1. 概 況
国連専門機関は,経済・社会・文化・教育・保健その他の分野で広い国際的責任を有し,かつ国連憲章第57条,第63条に基づき,協定により国連と連携関係をもつ国際機関をいう。74年新たに世界知的所有権機関(WIPO)が専門機関として仲間入りした結果現在14の専門機関が存在している。
国連専門機関は,それぞれの専門分野における情報の交換,国際世論の形成等通常の活動に加えて,開発途上国の経済社会開発に力を注いでおり,自己の予算を以て行つているのみならず,国連開発計画(UNDP)資金をも利用している。
科学技術の進歩及びその国際化に伴い,国際協力の分野はますます拡大しており,近年専門機関により制定された多数国間条約の数は顕著なものがあり,その対象分野も,ハイジャック防止問題,海洋汚染防止等の環境公害問題等新しい問題に及んでいる。
次に国連専門機関の中で,IMF,世銀等金融関係専門機関を除く10の専門機関の最近の活動について述べることとする。
国際労働機関(現加盟国数125,事務局本部所在地ジュネーヴ)は,世界各国における労働者の生活・労働条件の改善向上を通じて社会正義と世界の恒久平和を確立することを目的として1919年に設立された。ILOのユニークな点は,総会,理事会等のILO諸会議には各国政府からの代表だけでなく,労働組合及び使用者団体の代表も参加するという,いわゆる三者構成主義をとつていることである。
わが国はILO創設来の加盟国であつたが,38年に脱退し,51年に再加盟した。54年にはILOの10大産業国の一つに選出され,それ以来理事会の常任理事国として重要な役割を果している。
74年中に開催された主な会議としては,第192回(2月),第193回(5月),第194回(11月)の諸理事会及び第59回総会(6月)があげられる。
第59回総会はジュネーヴで開催され,前回総会で第1次討議が行われた「発ガン性物質及び因子による職業上の危害の防止と管理」及び「有給教育休暇」の2議題について第2次討議が行われた結果,各議題に関して条約(第139号,第140号)及び勧告(第147号,第148号)がそれぞれ採択された。このほか,「農業労働者団体と経済社会開発におけるその役割」,「移民労働者」及び「人的資源開発」の3議題については第1次討議が行われ,75年総会でこれらの議題に関する条約ないし勧告が採択される予定である。
ILOとわが国との関係では,日本教職員組合が,74年春闘の際の組合員の逮捕,組合事務所の捜索等に関し,日本政府による労働組合権の侵害としてILOに申立を行つたことがあげられる。本件提訴は第194回理事会結社の自由委員会によりその審議が次回以降に延期された。
ユネスコ(現加盟国数136,本部所在地パリ)は,教育,科学,文化の国際交流を通じて世界平和の達成に貢献することを目的として,46年に設立されたもので,その規模は専門機関の中で最大である。
ユネスコの事業活動は,広汎多岐にわたるが(i)国際知的協力,(ii)開発援助のための実地活動,(iii)倫理的活動(平和,人権,国際理解増進等)に大別される。
わが国は,51年に加盟,52年から現在まで引続き執行委員会のメンバーとしてユネスコの諸活動に積極的に協力している(わが国の75-76年度ユネスコ分担率は7.09%(第3位)である)。
74年度に開催された主な会議としては,ユネスコ,世界知的所有権機関(WIPO)共催の衛星による送信信号保護条約採択会議(5月),第94回(5月),第95回(9月),第96回(11月)の執行委員会及び第18回総会(10月)があげられる。
第18回総会では,新事務局長の指名,76-82年ユネスコ中期計画の設定,国際文化振興基金の設立等のほか,「国際理解教育に関する勧告」,「技術職業教育に関する改正勧告」及び「科学研究者の地位に関する勧告」がそれぞれ採択された。また同総会におけるイスラエル関係諸決議はユネスコにおける政治的論議として,加盟国に様々な反響を呼び起した。
わが国のユネスコに対する協力としては,74年度にアジア地域教育刷新計画に12万ドル,ボロブドウル遺跡(インドネシア)保存に10万ドル,ヌビア遺跡(エジプト)保存に1万ドルをそれぞれ拠出したほか,教育,農業研修,海洋学の分野に対し総額9万ドルの信託基金拠出を行つた。また,74年2月には東南アジア基礎科学地域協力専門家会議,6月にアジア地域定期刊行誌発展専門家会議が本邦で開催され,わが国を中心としてアジア地域のコミュニケーション及び科学分野専門家の協力が促進されることとなつた。
国連食糧農業機関(現加盟国数131,本部所在地ロ-マ)は,世界各国民の栄養水準,生活水準の向上,世界の食糧増産を図ることを目的として45年に設立された。
現在,農村開発のための人的資源の動員,高収量品種の普及,蛋白質ギャップの解消,生産及び生産手段等の浪費の縮小,外貨獲得と節約及び農業開発計画の6分野を重点項目としている。
わが国は,51年に加盟して以来,FAOの主要機関である理事会,商品問題委員会,水産委員会,農業委員会,林業委員会等のメンバーとして,FAOの諸活動に積極的に協力してきている(わが国の74-75年度FAO拠出金分担率は9.11%(第2位))。
さらにFAO・国連の共同計画として,開発途上国への多数国間食糧援助機構として63年に発足した世界食糧計画(WP)に対して,73年末までに総額595万ドル(水産缶詰が主体)を拠出し,75-76年の2年間に600万ドルの拠出誓約を行つている。74年に開催された会議の主なものは,第63回,第64回理事会,第9回水産委員会,第2回農業委員会,第2回林業委員会,第49回商品問題委員会があり,わが国は,これらの会議を通じFAOの活動に積極的に参加してきた。
なお,第63回理事会(7月15日-19日)では,最近の開発途上国における肥料不足の問題を扱う「国際肥料供給スキーム」を発足させ,また,第64回理事会(11月18日-29日)では,11月ロ-マで開催された世界食糧会議における諸決議のフォロ-アップ問題を検討するとともに,食糧安全保障に関する国際約束を採択している。
さらにわが国とFAOとの協力としては,73年9月,東京でFAO第12回アジア極東地域総会が開催され,域内21カ国及びFAO事務局から約200名が参加した。本地域総会においては域内の農業問題の現状について分析を行つた後,肥料及び農薬,総合農村開発,域内FAO活動の3項目について決議を採択した。
また,FAO事務局長によるサハラ南方地域干ばつ救援アピールに対し前年の2億6千万円に加え5億円の第2回拠出を行つた。
世界保健機関(現加盟国数142,本部所在地ジュネーヴ)は,48年に設立された保健衛生の分野における国際機関で,全世界の人々の健康増進をはかることを目的としている。WHOは,現在天然痘・マラリアの撲滅に多大の努力を払つているほか,保健従事者の訓練,環境衛生の改善等各分野にわたる事業を推進している。
51年にWHOに加盟したわが国は,各種の専門家諮問部会・セミナー等への積極的参加をはじめ,WHOの派遣する研修生の受入れ(74年41名),開発途上国への専門家の派遣(同9名)を行い,またWHOが特に力を入れているエティオピア天然痘撲滅計画にも71年から調査団,専門家,青年協力派遣隊員等を派遣するなど,保健分野における国際協力に寄与している。
74年に開催された会議の主なものは,第27回WHO総会,第25回WHO西太平洋地域委員会等があり,わが国は,これらの会議を通じWHOの活動に積極的に参加してきた。
44年に設立され,47年に発足した国際民間航空機関(現加盟国数129,本部所在地モントリオール)は国際民間航空の安全確保のために法律的,技術的に大きな役割を果してきているが,わが国は53年にICAOに加盟し,また56年以降は引続き理事国として積極的にICAOの諸活動に参加している。
現在ICAOが最も力を注いでいるものには,多発しているハイジャック等の民間航空に対する不法妨害行為の防止のほか,航空機騒音防止問題がある。ハイジャック等については,既にこれら不法妨害行為防止のためにICAOが中心となつて作成した条約として,(1)「航空機内で行われた犯罪その他ある種の行為に関する条約」(69年発効),(2)「航空機の不法な奪取の防止に関する条約」(71年発効),(3)「民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(73年発効)があり,わが国はいずれにも加入している。また,ICAOは航空技術及び航空行政の面から民間航空の安全を確保するための国際標準を定め,これをICAO条約第17条付属書として採択した(74年3月)。
他方,近年の民間航空の急激な発展が航空機騒音問題を引起こしているため,ICAOは航空機の騒音証明制度を設け,これをICAO条約第16付属書として採択(72年1月発効)し,航空機騒音の損害賠償問題については法律委員会の作業の一環として近く検討を始めることとなつている。わが国は航空公害の分野での対策研究については国際的に高い水準にあるので,ICAOの航空機騒音委員会等におけるこの問題の検討に積極的に参加し寄与している。
政府間海事協議機関(現加盟国数88,本部所在地ロンドン)は58年に設立された。海上の安全と航行の能率を確保するために有効な処置を勧告したり,世界の自由な通商を確保するために各国政府の差別措置や制限を除去するよう奨励することを主要な目的としている。
わが国は58年IMCOに加盟して以来理事会及び海上安全委員会の有力なメンバーとなつている。世界の海運及び造船界でわが国が占める地位からIMCOの活動はわが国にとり極めて重要であるといえる。
なお,74年のIMCO活動の中で特筆されるものとして,その主催により船舶の安全基準を定めた「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」が74年11月ロンドンで作成され,また旅客及びその手荷物を国際的に海上輸送する運送人の責任(事故の際の補償責任)範囲を定めた「1974年の旅客およびその手荷物の海上運送に関するアテネ条約」が74年12月アテネで作成された。
わが国は気象面での国際協力を目的とする世界気象機関(現構成員140,本部所在地ジュネーヴ)に53年に加盟,55年第2回世界気象会議以来同会議に代表団を派遣し,気象問題に関する国際協力に努めている。
なお,WMOは全世界的協力により数個の静止気象衛星を打上げて,地球上の気象観測を行う地球大気開発計画(GARP)に参画しており,わが国も静止気象衛星1個を打上げ,この計画に協力することを検討している。
わが国は1877年,国際的郵便連絡の増進を目的とする万国郵便連合(現構成員154,本部所在地ベルヌ)に加盟,郵便物の相互交換の円滑化,郵便業務の組織化等のための国際協力の増進に積極的に寄与している。
74年度は,執行理事会(2月)及び郵便研究諮問理事会(10月)がベルヌで開催されたほか,69年以来の大会議が5月から7月にかけてローザンヌで開催され,基本文書である万国郵便連合憲章については追加議定書の形でその一部が改正され,万国郵便連合一般規則,万国郵便条約及び関係諸約定については現行のものに代る全く新たなものが作成され,それぞれ採択された。
わが国は1879年ITUの前身である万国電信連合に加盟し,1934年に国際電気通信連合(ITU)が創立された後も国際電気通信の改善及び合理的利用のための同連合の活動に参加し,特に59年以降現在に至るまで継続して管理理事国に選出されている。
74年は,海上移動通信に関する世界無線通信主管庁会議(4月),第29回管理理事会(6月)及び長・中波放送に関する地域主管庁会議(10月)がジュネーヴで開催された。わが国はそのいづれにも代表団を派遣し,その審議に積極的に参加した。
WIPO(現加盟国数56,本部所在地ジュネーヴ)は,67年に設立され,70年に発足した知的所有権に関する国際機関で,その目的は(1)全世界にわたつて知的所有権の保護を促進すること,及び(2)その管理に関する諸同盟間の協力を促進することにある。
WIPOは設立と同時に国連専門機関となるべく国連と交渉を進めていたが,74年12月17日,国連総会により第14番目の専門機関として承認された。
WIPOは現在,新しい知的所有権保護のための国際協定の検討,開発途上国に対する関連法令整備のための技術援助,関連情報の収集,国際的登録等の活動を行つている。
わが国は75年1月20日,加盟のための批准書寄託を行つたが,WIPO設立条約の経過規定により正式加盟以前から加盟国と同一の権利を行使してきており,74年には第3回一般総会,第2回臨時調整委員会並びに各種の専門家委員会に代表を派遣し,積極的な活動を行つている。