1. 近年における海外在留邦人の特徴
74年においては海外渡航者数の大きな伸びは見られなかつたが,近年における邦人の海外への進出振りには目覚しいものがあり,68年にわずか34万人余であつた海外渡航者数は,74年には約233万人に急増した。この間,長期滞在者と永住者からなる在留邦人の数は68年の約32.5万人(注:10月1日現在,以下各年とも断わりのない限り同じ)から74年の約37.8万人へとわずかの増加しか示していないが,その内訳を見ると,68年に約27万人であつた永住者は,新規移住者数の減少ないし横ばいに加え移住先国への帰化による日本国籍の喪失といつた諸理由から,74年には約25万人へと減少しているのに対し,長期滞在者だけについてみると,同期間に約5万人から約12.5万人へと2倍以上の増加を示している。しかも,長期滞在者のうち,報道関係者(家族を含む,以下同じ)及び自由業関係者数が同期間ほぼ横ばい状態にあるのに対し,商社・銀行・メーカー等の社員数が約3万人から約8万人へ,留学生・研究者・教師数が2千人強から2.5万人余へと急増しており,この二つの類型に属する邦人の海外進出が長期滞在者数増加の主要な原因であることがわかる。
即ち,かつての在留邦人の大部分は永住者であり,移住者として現地に骨を埋めようという人々であつたのに対し,最近の傾向はほぼ4~5年を限度として帰国する人々が在留邦人の中心となつてきていることである。ちなみに,在留邦人数に占める長期滞在者数のパーセンテージは永住者の多い南米ではわずかに4.1%,北米では,37.7%,中米では58.1%であるが,それ以外の地域では78.8%(アジア)から99.9%(アフリカ)に上つている。
永住者が特定地域に偏在しているため,在留邦人全体の地理的分布はきわたつた特徴をみせる。すなわち,在留邦人総数の実に4割にあたる14.3万人がブラジル1カ国に集中しており,南米地域全体では18.2万人と海外在留邦人総数の約半数を占めている。
次いで,北米に11万人強を数え,アジアと西欧ではともに約3.3万人となつている。なお,東欧には約2千人の在留邦人がいるだけである。
他方,長期滞在者の地理的分布は,わが国と当該地域との経済的・文化的交流状況を比較的よく反映しており,長期滞在者総数約13万人のうち,北米(約4.2万人),アジア(約3.3万人)及び西欧(約3.2万人)の3地域で8割以上を占め,東欧及び中米はそれぞれ2千人前後と極めて少数である。なお,長期滞在者数が多い国は米国(3万8千人,概数以下同じ),西ドイツ(1万人),英国(6千人),フランス(5千人)及びタイ(4千人)である。
ちなみに,長期滞在者数を男女別にみると,北米,西欧及び大洋州といつた先進地域では男女同数に近いが,気候が厳しいとざれるアフリカや中近東,及び社会体制の異なる東欧においては,男女数のアンバランスが著しく,例えばアフリカでは男性約3,400に対し女性は1,300にも達しておらず,これらの地域では単身赴任が多いことを示している。
わが国の経済的発展とともに最近では海外各地でさまざまな分野において邦人が活躍している。長期滞在者の大宗を占めるのは商社・銀行・メーカー等の社員(家族を含む,以下同じ)であり,総数の6割強を占め,特に留学生や研究者等の少ないアジア及び中近東では8割以上を占めている。
これら経済活動に従事する邦人は世界の隅々にまで進出しており,これら邦人が一人も在留しない国は,極く一部の国に限られている。特にニュー・ヨークには440社の本邦企業が進出し,これら経済活動に従事する邦人及びその家族の数も8千人をこえている。
これに次で多いのが留学生・研究者及び教師であり,約2.5万人と長期滞在者総数の約2割を占めており,その9割強が北米及び西欧(各々1万人強)に集中している。商社,銀行,メーカー等の社員が二ュー・ヨークに集中しているのに対し,これら留学生等の多くはパリに滞在しており,パリでは長期滞在者数の半分以上にあたる3千名弱を数えている。その他,米国東部及び太平洋岸やウィーン,マドリッド等に多く在留している。
宗教家,芸術家,サービス業等の自由業関係者の数は3千名を僅かに越えるのみであり,パリ,デュッセルドルフ,マドリッド,ミラノ及びホノルル等に多い。
東欧や中近東,アフリカの一部諸国では政府関係職員の長期滞在者総数に占める比率が高く,これらの地域に対し,未だ一般邦人の進出が遅れていることを物語つている。
商社・銀行・メーカー等の海外駐在員の派遣が余り考えられなかつた戦前から北米,中南米を中心として渡航した移住者が各地に日系人会を作り,これら長い歴史を有する日系人会は現在全世界に320を数え,特に日系人数の多いブラジルには各県人会を含め109の日系人会が存在する。
他方,長期滞在者数の急増とともに最近日本人会及び日本人商工会議所等本邦から現地へ進出した企業を会員とする進出企業団体の結成が進んでいる。
日本人会は,大は会員数2,600(74年7月1日現在)のバンコック日本人会やニュー・ヨーク・ジャパン・クラブ(会員数2,077人),デュッセルドルフ日本クラブ(同1,900人),ロンドン・日本クラブ(同1,222人)から小はアクラ日本人会(同20人)やカブール日本人会(同23人)まで世界各地に62を数え,更に婦人会やドクター会等特定の邦人のみを対象とする団体まで入れると相当の数に上る。他方,商工会議所等進出企業団体は,会員数286社(74年7月1日現在)のバンコック日本人商工会議所から会員数僅か8社のアルジェリア商社会まで,世界63都市に67団体を数えている。
これら各種団体の地理的分布をみると,進出企業団体はアジアに18,北米に12,中南米に13,欧州に13,大洋州に5,中近東・アフリカに6というようにわが国の海外における経済進出状況を比較的よく反映しているのに対し,日本人会についてみると総数の約半分近い24団体がアジアにあり,長期滞在者数が一番多い北米に僅か5団体,在留邦人数の一番多い中南米に3団体を数えるのみである。
日本人会は一般に会員相互の親睦を主目的としているが,バザーを開催して売上金を孤児院等へ寄付したり,現地社会に対し生花,日舞等わが国文化の紹介を行うなど現地社会との融和に意を配つている団体もある。
他方,進出企業団体のうち小規模な団体は法人化の手続をすることもなく,ただ毎月1回程度集つては仕事上の情報を交換したり,相互親睦を深めているだけである。
しかし,バンコック日本人商工会議所(会員286社),ロス・アンジェルス日本貿易懇談会(226社)及びブラジル日本商工会議所(200社)等大規模な進出企業団体は若干の例外を除き,商工(業)会議所の名称を掲げ,現地法人として事務所を構え,講演会の開催,現地労働事情の調査,投資活動の実情把握等活発に活動しており,例えば最大のバンコック日本商工会議所では理事会の下に7委員会,14部会が設置され,関係法令の翻訳,各種懇談会の開催,諸資料及び機関誌の発行等が行われている。