1. 旅券発行の状況
74年(1月~12月)の旅券発行数は,1,343,831件で前年比13.8%の減に終つた(過去10年間の旅券発行数の推移は,付表1のとおり)。
これは主として73年秋の石油ショック及びこれに続く政府の総需要抑制策の影響により海外渡航者数が伸び悩んだことによるものであるが,他方,数次往復用旅券(5年間有効)を所持する者の数が年々増えてきていることも旅券発行数を抑制する作用を果したものと考えられる。
一般旅券の発行数を効力別にみると,71年以来,数次往復用旅券の占める割合は漸増し,これを74年についてみると,総数の69%,916,218件となつている(付表2参照)。これは,70年12月1日に施行された旅券法の一部を改正する法律(昭和45年法律第105号)により,5年間有効の数次往復用旅券の発給基準が大幅に緩和された結果に基づくものである。
(1) 最近の一般旅券の発行数を渡航目的別に分類すると(付表3参照),一般旅券発行総数のうち観光渡航の占める割合が圧倒的に高く,74年は,89.7%に達している。他方,経済活動のための渡航者は観光に次いで多数を占めているが,数次往復用旅券がある程度ゆきわたつたためか,総発行数に対する割合では減少傾向を示し,71年の20.3%に対し,74年は8.2%へと低下している。
(2) 一般旅券発給申請書に記載された主要渡航先を地域別に集計すると,アジア地域が全体の半数以上を占め,次いで,北米,欧州の順となつている。
(3) 渡航者の大部分は短期渡航者であるが,永住,赴任,長期にわたる業務,留学,学術研究など渡航先において3カ月以上滞在する予定の長期渡航者は,74年の旅券発行数の約2.3%となつている。地域別では,北米が全体の半数近くを占め,次いで欧州,アジアの順となつている(付表5参照)。
(4) 一般旅券の発行数を年齢別に分類すると,20歳台の渡航者が,70年以来,旅券発行数において首位(38.6%)を占めている(付表6参照)。
(5) また,一般旅券の発行数を性別に分類すると,発行総数に占める女性の割合は年々増加する傾向を示し,74年は32%を占めている(付表7参照)。
74年,文世光や日本赤軍ゲリラ関係者等による旅券の不正取得や不正行使を伴う不祥事件が種々発生したが,今後このような事件が続発する場合は,わが国の対外関係に重要な影響を及ぼすおそれがあると判断されるに至つたので,かかる事件の再発を防止するための措置として,旅券法施行規則の改正を初めおおよそ次のような措置を講じた。
(1) 旅券申請者の身元確認を強化するため,75年3月1日より旅券申請者は,申請書,写真,戸籍謄本(又は抄本)等のほか,住民票の写し及びあて名を記載した郵便葉書並びに次の書類のうちのいずれか一つを提出しなければならないこととした。
(イ) 運転免許証,船員手帳,銃砲所持許可証,写真を貼付した官公庁の身分証明書。
(ロ) 健康保険,共済組合員証,年金,恩給等の社会保険関係書類。
(ハ) (イ)又は(ロ)の書類を提出できない申請者は印鑑登録証明書のほか,都道府県知事が適当と認める書類。
(2) 在外公館における旅券の再発給については,75年3月1日より審査手続を従来より厳しくした(その結果,旅券の再交付には2週間前後の日数を要することとなる)。
(3) 75年4月1日以降は,従来広く認めてきた代理申請の取扱基準を厳格にし,災害,事故の場合,業務上止むを得ない場合にのみこれを認めることとした。
(4)旅券面の写真のはり替えによる旅券の変造を防止するため,75年4月1日以降,旅券面の写真の上に保護シート(ポリエステルの透明薄膜)をはり,写真のはり替えができないようにした。これは日本赤軍ゲリラ関係者等が旅券面の写真をはり替えて旅券を変造し,その旅券を不正に行使している事実が明らかとなつたので,これを防ぐための措置である。
外務省では,65年以来,コンピューター・システムを利用して,増加する一方の海外旅行者に対する旅券発給事務の円滑かつ迅速なる処理に努めてきた。特に69年度からは,旅券申請の窓口である各都道府県と外務省との間の旅券作成事務の機械化(各都道府県にテレ・タイプを設置し,これを専用回線によつて外務省のコンピューター・システムと結び,旅券事務を処理するもの)を推進してきたが,74年度末現在で,東京都をはじめ38都道府県が機械化されており,75年度には残り9県についても機械化を行うこととなつているので,これですべての都道府県について機械化が完了することとなる。