第29回国連総会は,法律問題としては,国連国際法委員会報告書,国連商取引法委員会報告書,国際司法裁判所の役割再検討等の議題を審議したほか,侵略の定義特別委員会報告書の審議を行い,12月14日,「侵略の定義」をコンセンサス(但し中国不参加)で採択した。この定義が採択されるにいたつた経緯,定義の性格,内容及び定義作成過程においてわが国のとつた態度は次のとおりである。
1. 経 緯
侵略を定義する問題は,国際連盟時代より取上げられた古い歴史をもつ問題である。国際連合成立後においては,1950年の第5回総会におけるソ連の主張が契機となり,58年まで国連国際法委員会,侵略の定義特別委員会及び第6委員会等で審議されたが,結論を得ることができず,本件問題は58年以後10年間棚上げとなつていた。
67年の第22回総会においてあらためてわが国を含む35カ国よりなる侵略の定義特別委員会が設置され,68年より同特別委は毎年一回審議を行つてきた。結局,7年間にわたる審議の結果,74年,特別委員会案が特別委参加国のコンセンサスで作成され,この案がそのまま第29回国連総会で採択された。
(1) 今回採択された「侵略の定義」は国連憲章の存在を前提としたものであるが,憲章上,侵略行為の存在を決定する権限は安全保障理事会にあり,今回の侵略の定義は,主として安保理がその決定を行うに際して用いるガイドラインとして作成されたものである。
従つて,ある国のある行為が侵略であるか否かがこの定義により直ちに決定されるというものではない。
(2) 定義は,まず第1に,一般的定義として他国の主権,領土保全,政治的独立に対する又は国際連合の目的と両立しない方法による武力の行使が侵略とされ得るものであることを明らかにした上で,武力の先制行使に関し,国際連合憲章に違反した武力の先制行使は侵略行為の一応十分な証拠であるとし,かつ,侵略行為とされ得る典型的行為を列挙している。列挙された行為の中には,他国の領土に対する侵入,攻撃のほか,沿岸封鎖,陸海空軍や船隊・航空機隊に対する攻撃,駐留軍の駐留に関する合意に反する使用や合意終了後の駐留の継続,侵略国に侵略行為のために領土の使用を許可する行為,不正規兵等による武力行使等が含まれている。
第2に,定義は侵略を正当にする事由はないこと,侵略戦争は国際の平和に対する罪であることを確認した上で,侵略の結果としての領土の取得又は特殊権益は合法的なものではなく,かつ合法的なものとして承認されてはならない旨,定めている。
侵略の定義に際しては,自衛権に基づく武力行使等合法的な武力行使が侵略とはされないためのセーフガードが必要であるが,この点については,この定義のいかなる規定も,武力の行使が合法的である場合に関する規定を含む憲章の範囲を拡大又は縮小するものと解してはならないとされている。
わが国は「侵略の定義」を作成する作業は国際の平和の維持のための国連集団安全保障体制との関連で,有意義かつ重要であるとの認識に立つて,67年に設立された本件特別委の構成国となつてこの作業に積極的に参加して来たが,右作成作業においては,第1に国連憲章上,侵略行為の存在を決定するのは安全保障理事会であることを念頭におくべきこと,第2に安保理による右決定は国連の集団安保体制を発動させる前提となる重要なものであるので,右決定に際してのガイドラインたる定義は,多くの国にとり受諾可能な妥当な内容のものとすべきであること等を基本的態度として,諸問題に対処した。
わが国としては,全体としては,妥当な定義が作成されたと考え,国連総会においては,その採択を支持した。