1. 国連環境計画(UNEP)の活動
第27回国連総会決議(2997)により創設された国連環境計画は,その後,着実な歩みを見せ,全世界的ないしは地域的レベルの環境保全のための具体的な活動を続けている。74年3月には,ナイロビ(ケニア)で第2回環境計画管理理事会が開催され,74年度環境計画実施のためのガイド・ラインが策定され,その具体化のための幾つかの会議が開催された。国連環境基金は,これらの活動に財政的支援を与えており,わが国も,74年度分として,同基金に1.5百万ドルの拠出を行つた。
(1) 第2回環境理事会の開催
第2回理事会には,わが国を含む58の理事国が参加し,74年3月ナイロビで開催された。同理事会は,当面の環境計画の重点事項の策定について審議を行つた。わが国は,重点活動計画として,地球監視(環境モニタリング及び環境情報源照会)制度の確立,環境技術援助,海洋汚染の防止,環境アセスメントの発展,有害化学物質の国際登録制度の確立等7つの提案を行い,これらは15の重点計画事項の中に取り入れられた。
また第27回国連総会決議(2999)により同理事会に審議が付託された人間居住基金の設立問題については,先進国と開発途上国の間に意見の対立がみられたが,最終的には,開発途上国の要望をも勘案して,人間居住財団(ファウンデーション)を設立することとなつた。第2回国連人間環境会議の開催問題については,わが国及びメキシコが招致の意向を表明したが,理事会メンバーの中には,国連環境計画の活動が緒についたばかりであり,第2回会議の開催を審議するのは時期尚早であるとの意見が強く,結局この問題の具体的な審議は将来の理事会で行われることとなつた。
(2) 第29回国連総会での審議
74年秋の国連総会では,第2回理事会の報告をもとに審議を行い,UNEP管理理事会報告,国連人間居住会議,国連人間居住財団の設立に関する3つの決議を採択した。また,同総会では,環境理事会メンバーの一部改選が行われ,わが国は,アジア・グループから再選された。わが国の任期は77年末までである。
(3) UNEPプロジェクトの実施
この間,理事会で決定された環境計画の重点計画に従い,具体的なプロジェクトの実施のための幾つかの会議が開催された。わが国は,モニタリング政府間会議,国際情報源照会制度に関する専門家会合,有害化学物質の国際登録制度に関する専門家会議等に参加し,それぞれの分野で積極的に協力を行つている。また,76年5月に開催される国連人間居住会議のための政府間非公式協議が開催され,同会議で審議されるべき主要事項のガイドラインを策定した。さらに,10月には同会議事務局長が来日し,関係大臣等と意見交換を行つた。
73年末のエネルギー危機は代替エネルギー源の研究開発を促進させる結果となり,なかんずく,最も現実性のあるエネルギー源として原子力エネルギーの開発については各国とも並々ならぬ力を注ぐこととなつた。原子力エネルギー研究開発をめぐる国際協力は,従来の研究協力あるいは2カ国間の協力等に加え,国際原子力機関(IAEA),その他の場における原子力協力が従来にも増して盛んとなつた。
(1) 74年2月米国のキッシンジャー国務長官の提唱で開催されたワシントン・エネルギー会議において,核燃料(天然ウラン及び濃縮ウラン)の供給確保を西側諸国全体としてどうするかとの観点から討議が行われた。以降74年の暮れまで,専門家を中心とした作業グループにおいてこの問題に関する討議が行われたが,他の国に比して一段と原子力開発の必要性にせまられ,かつ核燃料資源を有しないわが国は当初からこの作業には積極的に参加した。
(2) IAEAにおいては,従来から各種パネル・シンポジウムの開催,対開発途上国技術援助等活発な国際協力が行われていたが,エネルギー危機を契機に,今まで原子力平和利用の必要性を感じていなかつたような開発途上国も相次いで原子力開発に乗り出す意欲を見せ,これに対し,原子力発電安全基準の策定,技術援助の増大等の面においてIAEAは大きな役割を果たしており,特にわが国は技術援助資金の拠出(米ソに次いで第3位),研修生の受入れ等積極的な貢献を行つている。更に,核爆発の平和的応用を実現するため,IAEAは従来から専門家パネルを通じ,各種作業を行つてきたが,74年2月,わが国,米国等の努力でIAEA事務局内にこの問題を担当するための組織が設けられた。
(3) 核爆発の平和利用については,わが国は平和目的を標傍して新たな核実験が行われるのを防止するためにも,その早期実現が必要であるとの考えのもとに,74年の第29回国連総会においては,IAEA,CCD(軍縮委員会)等における核爆発の平和的応用に関する国際研究を更に増進すべしとの趣旨の決議を推進し,成立させることができた。
(4) わが国は米国,英国,カナダ,オーストラリア及びフランスの5カ国と原子力の平和利用分野における協力を行うため協定を結んでいる。これら原子力協定に基づいて協定当事国との間で情報交換,核燃料物質,資材,設備等の移転を行つている。また各原子力協定に基づく保障措置の実施をIAEAに移管するため,わが国と協定当事国及びIAEAとの間で保障措置移管協定を結んでいる。また,スウェーデン及びイタリアとの間に情報交換等に関する書簡交換を行つている。更にドイツとは科学技術協定により原子力炉の安全性等の分野で協力が行われることになつている。
(1) 最近の宇宙開発は,従来の科学的探査を主とする段階から,宇宙技術の発展に応じ宇宙の利用を主とする方向に変つてきている。既に実用中の通信衛星のほか,静止軌道の気象衛星,放送衛星等の実用化のための開発が活発に行われている。このような重点の移行に伴い,宇宙空間の効率的利用及び各国の利害関係の調整が必要とされている。
(2) 国連宇宙空間平和利用委員会は,66年に「宇宙条約」を,この宇宙条約を補完する細目協定として,68年及び72年に「宇宙飛行士および宇宙物体の救助返還協定」,「宇宙損害賠償条約」をそれぞれ作成した。
(3) 74年には宇宙空間平和利用委員会は構成国が28カ国から37カ国に拡大された。委員会は72年以来の懸案である「月条約案」及び「宇宙物体登録条約案」の審議を引続き行い,「登録条約案」を完成した。また,72年の第27回国連総会決議「直接テレビ放送衛星の使用を律する国際条約の準備」に関連して直接放送衛星に関連する諸問題の審議を行い,法原則の起草作業を開始した。
74年の第29回国連総会は宇宙問題に関し,宇宙物体登録条約加入勧奨決議を採択したほか,月条約案の審議,直接放送衛星の使用を律する諸原則の審議,資源探査衛星による地球資源遠隔探査の法的・機構的側面等の検討などを内容とする「宇宙空間の平和利用」に関する決議を採択した。
(4) 国連主催の「教育用衛星放送システムに関する国連パネル会議」が,わが国の招請により74年2月26日から3月7日まで東京で開催された。同会議は将来における教育用衛星放送システムの導入に関連する諸問題を討議するため,主としてアジア諸国から専門家が参加し開催されたものである。教育用衛星放送は宇宙応用技術の中でも多くの国が特に強い関心をもつ分野であり,同パネル会議の成果は参加国から高く評価された。
(5) 日米間の協力については,69年の宇宙開発協力についての交換公文に基づき,わが国のロケット(Nロケット)及び実用衛星開発のために,米国からの技術及び機器の導入が順調に進められている。
74年10月には,NASAフレッチャー長官が来日し,日米の宇宙協力の緊密化について協議した。
(6) わが国と欧州宇宙研究機構(ESRO)との協力は,72年の宇宙研究開発協力についての書簡交換に基づき地道に進められており,日本・ESRO宇宙問題協議第1回会合が73年10月に東京で開催され,また第2回会合が75年7月に開催されることとなつた(於東京)。
(7) 日仏間の協力については,73年に引続き,74年3月,宇宙開発のための政府機関であるフランス宇宙開発センター(CNES)とわが国の宇宙開発委員会との会議が東京で行われた。
国連放射線影響科学委員会は,大気圏内核実験による放射性降下物の人類に与える影響について調査するため,55年に国連総会により設立されたものである。第23回委員会は,74年10月,加盟20カ国の参加の下に開かれ,72,73両年の大気圏放射能汚染度につき報告書を採択し,これを特別政治委員会に提出した。同報告書は,上記両年のストロンチウム90及びセシウム137の累積量は,65年以来,わずかながら減少傾向を示しており,66年以来の最低を記録したが,73年におけるヨード131からの甲状腺線量の水準は65-67年の高水準に接近しており,さらに監視を必要としていると述べている。
(1) 南極地域においては,61年以来南極条約協議国(わが国を含む原署名12カ国)を中心とした科学的調査,環境保全,生物資源の保護等の分野での国際協力が実施されているが,最近ではこのほかに鉱物資源探査開発,非商業航空路の開発,観光事業等,経済開発に関する協力問題も次第にクローズアップされてきている。
(2) 南極条約協議国は,南極地域に関する情報を交換し,共通の利害関係事項について協議し,必要な措置につき各国に勧告を行うため,概ね約2年毎に,南極条約協議会議を開催している。第8回協議会議は,75年6月にオスロで開催されることとなつたが,74年11月と75年2月このための準備会議が開かれた。第8回協議会議での主要議題は次のとおりである。
(イ) 人間が南極の環境に及ぼす影響
(ロ) 運輸協力
(ハ) 南極資源-鉱物探査の影響
(ニ) 非締約国の活動
アジア科学協力連合(ASCA,Association for Science Cooperation in Asia)は,アジア諸国の科学・技術協力を推進するための政府間機関であり,加盟諸国の科学・技術担当大臣もしくはこれに準ずる者を首席代表とする会議を各国持回りで毎年1回開催している。
ASCA第3回会議は,74年4月にニューデリーで開催され,オーストラリア,バングラデシュ,ビルマ,インド,インドネシア,日本,韓国,ネパール,ニュー・ジーランド,フィリピン,シンガポール,スリ・ランカ,タイ,南ヴィエトナムの14カ国の代表が出席し,ほかにカンボディア,マレイシア及び4つの国連機関の代表がオブザーバーとして出席した。同会議は,今後ASCAがとりあげるべき地域協力プロジェクトとして各国研究機関提携問題など6件のプロジェクトを審議し,更に,各国から,関心を有する協力プロジェクトとして,低コスト住宅建設,科学情報交流等合計26件が提示された。更に,第4回会議を75年4月にキャンベラで開催することが決定された。