第6節 国際協力事業団による資金協力

 

1. 資金協力業務の発足と意義

 

 国際協力事業団による資金供給業務は,従来わが国の経済協力において必ずしも十分でなかつた政府ベースの経済協力と民間ベースの経済協力の連携の強化,及び資金協力と技術協力の結びつきの強化を目的とするものである。

 従来わが国民間企業等の海外事業に対する政府ベースの支援は,海外経済協力基金及び日本輸出入銀行を通じて実施されてきたが,両機関は融資に当りあくまで企業活動の採算性にポイントを置いており,どちらかといえば当該プロジェクトの経済協力効果は付随的なものと期待されていたわけである。したがつてその効果の具体的内容も事業実施に伴う雇用・所得創出効果が重視されていた。

 これに対し今般制度化された事業団の資金供給業務は,融資対象事業が相手国の経済,社会の発展と民生の安定向上に資するものとなることを直接の目的とし,言わば政府主導の下に民間経済協力を推進させようとの狙いを持つている。したがつて協力効果の具体的内容も事業実施に当然伴う雇用,所得創出効果は当然のことながら,更に周辺住民の福祉向上,周辺地域の開発効果が重視されている。このような意味で国際協力事業団の資金供給業務は新しいタイプの民間レベルの経済協力を目的としている。

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2. 資金協力業務の内容

 

 国際協力事業団は,資金供給業務の形態として資金の貸し付け,債務の保証,又は出資を行うが,そのような資金供給の対象となる事業は,(1)社会の開発並びに農林業及び鉱工業の開発にかかる事業に付随して必要となる関連施設であつて周辺の地域の開発に資するものの整備(関連施設の整備),及び(2)開発事業のうち試験的に行われる事業〔石油(オイルサンド及びオイルシェールを含む),可燃性天然ガス及び金属鉱物に係る鉱業並びに工業に係るものを除く〕であつて技術の改良又は開発と一体として行われなければその達成が困難であると認められるものあるいは技術の改良又は開発と一体として行われなければその経営の基礎を安定させることが困難であると認められる事業(試験的事業等)である。

 資金供給の要件は関連施設の整備及び試験的事業とも,日本輸出入銀行あるいは海外経済協力基金からの資金供給を受けることが困難なことであり,関連施設の整備に対する貸付けについては,更に関連施設の整備を必要とする本体の開発事業に対して,日本輸出入銀行,海外経済協力基金,国際協力事業団,石油開発公団,金属鉱業事業団,農林中央金庫及び商工組合中央金庫より資金供給があることが要件となつている。

 資金供給の態様は,関連施設の整備の場合は貸付けと債務保証,試験的事業等の場合は貸付け,債務保証及び出資である。特に出資については貸付け,債務保証と異なり事業の当事者となるためより危険負担が大きく,また長期間にわたり資金が固定されることになるので,当該試験的事業等に特に必要であり,事業計画の内容が適切であり,かつ貸付け又は債務の保証に代えて出資しなければ当該事業の達成が著しく困難であると認められる場合に限り,当該事業に必要な資金に充当される資本金の50パーセント以内で出資を行うこととしている。

 資金供給業務の中心である「貸付け」の条件は,当該貸付けが日本輸出入銀行或は海外経済協力基金よりの資金供給が困難な場合に限られていることにより,両機関の条件に比し相当ソフトなものとなつている。国際協力事業団業務方法書により,関連施設の整備への貸付金利は原則として2パーセント以上,特に必要と認められる場合はこれを下回ることができる。また試験的事業等への貸付け金利は原則2.5%パーセント以上であるが,関連施設の整備の場合と同様な例外措置が決められている。いずれの場合も海外経済協力基金の一般案件に対する金利が3.5パーセント以上と定められているところから,原則として3.5パーセント以下とすることとなつている。また国際協力事業団が設立に当りその業務の一部を引継いだ海外貿易開発協会が実施していた小規模な関連施設の整備或は試験的事業については,同協力の貸付け条件を踏襲し,例外として0.75パーセントという手数料なみの金利によることとしている。

 期間については,通常の金融機関が当該プロジェクトのみならず借り手の一般的金融能力等に基づき返済期間を決めるのに対し,事業団は融資対象プロジェクトの経済協力効果及び経済性のみを勘案して決めることとしており,原則として20年以内(例外30年以内)であり,据置期間は5年以内(例外10年以内)である。

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3. 資金協力業務の実績

 

 74年8月1日に発足した国際協力事業団が,業務方法書等融資業務の一般的方法についての詰めを終え,具体的融資業務の実行に入つたのは74年度第4四半期であつた。このように事業団の融資業務実施の期間は極めて短期間であつたが74年度予定融資契約額約43億のうち約8割強に当る35億円の融資契約を行なつた。

 この35億円の中で9億円は海外貿易開発協会よりの継続分であるので,国際協力事業団が新しく契約したのは,26億円で件数にして12件である。

 12件の内訳は関連施設の整備が5件,試験的事業等が7件である。またこれを分野別にみると農林業関係10件,鉱工業関係2件となつている。

 これらの融資契約に際しては,法律の定めるところに従い日本輸出入銀行,或は海外経済協力基金の業務との調整に配慮するとともに,特に当該開発案件がわが国の相手国に対する経済協力の基本方針に沿つたものであるか否か,当該地域の経済社会開発にどの程度寄与するものであるか,相手国政府及び地域住民からどのように評価されるものであるのか,わが国にとつてどのような経済的重要性を有するか等の諸点を十分考慮している。

 関連施設の整備にかかる案件の具体例は次のとおりである。

(1) マレイシアのマムート銅山開発に伴う関連施設の整備 マレイシアのサバ州において従来雨期には利用困難となつていた道路を約15キロにわたつて舗装し,鉱石輸送に利用するとともに,地域産業及び住民のための輸送路,交通路を確保しようとするもの。

(2) フィリピンの焼結鉱開発に伴う関連施設の整備 フィリピン政府の推進にかかる北ミンダナオ工業団地建設計画に沿つて同団地内に資機材積卸用の3千トン級の船が接岸可能な港を建設し,焼結鉱開発事業のプラント建設後は,これは一般に公開し,同工業用団地建設の重要拠点となるもの。

(3) インドネシアの東カリマンタンにおける林業開発事業に伴う関連施設の整備 当該事業地を中心として道路,学校,病院,教会,集会所などの公共施設を整備し新しい町づくりに寄与するもの。

 試験的事業等の具体例としては次のものがある。

(1) パプア・ニューギニア及びインドネシア南スラウエシの試験造林事業従来当該地域では伐採事業は行われているが,造林が実施されず森林資源の保護上問題があるので,必要な技術の開発・改良を行い,それぞれの地域に適した造林樹種及び造林技術を開発することを目的とするもの。

(2) インドネシア東カリマンタンの造林事業 前記(1)のケースの試験造林 事業の次の段階の事業であり,造林技術の開発・改良を図りつつ,約2千ヘクタールの造林を実施し森林資源の保護・培養をはかるとともに,現地住民の就労の機会の増大に寄与するもの。

(3) タイのとうもろこし開発事業日・タイの農協相互の協力によつて約2千ヘクタールの灌がい等基盤整備を行い,あるいはモデル農場の設置等により,とうもろこしの生産性向上を目的とし,もつて地域住民の所得向上に寄与しようとするもの。

(4) インドネシア南スラウェシの製糖事業約千ヘクタールの甘蔗農園を造成し,甘しょ栽培を試験的に実施するとともに,周辺農家に栽培指導し甘蔗の生産振興を図り,もつて当該地域農家の所得水準向上に寄与するもの。

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4. 資金協力業務と技術協力業務の一体化

 

 既述のように国際協力事業団の発足の意義の一つは,資金協力と技術協力の一体化を進めることである。この目的に沿つて国際協力事業団は新しい業務として自己の行う資金供給業務の対象となる事業に必要な調査及び技術指導を実施するとともに,補助事業としてわが国民間企業が行つている開発事業に必要な技術の指導を行うこととなつた。

 この新しい調査及び技術指導の具体的やり方は従来の技術協力の中の開発調査及び専門家派遣,研修員の受入れと基本的に異るものではない。しかし調査については,当該案件が調査後国際協力事業団の資金供給に結びつく具体的可能性があることを前提に実施される点が従来の開発調査と異なり,また技術指導については,それを申請する者が相手国政府ではなく相手国で開発事業活動を行つているわが国民間企業等である点が従来の専門家派遣・研修員受入れと異なつている。

 この調査,技術指導と資金供給の一体的運用とは,例えば,開発途上国の中で従来必ずしも開発適切とは云い難かつた地域で農業開発事業が計画され,わが国民間企業も然るべき技術的,資金的支援が得られれば積極的に協力するとの態度である場合,国際協力事業団としては,かかる開発事業計画のフィージビリティ調査等を行い,必要に応じ試験的事業等として開発事業本体に対し,また,関連施設の整備として開発事業に付随する道路,灌がい施設,診療所,集会所等に対し資金供給を行い,更に事業開始後においても同事業に必要な技術の指導を行うという形をとるものであり,かかる典型例としてはタイのとうもろこし開発事業がある。

 74年度の実績としては,調査は,タイのとうもろこし開発事業にかかる調査,ブラジルのミナスジェライス州における農業開発事業にかかる調査,ペルーのミチキジャイ銅鉱山開発に伴う道路の調査の3件であり,技術指導は14件であつた。

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