第3章 経済協力の現況

 

第1節 総説

 

1. は じ め に

 

 わが国の経済協力は,政府ベース協力については54年のコロンボ・プラン加入以来年々その規模を拡大しつつあるほか,民間ベースの協力についても近年著しく増大してきている。

 経済協力の目的は,開発途上諸国の自助努力を支援することによつて,その経済・社会の発展と国民の福祉の向上及び民生の安定に寄与しようとするところにあるが,国際社会の枢要な一員たるわが国がその国力にふさわしい協力を行うことは,わが国の国際的責務である。

 特にわが国は,エネルギー,食糧,資源その他の面で他の先進国に比し海外,とりわけ開発途上地域に対する依存度が高く,近年,ナショナリズムの高まり等を通じ開発途上諸国の国際的発言力の増大がみられる中で,わが国が経済の発展と国民生活の安定を確保していくためには,国際社会との調和,特に開発途上諸国との間の真の友好信頼と互恵の基礎に立つた関係を維持強化していかなければならない。

 このようにわが国にとつて経済協力は国際的責務であるとともに,開発途上諸国との真の友好信頼と互恵の基礎に立つた関係を維持強化するという長期的総合的国益を維持強化していくための重要な政策である。

 このようなわが国経済協力の重要な意味あいに鑑みれば,現下の複雑かつ流動的な国際環境ときびしい国内経済情勢の中にあつても,内政上の諸要請との調和を求めつつ,国民的理解の上に立つて今後とも経済協力の拡充にできるかぎりの努力を続けなければならない。

 わが国は従来より,以上のような基本的考え方に立つて経済協力の積極的推進に努めてきている。その実績を74年についてみれば次の通りである。

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2. 1974年の経済協力実績

 

 わが国の74年における開発途上国に対する資金の流れ総量は,73年の58.4億ドル(支出純額ベース以下同様)から29.6億ドルへと28.8億ドルの大幅な減少を示した。これを対GNP比でみれば73年の1.44%から74年には0.65%へと低下した。これをその構成要素別にみれば,政府開発援助(ODA)は73年の1,011百万ドルから1,126百万ドルへと増加しているのに対し,その他政府資金の流れ(OOF)が73年の1,179百万ドルから789百万ドルへと減少しているほか,特に,民間資金の流れ(PF)が73年の3,654百万ドルから74年の2,962百万ドルへと激減している点が注目される。これは輸出信用及び直接投資(証券投資,対外貸付けを含む)が激減したことによる。すなわち,輸出信用については73年の694百万ドルから156百万ドルへと約174に減少した。また直接投資は73年の3,642百万ドルから1,673百万ドルへと半分以下にまで減少した。

 以上のように,74年のわが国経済協力総量については73年実績のほぼ1/2になつたが,その原因は民間資金の流れの激減によるものであり,政府の直接的コントロ-ルにより進められている政府開発援助は若干増加をみた。

 

第1図 DAC主要諸国の経済協力総額及び政府開発援助の比率(1973年)

第2図 経済協力総額及び政府開発援助の対国民総生産比

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3. 政 府 開 発 援 助

 

(1) 政府開発援助は1,126百万ドル(3,282億円)となり,73年の実績の1,011百万ドル(2,758億円)より11.4%(円貨表示では19.0%)の増加を示した。また,その対GNP比は前年と同様0.25%となつた。その内容としては,贈与が前年に比し減少したのに対し,借款は贈与の減少分を上回つて増加した。この結果,政府開発援助に占める贈与比率は前年の45%から40%に減少した。

 二国間贈与については前年の220百万ドルから199百万ドルと9.8%の減少を示した。その内訳としては,食糧援助が31%,技術協力が11%,開発計画に対する協力が11%それぞれ増加したのに対し,賠償及び緊急援助はそれぞれ59%,25%の減少を示した。

 一方,74年の国際機関に対する贈与,出資等は246百万ドルで,前年とドル・ベースでは同額であつたが,円ベースでは671億円から717億円へと7%の増加を示した。この結果,政府開発援助に占める国際機関に対する贈与,出資等の割合は22%となり,前年の24%より減少したものの,ピアソン報告の示唆している20%を72年以来継続して超過する実績を挙げている。この内,国連関係機関及びその他の国際機関に対する贈与は前年の23百万ドルから38百万ドルに増加した一方,国際開発金融機関に対する出資,拠出金は213百万ドルと前年の214百万ドルとほぼ同額であつたが,円ベースでは584億円から620億円に増加している。

 なお,約束額ベースでは政府開発援助は前年の1,365百万ドルから1,921百万ドルへと41%の増加を示した。この内,贈与は支出純額ベースと同様減少しているが,借款については前年の821百万ドルから1,411百万ドルへと72%の大幅な増加を示している。この結果,約束額ベースでの贈与比率は前年の42%から27%へと更に低下した。

(2) わが国援助の条件面についてみれば,74年にわが国が約束した政府開発援助のグラント・エレメント(GE)は61.5%で,前年の69.9%より悪化した。一方借款全体の平均GEは前年の48.2%から47.1%へとわずかに減少し,政府開発援助に占める贈与比率が前年の41.8%から27.3%へと大幅に減少したため,援助全体の条件は悪化するに至つた。なお74年の円借款(債務救済を除く)の平均条件は償還期間23.5年,うち据置期間7.2年,金利3.55%(前年の条件はそれぞれ24.3年,7.7年,3.55%)であつた。

(3) 次に技術協力を除くプロジェクト援助の分野別構成比をみると,公共事業開発及び鉱工業開発に対する協力が大宗を占めるという従来のパターンは変らず,公共事業開発に対する協力がプロジエクト援助全体に占める割合は前年の36%から43%へと増加したほか,鉱工業開発に対する協力も35%から38%へと増加した。このほか農業,漁業開発に対する協力も前年の4%から7%へと微増した。

(4) 74年のわが国政府開発援助(支出純額ベース)の地域別配分については,従来のパターンにさしたる変化はなかつた。アジアのシェアは73年の88.1%から86.7%へと引続き減少し,かわりにアフリカのシェアが前年の2.6%から5.2%へと増加したが,中近東,ラ米等の地域のシェアには大きな変化はなかつた。

(5) 政府開発援助を予算ベースでみれば,50年度は4,344億円で前年の4,120億円に比し,4.9%の伸びを示した。この内,贈与(国際機関贈与を含む)は1,537億円で前年の1,532億円に比し0.4%の増加とほぼ横這いであるが,技術協力のみは前年の245億円から293億円へと20%の伸びとなつている。一方,二国間貸付けは2,807億円で,前年の2,608億円に比し7.6%の伸びである。

(6) 74年以来最近の経済変動によつて最も深刻な打撃をうけている諸国(MSAC)に対する援助の必要が叫ばれてきており,74年5月に開催された国連の資源特別総会においては,これら諸国に対する援助を拡充していくための行動計画が採択された。

 わが国はこの計画に対し,商品借款,債務救済,無償援助等により,74年年央以前12カ月間のわが国の対MSAC援助実績に少なくとも1億ドルを追加した規模の援助を供与し,必要な場合には更に二国間及び多数国間のフォーラムを通じ一層の貢献を行う旨の意図表明を国連事務総長に対して行つた。

 わが国はこの意図表明にもとづき,二国間援助を通じその実現に努めているが,マルチのフォーラムを通ずる協力としては,国連事務総長特別勘定に対し,人道的緊急食糧援助及びFAO肥料プール用として650万ドルを拠出することとしている。

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4. その他政府資金の流れ

 

 74年のその他政府資金の流れのグロスの支出額は1,495百万ドルであつたが,ネット・ベースでは789百万ドルとなり,前年の実績1,179百万ドルより33%の減少をみた。この内,直接投資等にかかる分のグロスの支出額は950百万ドルであつたが,ネット・ベースでは799百万ドルと前年の570百万ドルに比し40%の増加をみた。また,返済期間1年超の輸出信用にかかる分はネット・ベースで前年の254百万ドルから8百万ドルへと実に32分の1の規模に激減した。国際機関との取引は,グロスの支出額は119百万ドルであつたが,ネット・ベースでは18百万ドルの受取超過となり,これも前年の355百万ドルから大きな減少となつている。

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5. 民間資金の流れ

 

 民間資金の流れについては,グロスの支出額は3,166百万ドルであつたが,ネットの支出額では1,039百万ドルとなり,前年の3,647百万ドルに比し82%の大幅な減少となつた。直接投資のグロスの支出額は942百万ドルで,ネットの支出額では705百万ドルとなり前年比46%の減少を示した。民間対外貸付けはグロスの支出額では476百万ドルであつたが,ネット・ベースでは169百万ドルにとどまつた。国際機関との取引は世銀融資参加が17百万ドルあつたほかは,アジア開銀及び米州開銀への融資参加が少額あつただけで,ネットの支出額では15百万ドルにとどまり前年の135百万ドルからは激減した。

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6. 経済協力実施体制

 

 わが国の経済協力の拡大に伴い,そのための政策面及び実施面の双方において経済協力にかかる行政の円滑な推進の努力が払われている。

 わが国の援助は,対外関係事務の総括の衝に当る外務省の実質的な調整のもとに,大蔵省,通産省及び経済企画庁等との間で連絡協議を図りつつ進められている。

 更に,援助の実施体制の強化を図るため,74年8月新たに国際協力事業団(JICA)が設立された。この事業団は政府ベース協力と民間ベース協力の連携の強化,あるいは資金協力と技術協力の結びつき強化を図ることを意図し,従来まで政府ベース技術協力の実施機関であつた海外技術協力事業団(OTCA)と移住事業を通じて国際協力に貢献してきた海外移住事業団を統合し,これら事業団からの業務を引継いだほか,開発途上地域等の社会の開発並びに農林業及び鉱工業の開発に必要な資金の供給(日本輸出入銀行及び海外経済協力基金では供給困難な場合に限る)及び技術の提供等の新たな業務を行うこととなつた。

 

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