第1節 第29回総会における政治問題
1. 朝 鮮 問 題
73年の第28回総会において,朝鮮問題は南北対話の継続等を骨子とするコンセンサスによる収拾がはかられ,第29回総会の仮議題には掲上されていなかつたが,74年8月に入りアルジェリア等北朝鮮支持の29カ国(その後追加して35カ国)は,「国連旗の下に南朝鮮に駐留する全ての外国軍隊の撤退」と題する議題追加を要請した。
これに対し,わが国を含む韓国支持国(最終的には計28カ国)は,9月に「第28回国連総会コンセンサスの完全実施並びに朝鮮半島の平和と安全の維持に対する緊急の必要性」と題する議題要請を決議案を付して行つた。同決議案の骨子は,(1)73年のコンセンサス再認識,(2)国連軍司令部の将来を含む朝鮮問題に安保理が考慮を与えるよう希望するとの2点から成るものであつた。
次いで北朝鮮側決議案が出され,その骨子は(1)国連旗の下に南朝鮮に駐留しているすべての外国軍隊の撤退,(2)(1)の問題解決のため直接の関係者が適当な措置をとることを要求するものであつた。
第29回総会では,まず冒頭に韓国支持派と北朝鮮支持派がそれぞれ出していた議題を朝鮮問題という統一議題と二つのサブアイテムの下に審議を行うことにつき合意がなされた。
朝鮮問題の実質的審議は,第1委員会において11月25日より12月9日まで行われ,投票権なしで審議に招請された韓国及び北朝鮮の代表を初めとして,計70カ国代表が上記2つの決議案をめぐる討論を行つた。わが国は,(1)朝鮮の平和的統一の促進と平和安全の維持継続が必要である,(2)73年のコンセンサスに基づく対話の発展相互交流の拡大を希望する,(3)休戦体制維持のため,休戦協定を代替しうるような何らかの取極が当事者間で事前に合意されない限りは,国連軍の一方的撤退,国連軍司令部の解体をすることは朝鮮半島の平和と安定のために危険である,(4)安保理が国際の平和と安全維持の責任を有していることから,国連軍司令部の将来について決定する権限を有する,などの諸点につき発言した。
討論終了後,双方決議案が表決に付され,サウディ・アラビア修正案を含む韓国支持派決議案(骨子は(1)73年のコンセンサスを再確認し,朝鮮の平和的統一を促進するため南北対話の継続を要請する。(2)安保理が,休戦協定を引続き堅持することを念頭において国連軍司令部を解体することを含む朝鮮問題の諸部面に対し,適当な時期に直接当事者と協議しつつ考慮を与えるよう希望表明する。)は賛成61反対42棄権32で採択され,北朝鮮支持派決議案は賛成48反対48棄権38で否決された。
この結果は,第1委員会報告として12月17日開かれた本会議の表決にかけられ,賛成61反対43棄権31でわが方案は決議3333(XXIX)として採択された。
第28回総会においては,「カンボディア民族連合王国政府の代表権回復の必要性及び正統性」を骨子とするアルジェリア等非同盟諸国及び中国側決議案が審議延期となり,第29回総会に持ち越された。(注)これに対し,カンボディア問題の解決はカンボディアの当事者自身が外部からの干渉なしに平和的に話し合うことによつて実現されるべきであり,国連がカンボディア当事者による決断を予断するような行動はとるべきでないというASEAN諸国及びその立場を支持するわが国等計23カ国は,次の3項を主文とする決議案を提出した。
(1) 直接関係当事者に対し,クメール人の主権尊重に基づき,カンボディア問題の平和的解決の達成を目指して話し合いを行うよう要望する。
(2) 事務総長に対し,当事者に適当な助力を与えるよう要請する。
(3) 全加盟国に対し,話し合いの結果を尊重し,第30回総会においてこれらの努力の結果が考慮されるまで他のいかなる措置をもとらないよう要請する。
討議は11月26日より本会議において開始され,先に配布されていたアルジェリア案及びASEAN案双方支持国計40カ国による一般討論が行われ,27日一般討論終了後表決に入り,投票により先議権を獲得したASEAN案(サウディ・アラビア修正案を含む)は賛成56反対54棄権24で採択された。
クメール委任状については,12月13日午前委任状委員会が開かれ,種々議論がなされた後,クメール委任状を含めた全ての委任状を認める決議案が賛成5反対1棄権3で可決された。次で16日の本会議では,まず「クメール委任状以外の全ての委任状を認める」とのシリア修正案が賛成53反対61棄権19で否決された後委任状委報告が賛成85反対6棄権41で採択された。
(1) ポルトガル施政地域問題
国連は,過去永きにわたりポルトガルの植民地政策を非難し,各国に対し同国との貿易断絶,武力による解放闘争への援助等の措置をとるよう要請してきた。
このような国連での動きは,74年4月の政変後ポルトガルが非植民地化政策に踏み切つたこと(注1)を反映して大きな変化を見るに至つた。
すなわち74年の第29回総会においては,ポルトガル新政権が自決と独立の神聖な原則を受諾したことを歓迎し,ポルトガルに対し,関連諸決議に従い施政地域住民への権限の全面的移譲のための措置をとるよう要請する決議が全会一致で採択された。
他方これとは別にモザンビク虐殺調査委報告に関し,同報告をテーク・ノートし,各国政府,専門機関等に対し報告書の勧告につき適当な行動をとるよう勧奨する旨の決定が全会一致により行われた。
(2) 南ロ-デシア問題(注2)
今次第29回総会では南ロデシア人民の武力による解放闘争の正当性を再確認し,英国に対し制憲会議の開催を要請することなどを含む一般的決議と,対南ロデシア制裁内容の拡大・強化及び米国の南ロデシアからのクローム鉱輸入非難などを含む制裁決議が採択された。
わが国は,対南ロ-デシア全面的経済制裁を遵守しており,両決議ともその基本的趣旨は十分支持できるので,武力行使を是認する如き項目等に留保した上で賛成した。
(3) ナミビア問題(注3)
第29回総会では南アによるナミビア住民弾圧強化の問題や,74年9月にナミビア理事会が採択した布告を念頭においたところのナミビア天然資源保護の問題等を中心に審議が行われた。
その結果ナミビアの事態を国際の平和と安全に対する脅威とし,安保理による効果的措置を要請するとともに,各国に対しナミビア理事会布告の適用と遵守に必要な措置をとるよう要請する項目を含む包括決議及びナミビア人救済のためのナミビア基金決議が採択された。
ナミビア問題の早期解決を願望するわが国は,安保理の権限との関係で問題のある部分や,検討を要する内容を含むと考えられるナミビア理事会布告に関する条項には留保を付したが,全体としては上記二決議に賛成した。
(4) 南アのアパルトヘイト問題
52年以来国連は,南アのアパルトヘイト政策を非難してきた。最近の国連総会では多角的反アパルトヘイト運動推進のため多数の決議が採択されている。第29回総会でも,対南ア強制的武器禁輸の検討,政治犯釈放要請,南アとの政治経済関係,文化交流等の停止要請,反アパルトヘイト広報活動強化,南ア信託基金への拠出要請など合計6つの決議が採択された。わが国は従来から南アの人種差別政策に反対しており,安保理の権限との関係で問題があつたり,わが国の平和主義に合致しない条項等一部につき棄権ないし留保したほかはこれら決議に賛成した。
なお今次総会の議長は,総会が南ア人種差別主義政権の委任状を何度も否認していることは,総会が南アの参加を拒否したものと解すべきである旨の裁定を下し,加盟国の多数がこれを支持したため南アは同総会に参加できなかつた。わが国は,政策の是非をめぐつてなされた委任状否認に関する本裁定には問題ありと考え棄権した。
第29回総会ではアラブ諸国を中心とする43カ国の要請により,第7回総会以来約20年ぶりに「パレスチナ問題」を議題としてとり上げた。
10月14日総会はまず本議題審議にパレスチナ解放機構(PLO)を招請する決議3210を賛成105(含日本)一反対4(含イスラエル,米)一棄権20(含西独,英)をもつて採択した。
次いで総会は11月13日から11月22日まで本議題を審議した。まずアラファトPLO議長に始まり80カ国が一般発言を行なつたが,このうち多数を占める非同盟諸国は,シオニズム勃興以来のユダヤ人によるパレスチナ蚕食の歴史を回顧してイスラエル国家の植民主義,帝国主義的性格を非難する一方,パレスチナ人民の自決権を強く擁護する一方的な発言を行なつた。これら諸国のうちイスラエルの生存権に言及したのは少数にすぎなかつた。西欧諸国のうち西独とイタリアとが初めてパレスチナ人の自決権を認める発言をしたのが注目された。イスラエルは,PLOを殺人ギャング団であるときめつけ,イスラエルの抹殺を意図していると非難した。
11月22日総会は,(i)パレスチナ人民の自決権に関する決議3236と,(ii)PLOに対するオブザーバー資格付与の決議3237を採択した。前者は(イ)自決の権利と民族独立と主権の権利を含むパレスチナ人民の固有の権利を再確認する,(ロ)郷里と財産に復帰するパレスチナ人の固有の権利を再確認する,等の趣旨であつて,賛成89(非同盟,ソ連圏)一反対8(含イスラエル,米)一棄権37(含日本,西欧,ラ米とアジア,アフリカ(AA)諸国の一部)をもつて採択された。後者の決議は,PLOに対し総会及び総会が主催する国際会議にオブザーバーとして出席するよう招請すること等を決めたもので,賛成95(非同盟,ソ連圏)一反対17(含イスラエル,米,西欧)一棄権19(含日本,西欧,ラ米とAAの一部)をもつて採択された。
わが国は両決議に棄権したが,その理由は決議3226については,わが国はパレスチナ人の自決権を支持するものであるが,他方中東平和のためには安保理決議242(1967)の規定するごとくイスラエルの生存権も尊重されなければならないとの立場をとるところ,本決議はイスラエルの生存権についての明確な言及がなく,上記安保理決議242との整合性に疑問があると認められたからである。また決議3237については,同決議は一般的包括的にPLOにオブザーバー資格を与えるもので,これまでの国連の慣行に反するものであるためであつた。
国連憲章再検討問題は,第24回総会でコロンビアのイニシアチブにより議題として採択されて以来,第25,第27回総会と3度審議が行われ,憲章規定が現実に即しているか否かレビューの必要があるとする再検討積極派と,その必要はなく,かかる試みは危険でさえあるとする再検討消極乃至反対派が激しく争い,その都度審議棚上げによる妥協的解決がはかられてきた。第29回総会においても同総会の主要政治問題の一つとして注目されたが,再検討積極論の急激な昂まりが見られ,ソ連東欧諸国等の強い反対にもかかわらず国連憲章再検討のためのアド・ホック委員会設立決議が賛成82(わが国を含む)反対15棄権36不参加1の圧倒的多数で採択された。
わが国は,第25回総会で愛知外務大臣が一般討論演説のすべてを費して安保理・国連機構の強化,国連平和維持活動の強化,旧敵国条項の廃止などを訴えたことから明らかなように,国連強化の見地からこの問題には当初より積極的姿勢を示してきた。第29回総会においても,コロンビア,フィリピン,イタリア,ブラジル等とともに,憲章再検討を不要とするソ連東欧諸国決議案,本問題の再度棚上げを意図するサウディ・アラビア決議案に対抗しつつ,上記アド・ホック委員会設置決議案を積極推進した。
(注) 70年3月のカンボディア政変後,カンボディア政府は共和制に移行しクメール共和国(ロン・ノル大統領)と称するようになつた。一方,同政変により元首の地位を追われたシハヌーク殿下は同年5月,北京にカンボディア民族連合王国政府を樹立するとともに,カンボディア国内の反政府勢力と連携し,ロン・ノル政府打倒を目指して活発な外交活動を行うこととなつた。
国連総会では,第25回総会(70年)及び第26回総会(71年)における委任状委員会,あるいは同委報告を審議する本会議でクメール共和国政府代表の委任状に対し若干の国が留保を表明し,第27回総会では委任状委員会で,クメール共和国代表の委任状を承認しないとのセネガル提案が表決に付され,賛成3,反対5(わが国を含む)棄権1,(ソ連)で否決された。
(注2) 国連は,65年英国より一方的に独立を宣言した南ロ一デシア白人少数政権を終熄させるため,同政権に対し経済制裁を行う一方,英国に対し一人一票にもとづく政治的解決を求めるなどの決議を採択してきた。このような動きにもかかわらず一向に解決の兆を示さなかつた同問題も,74年末以来一人一票の政治体制樹立をめざす制憲会議の開催へ向かつて一歩踏み出しつつある。
(注3) 国際連盟時代南アの委任統治領であつたナミビア(旧南西アフリカ)に関する問題は,46年以来国連でとりあげられ,66年の第21回総会が,南アによるナミビア統治は終了したとし,同地域を国連の直接の責任下におくと決議した後,翌年の第5回特別総会は,南アのナミビアからの撤退を求めるとともに,暫定的にナミビアを施政するものとしてナミビア理事会を設置する決議を採択した。しかし南アはこれら決議を無視し,依然として同地域に居座つている。