資  料

 

1.国会における内閣総理大臣および外務大臣の演説

 

  (1) 第74回国会における三木内閣総理大臣所信表明演説

 

(1974年12月14日)

 

 このたび,私は,内閣総理大臣に任命され,内外情勢の極めて重大な時局に,誠に重い使命を帯びることになりました。

 力の限りを尽くし,全身全霊を打ち込んで,難局打開にあたる覚悟であることは申すまでもありませんが,議員の皆さんの,そして,国民の皆さんの御理解と御協力なくしては,到底この難局は乗り切れるものではありません。

 まず第一に,その御理解と御協力を切にお願い申し上げます。

 国際通貨秩序の動揺,食糧不足,石油危機などに端を発し,世界的インフレの進行ひいては政治的不安定化など,誠に深刻な問題が生じております。

 今日の世界各国の相互依存度の深さは,全世界にわたってその影響を拡大する結果になっております。

 インフレ,不況,通貨,エネルギー,資源,食糧のどの一つをとっても,問題は相互に絡み合って,各国の個別的努力だけでは到底解決できるものではありません。国際協力なくして解決できるものは,何一つありません。

 特に資源の乏しいわが国にとりましては,個別的努力も国際協力も他国に倍して行わなければなりません。

 しかもそれらは,全世界的協力に基づく新しい世界秩序の形成なくしては解決されない性質のものであります。

 私は,今日の事態を,いたずらに悲観的にみようとするものではありませんが,ただ冷厳なる現実を直視した共通の危機感の中からこそ,解決策が生まれると信じます。

 政治も経済も,従来の惰性に流されていたのでは,日本も大変なことになります。世界も大変なことになるというのが私の深い憂いであります。

 しかし今日難局に直面して思うのは,われわれの先人が,明治維新,第2次大戦における敗戦という,大きな困難を見事に乗り越えた事実であります。それは,われわれの先人が勇気,知恵,忍耐をもって,献身的に努力したからであります。われわれには,先人の偉大な業績を継承する責任があり,また,日本の歴史を顧みれば,われわれの文化に深い潜在力があるという自信をもちます。

 また,アジアにおける近代的国家として,百年の歴史を重ねてきた日本と日本人が,難局を乗り越えて,次の百年の歴史を築きあげることは,アジアに生きるものの責任であり,それこそが,世界全体の新しい秩序形成の礎となるにちがいありません。

 私は,こうした深い憂いとともに希望と自信をもって国民の声,世界の声に耳を傾け,狂瀾怒濤の世界に誤りなく,日本丸の舵をとる使命を果たしてまいりたいと存じます。

 こうした時局認識と決意をもとにして,国民の声と,世界の声とが,最も強く求めているものとして,私の耳に強く響く2点にしぼって,今回は私の所信を申し上げることにいたします。

 まず,国民の声は,インフレの克服と不況防止による経済の安定と,ひろく社会的不公正の是正を求めています。そこに私の実行力が求められていると,受けとめております。私はこれにこたえる決意であります。

 また,世界の声は,日本の内閣交代で日本外交の基本政策が,変わるのかどうかを問うております。

 第1点の国民の声,インフレと不況の問題についてであります。

 それは,世界共通の問題ですが,日本にとっては,他の先進工業諸国に比較して特に深刻であるという要素が幾つかあります。

 石油の例に明らかなように,日本は燃料,原料,食糧,飼料の重要部分を輸入に依存せざるを得ない資源の乏しい国であります。頼るのは日本国民の勤勉,技術,頭脳のみであります。

 また,石油の例にみるごとく,その輸入品がことごとく値上がりしてまいりました。日本の高度経済成長を支えた「ドルさえ出せば,いつでも,どこからでも,何でも安く」買えたという支柱は消えうせてしまいました。

 日本は高い資源を輸入しなければなりません。それだけでも物価を押し上げる要因になります。その上に,インフレ心理,流通機構上のネック,賃金と物価の悪循環,価格決定のメカニズムなど,いろいろの要因が重なり合ってさらに物価を押し上げています。

 それ故に,日本の場合は,他国以上に資源の節約を図らなければなりません。

 政府の経済政策も,安定成長路線に切り替え,資源輸入を節約し,財政支出も切り詰めなくてはなりません。

 しかし,それが程度を越せば,不況を深刻にし,大きな社会問題を引き起こします。現に倒産も少なくありません。

 私は,総需要抑制政策のわく組はくずしてはならないと考えておりますが,そのわく組の中では実情に応じ,きめ細かい現実政策もとらなくてはならないという考えであります。

 それはただただ現状を維持するための単なるてこ入れでなく,その間に日本経済の体質を改善し,従来立ち遅れている部門を強化するという積極的,建設的精神が働かなければなりません。

 経済の体質改善の努力と並んで,私の重要視するのは,社会の公正を期するということであります。30年もこつこつ勤めあげてきた人々が退職後の生活設計が立たないという事態は決して公正とはいえません。

 また,物価騰貴により,最も深刻な影響を受けるものは,生活保護世帯,老人,身心障害者,母子世帯などであります。これら社会的,経済的に弱い立場の人々の生活の安定を図るためのいっそうきめ細かな福祉施策の推進,老人が安心して老後を送ることのできる社会を実現しなければ公正が図られたとは申せません。

 賃金の問題にしましても,労使双方に対し,節度を求める反面,消費者物価の上昇を極力抑制することが公正の精神であると存じます。

 以上の基本的考え方に基づき,財政金融政策はもとより,流通,輸送,独禁法,公共料金など,関連要因を総ざらいして,総合的計画の下にあらゆる対策を推進するため,12月10日の初の定例閣議で,政府部内に「経済対策閣僚会議」を設置することを決め,一大物価作戦を福田副総理統括の下に展開する決意であります。

 さらに長期的将来を考えれば,経済の量的拡大より質的向上を,生活の物質的充足より精神的豊かさを追求し,社会的公正を確保し,活力と自信にあふれた社会の建設に全力を傾けたいと存じます。

 次に第2点の世界の声に対する私の所信を申し上げたいと存じます。

 三木内閣に代わっても,わが国外交の基本路線は,不変,不動であるということであります。

 日米友好関係の維持・強化が日本外交の基軸であることにいささかの変化もありません。先般は百年余の日米修好史上,初めて現職大統領としてフォード大統領が訪日され,両国関係をいっそう発展させるための共同声明が発表されました。私はその精神を忠実に履行する決意であります。

 しかし日米友好関係の維持発展を重視するからといって,それは決して他の国々との関係をおろそかにすることを意味するものでありません。

 日中関係につきましては,昭和47年9月29日の日中共同声明の諸原則を誠実に履行し,日中平和友好条約の締結を促進いたします。

 日ソ関係につきましては,平和条約を締結するという懸案に,積極的に取り組む所存であります。

 わが国の平和と安全を確保するためには,アジア地域の平和と安定が必要であることはいうまでもありません。

 わが国としては,特に主権尊重,内政不干渉と互恵平等の精神に基づき,日韓関係をはじめ,全アジア諸国との間も友好関係をいっそう強めてまいる強い決意であります。それがアジア・太平洋地域の安定に貢献するものであることを深く確信するからであります。

 また,欧州諸国との協調をさらに深めることはもとより,中近東,アフリカ,中南米などの発展途上諸国との協力関係をいっそう増進すべく努力する所存であります。

 最後にエネルギー問題の国際協力について一言申し述べたいと存じます。

 わが国は,世界最大の石油輸入国の一つであります。エネルギー源としての石油依存度も極めて高いものがあります。

 また,石油消費も産業用が大部分というところに特徴があります。

 それが故に,石油輸入の国際協力につきましては,物価問題と同様に,日本には特別の困難な問題があり,他国並みに輸入量を減らすには,他国以上に経済的犠牲を払わなければならないという事情があります。

 この問題に関しては,私は特に2点を指摘して国民並びに世界の注意を喚起したいと存じます。

 第1は,日本は今後,国民の理解と協力の下に石油節約を図らなければなりませんが,それは他国の圧力によってやるのではなく,日本経済の必要上やらざるを得ないということであります。その結果として国際協調にも役立つわけであります。

 第2は,石油の消費節約は,産油国に圧力をかける消費国の共同戦略としてやるのではなく,人類の共有する貴重な石油資源を消費国も産油国も協同して合理的に活用しようという全人類的発想の産物でなければならないということであります。

 以上,私は,国民の声と世界の声の一番大きなものにしぼって所信を申し述べました。

 今日,わが国は,内外を問わず,未曽有の試練に直面しており,政治の使命は,いよいよ重大であります。このときにあたり,政治に対する国民の信頼が損なわれようとしていることは,私の最も憂慮しているところであります。

 私は,戦前戦後を通じて,37年余にわたり,議会政治家として,微力を国政に捧げてまいりました。政治が国民の信頼に支えられていない限り,いかなる政策も実を結び得ないことは,私が身をもって痛感してきたところであります。

 国民の心を施政の根幹に据え,国民と共に歩む政治,世界と共に歩む外交,これは,政治の原点であり,政治の心であります。政治は,力の対決ではなく,対話と協調によってこそ進められなければならないというのが私の強い信念であります。

 私は,新しい政治の出発にあたって,この原点にたちかえり謙虚に国民の声をききつつ,清潔で偽りのない誠実な政治を実践し,国民の政治に対する信頼を回復することに精魂を傾けることを誓います。

 なお,政府は,本臨時国会に,人事院勧告に基づく公務員給与の改善,生産者米価の引上げに伴う食糧管理特別会計繰入れなど当面財政措置を必要とする諸案件につき,所要の補正予算及びこれに関連する諸法案等を提出し,御審議を願いたいと思います。

 以上,所信の一端を申し述べましたが,施政の全般については,明年度予算を中心として具体化し,通常国会において,その審議をお願いする所存であります。

 最後に重ねて議員の皆さんの,そして国民の皆さんの御理解と御協力をお願い申し上げまして私の所信表明を終わります。

 

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(2) 第75回国会における三木内閣総理大臣施政方針演説 

 

(1975年1月24日)

 

 昭和50年,1975年はわが国にとっては,戦後30年にわたる政治,経済,社会,文化のあゆみに,一つの区切りをつける時期であります。世界的にみましても,いろいろ問題をはらんだ20世紀最後の四半世紀に移る年であります。

 この内外とも重要な意義をもつ再出発の年に当たり,ここに第75回通常国会が再開されました。政府の外交,内政に関する基本方針を申し述べ,議員の皆さん,国民の皆さんのご理解とご協力を得たいと存じます。

 私は,今日の時代を国際協調の時代であると考えております。世界各国の相互依存性はますます深まり,地球はますます小さくなりつつあります。全人類は,地球船という同じボートに乗った運命共有者であります。すべての日本人は,日本丸という同じボートに乗った,もつと緊密な運命の共有者であります。

 しかし,遺憾ながら,現実の姿は未だそこまではいっておりません。エネルギーの問題や食糧の問題をみれば,歴然たるものがあります。

 しかし,遠からずそれでは,やっていけなくなることは明らかであります。もはや,一国や一個人が,「自分だけ」でうまくやっていこうとしても,やっていける時代ではありません。

 「国益」を守ることが,外交の基本目標であることは申すまでもありません。しかし,それを目先の狭い意味に解してはなりません。また個人の権利や自由が重要であることは申すまでもありません。しかしそれは社会的連帯の中で実現されるべきものだと考えます。

 まず外交面では,中東問題とアジア,太平洋の問題を主として申し述べたいと存じます。

 中東和戦の動向は,石油の問題とともに,今年最大の国際問題であります。

 石油問題は,中東紛争と分離しては論ぜられません。したがって,中東戦乱の再発を防ぎ,公正にして永続的な中東和平達成のため,世界各国がそれぞれの立場で,これに協力することが必要であると思います。日本としては,国連安保理事会決議242号の実行を関係諸国に対し,強く求めるものであります。その決議は戦争による領土取得が認められないことを強調して,1967年の紛争において占領された領土からのイスラエル軍の撤退を求めています。同時にまた,イスラエルを含む全関係諸国の生存権の尊重を求める公正な決議であると考えます。

 ただ,その決議は,パレスチナ人に関しては,難民にしか触れておりません。パレスチナ人の正当なる権利は,国連憲章に基づき承認さるべきものであります。また,エルサレム問題は,平和的話合いによって解決されるべきものであります。

 わが国としては,これらの諸問題が話合いによって円満に解決され,中東に公正にして永続的な平和と安定がもたらされるよう,できるかぎりの努力をいたす考えであります。

 原油の価格が一挙に4倍になったことから,世界の経済秩序が混乱し,特に石油に対する依存度の高いわが国は,コスト・インフレと国際収支の悪化に悩まされております。

 工業製品や他の原料,資源も値上がりしたにかかわらず,原油の価格が長期にわたり,極めて低廉に抑えられていたという産油国の不満は,われわれも十分理解することができます。

 しかしながら,原油価格が一挙に4倍になり,世界経済秩序が適応の余裕をもち得ないために,混乱が生じたことも事実であります。この点を産油国にも理解してもらい,産油国と消費国とが,力づくではなく,あくまで対話と協調により,相互利益の調整を図るべきだと考えます。石油について中東に大きく依存するわが国としては,中東政策には格段の配慮が必要であります。

 わが国の海外経済協力のあり方は,今日の南北時代に処して,協力援助の量もさることながら,方法と質の改善が急務であります。

 要は,わが国の経済協力援助が,日本の貿易振興のためよりも,真に受益国の経済社会基盤の強化に役立つものでなくてはならぬということであります。

 善隣友好がわが国外交の重要な柱であることは申すまでもありません。特にわが国が米,中,ンという世界政治に重大なる影響力をもつそれら3カ国と近接しているということが,わが国の立場を特徴づけています。

 しかも,この日,米,中,ソの4カ国関係の中で,日本としては,他の3カ国のすべてと正式な外交関係に加えて,親善,友好の関係をもっているということは,極めて重要なことであります。

 この4カ国関係の動向が,アジア,太平洋地域の安定と密接に関連しているだけに,こうした重要な立場にあるわが国が,善隣友好をいっそう推進することが,アジア,太平洋地域の安定に貢献するゆえんであると信じます。

 日米関係の安定は,日本外交の基軸でありますから,今後とも友好協力体制の強化にいっそうの努力をはらってまいります。

 日本とアメリカとの間の相互協力と安全保障の条約は,その名の示すとおり,日米協力の基本憲章であります。従来,ややもすると防衛力の面のみが表面に出るきらいがありましたが,エネルギーや食糧の問題が重視されるに至りました今日では,経済協力などの面と,防衛力の面とが並んで条約の本来あるべき均衡のとれた形で,両国間で認識されるようになりましたことは歓迎さるべきことであります。

 日中関係が,一昨々年9月の日中共同声明に基づき,順調に発展してまいりましたことは,両国また両国民にとってはもとより,アジア,太平洋地域の安定のためにも喜ばしいことであります。

 本年は,それをさらに進め,日中間に平和友好の条約を締結して,子々孫々にわたる日中永遠の友好関係の基礎を固める年にいたしたいと考えております。

 なお,日台間の実務関係を維持していく方針には変わりありません。

 日ソ間には懸案としての領土問題を解決して,平和条約を締結するという問題があります。戦後30年になり,先般も宮澤外務大臣をソ連に派遣して交渉いたしましたが,懸案の北方領土問題は遺憾ながら依然として未解決であります。

 しかしわれわれが,今から30年後の日ソ関係を展望した場合,その協力は世界史的意義をもつものと信じます。

 このような日ソ協力関係を可能にする大前提は,相互信頼感の増進であります。相互信頼感増進の第一歩は,領土問題を解決して,平和条約を締結することであります。私は,こうした前向きの発想で,領土問題に取り組むことができないかと考えております。この考え方の下に,今後とも懸案の解決に努力する所存であります。

 また,日,米,欧の三者の協力関係をも重視したいと考えます。その意味からもわが国の対欧関係は,今後一段と相互理解と緊密化の努力が必要であります。

 大洋州及びカナダは,先進工業国として共通の問題をかかえており,これら諸国との伝統的友好関係をいっそう緊密にいたしてまいります。

 隣国韓国をはじめ,アジア諸国との間には経済協力,人的・文化的交流を通じ,アジア地域の安定と繁栄の基礎づくりに引き続き貢献してまいりたいと存じます。

 アジアのみならずアフリカ,中南米諸国との相互理解と友好協力関係の増進にもいっそう努めてまいります。

 このように外交活動の幅を広げる場合,国連の場を,重視していかなければならぬと考えております。

 最近,東京において国連大学の理事会が開催されました。日本に本部を置く人類の大学が誕生したことは,日本人の喜びであり,今後も政府は,この大学の発展に寄与したいと考えております。

 また,今年は国連決議による「国際婦人年」にあたります。この有意義な年に当たり,婦人の地位の向上にいっそう努力してまいる所存であります。

 次に,内政問題につき基本方針を申し述べたいと存じます。

 当面の急務は,物価の鎮静でありますが,本年3月には前年同期に比し,消費者物価の上昇を15パーセント程度に抑え,来年3月には一けた台にすべく,さらに物価対策を強力に推進していくつもりであります。公共料金を極力抑制いたしましたのも物価に及ぼす影響を考えたからであります。

 ちょうどこの大事な時期に,春の賃金交渉期を迎えるわけでありますが,労使とも物価鎮静傾向に留意し,節度ある妥結に導かれるよう切望いたします。

 一方,景気は停滞の色を濃くしつつあることも否定できません。西独や米国でもインフレ対策から不況対策に重点を移行し始めましたが,なお消費者物価上昇率が特別に高いわが国の場合では,簡単には,総需要抑制策をはずすわけにはいきません。

 したがって引き続き抑制策は続けますが,その枠内で,健全な経営を行う中小企業などに対して,不当なしわ寄せが生ずることのないようきめ細かい対策を講じてまいる所存であります。

 こうした抑制基調の予算の中でも,特に重点的に配分を図りましたのは,社会保障,教育,住宅や下水などの生活基盤の充実であります。インフレの影響をまともに受ける弱い立場の人々を救済して,社会的公正を期することには特に配慮いたしました。

 その他の点では次の諸点を重視しました。

 食糧の自給力を高めるための農林漁業の増産対策,中小企業の経営改善対策の強化などであります。

 そして,特に重要なエネルギー対策としては,石油90日備蓄の計画的推進,原子力平和利用の促進,原子力安全局の新設,新エネルギーの技術開発に重点を置きました。

 なお,経済の見通しや予算内容の詳細は関係大臣の演説に譲り,以下経済,社会,文教,国防に関する私の基本的考え方と私の目指す新しい政治のあり方とについて申し述べたいと存じます。

 これからの日本経済は,量的拡大から質的充実への転換が必要であります。いままでの高度経済成長路線を転換して,安定成長と福祉向上の路線へ円滑に切り替えていかなくてはなりません。

 高度経済成長を支えた内外の条件は,崩れ去り,ドルさえ出せば,いくらでも,しかも安い原料,燃料,食糧,飼料を買えた時代は終わりました。石油が一番いい例です。発展途上国もどんどん追い上げてきます。それは歴史の当然の進展であり,それを元に戻すことは不可能でもあり,不当でもあります。

 国内でも労働事情に変化がおこり,賃金は上がり,労働時間は短縮されました。産業立地条件も環境問題などにより厳しく制約されてきました。これまた,元に戻すことは不可能でもあり,不当でもあると考えます。

 こうした内外情勢の変化は,好むと好まざるとにかかわらず,新しい情勢の変化に適応できるように産業構造の変革を促しております。

 わが国経済は,特に資源輸入に依存する体質ですから,その依存度を減らし得るような工夫が必要であります。

 個人の生活設計もそうですが,企業においても頭脳や情報の活用によって資源と労働力をできるだけ節約できるように,工夫,努力しなければなりません。

 特に貴重な資源である石油を少しでも節約するための国民的運動を根気強く展開いたします。

 高度成長から安定成長へ,量から質へと経済体質を変革するためには,高度成長時代の制度,慣行の見直しが必要となります。

 制度,慣行は,一たん打ち立てられますと,なかなかそれを変革することは困難ではありますが,困難だといって放っておくわけにはまいりません。

 財政硬直化の問題を含め,行財政のあり方全般にわたり見直しをする考えであります。

 それは決して生やさしいことではありません。既成の考え方を変え,既得の権利を手離すことには大きな抵抗が伴います。しかし,それを打破して,日本の政治を新しい時代にふさわしいものにしなければなりません。それが時代の要求であり,これに応えることがわれわれ政治家に課せられた責務であると考えております。

 なお,自由経済の公正なルールを確保するため,いわゆる独占禁止法の改正案を今国会に提出いたします。

 社会的公正を確保するために福祉政策を重視しなければなりません。そのためには,地方行政のあり方も重要であります。

 いまや価値観も変わり,国民は華やかな消費生活よりも,美しい泪然環境の保全,文化の発展,快適な生活環境,医療と教育の充実,公共施設の増強を求めています。そうした住民の要求に直接応えなければならぬのが地方行政であります。

 私の主張するように,量的拡大の時代から,生活中心,福祉重視の質的充実の時代へ転換するために,地方行政の果たす役割はいっそう大きなものとなります。このときに当たり,自主的で責任ある地方行政が実現されるよう国と地方との関係をはじめ,地方行財政のあり方について全面的に見直す必要があると考えております。

 また,福祉政策を可能ならしめるものは,国民の連帯観念と相互扶助の精神であります。結局,高福祉は高負担を意味することになりますから,国民連帯の精神が根底になければ成り立つものではありません。隣人愛の精神が必要であります。

 教育は福祉と並んで,私が最も重要視してまいる政策面であります。

 明治の先覚者が,教育を重視してくれたおかげが今日に及んでいることに思いをいたせば,今日のわれわれには,21世紀の子孫のためにも,教育に力を注がなくてはならぬ責任があります。私は教育にはもっともっと,力を入れなくてはならぬと考えております。今回の抑制予算の中においても,特に教育を重点項目とし,私学助成の強化,教員の待遇改善,育英奨学資金の増額を図ったのもその趣旨によるものであります。

 しかし,そのためには,まず教育を本来あるべき場に引き戻すことが必要と考えます。教育を政争圏外の静かな場に移さなくてはなりません。まず,そうした環境づくりが必要と考え,あえて政党人でない永井君を文部大臣に起用いたした次第であります。

 すべての人に,いかなる環境に生まれようとも,その潜在能力を十分に引き伸ばすための教育の機会の均等は,是非とも保障しなければなりません。

 教師には,安んじて教育に専念できる待遇を保障しなければならぬと考えています。

 地球社会時代といわれる今世紀から21世紀にかけて,活躍できる国際的日本人の教育も緊急事であります。

 資源のない日本としては,頼るものは日本人の創意であり,英知であり,技能であり,勤勉であります。教育はまた,そうした能力と個性の開発を目指さなければなりません。

 国防と治安の維持は,いうまでもなく政治の基本であると考えます。

 自衛隊については,自衛力の技術的な面もさることながら,自衛隊と国民の間に相互理解の和がなくては,真の自衛力とはなり得ません。

 私は無防備論には組みしません。現実的な国際常識からして,大きな国際影響力をもつ日本を,防衛力の面から真空地帯にしておくことは,アジア,太平洋地域の安定をかえって阻害すると考えます。

 しかし,わが国の防衛力はあくまで自衛のためであって,アジア近隣諸国に脅威を与えるようなものであってはなりません。

 核武装は論外です。いわゆる核拡散防止条約については,原子力の平和利用につきその査察が西欧などと平等に行われることなどの条件がみたされた上で,批准のための手続きを進める考えであります。

 核時代の国防の第一理念は,有事に至らしめない,すなわち核戦争や核戦争につながるような紛争を抑止することにあります。

 私は戦争抑止という観点から,日米間の安保協力と自衛隊の存在を評価するものでありますが,それをあまりにも狭い純軍事的意義に局限してはかえって真の効果が失われるおそれがあると考えます。

 自衛隊が国民から遊離,孤立した存在であってはその真価な発揮することはできません。

 私は国民の皆さんが自衛隊の役割を正当に理解し,自衛隊が国民の皆さんから歓迎,祝福される存在になってもらうことを心から願っておるものであります。

 民主主義がいかなる暴力とも相容れないことは申すまでもありません。法と秩序を無視し,国民生活に脅威を与える暴力行為は強く排除していく考えであります。

 私はしばしば新規まき直しの必要を唱えました。

 私はまず議員の皆さんに訴えたいのでありますが,この出直しの機会に,議会政治のほんとうにあるべき姿を打ち立てようではありませんか。

 また政治全体の信頼回復のために,今日の選挙のあり方,政治資金のあり方にもメスをいれようではありませんか。われわれとしてもこれに必要な法案をこの国会に提出する準備を進めております。

 次に,企業と組合の皆さんに訴えたいのであります。どうしても従来のような労使対決関係しか,労使関係はあり得ないのでしようか。スケジュール闘争方式しかあり得ないのでしようか。

 企業の構成員も,組合の構成員も,同じ国民の一員であります。国民ベースで新しい労使関係のあり方が,生まれ得ないものでありましょうか。

 最後に国民の皆さんに訴えたいと思います。高度経済成長の慣れっ子になって,むだもぜい沢も,あまり感じなくなったきらいがあります。これからはそうはまいりません。それは日本国民が貧乏になるということではありません。世界の資源をわがままに使うことを慎んで,節度ある安定成長の社会に生きるということであります。世界とともに歩もうということであります。正常な落ちついた日本になろうということであります。

 お互いに物的生活は簡素に,精神的生活は豊かであることを目指して,新しい時代の生きがいを求めていこうではありませんか。

 日本の先人は幾度か今日以上の試練に堪えぬいて,今日の日本を築き上げました。われわれには潜在能力があります。われわれが互いに協力し合えば,この難局を切りぬけ,世界の新しいモデルになるような新しい日本の建設が可能であるとの強い自信と希望を,もとうではありませんか。

 偉そうなことをいえる私ではありません。また,いうつもりもありません。しかし,38年間,ただただ民主政治と国際平和とを念願して,この道ひと筋に生きてきた議会人として,この内外情勢の極めて困難な秋に,私が担いました光栄ある重い責任は,日本国民のため,自由,民主政治のため,はたまた世界平和のために全力をあげることであります。私はこの重責を果たすために力一ぱい献身する強い決意であります。

 これをもって私の施政方針演説を終わります。

 

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(3) 第75回国会における宮澤外務大臣の外交演説

 

(1975年1月24日)

 

 第75回国会の再開にあたり,わが国をめぐる国際情勢を概観し,わが国外交の基本方針につき,所信を申し述べます。

 今日の世界は,新しい秩序を求めつつ,変動の過程にあります。

 特に,一昨年来の石油・エネルギー危機とこれに伴う国際経済上の諸問題は,世界の政治,経済に大きな影響を及ぼしております。

 戦後の世界経済は,かなり長い期間おおむね安定と繁栄を享受してまいりましたが,1960年代末以降,多くの問題を生ずるに至り,特に,一昨年の中東戦争以後の石油価格の急激な高騰を契機として,一段と困難な事態に直面しております。食糧,資源,海洋など国際社会全般にかかわる諸問題についても解決が求められております。

 また,開発途上国は,国際場裡において,より大きな発言力を求めるに至りました。

 国際政治関係の基調を見れば,米ソ,米中関係を中心とする,いわゆる緊張緩和の動きが数年来続いております。米ソ間では,昨年アメリカ大統領の二度のソ連訪問が行われ,両国間の対話が継続されており,また,米中間においても,実務関係促進への努力が払われております。欧州においても,東西間の話し合いが継続されております。このような動きの中で,世界各国は,外交政策の新たな方向づけを模索しつつありますが,アジア,中東など世界各地に内在する根深い不安定要因は解消しておりません。のみならず,経済状況の悪化に伴い,一部の国においては,政治的,社会的不安が顕在化しつつあります。

 今日の世界は,特に経済面で多くの困難な問題を抱えた試練の時代を経験しており,しかも各国は,大なり小なり相互に影響しあい,依存しあっておりますので,相協力して従来の秩序を改善し,新しい国際的秩序を建設せねばならない局面に立っております。

 このような時代において,わが国民の安全と福祉をいかにして確保すべきでありましょうか。

 わが国は,世界の平和と安定の中ではじめて自らの生存を確保することができるのであります。

 従いまして,わが国は,第1に,日米関係を基軸にしつつ,体制を異にする諸国をも含め,世界各地域の諸国との友好関係を強化する多角的な外交を更に推進する必要があります。

 第2に,変動する内外の諸要因の本質を見極め,調和のとれた新たな国際的秩序を建設するよう積極的に貢献してまいらなければなりません。

 かかる基本的な立場に基づいて,若干の主要な国際問題につき採るべき施策について申し述べます。

 まず国際経済関係でありますが,石油・エネルギー問題については,各般の国内的措置を推進しつつ,産油国との友好関係の緊密化に努めるとともに,国際エネルギー機関その他の消費国間の協調の場において,この問題の検討を進め,産油国と消費国との間の建設的な対話の実現のため努力を行っていく所存であります。

 また,石油価格の高騰により,一部産油国に蓄積された巨額の資金を,安定的かつ秩序ある形で還流させることは,国際金融面のみならず,世界経済全般にかかわる焦眉の課題であります。これについては,産油国からの資金拠出をも得て,国際収支が困難な状況にある国々を援助するとの考えに基づき,今般国際通貨基金の石油融資制度を拡大することとなりました。また先進工業諸国間の相互扶助のための金融協力についても,この度大筋の合意に達しました。

 更に,米国の新通商法の成立により,新国際ラウンドの本格交渉が本年開始される運びとなったことは,その推進に積極的に努力してきたわが国としては,大いに歓迎するものであります。政府としては,保護主義を排し,自由貿易体制の維持・拡大をめざすこのラウンドの意義にかんがみ,これに積極的に参画していく所存であります。

 次に,開発途上諸国との関係について申し述べます。

 わが国自身が,現在石油危機により甚大な影響を受けておりますものの,多数の開発途上諸国が新たな困難に直面しているこの時期にこそ,これらの諸国の国造り,人造りのために,各般の協力を拡充する必要があると考えます。

 このような考え方に基づき,政府としては,国際的にまだ低い水準にある政府開発援助の量・質両面にわたる改善に努めてまいる方針であります。また,その実施に当たっては,開発途上諸国の自助努力に一層寄与するよう,農業開発,社会開発の分野の協力を重視するとともに,政府ベース,民間ベースの有機的連携のもとに,従来以上に均衡のとれた地域別配分に留意する所存であります。

 次に,国際連合は,国際紛争の解決を助けて平和を維持する役割を果す一方,社会,経済等広範な分野にわたる国際協調の場としての機能を強めつつあります。政府としては,わが国が理事国である安全保障理事会及び経済社会理事会をも通じて,国際連合が新しい時代の課題にこたえて活動をし得るよう,今後とも貢献していく考えであります。

 なお,きたる3月,新たな海洋法条約作成のための実質的交渉が行われる予定でありますが,伝統的な海洋の自由を狭める方向に動きつつある大勢の中にあって,政府としては,わが国の利益をできる限り維持すべく全力を尽すとともに,新たな世界の趨勢にかんがみ,安定的かつ永続的な海洋の新秩序確立に協力してまいる所存であります。

 世界における核拡散への動きを憂慮する政府といたしましては,核拡散防止のための国際的な努力に,積極的に協力する所存であります。核兵器不拡散条約については,従来の方針通り,原子力の平和利用の分野において,他の締約国との実質的平等性を確保するため,国際原子力機関との間の保障措置協定締結のための予備交渉を進めるべく,ただいま所要の準備を整えております。この交渉の終結を待って,国民の支持を得て,できるだけ速やかに,本条約の批准につき国会の承認を求めたいと考えております。

 文化,学術の分野における交流は,諸国民の間の心のつながりを培うものであり,その意義は,この変革の時代においてますます増大しております。政府は,かかる観点に立ち,諸外国との文化交流の拡大及び日本研究の促進のため各般の努力をしてまいりました。政府としては,各国からの評価と期待にこたえ,今後とも国際交流基金の拡充,強化に努めるとともに,多方面にわたる幅広い文化交流を進めていきたいと考えております。

 以下わが国が世界各国,各地域との間に展開すべき具体的施策について申し述べます。

 米国との友好協力関係は,自由と基本的人権の尊重に立脚した政治体制,及び個人の創意と能力をいかす自由主義経済体制を維持するとの,両国共通の理念をその基盤としております。日米関係を緊密に維持増進することが,わが国外交を多角的に展開する際の基軸であります。

 日米両国は,極めて多岐にわたる分野で,緊密かつ互恵的な関係を発展させてきております。また,日米関係は,今や,単に2国間の案件の処理にとどまらず,広く世界的視野に立ち,国際社会が直面する諸問題につき,両国がそれぞれの立場から相協力してその解決策を探求していくという段階にあります。政府としては,昨年秋のフォード大統領の訪日の成果をふまえて,今後とも「相互協力及び安全保障条約」の精神である相互信頼と協力を旨として,間断なき対話を進め,日米関係を強化,発展させていく所存であります。

 アジアにおいては,変動する国際情勢の中で,各国は,自主自立を基調としつつ,安定と発展を確保するための努力を続けております。

 しかしながら,朝鮮半島やインドシナ地域においては,依然として緊張要因は除去されるに至らず,また,その他の地域も,今なお随所に潜在的な不安定要因を抱えているのが現状であります。更に,最近の世界経済の変動は,この地域の安定と発展に憂慮すべき影響を与えております。わが国としては,かかるアジア地域の情勢にかんがみ,今後とも国力の許す限り協力を行い,平和と安定を分かちあう良き隣人としての努力をいたす所存であります。

 日韓間には,過去1年余りいくつかの不幸な出来事が起こりました。しかし,わが国にとって,日韓関係が重要なことには変わりありません。政府としては,朝鮮半島の平和と安定を切に望みつつ,韓国との間の友好関係を増進するため一層努力してまいる所存であります。

 日中関係は,貿易協定,航空協定等各種実務協定が締結され,その基礎が固められつつあります。政府としては,今後とも,日中共同声明を基礎として,日中間の善隣友好関係をより一層確固たるものにしていく方針であります。かかる方針の一環として,政府は,日中間の各種の交流と対話を促進する一方,日中共同声明に従い,漁業協定並びに平和友好条約の締結に引き続き積極的にとり組んでいく所存であります。

 なお,日台間の実務関係を維持していく方針には変わりありません。

 東南アジア地域においては,ASEAN等地域協力も引き続き進展しており,地域内諸国とわが国との関係が密接の度を加えております。わが国としては,相互補完の関係にあるこの地域の諸国との間に各般の分野にわたり一層の理解を深め,アジアの平和と安定のため共に協力してまいるべきだと考えます。

 しかしながら,インドシナ半島におきましては,一部の地域において,なお戦火が続いております。わが国としては,すべての関係当事者がパリ和平協定を尊重し,これを厳格に実施することが,問題解決のため不可欠であろうと考えます。このような努力を通じ,インドシナ各国において,政治的に対立している双方当事者が,外部からの干渉なしに,平和的話し合いにより,和解を実現することが可能になると信じます。政府としては,アジア・太平洋地域の他の諸国とも密接に協力しつつ,今後とも同地域の平和と安定の達成に努めるとともに,全インドシナ地域の民生安定と戦後復興のため,引き続き応分の協力を進めてまいりたいと思います。

 インド亜大陸における諸国間の関係は,改善の方向をたどっております。わが国としては,これを歓迎するとともに,この地域の安定と発展のために,今後ともできる限りの努力をいたす所存であります。

 更に,太平洋をはさみ,わが国の隣国である豪州,ニュー・ジーランド及びカナダは,先進民主主義国であると同時に資源保有国でもあり,わが国にとって,政治的にも,経済的にも,重要なパートナーであります。政府としては,これら諸国と,引き続き幅広い友好協力関係の促進に努めていきたいと考えております。

 今般私は,ソ連を訪問し,一昨年の日ソ首脳会談の成果に基づき,平和条約の締結に関する継続交渉を行うとともに,日ソ間の諸問題についても意見を交換してまいりました。平和条約締結交渉において,私は,長期的な展望に立って日ソ関係を発展させるためには,北方領土問題という日ソ間のわだかまりを取り除くことが急務であるとのわが国の立場を述べ,ソ連側の決断を求めましたが,その同意を得るに至らず,その結果双方は交渉を引き続き行うことに合意した次第であります。

 政府としては,今後とも隣国であるソ連との間に,貿易,経済,文化等幅広い分野において交流の進展を図っていく所存でありますが,同時に日ソ関係を真に安定した基礎の上に発展させるためには,領土問題を解決して,平和条約を締結する努力を粘り強く続ける必要があります。

 中東情勢の動向は,今や全世界に多大の影響を与えるものであります。わが国としては,その推移を重大な関心をもって注意深く見守るとともに,国連安全保障理事会決議242号に基づいた公正かつ恒久的な平和が一日も早く実現することを切望してまいりました。

 中東紛争解決の前途にはなお多大の困難が予想されますが,わが国としては,関係各国が建設的かつ現実的立場に立って,武力紛争の再発を抑え,問題の解決に向かってさらに努力することを強く希望するものであります。

 同時に,政府は,中東諸国との間に急速に発展してまいりました人的,文化的,経済的交流及び経済協力関係を一層拡大し,相互理解の促進に努める所存であります。

 西欧諸国は,先進工業民主主義諸国の中の主要な一つの柱であり,わが国と各種の共通の課題を抱えております。日欧間では近年資源・エネルギー,貿易,通貨,投資,科学技術等の分野において,相互の協力がますます緊密化しつつありますが,今後とも,あらゆる分野にわたって,密接な協力関係を促進していく必要があると考えます。

 本年5月には,英国女王エリザベス二世陛下が訪日される予定でありますが,これは,わが国と英国との間の伝統的な友好関係の一層の強化発展に寄与するものと考えます。

 東欧諸国との関係も一層深めてまいりたいと考えておりますが,本年4月にチャウシェスク・ルーマニア大統領を日本に迎えることができることは,まことに喜ばしいことであります。

 アフリカにおいては,最近新しい情勢が生まれつつあります。ポルトガル領非自治地域が順次独立を達成しつつあり,南部アフリカ問題も局面打開への動きが見受けられます。アフリカ諸国の植民地主義及び人種差別反対という願望を,かねてから理解し支持する立場をとって来たわが国としては,かかる事態の進展を心から歓迎するとともに,今後とも,アフリカ諸国との友好協力関係を増進してまいる所存であります。

 わが国と中南米諸国は,伝統的な友好関係にあり,特に近年,経済協力関係は著しく緊密の度を加えつつあります。政府としては,相互の関係を更に幅広いものとし,永きにわたって安定した基礎の上におくよう外交努力を重ねていく所存であります。

 以上,わが国を取りまく国際情勢を概観し,わが国の外交につき所信を申し上げました。

 世界各国は,変動する国際情勢の中にあって,相互依存の関係を深めており,世界の一地域で起った事態が,直ちに他の地域の国民生活に影響を及ぼすようになった今日わが国の外交を広くかつ積極的に展開する必要性が増大してまいりました。わが国の外交体制がこの必要に十分即応できますよう,努力をいたしたいと考えております。

 国民各位の御理解と御支持をお願いいたします。

 

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