に発展させ或は保護していないとの見解が表明されています。国際社会における苦労の多い時間のかかる法の制定の手続については次のような主張がなされています。即ち,多くの国が世界の変りつつある諸要請を満たす必要性に気づいてきていますが,このような手続きは,国際法をこの事態に即応しうるものとすることを妨げているというのであります。
その点はとくに海洋の,多方面にわたる新たに開発された使用方法に関し,あてはまります。今日われわれが生活している世界は,第1次及び第2次のジュネーヴ海洋法会議の当時とは多くの点で国際環境が異っていることは認めざるを得ません。海洋,海底及びその下部がますます盛んにかつ多方面にわたって利用されるに及び伝統的な海洋法を発展させ補充しつつ,世界の現状に更によく適合させる必要が明らかに生じております。
議長閣下
わが代表団といたしましては,第3次海洋法会議が時宜にかなった解決に到達することが重要でありますが,同時に,最終結果がすべての国の利益及び関心を調整したものになるように,参加国の利益を妥当に反映することを目標にすることもまた重要だと考えます。われわれとしては,今次会議において,ある一部諸国の利益を他国の犠牲において満足させるべきではなく,すべての参加国の多種多様な利益を可能な限り取り入れ調整すべきであります。すなわち,開発途上国,沿岸国,内陸国又は他の地理的不利国,地理上,その他の理由により海洋及びその資源の使用に伝統的に依存してきた国々,これらの国々の多種多様な利益の調整がなされなければなりません。
議長閣下
以上のような観点に立って,次に私は若干の主要な問題点に言及し,わが代表団の見解を簡潔に申し述べたいと思います。
領海の幅員に関する国際法上の論争は諸国間の頻繁な紛争の種となっております。今次会議において多くの代表団が領海の最大限の幅として12カイリに合意する用意があることを表明しました。日本も,もし,今次会議において,全参加国にとり公正かつ妥当な海洋制度の包括的取りきめにつき,一般的に合意に達することができれば,12カイリを支持する用意があります。
貿易に大きく依存する海洋国家として,日本は海洋特に国際通航に供せられる海峡を通ずる国際交通規則が航行の自由を最大限に確保することが不可欠であると考えます。しかしながら日本としては国際海峡にかかわる各種の利益を調整する特別な必要があることを理解しております。会議は,航行の自由を保障しつつ,汚染防止および航行の安全の如き沿岸国の正当な利益に妥当な配慮を与えなければなりません。同時にわが代表団としては,当該沿岸国の安全保障上の利益の問題に必要な考慮が払われるべきであるとの立場であります。
群島問題は太平洋上の若干の国々にとっては至大の関心事であり,今次会議が合理的な解決を見いだすべき問題であります。しかし群島に関するあいまいな拡大解釈を可能にする定義の結果として,群島に関する要求が拡がるならば,国際社会の利益に背くこととなります。群島水域とくに国際通航路における通航上の利益を適切に守ることが明らかに必要であることはすでに多くの諸代表により強調されているところであり,われわれも全く同感であります。同時にわが代表団は,漁業及び海底ケーブルまたはパイプラインの敷設のごとき,海洋の伝統的な利用に関して他の国々の諸利益を調整するよう努力がなされるべきであると考えます。わが代表団は群島に関し明瞭かつ正確な定義付けがなされ,同水域における航行その他の使用につき適切な規定が設けられることにより,群島国家及びその他の国々の双方にとり満足のいく解決が見出されることを希望するものであります。
日本代表団は海洋資源の問題を今次会議の最も重大な問題と考えております。われわれは海底の鉱物資源の探査開発に適用される制度と再生可能な生物資源に適用される制度とはそれらの性質上異なる観点から検討されなければならないと考えます。
海底に関する限り沿岸国がこれを探査しその鉱物資源を開発するための主権的権利の及ぶ範囲は距離基準により明確に定められるべきでありましょう。わが代表団といたしましては,沿岸国は,距岸200カイリの範囲内で,その距離を自由に決定することができるとの見解を有しております。
生物資源に関しては,その妥当な保存と管理の必要性が増大しつつあり,又,公正かつ公平な分配制度を樹立する必要も大きいと考えます。
保存と管理は国際的協力が明らかに望ましくまた効果的に運営されうる分野であります。地域漁業委員会はそのような国際協力の一例にすぎません。既に申し上げた通りわが代表団は海洋において国際協力を促進する用意を常に持っております。
われわれとしては,海洋の資源の賢明かつ効果的な保存と管理を促進するための国際的あるいは地域的協力の役割を強化するようないかなる提案にも協力する用意があります。
生物資源の分配は公平と正義の原則に基いて行われるべきものと考えます。
これに関連して,わが代表団は将来漁業に適用される制度はすべての国の利益が公正にバランスされたものでなければならないとの見解を有しております。われわれは,領海の限度を遥かに越えた水域の漁業資源に対する沿岸国の排他的権利の設定に対し,一貫して,反対の態度を表明してきております。わが代表団は,そのような拡張は沿岸に豊富な漁場を持つ,限られた国々のみが,他国の利益の犠牲において利益を得るという非常に不公平な事態を招くことになるであろうと考えております。
これまで多くの国々が経済水域に対する支持を表明いたしました。しかしながら,わが代表団が注目しておりますのは,次第に多くの国が科学的に確立された漁業資源の保存措置にもとづき漁業資源の過少利用を避け,かつ,非沿岸国である内陸国その他の地理的不利益や遠洋漁業国の利益との適切な調整をはかることが根本的に必要であることを認識するようになったということであります。例えば,若干の国々は,沿岸国の新しい権利はそれ相応の義務を伴うべきであると強調し,またその他の国々は,沿岸国により利用されない漁業資源は他の国々に開放されるべきであると示唆しています。
わが代表団は,これらの示唆を注意深く傾聴いたしました。
議長,伝統的漁業国である日本として,これら伝統的漁業国の正当な利益が,新しい海洋法条約において十分に考慮されることが極めて重要と考えていることを強調いたします。
ここで,私は漁業問題の一面であるアナドロマス(遡河性魚種)の問題につき言及したいと思います。今次会議の準備委員会においてすでに述べましたように,日本としてはこの魚種が産卵河川をもつ国によってのみ排他的に管理・利用が行われることには賛成できません。この魚種の保存・管理は多年にわたり,直接関係国間において既存の地域漁業委員会を通じて実施されてまいりました。この問題は少数の国にのみ影響する極めて限られた問題でありますのでこれらの国の間の協議と適切な解決に委ねられるべきであると考えます。
次に私は,国家管轄権の範囲を越えた深海海底のための新しい国際的法制度の樹立の問題に言及いたします。深海海底の資源はこれまで人類の手の届かないものでありました。しかし最近の科学技術の進歩により今や史上初めて我々は,人類の共通財産として国際社会に利用さるべきこの宝庫への鍵を手中に収めたといえましょう。この概念に明確な法的定義を与え,これを具体化する国際機構を設立することが今次海洋法会議の任務であります。
われわれは新しい深海海底制度の設立がすべての国の福祉の向上に貢献するものでなければならないと考えます。この目標は,深海海底鉱物資源の開発から生じる利益の国際社会における公平な分配を通じて達成されなければなりません。また,その際,特に開発途上国や内陸国その他の地理的不利国の利益に対し考慮を払わなければなりません。この資源開発への実効的参加もこの目的を達成するもう一つの手段となりましょう。そのために,技術先進国から開発途上国への必要な技術の移転を容易にし,また海底機構が発行するライセンスの国別年間割当の制度を設けるための然るべき条項が条約内にもられるべきでありましょう。
深海海底に関し,本会議が直面している最も重要かつ困難な問題は「誰がこの資源を開発するか」という問題であります。これについて誤った決定がなされるならば,国際社会全体の長期的利益に取り返しのつかない損害を及ぼす恐れがあります。わが代表団は,この点につき深海海底資源の開発は適切なライセンス制度によって行われるべきだと考えております。そうすることにより国際社会の利益は最もよく守られるでありましょう。
海洋汚染の問題に関しては,陸上,船舶及び海底開発のそれぞれから起因するすべての汚染原因から海が保護されなければなりません。海洋の環境を守ることは国際社会全体の利益につながるものであります。沿岸国であり,海洋の多方面にわたる受益国である日本としては海洋汚染の防止について,特別な関心を抱いており,あらゆる必要な協力をする用意があります。
これについて,今次会議で考慮されるべき重要な問題の一つは船舶からの汚染の防止でありましょう。沿岸国がその沖合における船舶による汚染に重大な懸念を抱くのそれが必然的に沿岸に影響を及ぼす以上当然であります。この点に関し2つの問題があります。まず,船舶による汚染の防止に関しどのような基準を採用するかという問題があります。わが代表団はそのような基準は国際的に合意され受け容れられたものであるべきだと考えます。しかし,次に,これらの基準を適用する際にどの国が実施権限をもつかという問題があります。この点に関し,われわれは伝統的な旗国主義が汚染防止基準を実施する上での基本原則であると信じます。しかしながら沿岸国の正当な利益を考慮して,その沖合海域の排出・投棄に関する国際基準の違反の場合に妥当な範囲内で沿岸国若しくは入港国に,ある種の権限を認めることにより上記の原則を補完することも考えられましょう。以上述べた海洋汚染防止の国際的基準及び実施の方法は,航行の自由に不当な制約を課すことなく海洋汚染防止の目的達成に役立つでありましょう。
これに関連して付言しますが,いわゆる「特に脆弱な海域」の概念は汚染問題に対する興味あるアプローチであり慎重な検討に値するものでありましょう。
最後にわが代表団は,新条約の解釈適用から生じる紛争の強制的解決に関する満足すべき手続が設けられることが非常に重要だと考えていることを付け加えたいと思います。新たに設けられる制度につきすべての国に一律かつ公正な解釈及び適用がなされるためにはそのような紛争を仲裁手続若しくは司法的解決に委ねるべき国家の義務を明確に規定すべきであります。われわれは,今や世界的規模での国家間協力の土台となるべき包括的新海洋制度を創設しつつあることを考えるならば,この点は基本的に重要なものでありましょう。この点については国際司法裁判所が主要な役割を担うべきことは当然でありますが,海洋問題の多様かつ屡々技術的な性格にかんがみ,例えば漁業,海域の境界画定及び国際海底の開発における如く機能的問題及び適当である場合には地域的問題にも則した種々の手続が要請されるかもしれません。このような点から将来設置されるべき特別委員会は解決さるべき問題の性格に則したものであることが肝要であり,又紛争当事国を拘束する決定を下すこれらの機関への紛争付託義務を明確に規定することが肝要であります。
議長閣下
われわれの事業が将来いかなる決定に到達しようとも,それが明日の世界さらに遠い将来に大きな影響を及ぼすであろうことは疑いを容れません。日本代表団は新しい海洋法が,海洋における国際協力を促進し,すべての国々の利益に考慮を払うことにより公正な解決を達成する文書となるべきであると確信いたします。
ありがとうございました。
(1974年8月20日ブカレストにおいて)
議長
私は,日本政府を代表して,閣下が今次世界人口会議の議長の重職に就かれたことに祝意を表するとともに,この会議が閣下の優れた,かつ,公正なる指導力のもとに,実り多き成果を挙げることを期待いたします。わが代表団は,閣下がこの重大な責務を遂行されるために協力を惜しまない所存であります。
私はまた,この会議開催に当りホスト国として多大の労をとられたルーマニア政府と国民に対し,心からの感謝の意を表したいと思います。
議長
人類の将来が人口の爆発的増加によっておびやかされているという認識は,この10年間,世界各地において強まって参りました。特に国連は,人口問題の重要性についての世界の世論を喚起し,国連の各機関の能力を結集して多くの分野で評価に値する業績を挙げて参りました。
しかしながら,このような努力は,世界人口が現在の割合で増加を続ければ21世紀初頭には,70億に達するという冷厳な事実に根本的な変化を与えるには至っていません。しかも御承知のとおり人口問題は独自に,かつ,短期間に解決することは困難であり,資源,環境,経済社会開発との密接な関連において総合的な立場から長期的な努力によって解決を指向しなければならない性質のものであります。
従って,20世紀の残された30年間は,「人口問題の時代」であるといっても過言ではないと思います。この意味において,私は国連が周到かつ広汎な準備を経て世界人口会議を開催したことを高く評価するものであります。
議長
最近における世界の人口増加率上昇の主たる原因は,開発途上国における死亡率,疾病率の急激な低下にあるとされています。このこと自体は非常に歓迎すべきことであり,この面でなお存在する地域的格差の解消を含め更に促進されるべきであることは言を俟ちません。しかしながら,この面での努力は,世界的な規模における出生率の低下をはかり,もって人口爆発の破局を回避する面においてのわれわれの一層の努力を必要とするものであります。
その意味で私は,この会議において世界の人口増加についての量的目標が設定されることについての考慮が加えられることを望みます。もとより,かかる目標達成への道程においては,各国に存在する相異った状況と個人の自由とが基本的に尊重されなければなりません。しかし,各国は,人口政策の策定と実施にあたって先に述べたような人類共通の課題を常に念頭に置く義務があると確信するものであります。
かかる共通の認識に立脚する各国,各個人の努力が,有効な国際協力によって補完されなければならないことは自明の理であります。なかんずく,人口問題が食糧を初めとする有限な資源や環境の問題と不可分に結びついている事実は,このような協力の重要性を裏書するものであり,かつ国連がその際中心的な役割を演ずるべきであることを示唆しております。わが政府代表が本年4月の国連特別総会において強調した「対話と協調」の精神は,まさに人口の分野においても適用さるべき原則と言えましょう。私はこの「対話と協調」の精神が,今次会議において活発かつ建設的な討議を経て世界人口行動計画が全会一致で採択されるという事実によって如実に示されることを期待するものであります。
この関連において私は,日本政府が国連人口活動基金に対する拠出を年々増加しているのをはじめとして,従来から人口の分野での国際協力に積極的に参加しており,今後も量質両面で協力を強化するために努力を続けて行く用意のあることを指摘したいと思います。
議長
私はここで,日本の人口問題に触れてみたいと思います。わが国では1947年から1957年迄の間に,出生率は人口1,000対34から17に半減致しました。これは世界的に見て例の少いケースであると思います。これと平行して死亡率もまた2分の1に低下し,いわゆる人口転換を短期間に達成いたしました。その結果として人口の増加率は,1956年以降20年近くの間,年率1%前後の低い水準を維持しており,また出生率はいわゆる置き替えレベルにとどまっており,すでにポテンシャルとしての静止人口こ到達しております。他方,第2次大戦前からの日本の経済発展の過程において最大の課題であった食糧や雇用機会と人口の不均衡という問題も,これと平行して解決の方向にむかい,日本にはもはや人口問題は存在しなくなったのだという印象が,国内の一部においても見受けられます。
しかしながら,時代の進展はわれわれに新たな課題を課しているのが実情であります。第1に,高度経済成長に伴う若年労働人口の大都市圏への集中と生活環境の悪化,及びその裏返しとしての農村地域の過疎という問題が生じて参りました。第2に,第2次大戦後の短期間に出生率が急激に低下した結果,人口の年令構造に大幅な変化が生じ,生産,社会福祉を含むわが国の将来の経済社会発展に重大な影響を及ぼすことが危惧されて居ます。
わが代表団は,わが国におけるこれら諸問題の実情と,これを解決するべく払われている各種の努力を紹介することによって,今次会議の審議に寄与して行きたいと思います。
議長
この機会に私は,日本が属するアジア地域においては,人口問題に関する各国の共通の関心が存在し,この問題の認識についての広範な見解の一致が存在していることを指摘したいと思います。1972年東京において開催された第2回アジア人口会議では,与う限り効果的な人口政策を各国に示唆勧告し,第2次国連開発10年の目的達成を促進することを念頭に置いて活発な討議が行われ,その成果の一つとして「開発のための人口戦略宣言」が採択されました。また本年5月開かれた世界人口会議のためのエカフェ地域諸国協議会で,いかに建設的な、活発な議論が尽されたかは,この会議に提出された報告書に明らかなとおりであります。
議長
われわれが直面している最も重大な問題の一つは,現在世界各地において人口問題の重要性が広く認識されつつあるにもかかわらず,その認識を実際に人口問題の解決に寄与しうる行動に転換させるための十分な相互協力体制が整備されていないという事実であります。私は,国連が人口問題を中心として資源,環境,経済開発等の関連部門の調整をはかりつつ,問題の総合的,有機的解決を探求する機能を強化すべきであり,そのための統合的なアブロ-チ(integrated approach)を進める必要があると思います。そのための手段として,以下の諸提案に対して積極的かつ具体的な考慮が払われることを強く希望するものであります。
第1に,国連機構の枠内で人口及び関連諸分野の情報の分析と普及のための体制を整備拡充する必要があります。第2に,これと関連して,国連総会によって設立された国連大学が,人口問題と経済社会開発との相関関係についての研究を優先的テーマとして取り上げることであります。第3に,国連人口活動基金の事業活動を拡充し,活動の過程においては,人口問題解決のための具体的,建設的な構想を有する国からの要請に優先的考慮を与えることであります。そして第4に,今次会議で到達される国際的合意の効果的実施を確保することであり,世界人口年を契機に設立された各国の国内委員会を常設化し,この面でのフォロー・アップを行わしめることも一案かと思われます。
議長
すでに述べた如く,私は人口問題の重要性とともにその複雑さをも認識しております。夫婦が自らの希望する子供数と出生間隔を決めることは基本的人権として広く認められている所であり,また人口政策の策定に際しては各国,各地域の多様な条件を無視し得ないことも事実であります。
しかしながら,われわれは,世界は一つであるとの基本的認識に立ち,政治体制,歴史的,地理的条件,経済社会的発展段階の相違を超えて人類共通の課題を解決するために協力すべきであり,この世界人口会議がそのための良き出発点となることを期待し,かつ確信するものであります。有難うございました。
(74年9月24日ニュー・ヨークにおいて)
議長
貴下が第29回国連総会議長に満場一致で選挙されたことに対し,日本代表団の名において心からお祝い申し上げたいと思います。
また,私は前議長レオポルド・ベニテス大使に対して深甚なる感謝の意を表したいと思います。前議長はその広い視野と公正なる識見をもって種々難問題の山積した第28回総会及び第6回特別総会をみごとに指導されました。
ここで私は,今次総会に国際連合に加盟されたバングラデシュ人民共和国,グレナダ,ギニア・ビサオ共和国の各代表団に対し,心からお祝いの言葉を申し述べ,歓迎の意を表したいと思います。
議長
今日の世界は,大国間における緊張緩和の進展を背景として,諸国間の公正な関係に基づく新たな国際秩序を求めて動いております。しかしながら今なお局地的な紛争や緊張は根絶せず,これらをいかに平和的に解決するかという課題に直面していることも厳粛なる事実であります。同時に,現下の世界は,一方において,度重なる核実験や核拡散による危険にさらされ,他方,世界人類全体に影響をもたらす国際経済社会の諸問題の解決という大きな挑戦をも受けております。私としましては,このように平和と繁栄との両面において大きな歴史的課題に直面している現下の国際情勢においては,自国のみの利益にとらわれることなく,広く国際協調を通じて,自国の平和と繁栄を図る道がわれわれに残された唯一の方策であると考えるものであります。
議長
過去数年来積み重ねられてきた大国間の対立回避と協力関係への努力は,体制を異にする国々の間の対話をも促して参りました。
しかし,このような趨勢にもかかわらず,局地的には新たな緊張や紛争が発生しており,また不安定要因を抱えたままであります。
朝鮮半島にあっては,われわれは,昨年のコンセンサスに表明された平和統一への朝鮮民族の念願を確認すると同時に,南北両朝鮮とも今日なお対話と交流を通じた緊張緩和への共通の願望を有しているという事実の上にたって,今後とも問題の行方を見守っていくべきであると考えます。
カンボディアにおいては未だ戦火が続いており和平への糸口すら生まれていないことは極めて遺憾であります。私は不幸な事態が当事者間の話し合いにより1日も早く解決することを希求します。同時にカンボディア問題の平和的解決のためすべての当事者が真剣な努力を払うとともに,国連としても,そのために協力を惜しむべきでないと考えます。私は,かかる観点から,ワルトハイム事務総長の年次報告がカンボディアの和平に言及し,「国連がより積極的な役割を果す日が来ることを期待する」旨述べていることに勇気づけられるものであります。
また,本年4月ラオスで民族和解の連合政府が成立したことは,今後におけるインドシナの和平定着に向かって一つの重要な転機となり得るものとして,高く評価されるべきものと考えます。
中東においては昨年10月の第4次中東戦争の後,和平への機運が盛り上っておりますが,わが国としても他の平和愛好国同様今後のジュネーヴ和平会議の進展に期待するものであります。
以上述べてまいりましたインドシナ情勢,第4次中東戦争及び最近のサイプラスでの紛争等は,一面において大国間の緊張緩和が局地的な緊張の緩和に必ずしも直ちにはつながらないことを示しております。この関連において,私は中近東及びサイプラスにおいて平和の回復・維持,紛争再発防止に大きな役割を果たした国連の平和維持活動を評価したいと思います。ただ,こうした国連による平和維持活動に期待されるところが大きいだけに,これまでの活動がいずれもその時々の,にわかとしらえであって,設置や運営の問題についてもその場限りの解決が図られてきている結果,いざ必要というときに国連として迅速かつ効果的に対応し得るか,甚だ気懸りになるのであります。従って,私は,過去の経験と教訓をもとに,平和維持活動に関する指針が早急に確立されることを希求するものでありますが,わが国としてもかかる平和維持活動に対しては今後ともできるだけの協力をしてまいる所存であります。
アフリカ諸国が直面している諸問題,なかんずく,非自治地域住民の自決・独立及び人種差別撤廃は,今日の国連の重要な課題の一つであり,その実現は世界の平和に大きく貢献するものであります。この意味において,本年4月成立したポルトガル新政権がアフリカにおける同国施政地域に対し原則的に独立を承認したことを歓迎するものであり,これらの非自治地域が,早期,平和裡に独立を達成し,平和愛好国として,国連に迎えられることを希望するものであります。この観点からすでに独立したギニア・ビサオ並びに完全な独立に向っての重要な前進として9月20日発足したモザンビーク暫定政府に対し衷心より祝意を送りたいと思います。
また,わが国は,南アフリカによる人種差別,ナミビア占拠並びに南ロ-デシアにおける白人少数支配に反対するとの従来の基本的立場を再確認するとともに,南ロ-デシア経済制裁決議等関係国連決議を今後とも遵守し,アフリカ諸国民が速やかにその願望を達成できるよう引続き協力してゆく所存であります。
議長
冒頭にも言及しましたように,国の大小を問わず,世界の何処に位置するかを問わず,今やわれわれ全人類の生存の将来にとり懸念すべき事態が発生しつつあることを指摘したいと思います。
まず第1の問題は,核拡散の危険であります。5月18日には,10年ぶりに新しい核保有国が誕生し,次いでこれまでの核兵器国も,核実験反対の声を無視して,大気圏内あるいは地下において,短期間に集中してそれぞれ核実験を敢行したのであります。
私は,これらの一連の核実験を契機にさらに一層の核拡散への道が開かれることを心から憂慮するものであり,平和国家に徹し,核武装を排する基本的立場にもとづき,核兵器不拡散条約の批准に備えて所要の準備を進めているわが国としては,かかる核拡散の傾向を阻止することが現下の急務であり,この目的のために国際的努力を結集する必要があるとの感を深くするものであります。同時に私は,このような国際的努力が所期の成果をあげるためには,この問題につき特別の責任を有する核保有国がその責任にふさわしい積極的な貢献を行うことが必要不可欠であることをあらためて強調したいと思います。
核拡散の防止を有効かつ永続的ならしめるためには,核保有国の努力,とりわけ包括的核実験の禁止を第一歩とする核軍縮の推進,非核兵器国の安全保障の強化のための実効的な措置の実現に向って具体的成果を生み出すための努力が必要であることは,すでにくり返し指摘されている点であります。
また原子力の平和利用のための国際協力を推進すべきことは当然でありますが,核の一層の拡散を招来する危険を防止するために,核兵器不拡散条約体制を強化すると同時に,その体制外にある国に対しても厳格な保障措置を適用する必要があります。この場合においても,この分野における援助供与国,とりわけその中核をなす核保有国の慎重な配慮と協力が必要であることは申すまでもないとろであります。
私は,世界の平和と安全を確保する上で核拡散防止問題が有する特別の重要性及び緊急性にかんがみ,国際連合自身においても特に安全保障理事会が中心となってこの問題に真剣に取り組む必要があると考えます。かかる観点から私は,安全保障理事会が核兵器不拡散条約再検討会議における討議の成果をふまえつつ,これをより実効性あらしめるために国際連合としていかなる措置を取り得るかを検討することを総会が要請するよう提案いたしたいと思います。
私は,以上に述べた核保有国の特別の責任との関連で,去る7月初めの米ソの合意,とりわけ地下核実験の部分的禁止についての合意を,全面核軍縮にむけての一歩として評価するものではありますが,今回の合意は,われわれにとって十分に満足できるものではなく,なお一層の努力が待たれるものであることを述べておきたいと思います。
わが国は,本年の軍縮委員会に化学兵器禁止のための条約案を提出いたしましたが,私は,去る7月に米ソ間で,この問題につき共同のイニシアティヴがとられることが合意されたことを歓迎するとともに私は,このことが1つの突破口となって,この問題の解決を容易にすることを希望いたします。
議長
次に私は,平和と繁栄を志向する世界にとって懸念される第2の問題として,資源問題をはじめとする世界経済社会の動揺に言及したいと存じますが,資源問題そのものについては,既に,先般の第6回特別総会においてわが国の立場を明らかにしておりますので,今回は,それとの関連において国連の役割を中心に所見を申しのべてみたいと存じます。
現下の世界においては,われわれ人類の生存の基本的要件である,エネルギー,天然資源,食糧,人口,海洋,環境等々の世界経済の諸分野で,今日緊急に解決すべき諸問題が山積しております。こうした問題の多くは,世界的な規模において,総合的及び有機的な方法によって解決されるものと考えられます。その意味で最も普遍的かつ総合的な国際機関である国連の役割に対する各国の期待は高まっていると思われます。既に本年春には,「資源と開発」に関する第6回国連特別総会が開かれ,また本年8月にはブカレストで世界人口会議が開催されましたが,さらに本年11月には世界食糧会議が予定されています。また,海洋に新しい国際法秩序を打ち立てるべく,第3次国連海洋法会議が開催されたこともかかる国連の役割を示す一例といえましょう。
ただこのような問題に対して国連が有効に対処してゆくためには,まず各種の国連ファミリーの努力を総合し,調整し,かつ企画する機能が十分に発揮されなければならぬことは申すまでもありません。しかるに,現在の国連の経済社会分野での諸活動を見ますと,各機関間の活動の調整が不十分なため,国連の活動全体としては多くの重複があり,またプロジェクトの設定,基金,機構の設立等にあたって十分に優先順位が考慮されず,その結果,経済社会の分野での国連活動は際限なく拡大していく傾向さえ見られます。こうした事態を放置すれば,国連が時代の要請にあった機動的な活動を行いえなくなることは明白でありましょう。従って,国連が今後とも各国の期待に応え,経済社会の分野でその責任を有効に果して行くためには,限られた資金と人材を効率的に,かつ,必要な活動に結集しうるよう,国連の枠組での経済社会活動を総合的に企画調整する能力を強化することが不可欠であると考えます。
私は経済社会理事会こそこのような企画調整のための,その中核的な場であると信じますので,私としては同理事会がブカレストの世界人口会議,ローマの世界食糧会議の成果をふまえ,いわば「21世紀の地球」,「将来の人類像」を心に描きながら国連内外の関係諸機関との調整役を果すことにつき,その具体的方策を検討するよう提案いたしたいと思います。その際の検討においては,全世界の人類が諸民族の相互依存性を認識しつつ,限られた資源並びに食糧が合理的に配分され得るよう,かつ,この地球上のすべての地域において人間の名に値する生活を営み得る状態が創られるよう人類生存の問題に,単に量的アプローチに留まらず質的な観点からも十分な光が当てられるべきであると思います。
わが国は資源に恵まれてはいませんが,高度の教育水準に達した豊富な人材,技術を擁しており,かかる特性を活用して世界経済の発展のために資金協力,技術協力に努めて参りたいと考えます。このような立場からわが国は資源特別総会の要請に応じ,現下のエネルギー危機により最も深刻な影響を受けている開発途上国の困難を軽減する一助として,商品援助,債務救済,無償援助の形で過去1年間の実績に少くとも1億ドルを上乗せした規模の援助を行いつつあり,必要に応じ一層の貢献を行うことを検討しつつあります。わが国は以上の貢献をわが国自身が現下のエネルギー危機から受けている深刻なる影響にもかかわらず行うものであることを明らかにし,この機会にわが国としては他の能力を有するすべての諸国が同様の努力を払うことを強く希望したいと思います。
この点に関しまして,私は先般の特別総会においても明らかになったごとく経済社会開発の分野において,従来の「南北問題」の考え方を基本的に考え直す必要があると信ずるものであります。すなわち,資源の有無を通して開発途上国間の格差が最近拡大する傾向が目立ち始めており,南北の区別なく能力のあるすべての国が相対的に恵まれない開発途上国に対する開発協力を強化する必要が高まっている点であります。このような傾向は従来の援助のあり方の根本的再検討を促すものであります。特定のグループのみの繁栄,特定のグループのみの困難が併存することのないよう,衡平と連帯の観点に立って相互協力を増進することこそ開発協力の根本であると思います。したがって資本,技術に恵まれた国も,また資源に恵まれた国もそれぞれの能力の特性を活かして世界経済の拡大と発展のために協力すべきであると考えます。かかる考え方に立ってこそ,過般の特別総会で合意された「新国際経済秩序」も初めて有効な意義をもつに至るものと確信いたします。
議長
これまで取りあげてきた問題が,いずれも重要であればある程避けては通れないのが国連の強化の問題であります。
問題の一つは国連が年々累積して行く財政赤字のために,その有効かつ円滑な活動が阻害されていることであり,私はこの機会にあらためて全加盟国が問題解決の糸口をつけるために具体的な行動を起すよう呼びかけるものであります。
財政基盤の強化と並んで触れておきたいのが機構面の強化であります。国連憲章は制定以来既に四半世紀以上経過し,この間国連をとりまく情勢は大きく変わってきております。そうした中にあって国連が憲章の当初予想したところと,変貌した現実との間にあって柔軟性を欠き,変転する現実に自己を調整し得ない機構に堕することがないよう,われわれは常に現実を直視して明日の発展に備えることが望ましいのであります。もとより,わが国が国連の基本理念や憲章の原則を支持する姿勢には些かの変更もないことはこれまでも繰返し明らかにしてきたところであります。この問題は本総会において再度,議題として取りあげられることになっております。私はわが国の意図するところが,創立後四半世紀を経て新しい時代に入りつつある世界に対応して,唯一の総合的,普遍的な国際機構である国連を,名実ともに世界の平和と繁栄のための機構に育て上げたいというにあることを再び強調するとともに,かかるわが国の念願を実現するために各国の理解と協力を期待する次第であります。
議長
私は,以上,国際情勢の流れが,緊張の緩和を底流としつつもなお安定した世界平和への道程は遠く,それだけに国連の果すべき役割はますます増大するとの確信の下に,2つの提案をして参りました。第1に国連が,特に安全保障理事会において,核兵器不拡散条約の再検討全体会議を踏まえた実効性確保措置を検討すること,第2に世界経済社会問題の総合的調整役としての経済社会理事会において未来の人類のあり方について探究することを総会が勧告することであります。これらの提案はいずれも大きな問題をその対象にしており,一朝一夕にしてなし遂げうるものではありませんがそれだけに国際社会の平和と正義に基づきその殿堂としての国連が真剣に立ち向うべき重要性と規模を有するものであることを確信するものであります。
(7) トロント大学名誉学位授与式における田中総理大臣スピーチ
(1974年9月25日トロントにおいて)
マクドナルド総長,工ヴアンズ学長並びに御列席の皆様
私は,3年前第6回日加閣僚委員会に出席のためトロントの地をふみ,「豊沃な土地」という名にふさわしい当地の風物に深い感銘を覚えて以来,再び当地を訪れることを切望してきました。本日この夢が果され,加えて由緒あるこのトロント大学より名誉法学博士号の栄誉を受けたことは,望外の喜びとするところであります。
工ヴアンズ学長ほか大学関係者の方々に,深甚なる謝意を表したいと思います。
私は,過去8回のカナダ訪問を通じ,北極圏から温帯に至る広大な土地,多様な人種と文化が渾然として一体をなし,調和のとれた発展を示しているカナダの歴史に大きな興味を持ってまいりました。カナダ建国以来脈々として流れる旺盛なパイオニア精神に深い共感を覚えてまいりました。今回トルドー首相ほかカナダ各界の指導者及び国民各層と親しくお話しする機会をえて,厳しい自然環境の中に生き,これを克服し,さらには人間の生活向上のために自然を利用して行く雄々しい活力がカナダを支えていることを痛感しました。
今出私はトロント大学を訪れ,この学問の府が優れたバイタリティーを持つカナダ国民に未来への道を示し,知識の糧を与える役割を果してきたことを実感いたしました。「ときのうつりかわりとともに成長する木のごとく」国民生活に根をはっている本大学は,将来とも多くの実を結び続けてゆくでありましょう。
いずれの国においても,その歴史と文化に根ざした独自性を確立し,国民にとって最良の生活を実現しようと努めるにあたり,その物的資源を利用するばかりでなく,国民の資質と知的資源を最大限に活用して行くことが必要であります。このため日加両国とも,よりよき明日の世界を築く青少年を育てるにあたって教育の果す役割を非常に重視しております。
世界第2の広さを誇り,あふれるばかりの水と資源に恵まれたカナダにおいても,また,オンタリオ州の3分の1ほどの狭い国土に,1億1,000万の人口を擁し,資源のほとんどを海外に依存する日本においても,次の世代は自己の能力を存分に開発し,可能性の地平線を広げてゆく意気に燃えております。私は,日加関係の将来をかかる気慨をもって展望しなければならないと思っているのであります。
過去10年間に日加間の貿易量が4.4億ドルから約30億ドルへと7倍にも増大したことは,日加関係のめざましい発展を示すものであります。しかしながら,国家間の関係がかかる物的側面のみに限られるものでないことはいうまでもありません。日加両国が共通の運命を確認し,将来のあるべき世界のヴイジョンを持って,その実現のために力をあわせてゆくことが必要となっているのであります。
日加両国民の最大の願望は,平和な世界を実現し,これを永続させることであります。そのためには軍事大国間の相互抑制のみでは不十分であります。大国間の緊張緩和への動きを促し,同時に世界各地に内在する紛争の芽を摘んでゆくには,国力や発展段階の異なった世界の諸国の意識的努力が必要であります。
日本もカナダも,軍事力によらないで広く政治,経済面での国際協調により,平和に貢献するため堅実な努力を続けております。かかる両国の役割は,地味なものではあるとしても,その重要性は増大するばかりであります。
日加両国は,自国の政策として核兵器保有国になることを排し,すべての核実験の停止を追求し,核軍縮を含む軍縮の促進にそれぞれ独自のイニシアティヴをとっております。さらに,両国は,人類が核の脅威にさらされることのない世界を作るため,不断の努力を行っており,また,将来にわたりこの分野での貢献を続けて行くでありましょう。私は,カナダが世界の各地において果されてきた平和維持活動の貴重な役割に対し深い敬意を払うとともに,わが国もまた,世界各地の平和の確呆に地道な貢献をしてゆきたいとの決意をもっていることをここに明らかにしたいと思います。
経済の分野では,昨年秋以来の諸事態の進展に伴い,多くの国はインフレの昂進,経済成長の大幅な落ちこみ,国際収支の悪化等多くの問題に直面しております。そのうちでも,インフレの解決は多くの国にとって最大の課題となっており,わが国においても,目下インフレ抑制に最重点をおきつつ,同時に国民の福祉の一層の向上をはかるべく諸施策を進めております。
しかしながら,今日のごとくこれらの問題が相互に密接に関連し,しかも各国間の経済交流が緊密になっている状況にあっては,これらの問題について一国のみで有効に対処できる余地は限られております。各国が国内的観点のみに立って政策を進める場合には,結果として世界経済全体に深刻な困難を招来しかねません。
われわれが現在必要としているのは,世界経済が縮小均衡の道を歩むことのないよう,各国政府間で今までにも増して緊密な協調を保つことであります。世界経済の秩序を再建し,安定と発展をもたらすために,今日ほどわれわれの英知と協力を必要としている時代はないと考えます。
世界の投げかけるこのような諸問題に対する共通の認識に立って,日加関係の幅と深みを増す方途を探究するために,私はカナダを訪れたのであります。
日加両国は,おかれた立場を異にし,経済的,歴史的,文化的背景も異なるので,個々の具体的問題に対するアプローチは,必ずしも一致していないのであります。しかし,両国国民の強固な意思とたゆまない努力をもってすれば,個々の相違を克服した新しいダイナミックな協力関係と創造的補完関係を必ず確立してゆくことができるものと信じます。ここでわれわれは,まず両国間の関係を拡充し,深化してゆく意思と努力をお互いに確認し合おうではありませんか。
そして,日加関係を,政治,経済,文化,科学技術等多岐にわたる諸分野で拡充強化し,太平洋を結ぶ新しく大きいかけ橋を構築してゆこうではありませんか。これは,日加関係の新時代の幕あけを象徴するものであります。このかけ橋は,やがて太平洋を囲み共通の利益を有する諸国にまで延長され,環太平洋国家間の新しい協力関係が形成されてゆくこととなります。その中で日加両国は,世界の安定と繁栄を支える強固な鎖の一環となりうるものと信じて疑いません。
この度の日加首脳会談においては,文化の分野で両国の一層の歩みまりをはかることが重要な話題となり,そのための具体的措置についても合意をみたのであります。このようなとき,カナダにおける日本研究の重要な拠点であり,両国間の相互理解の増進のため一層の貢献を期待しうるトロント大学を訪問できたのは,私にとり貴重な体験であります。
私は青年時代にトロント大学のごとき立派なところで教育を受ける機会にめぐまれませんでした。それだけに学問の尊さを人一倍感じて,絶えず学問と取り組んでまいりました。人生の旅路,56才にして貴大学の卒業生のひとりに加えていただき感慨新たなものがあります。
学問の道は,人類の将来にとって無限の地平線を切り拓いてゆく長い旅であり,強じんな意志と,創造性と忍耐力を要するものであります。
私は,日加両国関係の将来も,同様に強じんな意志と,創造性と忍耐力をもって切り拓いてゆくべき無限の可能性を秘めていると信じます。
この価値ある旅路にトロント大学が将来にわたり明るい光を投げかけ続けることを祈って私の挨拶を終ります。
(8) 国連総会第1委員会における軍縮問題一般に関する西堀日本代表の発言
(1974年10月25日ニュー・ヨークにおいて)
本日,私は,本委員会の主要問題の一つである軍縮問題について発言するにあたり,特に最近の緊急課題たる核不拡散の問題に重点をおいて,軍縮問題一般に対する日本代表団の基本的見解を申し述べてみたいと思います。
およそ核拡散防止の問題を検討するにあたっては,核エネルギーの持つ特質を念頭におかなければなりません。
核エネルギーの第1の特質は,その2面的性格であります。去る10月21日,本委員会において,米国代表サイミントン上院議員は,「核時代の出現以来われわれは核エネルギーの2面的性格と共存することを余儀なくされて来た。」と述べましたが,私がここで強調したいのもまさにこの点であります。即ち,核エネルギーは,充分な安全管理の下に専ら平和目的に利用されれば,人間生活の向上に偉大な貢献をなしうる希望の火となりますが,これが破壊の目的に使用されれば,今直ちに地球上の全ての生命を完全に絶滅させてしまうこともできるという,恐るべき呪いの火ともなるのであります。まず,その平和的な側面については,核エネルギーが人類の福祉増大に寄与する可能性の大きさを思えば,そのための研究,開発,利用が広く全ての国に,固有かつ平等の権利として認められるべきことには全く疑問の余地がありません。しかし,平和利用を進めることが同時に核エネルギーを破壊目的に使用する可能性を助長することになってはならないことは当然であります。次に,核エネルギーの軍事利用の側面については,全面的かつ完全な核軍縮の達成のため核兵器国が現に保有する核兵器を廃棄し,非核兵器国が将来核兵器を所有することを防止していくことが必要でありますが,その過程で,核の平和利用の可能性が犠牲になってはならないことも当然であります。つまり,核エネルギーの2面的性格の故に,その平和利用推進は軍事利用を促進してはならず,同時に,核軍縮の推進は平和利用を妨げてはならないという,二つの相互に関連した命題があるということであります。
核エネルギーの第2の特質は,核エネルギーの平和利用と軍事利用は紙一重であり,両者を截然と区別することには相当の困難があるという点であります。平和利用と軍事利用の間の垣根を強化するためには,この困難を克服しなければなりません。そのための第1の堤防は,申すまでもなく国際原子力機関による保障措置の適用であります。われわれは,核物質の供給,設備及び施設等の移転ならびに清報及び技術などの交換等を通じて,核エネルギーの平和利用増進のための国際協力を推進しなければなりませんが,結果として,核エネルギーの軍事利用を促進することとはならないよう,更に合理的で,かつ実効的な保障措置の拡充のために努力しなければなりません。第2の堤防は,平和目的核爆発の国際的管理であります。瞬時に大量のエネルギーを放出させる平和目的核爆発の特性は,軍事目的の核爆発の特性そのものでありますから,軍事目的の核爆発を規制するためには,平和目的の核爆発をも規制しなければなりません。本年の事務総長報告序文にも指摘されているように,NPT非締約国が平和目的核爆発を行っていけば世界は極めて不安定な状態におかれるでありましょう。
このように,平和利用の名のもとに核の拡散が生じる危険を阻止しつつ,しかも希望する国が将来平和目的核爆発から生じうべき利益に均霑できるようにするためには,平和目的核爆発の国際管理を実施することが必要であると考えます。
そして,このような国際管理を実現するためには,まず核の軍事利用を促進しないよう慎重に配慮しつつ,平和目的の核爆発のサーヴイスを必要とする国には容易にこれが提供されうる状態をつくり出すことが必要であると思います。
かかる観点から,私は,平和目的核爆発のサーヴイス提供につき諸側面から検討を加えるための新たな組織を国際原子力機関のなかに設けることとし,その活動を強化しようとする動きを歓迎するものであり,さらに,すでに行われた核実験を通じて得られた平和目的核爆発に関するあらゆる必要な清報は国際原子力機関を通じて全ての国に提供されるべきであると考えます。もつとも,平和目的核爆発装置の製造法その他核拡散につながる可能性のある技術情報の流通が慎重にコントロールされるべきことは言うまでもありません。かかる制度の確立は,平和目的核爆発の利用につき科学的,技術的なデータに基づく正確な判断を行うことを可能とするもので,平和目的核爆発の国際管理の一環として運用されるべきものであると信じます。
私は,以上に述べたような諸制度を整備し,平和目的核爆発の有効適切な国際管理体制を実現するためには,国際連合自身においても,国際原子力機関と密接に協力しつつ,早急にこの問題についての検討を開始する必要があると考えます。
核兵器不拡散条約は,以上に述べた堤防について相当の考慮を払った条約でありますが,この条約は,核兵器がもたらし得る恐るべき惨禍から人類を守るための一つの有力な手段ではあっても,そのための十分な手段であるとは言い難い面があります。すなわち,われわれは,同条約の当面の目標である現在以上に核兵器国を増加させないことを確保すると同時に,右の基礎に立って5大核兵器国の核軍縮を通常兵器の軍縮と相俟って強力に推進していくことが必要であります。かかる観点からしても,核兵器不拡散条約によって象徴される現在の国際協力体制を一層強化することはもとより,全面的かつ完全な核軍縮,とりわけ,後でも詳細に言及するその現実的な第一歩たる包括的核実験禁止の早期実現に向って努力することが必要であり,核兵器国による核軍縮の推進の緊要性はいくら強調しても強調しすぎることはないと思います。また,非核兵器国に対して核兵器の保有を認めないこととするからには,それによって非核兵器国が自国の安全保障に懸念を抱かないで済むよう十分配慮すべきこともまた当然であります。最近いくつかの地域においてこの問題を解決するための手段が検討されつつあるようであり,また,核拡散防止の観点から,私は非核地帯構想について理解をもつものであります。しかしながら,非核地帯を設置するにあたっては,各地域の特殊条件特に関係地域国の意向の尊重はもとより,世界全体の平和と安全におよぼす影響を十分に考慮に入れつつ,その実効性という観点もあわせて検討しなければならないと考えております。同時に私は,この問題につき実効性のある措置を実現するためには,核兵器国の積極的な協力が必要,不可欠であることを特に強調したいと思います。
さらに,私は,原子力の平和利用の分野における核兵器国の責任についても一層の認識が必要と考えており,核兵器国が行う平和目的核爆発であっても国際管理に服すること,ならびにすべての核兵器国が平和目的核物質の軍事目的不転用について約束を行い,その履行を検証するために国際原子力機関による保障措置を受諾することが必要であると考えます。
特に,非核兵器国のなかには,平和目的を立証するため国際原子力機関による全面的な保障措置を受けいれるには,全ての核兵器国による同様な保障措置の受けいれを条件として主張している国もあり,その主張の当否は別にしても,核エネルギーの平和利用を確保するための保障措置制度の強化拡充のために核兵器国が果たすべき責任は極めて大きいと言わざるを得ません。
以上私は,核実験国の増大という最近の事態の変化に照らして,核拡散防止のために国際的努力が結集されるべきことを指摘しましたが,去る9月24日の総会本会議において木村外務大臣が核拡散防止問題について,世界の平和と安全を確保するうえで核拡散防止問題が有する特別の重要性及び緊急性にかんがみ,国際連合自身においても,この問題に真剣に取り組む必要があると述べたことを想起いたします。
国際的な努力の結果によってこれらの問題につき実質的な進展がみられれば,核の拡散は一層有効に防止されるものと信じます。
私は,この機会にわが国も,目下核兵器不拡散条約の批准に備えて,国際原子力機関との間の保障措置協定締結交渉を進めるべく所要の準備を行っていることを申し述べておきたいと思います。
次に,私は,先にも述べた通り核不拡散の問題とも緊密な関連のある核軍縮,なかんづく包括的核実験禁止の問題に言及したいと思います。あらためて申すまでもなく,わが国は,核軍縮,なかんづくその重要な第一歩としての包括的核実験禁止の早期実現をあらゆる機会に主張してまいりました。わが国のかかる立場は,現在においてもなお些かの変わりもありません。しかしながら,この問題の解決にあたっては,検証問題をめぐる意見の相違を克服する必要があることも事実であります。
かかる観点から,わが代表団は,次善の策として,スレッシュホールド方式により可能なところから一歩一歩前進するという方法を主張して来た次第であります。
以上のような考え方から,去る7月3日発表された米ソ間の地下核実験制限条約については,私は,特に米ソ両国がそのなかで,今回の合意の実施を確保するために実験用地を特定し,それらの用地に関する各種情報の交換につき合意したこと,並びに7月16日の軍縮委員会で米国代表から説明のあったように,オヴザーヴアのプレゼンス等を含め平和目的核爆発が核兵器のための実験でないことを検証する必要性につき原則的にすでに了解に達したことに注目したい,と思います。右の情報交換は,地震的事象の地震学的探知を容易にするという効果があり,将来150キロ・トンのスレッシュホールドをより引き下げることを可能にするものであり,オブザーヴア派遣は,この問題にかぎらず軍縮問題一般の解決の鍵たる検証問題の解決に希望を与えるものであることを指摘したいと思います。
私は,核保有国なかんづく米ソ両国が,今回合意されたスレッシュホールドのより一層の引き下げを行うと同時に,現在の二国間協定を多数国にも効果あらしめるよう努力し,以て包括的核実験禁止の早期実現をはかることを切望してやみません。
また,これと同時に,いまだに部分核禁条約に加盟せず本年も大気圏内核実験を行った一部の諸国に対しては,かかる実験を繰りかえさず,速やかに同条約に加盟するよう強く訴えたいと思います。
核拡散防止,包括的核実験禁止の問題とともにその重要性において勝るとも劣らぬ問題に化学兵器禁止の問題があることは,あらためて指摘するまでもありません。この問題については,わが国は去る4月30日ジュネーヴ軍縮委員会に,包括的禁止を最終目標としつつ,検証技術との関係で現段階から禁止可能な化学剤から禁止してゆくとの段階的アプロ-チを主旨とする化学兵器禁止条約案を提出しました。この条約案は,幸い多くの国によって歓迎され,その後7月に開催された同委員会の非公式専門家会議でも討議されましたが,その結果,同条約案は,軍縮委員会においては少なくとも,今後の交渉の基礎になるものと見られております。化学兵器禁止問題は,18カ国軍縮委員会の当時より討議されて来ている問題であり,わが国の条約案によって交渉の基礎ができた以上,軍縮委員会は速やかに具体的交渉に入るべきでありましょう。私は,この機会に,同条約案を今後より完全なものとするよう努力したいとするわが国の熱意を披瀝すると同時に,この問題についても主要な責任を有する米ソ両国が,右に述べた具体的交渉の開始のため,去る7月3日の両国首脳共同コミュニケにある合意に基づいて,できるだけ速やかに共同イニシアティヴをとることを期待するものであります。
最後に,私は,本年夏の軍縮委員会で明年1月1日からの同委員会参加を招請されたドイツ,東独,イラン,ペルー及びザイールの5カ国を,同委員会の加盟国の一員として歓迎したいと思います。この時期における同5カ国の委員会参加は,以上に述べた主要な軍縮問題についての交渉をより一層実りあるものにするでありましょう。
なお,これとの関連で,私は,軍縮交渉の実質的な進展をはかるためにはすべての軍事的主要国,特にすべての核保有国が軍縮委員会に参加することが肝要であることを指摘しないわけにはいきません。われわれが当面の急務である核不拡散及び核軍縮の問題について交渉を進めてゆく際に,すべての核兵器国がそこに参加していないということはいかにも不自然であるということのほか,交渉の成果の実効性が減殺されるおそれがあるという欠点があるからであります。私は,かかる意味で,すべての核兵器国が1日も早く軍縮委員会に参加することを希望してやみません。
以上をもって私の本委員会における一般的な発言を終りますが,本委員会の軍縮問題についての討議がわれわれにとって有益な指針を与えるものとなることを心から希望いたします。
(1974年11月6日ローマにおいて)
議長,代表各位並びに御列席の皆様
まず,私は,日本政府を代表して閣下の議長選出に心からのお祝いを申し上げるとともに,今次食糧会議が閣下のすぐれた指導力の下に実り多き成果をあげることを期待します。わが代表団は閣下が,この重大な責任を遂行されるために協力を惜しまない所存であります。
また,イタリア共和国政府が,本会議を当地に招請され,かくも盛大に本会議が開催されるようとりはからわれたことに感謝の意を表するものであります。さらに,事務局長マレー殿及び事務局の方々並びに関係諸機関の方々が,本会議の準備のために払われた努力に対して深い敬意を表するものであります。
議長
申すまでもなく,食糧はすべての人にとっての生存の基礎であり,その安定的な供給はすべての国の平和と繁栄のための基本的条件であります。
広く知られているとおり,1972年以来の世界の食糧事情は深刻な状況にあり,この事態を改善するなんらかの方策がすみやかに講じられない限り,将来の見通しは楽観を許さないものがあります。特に,開発途上地域においては,1985年には食糧不足量が相当な量に達する可能性が示唆されております。
このような状況の下において,世界食糧問題を解決するためにまず必要なことは,いかにして長期的に世界食糧生産の増大を図っていくかということであり,今一つは天候不順等による一時的な食糧不足にいかに対処していくかということであると考えます。
第1は,世界食糧生産の増大の問題であります。食糧生産の水準を高めるためには,それぞれの国がみずからの置かれている社会的経済的条件をふまえつつ,その生産能力をできる限り発揮していくことが必要であります。すなわち,先進国における適切な生産政策の運用とあわせて,生産の増強の緊要度の高い開発途上国において,人口問題にも十分配慮を払いつつ,食糧増産の措置をすみやかに講ずることであります。開発途上国におけるこのような措置は,それぞれの国の経済発展の基礎となるばかりでなく,とくに栄養不良の解消のための努力とあいまって民生安定の基本でもあります。さらに,このような開発途上国における増産努力は,世界の食糧需給の安定に寄与し,世界全体にとって好ましいことであると考えます。
開発途上国の食糧増産につきましては,私は,これまでにとられてきた努力を高く評価するものであります。しかしながら,開発途上国における農業生産増大の大きな期待をになったいわゆる「緑の革命」のその後の進展ぶり等にてらして考えてみますとき,今後の開発途上国における食糧生産の持続的拡大を図っていくためには総合的な対策の推進が必要なことを示唆しております。すなわち,土地及び水資源の開発,農業研究及び普及の拡充,肥料等の農業資材の十分な投入等に加えて,これらの資金的裏付けや,小規模生産農民を含むすべての生産者の社会的条件の改善のため社会開発を含む総合的な措置が十分,かつ,組織的に講じられることが必要でありましょう。
私は,従来世界的な食糧需給が比較的ゆるやかな時期があったこともあり,開発途上国における開発計画の中で,工業開発を優先し,農業が必ずしも正当な配慮を受けていなかったということについて,この際改めて考え直してみる必要があると考えます。これに関連して,今年ESCAPに農業開発委員会が設置されアジアの開発計画において農業を重視していく体制がとられたことを高く評価するものであります。
私は,開発途上国の農業開発について,まず第一義的には,開発途上国自体の自助努力が基本であると考えます。このような努力とあわせて,援助能力を有する国による技術的,資金的な援助の拡大が必要でありましょう。「自助努力と協力」がうまく結びあってこそ,真の開発と繁栄が達成できるものと信じます。
わが国といたしましては,このような開発途上国の努力に対して,できる限りの協力を惜しまない所存であります。わが国は,今後とも農業開発についての資金的な協力の強化に努めてまいることはもちろんでございますが,とくに小農経営の改善,稲作を中心とした灌既技術,農業研究等の面において長い歴史と豊富な経験を有するとともに,肥料生産技術につきましても永年の経験を有しており,これらの面での十分な技術的協力を行うことができると考えております。
さらに,わが国は,農業及び農村の総合的な開発を進めるべくFAOと共同して「アジア総合農村開発センター」の構想を進めているものであります。
なお,現在緊急を要する肥料の供給確保の問題につきましては,わが国自体の生産能力にも限界がある等,困難な状況にありますが,東南アジア等の伝統的な輸出先国に対してできる限りの配慮をするよう努めてまいる所存であります。
さらに,FAOにおいて設置をみました国際肥料供給スキームに対し,わが国はこれを積極的に支持するとともに,わが国としては国連緊急援助事業の一環として,肥料プール等本件スキームに対しましては具体的な寄与を行う用意があります。
議長,第2に,食糧増産のための対策とあわせまして,天候不順等によって一時的,世界的にあるいは一部の地域において起るかもしれない不足事態に対してそなえておく必要があります。いわゆる食糧安全保障の諸方策であります。
食糧の安全保障はまず,全世界における食糧農産物の生産,需要,在庫,輸出及び輸入等の状況について,各国が常時その実情を把握しており,これにより迅速かつ適切な政策の運用がなされる体制を作ることが必要であります。
適切な情報は,世界食糧安全保障の羅針盤であり、「情報なくして食糧安全保障なし」とさえいえるでしよう。
わが国は,このような観点から,世界食糧情報システムを確立することを提唱いたします。私は,このシステムにすべての国が参加されることを強く望みます。人類の生存にとってヴアイタルな重要性をもつ食糧の安全保障を確保するための第一歩として,相互の信頼に基づき,すべての国の協力を得て,このシステムが早急に設けられ,その活動を開始することを望むものであります。わが国は,とくにこのシステムを早急に実施に移すために必要な資金の相当部分を負担する用意があります。
次に,食糧安全保障に重要なかかわりあいのあるのは,在庫の問題であります。現在の世界の穀物在庫は,食糧安全保障の観点からすれば,きわめて低い水準にあり,これを増大することが必要であります。私は,この分野での国際協力は,非常に有益なものと考えております。このような観点から,昨年来FAOで検討が進められている在庫に関する提案-世界食糧安全保障に関する国際的約束-を高く評価するものであり,わが国としてもこれを支持しているところであり,これをまず実施に移していくための方策を検討することが目下の現実的なアプローチではないかと考えております。
この提案を一段と強化した形での備蓄に関する国際的な取極の提案につきましては,その内容,方法等につき十分な検討が必要であり,これが農産物貿易と深い関連を有していることを考慮し,もしその具体化のための交渉を行うとすれば,適切な国際的な場でとり進められるべきであると考えております。
食糧安全保障のもう一つの側面は,食糧援助の問題であります。食糧援助につきましては,被援助国における食糧増産を実現することがその問題の根本的解決策であると考え,その必要性のなくなる日の早く来ることを望むものであります。しかしながら,わが国としても,開発途上国の当面の深刻な食糧不足の事態は十分認識しており,これに対する食糧援助については,今後とも応分の協力を行う用意があります。またわが国は,国連緊急事業の一環として人道的緊急食糧援助のため,国連事務総長の特別勘定に対し具体的な寄与を行う用意があります。
さらに,食糧の安全保障と関連して,貿易の問題に触れておきたいと思います。今後とも食糧貿易につきましては,その安定的拡大を図っていくことが重要でありますが,この関連でわが国は開発途上国を含む他の多くの輸入国と同様輸出規制をなくしていくことに大きな関心を有しております。供給の安定化によって輸入国が安定的に輸入を行えるようになり,輸出国もその生産の安定的拡大が図れるようにする必要があると考えます。しかしながらわが国は,食糧農産物貿易に関する事項は各国間での具体的交渉が必要な事項であると考えており,ガットの場を通じて交渉を進めていくのが現実的でありましょう。
さて,以上この会議において重要と考えられる問題につきわが国の立場を申し述べましたが,私は,この会議におきまして,私が今まで申し述べたことを含め,多くの重要な決定がなされることと考えます。そしてこのような諸決定が真に実効あるもの として今後実現されていくためには,有効なフォローアップの措置が必要であることはいうまでもありません。私は,この会議を通じ,最も効果的なフォローアップ措置につき広くコンセンサスが得られることを強く望むとともに,コンセンサスが得られたときは,わが国としてもこれに積極的に参画し,十分の協力をなす所存であります。
議長
最後に,私は,今回の会議の成否が,人類全体のために,また、すべての国の将来にとってきわめて重要な意味をもつものであることを強調し,真剣かつ建設的な討議を通じ,この会議が実り多き成果を生むことを強く希望する次第であります。
ありがとうございました。
(10) 第9回東南アジア開発閣僚会議における木村外務大臣演説
(1974年11月14日マニラにおいて)
議長,代表各位,御列常の皆様
私は最初に閣下が第9回東南アジア開発閣僚会議議長に全会一致で選任されましたことを,心からお祝い申し上げます。また開会に当りマルコス閣下の御出席を得て現在われわれの直面する諸問題をめぐるフィリピン政府のお考えについて,感銘深いお話をうかがえたことについて,心からの謝意を表明したいと思います。それとともに,私は今次会議開催準備のために,フィリピン共和国政府が払われた御努力並びにわれわれ参加国代表団のために示されたあたたかい接遇に対し,深い感謝の意を表明いたしたいと存じます。また,この機会に参加各国の有力な指導者の方々にお会いできたことは私の最も欣快とするところであります。
昨年10月,東南アジア開発閣僚会議が第8回会議を再び東京で開催してから丁度1年を経過しましたが,この1年間は世界の経済にとり激動の日々でありました。
エネルギー危機,食糧の需給の遍迫と価格の高騰,インフレーション,国際収支の悪化,景気の低迷,これらの現象は,先進国,開発途上国の区別なく多くの国に大きな影響を与え,なかんずく,開発途上国の開発にとっては種々の障害をもたらしています。しかし,この1年間に見られた困難は,同時に,今日の世界がいかに狭く,相互依存の関係がいかに深くなっているかをわれわれに改めて想起させるものでありました。今日の世界経済の直面している問題は個別の国がそれ自身の問題として解決し得るものではなく,国際協調と協力の中にその解決を見出して行かなければならない性質のものであります。
東南アジアの平和と繁栄とわが国の平和と繁栄とは互いに切り離し得ない密接な関係を有しております。わが国は,この地域の諸国のそれぞれの自主性を尊重するとともに,これらの諸国との相互理解を一層増進し,もってこれら諸国との間における平和と繁栄を分ち合う良き隣人関係の促進強化に努めることを外交の基本方針としております。また,この地域の平和と繁栄の基礎となる福祉と開発のために出来得る限り最大限の協力を行って行くことはわが国の大きな外交的使命の一つであります。
わが国は,地域的連帯および協力の精神がこの地域全体の平和と繁栄の達成に貢献するものであると確信しております。かかる観点から,わが国は,東南アジア地域においてはASEANが地域の平和と安定の確保のために果している自主的努力を高く評価するものであります。
田中総理が,本年1月及び10月より11月にかけてこの地域の諸国のいくつかを訪問いたしましたのもまさにこのようなわが国の外交の基本方針に基づくものでありました。ここに,これら諸国が,田中総理一行に示された歓迎に対し,わが国の心からの謝意を申し伝えたいと存じます。
東南アジア開発閣僚会議は,今や,これら諸国間の共通の資産となり,この地域における協力を推進するにおいて重要な役割を果すにいたっております。
先ず第1に,開発閣僚会議は,地域の開発問題につき閣僚レベルで卒直な意見交換を行う場を提供して来ております。わが国は開発閣僚会議のかかる機能に大きな評価を与えており,今後とも開発閣僚会議がかかる機能を維持,発展させて行くことを期待しております。
昨年の第8回開発閣僚会議より,地域の開発に対し援助国としての立場から寄与するとの意向をもって豪州及びニュー・ジーランドが参加されました。このことは,開発閣僚会議にとって大きな意義があるばかりでなく,地域の開発における両国の役割が期待されます。開発閣僚会議の参加国は東南アジアの安定と繁栄に共通の関心を有するばかりでなく,世界の平和と繁栄にかかわる諸問題についてもお互いの意見を交換するに適した友好国であります。かかる構成の参加国間で,地域の重要な関心事である開発問題につき,定期的に閣僚レベルで対話と意思の疎通をはかることは,地域の連帯感を強化し,協力を促進し,地域の安定と繁栄に貢献するところ大なるものであると確信しております。また,かかる友好国の閣僚が一堂に会することは,単に厳格な意味での開発問題にとどまらず,参加諸国の共通の関心事についての対話と意思の疎通を通じてこれら諸国間の友好関係の緊密の度を深める機会を提供するものでもあります。
第2に,開発閣僚会議は,地域の開発を促進するために有効な地域協力事業を企画し,実施する母胎として役割を果して来ており,この役割は今後とも開発閣僚会議に期待されるものであります。
わが国としましては,新たな地域協力事業を開始するに際し考慮すべき一連のガイド・ラインの一つとして次のことを考えております。
すなわち,地域協力事業としての実質を備えるためには開発閣僚会議の参加国のすべて,あるいは,少なくとも大多数の国がその地域協力事業に参加し,活発な協力と積極的な支援がこれに与えられる見込みがなければならないということであります。これとの関連で,東南アジア医療保健機構設立の問題に触れておきたいと思います。この地域協力事業は日本が設立を提唱し,設立準備に必要と考えられるイニシアティブを執って来ました。同機構設立の問題は数度にわたり開発閣僚会議の場でも検討され,かかる地域協力の有用性については意見の一致が見られたものであります。開発閣僚会議参加国の意向が東南アジア医療保健機構を地域協力としての実質を備えた事業として設立しようというものであれば,わが国はこれまで表明してきた積極的な協力と支援をこの機構に与える用意がありますが,この機構の設立を推進すべきか否かは開発閣僚会議参加国全体の意向にかかつていることを申して置きたいと思います。
地域協力事業に触れた機会に,東南アジア農業開発専門家会合について述べて置きたいと思います。本年10月1日より3日まで東京において開催されましたこの専門家会合の詳細につきましては,別途報告がなされることとなっておりますが,この会合におきましては,東南アジアの農業開発にかかわる問題点及びその解決策につき専門知識に基づく活発な意見交換が行われました。その結果,専門家会合はかかる意見交換が極めて有意義なことを認め,開発閣僚会議が望むところに従い今後とも専門家会合が開催されるべきであるとの勧告を行っております。最近の食糧問題はもとより,地域の経済及び社会にとっての農業の重要性に鑑み,農業開発の分野は,開発閣僚会議及びその下における地域協力においてこれまで以上に力が入れられて行くべき分野であると考えます。
さて,今回の開発閣僚会議の議題には,「開発閣僚会議の役割と範囲のレヴュー」があり,同議題の下で,今後の開発閣僚会議の機能についての具体的討議が行われることとなっておりますが,わが国としましては,開発閣僚会議の機能として地域の連帯感の強化に資するとの観点から評価できる提案には積極的に対処して行きたいと考えております。
わが国の経済協力の実績を見ますと,1973年においては飛躍的な拡充が見られました。すなわち,開発途上地域に対する資金の流れ総量で見る時,58.4億ドル強となり,これはGNP比で1.42パーセントに当たります。わが国が,第5回開発閣僚会議において,1975年までにGNP比1パーセント目標を達成するための努力を行う旨表明しましたことを御記憶かと思いますが,これを大幅に上回るものであります。また,このうち,政府開発援助をとって見ますと対前年比65.4パーセント増加し,10億ドル余となりました。2国間政府開発援助に占める東南アジア地域の割合は53.8パーセントで,わが国援助の地域的配分が開発途上国全般に拡大されつつある傾向の中にあって東南アジア地域は依然として極めて大きな重点が置かれている地域であります。政府開発援助の援助条件におきましても,贈与の増大及び借款条件の緩和の両面より,前年に比し大きな改善が見られております。また,アンタイイングにつきましては,国際機関拠出がすべてアンタイされておりますほか,一部のアジア諸国に対しては2国間政府借款はアンタイ化されました。経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)において本年6月開発途上国アンタイの了解覚書が採択されました際にはわが国はこれに参加し,明年1月1日より2国間政府借款を原則として開発途上国アンタイで供与することとしております。
最近の情勢により最も影響を受けた開発途上国に対する国連の緊急援助については,わが国は,これら諸国に対する過去1年間の援助実績に加えて1億ドル以上の援助を供与することを表明し,これを実施しつつあります。
経済開発における国際機関の役割は重要でありますが,開発閣僚会議の発足とほとんど時を同じくして設立されたアジア開発銀行が着実な成長を遂げ,地域の開発にとり大きな成果をもたらす活動を行っていることは真に喜ばしい限りであります。同銀行が緩和された条件の開発融資をこれまで以上に供与できるようにするため設立されました「アジア開発基金」は6月下旬に発足しましたが,わが国はこの当初3年間の所要資金のうちその3分の1強に当たる1億7,700万ドルを負担することとしております。
わが国のこれまでの経済協力の実績はこのように拡充されてきましたが,他方,日本はエネルギー問題において先進国の中で最も大きな影響を受けた国の一つであり,その直面する困難には大きなものがありますが,政府開発援助の拡充を中心として,開発途上国の開発努力に対する協力を能う限り進めて行きたいと考えております。
開発途上国の開発努力に対するわが国の協力を一層効果的なものとし,また,多様化しようとする努力の一つとして,本年8月の国際協力事業団の発足があります。これは,従来政府間ベースの技術協力を実施してきた海外技術協力事業団(OTCA)等の機関を統合し,これら事業団からの業務を引継ぐほか,開発途上地域等の社会の開発並びに農林業及び鉱工業の開発に協力するための新規の業務を加えて設立されましたもので,開発途上地域等の経済社会の発展に寄与し,国際協力の促進に資することを目的としております。同事業団の設立により,技術協力は今後ともわが国が開発途上国の開発に協力すべき重要な分野の一つとして強化されることとなるのみならず,新規の業務として,開発途上国等において,技術の開発・改良を伴う試験的事業を行う場合,又は開発事業の関連施設であって周辺の住民の福祉に役立つものをつくる場合に資金を供給することにより,政府ベース協力と民間ベースとの連携,あるいは資金協力と技術協力との結びつきを強化し,もってわが国の経済協力が受入国の経済社会開発に真に寄与するものとなり,東南アジア諸国の国造りの努力に一層の貢献ができるものと期待されます。
私は,また,2年前に設立された国際交流基金が日本と世界各国との文化交流に努めていることにも付言したいと思います。わが国としましては,東南アジア諸国を重要な対象とし,日本文化の紹介のみならず,相手国文化の日本における紹介,文化面での協力に努力しており,今後ともかかる活動を強化拡充する所存であります。
次に,開発途上国が自立的経済発展を遂げていくために必要不可欠である貿易についてわが国の政策の一端を述べたいと思います。
わが国は,とくに東南アジアその他の開発途上諸国との貿易拡大の必要を重視しております。この観点から,わが国は開発途上諸国に対する一般特恵関税制度を実施しており,今後さらにこの制度の一層の改善に努める方針であります。また,本閣僚会議の地域協力事業として,1972年,東京に設置された東南アジア貿易・投資・観光促進センターが,輸出産品の開拓,各種協力事業等を通じ,東南アジア諸国からの対日輸出促進のため努力を行っていることを評価するものであります。
さて,我々は7年振りに開発閣僚会議のためマニラに参集しております。7年前にケソン市のS・S・Sビルにて第2回開発閣僚会議が開催されました際には,開発閣僚会議の機能も未だ定着したものではありませんでした。今や,開発閣僚会議は地域諸国間の連帯と協力の強化のための対話と協議の場として定着しております。今後開発閣僚会議の機能がさらに強化され,東南アジアの福祉と開発に貢献する役割をますます発展させて行くことを衷心より期待するものであります。
御静聴を感謝いたします。
(11) 第31回ESCAP総会における木村日本政府首席代表演説
(75年2月27日 ニュー・デリー)
1. |
議長,代表各位,御列席の皆様 私は,まず,日本代表団を代表して今次総会の議長に対して敬意を表するとともに,今次総会を招請されたインド政府及び国民に対し心から感謝の意を表したいと思います。私は偉大なる文化と伝統とを有するインドが,アーメッド大統領及びガンジー首相の英遭なる指導の下に,より良き発展を目指して真摯な努力を続けておられることに感銘をうけており,その努力が1日も早く結実して大きな成果をあげられることを,心から期待しております。 |
2. | 議長 |
(1) | 本年は「第2次国連開発の10年」の中間年に当りますが,世界経済は開発途上国,先進国を問わず未曽有の試練の年を迎えております。一昨年秋以降のエネルギー危機,世界的インフレーション,食糧問題,益々重大化する人口問題等人類の存在そのものをおびやかすような重要な諸問題が,相次いで我々の前に立ちはだかってまいりました。国連は,これに対処するため,第6回国連特別総会,世界人口会議,世界食糧会議等の会議を開催し,世界各国が各々の利害と立場の相違を超えて一堂につどい,我々人類が直面している諸困難の解決への方途につき討議を行ったことは,誠に勇気づけられることでありました。 我々は,これらの一連の会議を通じて,今日の深刻な世界経済の危機を乗りきり,我々人類が共に生きのびるためには,もはや一国単位の努力では如何ともしがたく,全地球的協力が不可欠であるとの認識を新たにしました。 |
(2) | 議長 今次総会に提出された「経済・社会概観」が指摘するとおり,アジアの各国は,今日の世界的な経済危機をもたらしている諸問題の何れからも,直接的・間接的に大きく影響を受けております。このような影響の続くかぎり,「第2次国連開発の10年」の目標達成はおろか,アジアの各国がこれまで営々として築きあげてきた開発の成果は水泡に帰す恐れすらあります。したがって,私は今次総会においては,われわれアジアの諸国が直面している諸困難の実情を十分に把握し,お互いに知恵を出し合ってその解決のために国際協力による現実的な解決策を真剣に検討すべきであると信じます。 |
(3) | 議長 次に,このような立場から,私はアジア諸国の経済開発の現状をふりかえり,アジアの経済的諸困難解決のための国際協力の在り方について,所信を述べたいと思います。「経済・社会概観」も指摘しているように,「第2次国連開発の10年」の中間点において,アジア地域では一部の国のみが「第2次国連開発の10年」の目標成長率6%を達成したにとどまり,その他の多くの国は自然災害,物価の高騰等による経済の悪化に悩んでおり,特に注目すべきことは,アジア諸国間の成長率の格差が拡大しつつあることでありましょう。部門別にみても,極めて残念なことに,多くのアジア諸国にとって最も大きな比重を占める農業生産は,1970年代前半には期待通りの前進を示さず,アジアの殆んどすべての国が,「第2次国連開発の10年」の農業生産の目標成長率である4%を達成しえなかったのが実情であります。このような農業生産の停滞に加えて,アジアの人工は年率2%以上の割合で膨脹しており,この農業生産と人口増加のアンバランスが続けば,アジア諸国はより深刻な食料危機に直面することになりましょう。 |
(4) | 私は,このようなアジア経済の現状を見るとき,アジアにおいては「経済・社会概観」が勧告している如く,短期的には経済危機により最も深刻な影響を受けている諸国(MSAC)に対する緊急援助の促進が不可欠であり,長期的にはアジアの経済社会開発のキー・ファクターともいうべき農業生産と人口増加のアンバランスを抜本的に改善する努力を行うことが最も肝要であると信じております。 |
(5) | 議長 このような前提に立って,私は第1の短期的問題であるMSAC緊急援助に対する所信を述べたいと思います。私は昨年秋の第29回国連総会一般討論演説においても述べましたが,資源の有無による開発途上国間の発展の格差が拡大しつつある現実をみるとき,従来のいわゆる「南北問題」という問題の把え方を根本的に変えていく必要があると考えております。現下の情勢では,南北の区別なく,能力のあるすべての国が相たずさえ相対的に恵まれない開発途上国に対する開発協力を強化する必要が高まっています。わが国も他の多くのアジア諸国と同様現下の経済危機から深刻な影響を受け,最近の実質成長率もマイナスになっておりますが,国際的連帯意識に立って,国連緊急事業に協力し,過去1年間の実績に少なくとも1億ドルを上乗せした規模の援助を行うこととしております。このような協力態度に基づき,わが国はアジアのMSACに重点をおいて2国間援助を行いつつあり,また国連事務総長の特別勘定に対し1975会計年度に650万ドルの拠出を行う予定であります。右拠出は人造的緊急食糧援助と新設されたFAOの肥料プールに使用されるもので,これらのわが国の拠出の相当部分がアジア諸国の緊急のニーズを満たすために使用されるものと期待しております。この機会に,私は,他の能力を有するすべての諸国がMSACへの協力を促進することを強く要望したいと思います。 |
(6) | 第2に,私は,上述の長期的問題である農業生産と人口の問題に触れたいと思います。私は,この肥沃な土地と太陽に恵まれたアジアの諸国が食糧不足に悩むかぎり健全なる経済社会開発は望み得す,この意味から,アジア全体にとって,農業の振興をはかることにより民生の安定と生活水準の向上をもたらし,健全なる工業化への基礎を固めることが最も重要であると確信しております。経済開発にはショート・カットと飛躍は望み得す,我々アジアの諸国は一歩一歩地道な努力を通じて農業の近代化を進め,治水,灌漑施設等の農業インフラストラクチャーを拡充し,農業多角化を推進することこそが均衡のとれた経済社会発展への道を開くものでありましょう。 このような見地から,わが国はアジア諸国の農業開発に対し技術援助等を通じて積極的に協力してまいりました。ESCAPにおいては,第29回東京総会においてアジアにおける農業開発の重要性を指摘し,農業開発委員会の設置を訴えましたが,昨年の第30回コロンボ総会においてその設立が決定され,同委員会の第1回会合が本年中に開催される運びとなったことは誠に喜ばしいことであり,同委員会が実り多き成果をもたらすことを期待しております。また,わが国は,ESCAP農業開発部門強化のため農業専門家派遣経費として,1974年度に11万ドルの拠出を行いましたが,1975年も引き続き15万ドルの拠出を行う予定であります。さらにわが国は,目下フィリピンに設立が予定されているアジア農業機械センターには,すでに資金協力を行う用意があることを明らかにしております。わが国は,同センターがアジアの農業生産を高め,農業関連産業の育成を通じて工業化にも資するものと確信しており,ESCAP事務局がUNDPを中心とする関連国際機関との協力のもとに,一日も早く同センターの活動を開始することを強く要請いたします。また,わが国は昨年11月の世界食糧会議においては,食糧需給の安定化を目的とした食糧情報システムの設立を提唱し,本年度には15万ドルの拠出を行う予定でありますが,この情報システムの拡充は,必ずやアジアの食料需給の安定化にも寄与するものと期待しております。 以上のとおり,わが国はアジアの農業の開発のためには出来るかぎりの協力を惜しまない所存でありますが,今後アジア各国の努力により農業生産がある程度の成長をとげえたとしてもアジアの人口が現状の増加率で増大すれば,農業開発の成果は人口増加により相殺され,アジアにおける農業生産と人口増加とのアンバランスは改善しえないでありましょう。 わが国は世界の全人口の55%の人口を擁するESCAP地域の人口問題の重要性を十分に認識しており,1972年には第2回アジア人口会議を東京に招致しましたが,この会議でアジアの人口政策のガイドラインとして「開発のための人口戦略宣言」が採択されました。また,わが国は昨年8月ブカレストで開催された世界人口会議にも他のアジアの諸国とともに積極的に参加いたしました。私はこれらの重要な会議を単に会議としてだけで終らせることなく,アジアの国がその成果を人口問題解決への指針とされることを望んでおり,そのためESCAP事務局がこれら会議のフォロー・アップを十分行うことを要望したいと思います。 |
3. | 議長 私は,次に過去1年間におけるESCAPの諸活動をふりかえり,今後のESCAP活動をアジア諸国の現実のニーズにより合致したものとするために,次の3つの提言を行いたいと思います。 |
(1) | 第1に,かってのECAFEは今やESCAPと名称を変更し,名実ともに新しく進展するアジア諸国の要請に応え,マラミス事務局長の指導のもとに「ニュー・ルック」の具体化に努めてまいりました。特に機構改革の具体化,優先分野における総合的作業計画の作成等,ESCAP事務局と加盟各国が協力し精力的な討議を行い,今次総会にその成果を提示していることを評価したいと思います。また新設された常駐代表諮問委員会が,加盟国と事務局との間の有力なパイプ役を果たし,ESCAP活動の改善に大きな貢献をなすものとして歓迎いたします。わが国は昨年の第30回コロンボ総会において,ESCAPは常に問題のプライオリティを考え,アジア諸国の現実の要望に合致した分野のプロジェクトを,優先的に取り上げていくことを要請いたしましたが,ESCAP事務局が,第30回総会において決定をみた重点分野を中心に,今後のESCAPの優先事業計画を策定し,より重点的かつ効果的な活動に向って第一歩を踏み出したことを高く評価いたします。わが国はこれらの優先事業には加盟国のニーズが十分反映され,地域協力機構であるESCAPが推進するに適したすぐれた優先的プロジェクトが含まれていると考えております。これらの優先的プログラム遂行に当っては,長期的に実施していくべきもの,短期的な措置を必要とするものとを的確に区分けして,ESCAP事務局の資金力及びスタッフカを十分考慮に入れつつ,一層重点的かつ効果的な活動を行うよう期待するものであります。この意味から,ESCAPが現下の経済危機を回避するために目下着手しつつある緊急計画をはじめとする地域的優先プログラムが,UNDP及び他の国連諸機関の協力のもとに早急に実施されることを強く希望するとともに,これらプロジェクトの実施に当って,ESCAPが実施機関として十分な機能を発揮しうるよう,ESCAP事務局自体の体質が強化されることを望みます。 |
(2) | 第2に,ESCAPは昨年「第2次国連開発の10年」の地域レベル期央レヴューの検討を進めた他,第2回UNIDO総会準備のための地域会議を開催する等,重要問題について活発な審議を行いましたが,わが国としては,これらグローバルな問題について,ESCAPが積極的にアジア地域の声を反映させることが極めて重要であると考えます。しかし同時に,ESCAPの良き伝統,すなわちすべての加盟国が立場の相違を超えて対話と協調の精神にもとづきコンセンサスにより解決をみいだすとのエイジアン・ウェイを維持しつつ,地域全体の利益増進に努めることを切望してやみません。ESCAPの場に「対立」をもちこむことは,どの加盟国をも利することではなく,地域協力の存立をおびやかす効果しかないでありましょう。ましてや,南北の区別なく能力のあるすべての国が開発協力を推進する必要性がさけばれている今日,わが国はアジアの一員としてESCAPにこのような事態が起らないよう希望するものであります。 |
(3) | 第3に,国連システム全体の中におけるESCAPの果すべき役割に関して一言申し述べたいと思います。今次総会の主要テーマの一つである,世界食糧会議のESCAPとしてのフォローアップ及びUNIDO総会のESCAP準備会議等にみられるとおり,食糧問題,資源問題,工業開発問題等,ある意味ではアジア地域のみでは解決不可能なグローバルな問題に, ESCAPが直面する場合が多くなってきております。 このようなグローバルな問題の解決において,アジアの声を有効に反映させるためには,ESCAPがいたずらに独走することなく,アジア地域のニーズに最も合致した適切な解決方法をグローバルな枠組の中で見出すことが必要でありましょう。 ESCAP事務局としても,グローバルな場での審議状況を従来以上に十分フォローし,国連本部及び各種専門機関等との一層緊密な協力の下に,アジアの声をいかにして有効に反映させうるかを現実的,かつより緻密に検討すべきであると思います。食糧,人口,エネルギーといったESCAP活動の優先領域に指定された諸問題は,開発途上国,先進国を問わず,世界のすべての国にとって緊急かつ重要な事項であり,そのための各種のグローバルな協力体制ができ上っているわけであります。このような事実を考慮すれば,ESCAPがこれらグローパルな機構の活動を補完し,これらの機構を通じて援助を引き出すという役割をはたすことが現実的かつ効果的であると考ます。このためには,現存するグローバルな機構の動きに迅速に対応できるよう,ESCAP自身の機構に柔軟性と機動性をもたせることがなによりも重要であり,加盟国とESCAP事務局とが協力してなお一層の努力をなすべきでありましょう。 |
4. | 議長 |
(1) | 以上私は,ESCAPの活動に対し極めて率直な意見を述べましたが,現下のアジア諸国を取りまく経済的環境がきわめて厳しい時,アジアのほとんどすべての国が一堂に会し討議しうる唯一の機関であるESCAPへの期待は大きく,またその責任も大なるものがあると信じます。ESCAPが真にアジア諸国のニューズに合った現実的解決への血のかよった協力の場となることを心から望んでおります。 |
(2) | 議長 わが国は以上のような考え方に立ってESCAPの諸活動に積極的に協力してまいりましたが,今後は第30回総会によって決定された優先分野に対する協力をできる限り強化して行く所存であります。わが国のESCAP活動への協力は技術協力,資金協力,自発的拠出等様々な方式で行われておりますが,1975年度には,自発的拠出のみでも農業開発等の優先分野の活動に対する拠出金を中心に100万ドルを越える拠出を行う予定であります。 |
(3) | 議長 アジアは現在解決すべき多くの困難な問題をかかえております。そのいずれをとってみても一国のみでは解決しうるものではなく,国際的連帯意識にもとづく協力が必要でありましょう。我々は南北の区別や,資源保有の有無や政治体制の相違を越えて共に繁栄するために,それぞれの能力の特性を活して協力すべきでありましょう。かかる認識に立ってこそ,ESCAPの諸活動は協力と協調のエイジアン・ウエイの精神にもとづき,実り多い成果をもたらすものと言えましょう。わが国も,アジアの一国として,また先進工業国としての国際的責任を自覚して,アジアの平和と繁栄のためできるかぎりの協力を続けて行く決意であります。 有難うございました。 |