第2節 技術協力

 

1. 総     論

 

 技術協力は,開発途上地域の経済,社会開発を推進するために,必要な技術の普及あるいは技術水準の向上を目的として技術の供与を行う経済協力の一形態である。技術協力は,開発途上諸国(開発途上にある非独立地域も含む。以下同じ)からの研修員の受け入れ,それらの諸国への専門家派遣等により技術移転をはかり,その経済社会開発の担い手となるべき人材を養成することであるが,この人と人との接触を通じて諸国民間の相互理解と親善が深められるという特色をもつ。

 技術協力は,その実施主体により政府ベースと民間ベースに区分される。政府ベース技術協力の大宗は,「条約その他の国際約束」にもとづいて,全額外務省交付金により国際協力事業団が実施している。その具体的な形態は,研修員の受け入れ,専門家の派遣,機材供与,開発調査,センター協力,医療協力,農業協力,開発技術協力及び青年海外協力隊の事業である。その他政府ベース技術協力には通産省予算により国連工業開発機関(UNIDO)からの要請にもとづき実施する研修員受け入れ,セミナーの開催及びアジア生産性機構からの要請により実施する視察団及び研修員の受け入れ等,文部省所管の国費留学生の受け入れ,農林省熱帯農業研究センター及び通産省工業技術院国際研究協力官室が行う研究協力事業等がある。

 

第1表 DAC加盟諸国の経済・技術協力の実績比較(支出ベース) 1973年

 

 民間ベース技術協力は,民間団体が政府よりの補助金あるいは自己資金により研修員受け入れ,技術者派遣,調査団派遣等の協力を行うものである。DAC統計上の技術協力は,政府ベース技術協力に民間ベース技術協力で政府委託費及び補助金等の政府資金による事業支出額を加えたものである。

 わが国の技術協力の実績をDACベースでの国際比較で見ると,73年度の協力額はDAC加盟17カ国中第9位であつたが,政府開発援助総額に対する技術協力額の割合では最下位であつた(第1表参照)。

 技術協力の方式別実績で比較すれば,わが国の協力は,研修員受け入れ,技術顧問としての専門家の派遣という技術移転に直結した技術協力の実績では,主要先進国に比べて遜色をとらぬということができよう(第2表参照)。

 74年におけるわが国のDACベース技術協力関係支出額は,6,347万ドル(184億4631万円)に達し,73年の5,723万ドル(109億7,389万円)に対して10.9%の増加となり,前年の増加率60.9%を下回つた。この金額の地域別のシェアは,アジア地域62.6%,アフリカ地域14.6%,中南米地域13.3%,中近東地域5.0%,その他4.5%であり,各地域の伸び率は,アジア38.8%,アフリカ46.4%,中南米25.4%,中近東38.9%であつた。上記DACベースによる技術協力関係支出額のうち,外務省所管に係るものは総額131億212万3千円であり,このうち118億4,645万8千円は国際協力事業団を通じて技術協力実施のために支出されたものである。同事業団は,このほか通産省及び文部省から委託を受けて技術協力を実施しているが,74年度では通産省関係で9億5,976万4千円を,文部省関係で6,517万8千円を支出した。従つて国際協力事業団が上記三省の所管予算により74年度実施した技術協力関係経費は総額128億7,140万円であり,この金額は前述DACベース支出総額の69.8%を占めるものである。

 国際協力事業団は,技術協力と資金協力及びその他の形態による協力との一体化,また政府ベースの協力と民間ベースの協力との連携の強化の必要性が痛感される等の諸事情を背景として74年8月設立されたものであり,これにより,従来政府ベース技術協力を実施してきた海外技術協力事業団の業務を承継するとともに,同事業団法は青年海外協力隊事業を青年の海外協力活動の促進と助長のために必要な業務として明確に規定し,また,わが国の技術協力実施上の課題の一つであつた優秀な技術協力要員の養成,確保に対処するための業務を同事業団の技術協力業務の主要な一本の柱として定めた。

 

第2表 主要先進国技術協力実績(方式別)比較

 

 わが国の政府ベース技術協力は,着実に拡大の一途を辿つており海外技術協力事業団及びその後身の国際協力事業団の技術協力関係予算の推移は第3表のとおりである。開発途上諸国からの要請は年々増大する一方であり,わが国としては,政府開発援助の質的面の着実な拡充強化を図る必要からも今後とも技術協力の質的改善及びその量的拡大を重視するとともに,真に相手国に役立つ協力をするという観点を一層貫いていく必要があろう。以下,国際協力事業団の事業の概要を詳述する。

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2. 研修員受け入れ

 

 研修員受け入れ事業は,開発途上諸国の技術者を当該国政府及び国際機関の要請に基づき日本に受け入れて,わが国の進んだ技術を研修する機会を与えることにより,開発途上諸国の経済・社会的発展に貢献するとともに,わが国での研修を通じて日本の産業,文化等を紹介し,また相互理解を深め,国民相互間の友好親善に役立てることを目的としており,最も基本的な技術協力の形態の一つである。

 わが国の行う研修員受け入れ事業は,受け入れ方式により次の5方式に分類される。

(イ)集団研修・・・効率的に多数の研修員を受け入れることができるようにするため,わが方で予め研修コースを設定して開発途上諸国からの参加者を募集するもの。(ロ)個別研修・・・開発途上諸国からの個々の要請に基づいて先方の希望する分野について個々に研修を行うもの。(ハ)政府一般要請(GGベース)研修・・・要請を行う政府が所要経費(渡航費,滞在費,国内旅費)を負担し,わが方が研修実施機関が研修実施のために要する経費(研修付帯費)のみを負担するという条件で受け入れるもの。(ニ)国連・国際機関要請研修・・・国際機関からの要請に基づき開発途上諸国の研修員を受け入れるものであり,通常研修費用の分担は上記(ハ)に準ずる。(ホ)第三国研修・・・わが国が開発途上諸国で協力しているプロジェクト等に近隣の開発途上諸国からの研修員を受け入れ研修せしめるもの。

 74(会計)年度中に新規に受け入れた研修員は前年度より76名増加し計2,155名であつた。これによつてわが国が54年コロンボ・プランに加盟して以来政府ベースで受け入れた研修員は合計21,973名に達した。これを受け入れ地域別にみればアジア地域から75.8%,中近東地域9.7%,アフリカ地域4.0%,中南米地域等10.5%となつており,アジア地域からの研修員が圧倒的に大きなシェアを占めている。この実績を分野別にみると農業が15.3%で一番多く,次いで行政,労働13.2%,運輸及び通信郵政各々9.0,9.6%を占めている。更に,受け入れ方式別実績では,集団・個別研修で16,072名,政府一般要請研修1,497名,国連・国際機関要請研修1,573名,その他2,831名であつた。

 

第3表 外務省所管 国際協力

 

事業団技術協力関係予算の推移

 

 74年度における地域別特色は,前年末から同年初にかけての三木,小坂両特使の中近東地域訪問の際の約束に基づき,同地域からの受け入れを増加するために,中近東諸国からの研修員向けの中近東特設コースとして電力,石油化学等5コースを設置する等の努力を払つた結果,同地域からの受け入れが前会計年の238名より46.6%増の349名となつたことがあげられる。

 また74(会計)年度中に初めて第三国研修実施が実現し,タイでわが国が技術協力を実施中のコーラート養蚕研究訓練センターを利用してラオス人研修員の受け入れが開始された。研修員の母国と自然条件や生活環境が近似した条件のもとで,わが国の協力との関連を持たせつつ効果的な研修実施機関が第三国にあれば,技術水準の異なる開発途上諸国間の相互協力を支援するとともに,わが国内への研修員受け入れを補う意味からも第三国研修の拡充は意義深いものである。

 他方,研修の成果は研修員の待遇及び研修内容如何に依るところが大であり,74年度においてはこれら研修事業の内容の改善につとめた。研修員の滞在費を前年度より12%増の1日当り3,700円に増額したほか,研修付帯費を1人1月当り基準額を前年度より19%増の53,608円に増額する等,研修内容の充実をはかつた。

 また,国際研修センターの拡充については74年に,水産関係研修員の受入増加及び高度な研修に対処するため従来の三崎国際水産研修センターを移転,新築し,国際協力事業団の第6番目のセンターとして神奈川国際水産研修センターを横須賀市長井町に設立した。このセンターは研修員の宿泊とともに,沿岸漁業の実技実習を含む研修業務を実施している。

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3. 専 門 家 派 遣

(1) 実     績

 開発途上諸国に各種分野の専門家を派遣し技術協力を行う専門家派遣事業は,技術研修員を本邦に受入れて研修を行う研修員受入事業と並び,いわば車の両輪をなす最も基本的な技術協力の形態である。

 この専門家派遣事業は派遣の方式によつて政府ベースのものと民間ペースのものに分け得るが,前者の政府ベースの派遣は国際協力事業団によつて実施されており,開発途上諸国政府若しくは経済技術協力に関連する国際機関等からの要請に基づき派遣するものであるところ,74(会計)年度中に新規に派遣した専門家は計1,502名であつた。これによつてわが国が開発途上諸国への専門家派遣を開始した55年以来政府ベースで派遣した専門家の累計は総計10,550名に達した。これを派遣地域別に見るとアジア地域が7,605名(951名)で全体の72.1%(63.3%)(カツコ内は74年度のみについての実績とシェア。以下同じ)を占め圧倒的に大きなシェアを占めている。なお,アジア以外の地域への派遣実績は次のとおりである。

中近東・アフリカ地域・・・1,865名,17.7%(344名,22.9%)

中南米地域等・・・・・・・1,080名,10.2%,(207名,13.8%)

 一方この派遣実績は,派遣の形態によつて(イ)単発的,個別的に開発途上諸国政府若しくは国際機関からの要請に基づいて派遣する専門家(ロ)本節6乃至9において詳述する所謂プロジェクト方式の技術協力(専門家を派遣し,必要な資機材を供与し,現地カウンターパートを研修員として本邦に受入れることを綜合的に政府間の取極等で定めた上実施する方式)の実施のために派遣する専門家及び(ハ)本節5に詳述する開発調査実施のために派遣する調査団団員等からなつているところ,74年度末までの累績の内訳は次のとおりである。

(イ) 個別の要請に基づいて派遣した専門家は3,334名であり,このうちESCAP,SEAFDEC,ECAなどの国際機関へ派遣した専門家は214名である。

(ロ) プロジェクト方式の技術協力のために派遣した専門家は計3,079名である。このうち医療協力関係1,297名,農業協力関係925名,技術協力センター関係652名及び開発技術協力関係205名(いずれも当該プロジェクト実施のための調査等のために派遣された専門家を含む)である。

(ハ) 開発途上諸国の開発計画について各種開発調査を実施し要請国政府等を行い,或いは,実施設計等を行うために派遣した専門家は4,103名であり,第6節4の技術指導のために派遣した専門家は34名である。また,この実績を分野別に見ると農業関係が17.1%と最も多く,次いで建設関係15.7%,運輸関係10.1%,厚生関係10.1%,郵政・通信関係6.8%などが主要な分野となつている。

(2) 専門家の養成・確保

 開発途上諸国からの専門家派遣要請は年を逐つて増加しつつあるが,わが国の場合は,まず,技術的に優れ,しかも外国語にも強い専門家はそれ程多くはない上に,終身雇用制度が一般的であり,本来の業務を中断して,一時期,開発途上国へ技術協力のために赴くことを本人にとつては必ずしも有利にはしないような社会的土壌があるため,専門家としての人材を発掘することが,次第に,困難になつてきている。そのため,専門家の養成確保のために有効な施策を講ずることが大きな課題となつている。そこで国際協力事業団法は第21条第1項第5号に新たに人材の養成・確保に関する業務を国際協力事業団の本来の業務の一つとして規定するに至つた。国際協力事業団発足以前においても旧海外技術協力事業団において専門家養成確保の一環として専門家の登録制度,確保(プール)制度及び派遣前訓練としてのオリエンテーションの制度を設けるとともに地方公共団体の職員や民間企業・団体等の職員を専門家として派遣する場合には事業団がこれら職員の所属先に人件費を補填する制度を設け,これを実施してきたが,国際協力事業団の発足に伴い74年度においてはこれら既存の制度の一層の拡充強化を計るとともに,あらたに専門家の養成に重点をおいた中期(3カ月間)及び長期(2年間)の研修制度を設け外国語の訓練にも大きな比重をおいた研修制度を発足せしめた。

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4. 機 材 供 与

 

 機材供与事業は,開発途上諸国において一定の技術的知識又は経験を有していても必要な機材が不足しているために既存の技術が有効に活用されない場合に,わが国の行う技術協力と関連づけて必要な機材を供与し,開発途上諸国の経済的社会的開発に貢献することを目的としている。

 この事業は69年度から技術協力の一環として実施されてきているが,その主たる供与対象は,(イ)派遣中の専門家の現地における指導業務を一層効果的とするもの,(ロ)専門家の帰国後に相手国側のカウンターパートが,業務を継続遂行する際必要とするもの,(ハ)研修員が帰国後においてわが国で習得した技術知識を有効に活用するために必要とするもの等であり,いわゆる「人」を通じての技術協力と機材という「物」を有機的に組み合わせてその効果を高めんとするものである。

 なお,この機材供与事業は,専門家等の携行機材,あるいは後述のプロジェクト協力に伴う機材等の供与とは別箇のものであり,通常「単独機材供与」と呼ばれている。

 供与される機材の種類は農業機械,漁具,医療関係機材,TV放送機材等極めて多岐にわたつている。

 74(会計)年度に供与した機材は微生物研究用機材(ビルマ),自動車検査用測定機材(タイ),都市交通機材(韓国),ガン対策用機材(ブラジル,アルゼンティン),農業教育機材(メキシコ)等29件,総額にして310,069千円で前年度より10.2%の増加となつている。74年度までの累計総額は1,471,441千円であり,地域別比率はアジア地域65.0%,中南米地域16.0%,中近東・アフリカ地域19.0%となつている。

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5. 開 発 調 査

 

 国際協力事業団による開発調査は,開発途上諸国の要請を受けて,当該国の経済,社会開発上有効と認められる公共的な開発計画に関して実施されるものであり,したがつてその分野も鉄道,道路及び港湾の建設,農業開発,資源開発,電源開発,産業の近代化等にかかる調査等多岐にわたつている。

 74年度においては,開発調査(外務省予算)として,予算額22.46億円をもつて新規及び継続分をあわせて49件の調査を実施した。これを地域別にみるとアジア地域26件,中近東地域3件,アフリカ地域6件,中南米地域8件その他6件になつている。主要な調査例としては,カガヤン渓谷地域総合開発調査(フィリピン),マラッカ海峡調査(インドネシア等),パプア・ニューギニア総合開発基礎調査,スエズ運河拡張調査(エジプト),キリマンジャロ地域総合開発調査(タンザニア),トランス・アフリカン・ハイウェイ調査(ザイール),テレビ放送網拡充調査(ペルー),ベロ・サンパウロ間鉄道調査(ブラジル)がある。

 また海外開発計画調査(通産省予算,工業(電力を含む)及び鉱業分野の開発調査)については,予算額5.57億円をもつて新規及び継続分をあわせて24件の調査を実施した。これを地域別にみるとアジア地域12件,中近東・アフリカ地域6件,中南米地域5件その他1件となつている。

 資源開発協力基礎調査(通産省予算)については,予算額9.39億円をもつて新規及び継続分をあわせて8件の調査を実施した。

 なお国際協力事業団の発足に伴い新たに民間企業等に対する融資業務が制度化されたが,この事業団の融資に結びつく具体的可能性があることを前提として当該事業に必要な調査を行う制度が開発調査の一部として設けられた(具体例については第6節を参照)。

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6. セ ン タ ー 協 力

 

 海外技術訓練センターは,社会開発途上諸国の経済・社会開発にとつて不足している各技術技能分野の人材開発や,遅れている科学技術の開発,生産性向上等に寄与することを目的として,技術協力の3本の柱というべき専門家の派遣,機材供与,研修員の受入れを効果的に組合せ,一定の計画の下にプロジェクト・ベースの協力を行うため開発途上諸国に訓練又は研究機関を設置するものであり,地域的にはアジアをはじめ,中近東,アフリカ,中南米の開発途上諸国に及んでおり,対象分野は電気通信,道路建設,水産,小規模家内工業,航海,繊維等の各分野で技術者養成,技術の向上,開発に貢献している。

 74年度においては,予算9億6,065万円をもつて,前年度に引き続きメキシコ電気通信訓練,ウガンダ職業訓練,イラン電気通信研究,タイ道路建設技術訓練,マレイシア船舶機関士養成,インドネシア職業訓練,マレイシア職業訓練,シリア鶏病予防,イラン小規模工業技術訓練,トルコ水産高校の8カ国10センター・プロジェクト等に専門家を派遣し機材を供与する等の協力を行い,スリ・ランカ水産高等講習所に対して協力を開始した。

 この池,既に相手国に引渡し,相手国が独自で運営しているプロジェクトに対して補充機材を供与等の形で,アフターケア協力を行つた。

 前年度より引き続き協力を行つたセンター・プロジェクトのうち,ウガンダ職業訓練センターは,74年6月をもつて協力を終えて,ウガンダ政府に引き継ぎ,協定期間75年3月までのイラン電気通信センターは,イラン政府の要望により,協定期間を2年間延長し,77年3月まで協力を継続することとし,タイ道路建設センターは,タイ政府の強い要請にもとづき道路の建設区間を延長すると同時に協定期間を1年間延長するために協定の改訂を行つた。このほか,75年度以降の協力実施の対象プロジェクトとして,エジプト職業訓練,イラク電気産業技術訓練及びケニア(National Youth Service)職業訓練(小型プロジェクト)の3センター・プロジェクトの協力実施の能否を調査するための事前調査団,ウガンダ政府に引渡した職業訓練センターの引き継ぎ後ウガンダ側が運営するために取るべき措置に対する助言,勧告を行うための引継ぎ調査団,協力中のセンター・プロジェクトの運営を円滑ならしめるために,派遣中のわが国専門家に対する指導を行うことを目的とする巡回指導チーム(トルコ水産,スリ・ランカ水産,マレイシア船舶機関士及び職業訓練,インドネシア職業訓練の5プロジェクトを対象とした),現地における専門家の行い得ない機械の修理を行うための機材修理チーム(イラン電気通信研究センターが対象)の派遣を実施した。

 センター事業に対する協力要請案件の傾向は,協力初期には,比較的簡単な内容の技術訓練を短期間に行い,初歩の技能の修得を目的とするわが国における各地の職業訓練所のような訓練施設の設置が一般的であつたのに比して,最近は,訓練内容を高度にし,中堅ないしは,高級技術者を目的とするものが多くなり,また訓練より研究を主目的とする研究センターの設置の要望が増加してきており,必然的に協力期間が長期となり,その規模も大型化してきている。更には地域総合開発の一環として職業訓練を取り入れた形での要請も見うけられるようになる等ますます新たな状況の下でのセンター事業の重要性が認識されてきている。

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7. 医 療 協 力

 

 わが国の医療協力は,開発途上諸国民の健康の維持及び増進をはかることにより,これらの国の社会福祉の向上に寄与せんとするものであり,この目的のために専門家派遣,機材供与,研修員の受入等によるプロジェクト・ベースの技術協力を行い,相手国の人的資源の開発を行うものである。

 地域的には,現在アジアを中心とし中近東,アフリカ,中南米の開発途上諸国を対象とし,協力分野は,寄生虫,ウィルス,結核,ライ,コレラ,がん及び心臓病等成人病のほか,内科,外科(胸部,整形,脳外科),眼科,歯科等基礎,臨床医学,公衆衛生及び家族計画等多方面にわたり,その内容は,技術のレベルアップ,要員の育成,技術の普及等である。

 最近では,後発開発途上諸国(ネパール,アフガニスタン,タンザニア等)からの結核,マラリア等公衆衛生分野を主体とした医療協力要請に応ずるべく協力を開始しており,更に,世界の医学水準のトップを行くと目されている日本の胃がん診断分野(内視鏡,病理,放射線)に対する協力も次第に多くなりつつある。

 このような現状,背景及び対外経済協力審議会の答申でも強調されているように,医療協力は,単なる経済ベースの次元を超えた人道主義的見地から推進さるべきであるとの基本理念をも念頭において,開発途上諸国が直面している医学,医療,保健公衆衛生水準等に見られる問題点,医療要員の不足,施設の不備等の現状認識の上に立ち,開発途上諸国が真に求めている分野での協力が何であるかを的確に把握し,協力対象国の自助努力を支援補完する型での効果ある協力を行つている。

 74年度においては,13億4,774万円をもつて,従来より協力してきた,フィリピンの国立住血吸虫対策委員会(NSCC),ガーナのガーナ大学医学部,コスタ・リカのコスタ・リカ大学医学部等21カ国40プロジェクトに対し,専門家の派遣,機材の供与,研修員の受け入れ等を行つてきたほか,ヴィエトナムの新チョーライ病院,タイ,フィリピンの家族計画,アフガニスタンの結核対策及びマラリア対策,タンザニアの結核対策,インドネシアの医学生物学研究所の7プロジェクトに対し実施調査団を派遣するとともに,タイ,インドネシア,バングラデシュ及びグアテマラの4プロジェクトに対し予備調査団を派遣した。

 このほか,地理的,歴史的関係等から,わが国医学,医療について認識のあまり深くない中近東,アフリカ,中南米諸国に対し,わが国トップレベルの医学者,大学教授等を派遣し,学術講演等を通じ,わが国の医学,医療を紹介する等により,わが国医学,医療についての認識助長,ひいては相手国に対する技術協力の基盤づくりを行つている。

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8. 農 業 協 力

 

 開発途上諸国における産業構造の中で農業の占める割合は極めて高く農業生産の拡大がその国の経済発展の根幹となつていることから,農業開発への協力は開発途上諸国の経済・社会開発上の最重点施策となつている。

 わが国の開発途上諸国に対する農業技術協力プロジェクトは現在13カ国において実施中のもの18件及び計画中のもの3件であるが,協力の要請は件数の増加とともにその対象国もアジア地域から中近東アフリカ,中南米に及び,協力の内容も従来の稲作を主とした食糧増産の協力に加え,漸次,畑作,畜産等の振興の分野にも広がり,農業の近代化,生産性の向上により農民の所得を高めるための協力をも取り入れてきている。しかし,アジア地域においては依然食糧増産のための稲作の生産性向上が最も重視されているといえよう。

 わが国の農業技術協力プロジェクトにおいて現在多くとられる方法としては,相手国がもつ開発計画の地域内に一定規模の地区(パイロット・ファーム又はモデル地区等)を設定し,その地区内において(1)かんがい排水,農道等の土地基盤整備,(2)作物栽培等の実用試験とその成果の普及,(3)農民の組織化(農協の育成)により経営を改善するという地域開発的な協力の形態が多い。更に最近においては経済社会開発の一環として農業開発を主軸とする地域総合開発が重視される傾向にあり,協力の規模の拡大及び協力分野の多角化が要求されるに至つており,今後の農業協力は長期的視野をもつてますます総合的に進める必要がある。

 なお,わが国が現在実施中の農業協力プロジェクト(技術協力)を形態別に分類すると,上記の(1)地域農業開発(村落開発を含む)への協力のほか,(2)かんがい計画に伴う稲作等のパイロット計画(パイロット・ファーム等)への協力,(3)訓練,普及等のためのセンター設置協力(農業全般,養蚕,農業機械化等),(4)研究協力(作物保護,食糧生産,園芸等)(5)大学農学部への協力(教育と研究)となる。

 74年度は予算18億9,783万円をもつて,従来から協力してきたインドネシアの西部ジャワ食糧増産,ランポン農業開発,タジェム地区農業開発,農業研究協力,フィリピンの稲作開発,ヴィエトナムのカントー大学農学部協力,ラオスのタゴン地区農業開発,マレイシアの稲作機械化訓練,タイの養蚕開発,スリ・ランカのデワフワ地区村落開発,インドの農業普及センター(4カ所),及びダンダカラニア農業開発,ネパールのジャナカプール・チトワン農業開発,バングラデシュの農業開発,韓国の農業研究協力の15プロジェクトに対し,専門家の派遣,機材供与などの協力を行つた。

 新規プロジェクトとしては,イラン,タンザニア及びブラジルに対して農業協力プロジェクト開始前に必要な調査を行うため長期調査員を派遣するとともにタンザニア及びブラジルについては,実施調査団を派遣した。

 更に東南アジア(タイ,インドネシア),中近東(イラク,サウディ・アラビア,北イエメン)の2地域に対しては農業プロジェクト・ファインディングのため,またインドネシアについては養蚕開発のためそれぞれ事前調査団を派遣した。このほか農業協力の現地研修の方法確立(フィリピン,インドネシア,タイ)及びかんがい計画の基準作成(スリ・ランカ,インド,パキスタン,マレイシア)並びに農業開発援助の実態(西ドイツ,デンマーク,タイ,インドネシア)を調査するための基礎調査団をそれぞれ派遣した。

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9. 開発技術協力

 

 開発技術協力は開発途上諸国への経済技術協力の一環として,それらの諸国からわが国(又は第三国)への輸入が期待される一次産品の開発を拡大し,輸出振興を図ることにより国際収支の改善に資することを目的とし,同産品の生産性の向上,品質の改善,流通面の整備等をより総合的に推進しようとする技術協力プロジェクトである。

 この協力事業の発展が,結果的にはわが国にとつても食糧,飼料等の長期的な開発輸入を確保することに資するとの立場から重視されるものであり,今後は開発途上諸国の発展段階とその保有資源に応じて品目,規模ともに多様化かつ拡大していく必要があり,他方,開発途上諸国の輸出振興に寄与するためには生産,経営,市場,流通,輸送,制度等の多方面から協力を拡充する必要がある。

 開発技術協カプロジェクトは現在まで3カ国において5件実施され,その開発対象品目としては,とうもろこし,大豆その他の畑作物,油糧種子,えび等農水産物に限られてきたが,今後は産業開発が国際的に特化する傾向が強まるに伴つて食肉等の畜産開発,林業開発,鉱工業産品の開発(一次産品の加工品を含む)まで範囲を広げるとともに生産から流通まで一貫した開発のための技術協力を進める方針である。

 74年度は本事業予算4億3,012万円をもつて,従来から協力してきたインドネシアの東部ジャワとうもろこし開発(74年7月末をもつて6カ年の協力を終了した)及びランポン州におけるとうもろこし及び豆類を主とする一次産品開発,カンボディアのとうもろこし開発,及びタイにおける一次産品開発(大豆の育種及び油糧種子の分析試験)並びにえびの養殖開発の5プロジェクトに対し専門家の派遣,機材の供与,研修員の受入等の協力を行つた。

 このほか,ブラジル及びタイに対して輸出農産物開発並びにサウディ・アラビアに対し基礎建材の標準化を含む技術開発の協力につきそれぞれ事前調査団を派遣した。

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10. 国際協力事業団以外の協力

 

 技術協力事業については,広範な国民的支持及び理解並びに層の厚い国民の参加を得て進められることが望ましいとの見地から,国際協力事業団の協力に加え,民間団体の技術協力事業及び地方公共団体の研修員受入れ事業の助成を推進している。

 74年度外務省が補助金を交付し助成した民間団体としては次の8団体がある。

(1) 日本国際医療団(67年8月設立) 開発途上諸国に対して行うわが国の医療協力事業の推進をはかることを目的とし,医療協力事業の受託,斡旋,医療要員教育確保,啓発紙の発行等を行つている。広報出版,海外医療協力要員の養成,東南アジア医療情報センター(SEAMIC)設立準備事業が補助対象事業である。

(2) 海外農業開発財団(69年12月設立) 政府及び民間が開発途上諸国において実施する農林業開発協力事業に協力するため,農林業技術者の養成・登録・派遣・資料収集等を行つていた(なお,現在解散の手続がとられている)。現地事情の調査,巡回チーム派遣,専門家派遣前現地研修及び長期調査員派遣が補助対象事業である。

(3) 東南アジア農業教育開発協会(71年1月設立) 東南アジア地域における農業の開発に資し,関係諸国における農業教育の振興に必要な事業を行うため,農業教育専門家の派遣,留学生・研修生などの受入れ・斡旋等を行つている。研究調査,農業研究セミナーが補助対象事業である。 

(4) 家族計画国際協力財団(69年4月設立) 開発途上諸国が実施する家族計画事業に協力することを目的とし,国際協力事業団の委託により,家族計画関係セミナーの実施,関係国に対する資機材の供与,派遣要員の養成等を行つている。専門家受入れ,海外派遣要員(専門家及び技術者)の養成等が補助対象事業である。

(5) 国際開発センター(71年2月設立)

 開発途上諸国の経済開発に参画しうる人材の養成,確保,並びに開発途上諸国の開発計画に関連する総合的な調査研究を行つて,わが国政府の開発援助事業に協力するとともに,民間による援助活動を支援することを目的としている。同センターの行う諸外国におけるコンサルタント関係調査員派遣費,海外開発専門家招へい費等を外務省は補助対象としているほか,外務省を含む7省庁が同センターに調査事業を委託している。

(6) オイスカ産業開発協力団(69年5月設立)

 開発途上諸国に対する産業開発協力事業を促進するために,技術者派遣,青年技術研修生受け入れ,国民啓蒙活動等の業務を行うことを目的としており,派遣及び受け入れ業務を補助対象としている。

(7) 国際技術振興協会(67年12月設立)

 開発途上諸国で不足している現地語で書かれた技術書を編集,出版し,低廉な価格で販売することを目的としており,編集事業及び出版事業を補助対象としている。

(8) 地方公共団体による研修員受入れ事業

 地方公共団体(都道府県)が行う技術協力のための研修生受入事業は,わが国の技術協力の基盤を全国民的なものとするために大変重要な意義を有するとの観点から,71年度より補助金を交付し,その事業を助成している。当初3県であつた実施団体数は,74年度には18府県に増加している。

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