第7節 国際機関を通ずる協力

 

 1. 世界銀行を中心とする国際協力

 

 世銀(国際復興開発銀行:IBRD)グループの74世銀会計年度(73年7月より74年6月まで)の融資承諾額は,45億ドルを超えた。その内訳は,世銀が32億1,800万ドル(前年20億5,100万ドル),国際開発協会(IDA)が10億9,500万ドル(同13億5,700万ドル),国際金融公社(IFC)が2億300万ドル(同1億4,700万ドル)である。

 一方,資金調達面でも74年中に21件の世銀債を発行し,18億5,300万ドル(前年17億2,300万ドル)を借入れた。また,世銀は70年11月自己資金拡充のため22億2,200万ドルの特別増資(授権資本は270億ドルとなつた)を決議し,目下その応募がなされている。わが国はこれに対し最高額の2億5,040万ドルの応募を行い,その結果7年より五大出資国となり任命理事を出すこととなつた。

 IDA第4次資金補充(総額45億ドル)は,75年1月7日発効したが,わが国のシェアは,第3次資金補充の際の6%から11%(495百万ドル)へ大幅に引上げられ,またこれに伴いわが国の総拠出額順位は,フランス,カナダを追越して第4位となつた。

 わが国と世銀グループの関係は年々緊密化し,特に資金協力の面で著しい。70年に日銀より720億円(2億ドル)の貸付を行つたのを皮切りに72年には単一貸付としては世銀史上最大規模の1,350億円貸付を行い,74世銀会計年度末貸付累積は4,328億円である。また,71年に230億円の円建て世銀債が発行されたのを皮切りに74世銀会計年度末発行額は1,080億円である。

 世銀は,WHOとともにその他の国際機関及び先進諸国の協力を得て西アフリカ地域における風土病(オンコセル力症)の撲滅計画を74年より当初期間6カ年の予定で開始しているが,わが国もこれに対し応分の資金協力を行う予定である。

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2. アフリカ開発基金

 

 64年に設立されたアフリカ開発銀行は,加盟資格をアフリカの独立国に限つていたことから(当初25カ国)資金量が乏しく(資本金2億5,400万ドル),またその貸付条件は,緩和された条件の融資を必要とするいわゆる後発開発途上国の多いアフリカ諸国の期待には必ずしも沿いうるものではなかつた。このためアフリカ開発銀行はOECDのDAC(開発援助委員会)加盟国と検討した結果,緩和された条件による融資を行う機関として新たにアフリカ開発基金を設立することが合意され,72年11月象牙海岸共和国の首都アビジャンにおいてアフリカ開銀及びわが国をはじめとする13カ国が本基金設立協定に署名した。

 わが国は本基金設立構想を積極的に支持し,カナダと並び最高額の1,500万計算単位(1計算単位は1スミソニアン・ドルに相当する価値を有する)を出資した。本基金への参加により,わが国はアフリカにおける国際開発金融機関にはじめて参加することとなつた。

 本基金協定の批准ないし受諾国は,74年12月現在わが国,西独,カナダ,英国等の14カ国である。同協定は,73年6月末に発効し,同年8月1日をもつて業務を開始した。74年12月末現在の融資承諾実績は,17件4,200万計算単位である。また同年12月末現在の出資金応募額は,約8,066万計算単位である。

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3. 米州開発銀行加盟問題

 

 ラ米地域の経済,社会開発の促進を目的として59年に設立された米州開発銀行(Inter-American Development Bank:IDB)は,地域開発銀行としては最大の規模(73年末現在の応募資本は約57億ドルでアジア開銀のほぼ2倍)を誇るものであるが,その加盟資格を米州機構(OAS)のメンバー国に限定していたことから,先進国では米国が唯一の加盟国となつていた。このために,IDBの米国に対する資金依存度はきわめて高く,かねてより資金ソースの多角化に努力してきた。

 その一方策として,加盟資格をOASメンバー国以外の域外国にも開放することとなり,先ず72年3月設立協定の改正を行い,同年5月にカナダの加盟実現をみた。更に,IDBは,わが国をはじめとするIMF加盟の域外先進国(及びスイス)とのIDB加盟交渉を積極的に推進してきたところ,74年12月に開かれたIDBと域外国との会合において殆んどすべての問題につき,実質的意見の一致をみるに至つた。

 今後は,未だ意見一致をみない若干の詳細を解決した上で,わが国を初めとする域外加盟予定国及び現行域内加盟国が,それぞれ,域外国加盟のための所要の国内手続きを開始することとなつている。

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4. OECD開発援助委員会(DAC)

 

 OECDのDACは,開発途上諸国の国民生活水準の向上のために,開発援助の拡充とその効果の増大を目的とし,開発援助に関連するあらゆる問題についての討議,検討を行う委員会である。わが国はDACの前身であるDAG(開発援助グループ)の第1回会議(1960年)以来メンバーとして参加してきている。

 参加国はわが国を含め米,英,独,仏等7カ国及びEC委員会である(74年10月にポルトガルが脱退し,75年1月にフィンランドが新たに加盟した)。74年2月にはこれまでのマーチン議長に代わつて米国国際開発庁(AID)前次官のウィリアムズ氏が新議長に就任した。

 毎年の年次審査の結果をもとにしたDAC議長報告(「開発協力-DAC加盟国の努力と政策」)は援助に関する国際的に最も権威ある資料とされている。ウィリアムズ議長による74年版報告は「開発の現状と将来」の問題を取り上げ,石油,食糧,人口等に焦点をあてて開発努力の現状を分析している。

 74年のDACの活動のうち,わが国との関係で特に注目すべき点は次のとおりであつた。

(1) 対日年次審査

 73年の開発援助実績についてのDAC加盟各国に対する年次審査は74年6月から11月にかけて実施された。わが国に対する年次審査は西独とカナダを審査国として7月12日に行われた。この年次審査の席上,わが国の73年の援助実績に賞讃の声が寄せられたが,それは特に,政府開発援助(ODA)が前年比65.4%増の10.1億ドルに増加したこと,これに伴い対GNP比が0.25%に向上したこと(DAC平均は0.30%),資金の流れ総量が対前年比114.4%増の58.4億ドルに増大し,対GNP比が1.44%となり(DAC平均は0.78%)1%目標を越えて飛躍的に増大したこと等に関してであつた。

 しかしながら他方において,ODAの対GNP比0.7%目標の速かな達成のための最善の努力が要請された。

 援助条件に関しては,わが国のODA全体のグラント・エレメント(援助条件の緩和度)が61.1%から67.9%へ改善されたことが評価された。しかし,この数値はDAC平均(86.7%)はもとより援助条件に対する72年DAC勧告(84%以上)に比しても低いことから,条件改善の具体的方策を講ずるよう希望が表明された。

 石油危機後のわが国のアラブ諸国に対する大口コミットメント及び援助対象国の選定基準について関心が寄せられた。

(2) 第13回上級会議

 第13回DAC上級会議は10月22,23の両日パリのOECD本部において加盟17カ国及びECの開発援助担当閣僚及び政府高官の出席を得て開催された。

 本会議の議題として(イ)緊急ニーズへの対応,(ロ)世論の支持形成,(ハ)援助の地理的配分が取り上げられた。

 緊急ニーズの対応に関しては,深刻な「開発の危機」に直面している現在,援助供与国は最近の経済的諸要因にかかわらず,開発途上諸国の緊急ニーズへの対応努力及びODAの量的拡大努力が強化されるべき旨強調された。

 世論に対する啓発に関しては,国内的困難に直面する先進民主主義社会では世論に援助増大を納得させることに困難が伴う等の見解も示された。しかし,この問題については情報の相互交換の有益性及びこの分野でのDACの活動強化の必要性が指摘された。

 援助の地理的配分に関しては,稀少なODAをMSAC(最近の経済情勢の変化より最も深刻な影響を受けた諸国)等開発途上国の中でも特に立ち遅れた貧困国に供与すべしとの大原則には賛意が表されたが,(イ)一人当りGNP1,000ドル以上の国に対する援助は,これをODAとして計上しない,(ロ)ODA一人当り受取額が100ドルを越える部分は,これをODAとして計上しないとの事務局の具体的提案については合意に達するに至らず,これら提案はDACにおいて更に詳細に検討していくこととされた。

 なお,ポルトガルは,DACより脱退する旨10月22日正式にOECD事務総長に通報を行うとともに同日のDAC会合の席上趣旨説明を行つた。

(3) ウィリアムズ議長の来日

 ウィリアムズ議長は,外務省の招きで8月31日より9月8日まで来日し,外務大臣をはじめ,大蔵大臣,通産大臣,経済企画庁長官及び国際協力事業団,海外経済協力基金,日本輸出入銀行等経済協力関係機関の首脳と懇談しわが国の援助政策の動向,DACの今後の活動等に関し意見交換を行つた。

(4) 開発途上国アンタイイング了解覚書への参加

 わが国は6月7日DAC加盟国間において合意に達した二国間開発借款による調達を開発途上国に解放する了解覚書に参加した。この了解覚書の参加国は現在のところわが国以下デンマーク,ドイツ,イタリア,オランダ,ノールウェー,スウェーデン,スイス,米国の9カ国である。わが国は75年1月1日より調達適格開発途上国をDAC統計指示書による開発途上国として実施することとしている。

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5. OECD開発センター

 

 本センターはOECDの関係委員会,特にDACと密接に協力しつつ開発問題に関する先進国の知識,経験を集積して開発途上国に利用させるとともに,開発途上国における主要開発問題に関する調査・研究を行い,OECD加盟先進国がより効率的な援助政策を採用するための一助となり,もつて開発に協力することを目的としている。この目的達成のため,(1)技術的知識の普及を目的としたフィールド・セミナーの開催,(2)経済開発問題,経済援助問題の調査・研究,(3)各国の経済開発研究機関との連絡及び(4)開発途上国への知識,情報の通報,普及に努めている。

 本センターは,従来の経済開発及び統計,科学技術及び工業化の分野に加え,近年社会開発及び人口の分野にも重点を置いてきており,わが国は本センターの人口問題活動計画に対し74年に9,240千円拠出した。

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6. コロンボ・プラン協議委員会会議

 

 第24回コロンボ・プラン協議委員会は74年11月26日から12月5日まで,前半事務レベル会議,後半閣僚レベル会議という日程でシンガポールにおいて開催された。会議には加盟27カ国及び国際機関等から代表及びオブザーバーが出席し,特に閣僚レベル会議には10名の大臣が出席した。今次協議委員会の議題のうち特筆すべき点は次のとおりである。

(1) コロンボ・プランのレビュー問題

 コロンボ・プランの実施期間を更に5年間延長すること及び本件協議委員会を2年に1度の開催とする方向で検討することとなつた。また,コロンボ・プラン諸国へのオイルダラーの還流を期待し,加盟国の拡大が論ぜられた。これに対しわが国等先進加盟国はコロンボ・プランの結果を弱めるとして慎重論を主張したが,結局,EEC,北欧諸国の1部及びアラブ産油国の1部を75年の会議からオブザーバーとして招致することで意見の一致を見た。

(2) 特別議題「技術協力の新展開」

 現行の技術協力のあり方に関する見直しが行われ,多くの開発途上地域諸国では従来型の技術指導もさることながら,今後むしろ,域内相互間における技術協力並びに第3国研修の実施等に対する資金面での協力を望む方向にあることが論議の過程でうかがわれた。

(3) 年次報告書の審議

 現在未曾有の経済的困難に直面している域内開発途上諸国にとつては,ソフトな条件での援助がなければ開発が望めないこと,特にMSACに対しては産油国の援助が望まれること等の意見が述べられ,また農業開発の重要性が再認識された。

(4) 閣僚レベル会議主要討議テーマ

 「最近の経済事情の諸変化と,そのコロンボ・プラン諸国経済へのインパクトに対する経済開発政策の適応」「緊急食糧援助」及び人口の都市集中化傾向に対処する諸施策」について閣僚レベルの討議が行われた。

 今回の協議委員会では技術協力問題の見直しもさることながら,現在の深刻な世界経済情勢を背景として,食糧,人口,資源等の諸問題の解決がより重要かつ緊迫した問題であるとの認識の下に議論が展開されたことが特徴であつた。

 第25回協議委員会は75年末スリ・ランカのコロンボで開催されることに決つた。

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