第1節 資源・エネルギー問題
1. 石油、エネルギー問題
(1) 産 油 国 の 動 向
(イ) 石 油 需 給
アラブ産油国が石油生産を削減し,対米・対蘭禁輸を行なつていた73年暮れから74年はじめにかけては,自由世界全体として一時的には,約300万バーレル/日の原油が不足していたとみられるが,74年3月18日,アラブ産油国が石油生産削減,禁輸を全面的に解除したことを契機として,石油供給不足は急速に改善された。
産油国による生産活動が回復する一方で,需要面においては,夏期に向かつて主要な石油消費国の需要減退,エネルギー節約意識の浸透,更には世界的な経済活動の停滞化等の中で,74年~7月頃には需要に対して約200万バーレル/日の供給過剰が生じたとみられる。
同年9月頃になると,OPEC諸国の減産傾向は明らかとなり,なかでも特にクウェイト,リビア,イラク等の減産が目立つたが,サウディ・アラビアはこの時点でも73年の同時点に比し100万バーレル強の増産を行つていた。しかしOPEC全体としては前年の生産水準をやや下回るものであつた。
OPEC諸国の石油生産量は,75年1月以降著しい落ち込みを見せている。
すなわち,74年のOPEC諸国の平均生産量は日産3,062万バーレルであつたが,75年1月2,731万バーレル,2月2,615万バーレル,3月2,585万バーレル,4月2,576万バーレルと漸減し,4月の日産量は74年平均日産量に対し,実に486万バーレル(15.9%)の減少ぶりである。これはいわゆる石油危機直前の73年9月のOPEC諸国日産量3,292万バーレルに対して716万バーレル下回つている。ところでOPEC諸国の現在の最大生産可能量は日産3,800~3,900万バーレルに達していると推計されており,75年4月の生産量との比較でみるならば,OPEC全体としては1,200~1,300万バーレルの増産余力を有しているとみられる。
(ロ) 原油価格動向
OPECが原油公示価格について1年間で4倍という大幅引上げを実施し,74年1月1日から中東の原油公示価格は1バーレル当り,11.651ドルとなり,史上初めて10ドル台をこえたが,その後3月,6月,9月と3回のOPEC総会において,上記公示価格は据置かれ,11月のOPEC湾岸6カ国会議(於アブダビ)では公示価格の40セント引下げが決定され(6カ国中,サウディ・アラビア,カタール,アラブ首長国連邦の3カ国が11月1日から実施。残る3カ国は態度を留保)、更には12月のウィーン総会において公示価格の廃止を意味するとみられる「新価格体系」が採用された。
ところが、この間に事業参加率の25%から60%への拡大,パイ・バック価格の引上げ,更には利権料率,所得税率の変更等を通じて,産油国の原油1バーレル当りの平均的な政府取り分は大幅に増大した。
すなわち,1バーレル当たり平均政府取り分は74年1月には7.50~8.00ドルであつたが,7月には9.41ドル,10月には9.74ドルとなり,11月にはサウディ・アラビアほか2国が10.12ドルとし,12月のOPEC総会でOPEC全体として75年1月1日から10.12ドルとすることを決定した。公示価格の据置き,更には引下げにもかかわらず,産油国平均政府取り分が大幅な増加を示してきている。
さて,12月のOPEC総会は,75年以降の原油価格のあり方を左右するものとして注目された。OPECは,総会において75年1月1日以降の原油の政府平均取り分を1バーレル10.12ドルとするとともに,「新価格体系」の採用を決定することとなつたのであるが,右「新価格体系」はOPEC経済委員会における公示価格制廃止の検討をふまえたイラン提案の原油価格単一化の方向を指向するものとみられる。更に上記総会においてOPECは,それまで3カ月毎に価格の見直しを行つてきたのを,75年1月から同年9月末まで,9カ月間にわたり,10.12ドルを据置くことを決定した。
なお,価格については,OPEC全体としては現在の高価格を出来る限り維持することを基本方針としているが,OPEC諸国の中にも立場の相違がみられる。すなわち,イラン,アルジェリア,イラク等は,これまで一貫して高価格維持ないし価格の引上げを主張しており,インフレによる原油輸出所得の購買力の保護(インデクセーション),原油価格のSDRへのリンク等を主張している。これに対し,サウディ・アラビア等はこれまで価格引上げには消極的態度を示してきており,むしろ金融資産の実質的価値の保護に強い関心を示していることが注目される。
(ハ) 事 業 参 加
72年12月末に一部産油国と国際石油会社との間で結ばれた「リヤード協定」にもとづいて,サウディ・アラビア,アブダビ等は73年1月から産油部門に対して25%の事業参加を達成したが,それからわずか10カ月を経過したところで石油危機が発生し,事業参加は一層急速な拡大をみせることとなつた。クウエイトは上記25%事業参加については国会承認が得られないまま態度を留保していたが,石油危機時における産油国側の影響力の増大を背景として,国内で操業中のガルフ,BPの2社に対し73年末には60%の事業参加要求を行い、74年2月には右2社はクウエイトの要求を原則的に受け入ることとなり,60%事業参加が達成された。
クウエイトの動きに対してアブダビ,カタール等も相次いで,それにならう方向で石油会社との交渉を開始した。「リヤード協定」成立にイニシアチブをとつたサウディ・アラビアは,これらの動向をみつつ,74年6月のOPECキトー総会直前に、世界最大の産油会社アラムコとの間で暫定的に60%事業参加について合意に達した旨を公表した。
この時点で,産油国による60%の事業参加は,いわば既成事実となつたが,右発表に際して,ヤマニ石油相が,サウディ・アラビアはアラムコの100%取得に向つて国際石油会社との交渉に入る旨を明らかにしたことから国際的に大きな反響を呼んだ。
ところが,その後サウディ・アラビアの事業参加交渉は7月にはジュネーヴ,12月にはロンドン等において折衝が行なわれたとみられるが,具体的進展はみられず75年に持ちこまれた。
(2) 消 費 国 間 協 調
(イ) 消費国側は,石油をめぐる情勢変化に対応するため,74年2月ワシントン・エネルギー会議を開催したが,同会議の結果,そのフォロ-アップのためエネルギー調整グループを設置し,同グループの検討を踏え同年11月OECDの枠内に国際エネルギー機関(IEA)(注)を創設した。以来消費国側は一連の措置を講じてきたが,消費国側の対応策は第1に石油緊急融通対策,第2に長期的に消費国全体としての石油輸入依存度を低減する施策の促進,第3に石油価格の高騰等により金融面の困難に遭遇した消費国の共同支援体制の整備であつた。
(ロ) 第1に関しては,日,米,EC諸国(仏を除く)等主要消費国18カ国は国際エネルギー計画(IEP)(注)に加入することによつて,緊急時に備え一定量の備蓄の義務を負うとともに,緊急時に自ら需要抑制を行い,備蓄の利用と相互融通によつて相当長期間にわたり,安定的かつ合理的に一定水準の石油消費を確保する仕組みの参加国となつた。
第2に関しては,消費節約と新規及び代替エネルギー開発が進められつつある。消費節約はIEA全体として,75年末の石油輸入量を節約がなかりし場合の輸入見通しに比べ,1日当り200万バーレル削減するとの目標がIEAにおいて合意されている(これによれば75年の輸入水準は73年の水準を上回らないこととなる)。76年,77年,80年,85年の節約目標については更に検討を続けている。
次に新規・代替エネルギーの開発は長期的に輸入依存度を減らすために不可欠な施策として推進されている。本件については75年3月20日のIEA理事会においてIEAが今後とるべき協力措置として,
(a) 石油,石炭等通常のエネルギー開発について国際価格下落による投資リスクを力ヴァーする何らかの措置をとることにより投資を促進する。 | |
(b) 個別プロジェクトにつき(高コスト,低コスト・プロジェクトを含む),金融,技術協力を含む個別的な協力を行うための枠組を設ける。 | |
(c) 太陽エネルギー,核融合など新しい分野の研究開発のための協力措置をとる。 |
という三つの方向につき原則的合意がみられた。
また,第3に関しては石油価格の高騰に伴つて生ずる先進諸国の国際収支上の困難について,国際収支の苦境に陥つたOECD加盟国が最後のよりどころとして利用しうる金融支援基金を設立する協定が4月9日OECD加盟国によつて署名された。
(3) 産油国・消費国間対話
(イ) 75年4月パリにおいて産油国・消費国準備会議が開催され(7日~15日),産油国・消費国間対話が開始されたが,特に本会議における議題案につき先進消費国側と,産油国プラス開発途上消費国7カ国側の立場の違いが浮きぼりになり,ついに最終的合意の得られぬまま閉会のやむなきに至つた。
かかる結果となつた主たる理由は,第1に先進国側が本会議をエネルギー,とくに石油問題解決のための会議と認識していたのに対し,7カ国側が本会議を南北問題解決の場とすることを意図し,エネルギー問題と同時に一次産品問題,開発問題,国際金融問題等を同じ比重で扱うことを主張して譲らなかつたこと,第2に,先方が「輸出所得の購買力の保護」及び「資産の実質的価値の保護」といういわゆるインデクセーションの考え方を議題に入れることを強く主張して,かかる考え方に反対する先進国側と対立したことにある。
(ロ) 産油国・消費国準備会議終了後の動きについては,先進消費国,産油国のいずれも会議を完全な失敗とは見なしておらず,対話の再開に前向きな態度を維持していることが注目される。
(1) 需給・価格動向
73年前半から,世界経済の好況に加え,インフレ,投機的仮需要,通貨不安等により鉱物資源を含む一次産品は,全般的な需給逼迫と価格高騰を示してきたが,73年10月以降の石油問題発生は価格騰貴を促し,74年前半にはLME(London Metal Exchange)市場は史上最高値を記録するに至つた。
しかしながら,石油危機は,同時に国際経済環境を悪化させ,世界の鉱物資源需要,とりわけ先進工業国の輸入需要の減退をもたらし,開発途上国による供給増,米国のストックパイル放出も相俟つて,大幅な需給不均衡の事態が現出した。このため国際市場を有する銅,鉛,亜鉛等の価格は急落に転じ,74年末には73年前半の水準にまで落込んでいる。一方,国際市場が存在せず,地域あるいは企業寡占度の高いボーキサイト,ニッケル,燐鉱石等は生産国の強い態度も反映して74年は強含みに推移した。
今後の需給・価格動向については,極めて見通し難であり,従来の如き経済成長率を期待し得ない先進工業諸国の資源需要が大幅に停滞している点から勘案すれば,現在の全般的な需給不均衡が急速に回復するとは考えられない。
また価格動向については,世界経済が沈滞してもインフレは抑制されず,最近の資源保有国の動向からして,大幅な値下りの可能性は薄く,堅調に推移するものと予測される。
(2) 資源保有国の動向
(イ) 74年における鉱物資源保有国の動向としては,OPEC,OAPECによる石油戦略の成果に刺激され,新たな生産国機構結成ないしは既存機構の拡大強化の動きを展開させた点が挙げられる。
これは74年に開催された国連資源特別総会,第3次国連海洋法会議,さらには第29回国連総会で,主として開発途上資源保有国が主張してきた新国際経済秩序の確立を目指した動きとして捉えられよう。
また,かかる生産国機構の動きは75年2月のUNCTAD一次産品委員会においても,先進国と開発途上国の格差是正の手段の一つとして討議されており,今後新しい生産国機構が誕生する可能性も十分考えられる。
(ロ) 現在鉱物資源分野における生産国機構ないしグループにはCIPEC(銅輸出国政府間協議会),IBA(ボーキサイト生産国機構),GIOPC(鉄鉱石生産国グループ),IGMPC(水銀生産国グループ)等が設置されており,鉄鉱石輸出国機構設立の動きが前記鉄鉱石生産国グループを中心に進められている。またこのほかには,ウラン,錫,マンガン,タングステン,銀,燐鉱石等についても生産国会議が持たれている。
(ハ) CIPECは68年設立以降,現在に至るまで加盟国は当初の4カ国に止まり,また価格安定策,投資政策,技術協力等の分野においても,さしたる成果をみせずに終始してきた。さらに73年には銅価格が高水準を保つていたこともあり表立つた動きを見せなかつたが、74年に至り,4月の史上最高値1,400ポンド/トン(LME)をピークとして銅価格が急落に転じたことにより,価格安定を目指して活発な動きを展開するに至つた。
まず,74年6月にはザンビアのルサカにおいて第5回閣僚会議を開催,加盟国拡大,他の資源生産国機構との連携強化を打出し,具体的な結論は得られなかつたとはいえ,緩衝在庫,輸出・生産削減等についても討議されたと伝えられる。ただ当時は銅価格が下落傾向をみせつつも依然として高水準(6月,1,023ポンド/トン)にあり,CIPEC諸国に大きな不満があつた訳ではなかつた。
しかしながらその後LME銅価格が下げ足を早め,9月に700ポンドを割るに至り,国家経済の基盤を銅産業に依存しているCIPEC諸国は深刻な局面を迎え,何らかの価格安定策を打出すべくリマ,パリと相次いで会合を開き,結局11月のパリ特別閣僚会議において,12月より銅輸出を全面的に10%削減することを決定した。
かかる対策にもかかわらず,世界的な銅需要減退下の現在,さらにはCIPECの世界貿易に占めるシュアーの低い点も加えて,その実効性は薄く,銅価格は低迷を続け,75年2月末現在550ポンド前後を推移している。このためCIPECは3月よりさらに5%増の15%輸出削減を決定したと伝えられている。
(ニ) ガイアナ,ジャマイカ,スリナムを中心としたボーキサイト生産諸国7カ国(ガイアナ,ジャマイカ,スリナム,ギニア,シエラ・レオーネ,ユーゴースラヴィア,豪)は,73年10月ユーゴースラヴィアのベオグラードにおいて,74年3月にはギニアのコナクリにおいて,それぞれ生産国会議を開催,ボーキサイト開発問題,技術交流,情報交換に関する参加国間の協力及び生産国・消費国間の協力を骨子とした協定案を作成し,常設のボーキサイト生産国機構(IBA)設立を合意した。
当協定案は74年11月ガイアナのジョージタウンで開催された第1回閣僚理事会において参加国政府間協定として調印され,新たにガーナ,ハイチ,ドミニカを加えた10カ国より成るIBAがここに発足した。
IBA諸国のうちジャマイカ,スリナム,ガイアナ等カリブ海沿岸諸国は74年3月以降急進的な動向を示し,自国内で操業中の米,加大手アルミメーカーに対して新たなボーキサイト生産税賦課,ロイアリテイの徴収,さらには国有化措置等を打出し,立法化により実施に踏切つている情勢である。特にジャマイカが打出したボーキサイト生産税の税率は,ボーキサイト価格をアルミ地金価格にリンクさせて定めたものであり,ガイアナ,スリナム,ドミニカ等にもこの方式の採用が波及している。またジャマイカ,ガイアナ,トリニダード・トバゴ3国による共同製錬所建設構想も工業化、加工度向上を目指した動きとして注目されよう。
機構自体の動向としては,先般の第1回閣僚理事会において価格政策及び課税政策に関する両委員会を発足させ,同委員会の報告をまつて近々臨時閣僚理事会を開催,一般方針に基づく具体的措置につき検討する予定と伝えられている。
IBAの目的は,「消費国の利益に留意しつつ,加盟国に経済開発のための正当な利潤を確保すること」であり,今後の動向としてはボーキサイト資源の特殊性から鑑み,代替性、国際アルミ資本の制約等があり,また先進国の豪が加盟していることもあつて,比較的穏健な方向に進むものと思われ,資源保有国も自己の伝統的市場を犠牲にしてまでも国際大資本及び消費国に対し強硬な態度を貫く可能性は少ないと考えられている。
(ホ) 鉄鉱石輸出主要国は,74年11月鉄鉱石輸出国機構設立問題を討議するためジュネーヴにおいて閣僚会議を開催したが,機構問題については何ら具体的な合意に至らず,機構の形式と詳細につき更に掘り下げた討議を行うため,75年1月上級者準備委員会がインドのニュー・デリーで,アルジェリア,豪,ブラジル,加,インド,ヴェネズエラ等11カ国が参加して開催された。当準備委員会においては鉄鉱石輸出国機構設立のための協定案が合意されるに至り,4月開催の閣僚会議において,最終的に機構設立が合意された。
(へ) 石油以外の鉱物資源分野においては,これら資源の需給関係,生産国機構の団結力,生産及び輸出調整に伴う資金欠除,代替品の有無,生産国機構への穏健先進諸国の加盟等より勘案すれば,価格の漸進的上昇,加工度向上等生産国自身による諸措置が徐々にとり行われるとはいえ,総じて,生産国機構諸国が一体となつて急進的な動向を示す可能性は,当面の間,少ないと考えられよう。
(1)目的
IEPの目的は,国際エネルギー機関(IEA)を通じ,参加国が異常な石油供給不足の事態に備えて,石油の備蓄,需要抑制,相互融通を有機的に連繋した対応策を講ずるとともに,長期的な石油・エネルギーの節約及び開発などを併わせ講ずることにより,エネルギーに関する自給度を高め,脆弱性を減少し,もつて参加国間のエネルギー問題に関する協調を図ることにある。
(2)IEPの概要
(イ)備蓄
(a)参加国は純石油輸入量の60日分に相当する石油を備蓄として維持する。
(b)参加国は,75年7月1日までにIEAが決定する期日以降は,純石油輸入量の90日分に相当する石油の備蓄を維持するよう努力する。
(ロ)需要抑制及び相互融通
(a)参加国全体について石油供給不足が生じた場合
参加国全体の消費の7%に相当する石油の供給不足が生じたときには,参加国は石油需要を7%抑制するとともにグループ内において入手可能な石油が融通される。また,各参加国は備蓄の取り崩しを行う。
このような石油の供給不足が12%に達したときには需要抑制を10%に高める。
各国の備蓄が半減すれば需要抑制などについて追加的措置をとる。追加的措置は理事会が決定する。
(b)一部の参加国に石油供給不足が生じた場合
一部の参加国についてその石油消費の7%以上に相当する石油の供給不足が生じたときには,その他の参加国が当該参加国に不足分を融通する。
(ハ)石油会社の情報提供及び協議
IEPの実施に当たつては国際石油会社,特にメジャーの協力が極めて重要となるが,IEPの下でIEAは石油会社から平常時においても定期的に次の事項に関する情報の提供を受ける。
(a)法人組織,(b)財政組織,(c)資本投資実績,(d)原油の主要源獲得のための手続き条件,(e)現行生産率及び予想される変化,(f)子会社及びその他の顧客に対する入手可能な原油供給の融通,(g)備蓄,(h)原油及び石油製品の原価,(i)価格等。
更に,IEAは,機関内に常設機関を設け石油会社と協議する仕組となつている。
(ニ)エネルギーに関する長期協力
IEPは単に石油供給不足の緊急事態に対処するのみならず,長期的な観点から輸入石油の依存度を軽減するため,次の事項に関する広汎な協力を行なおうとしている。
すなわち(a)エネルギー節約,(b)国産石油,石炭,天然ガス,原子力,および水力のような代替エネルギー源の開発,(c)石炭技術(ガス化,液化),太陽エネルギー,放射性廃棄物の管理,制御熱核融合,水からの水素製造,原子力の安全性,廃熱利用,廃棄物利用,省エネルギー技術などの研究開発,(d)ウラン濃縮がそうである。
(ホ)産油国との関係
IEPでは産油国との協力促進を一つの大きな柱とし,産油国との協力関係の促進のため参加国が努力を払うこととされている。具体的には産油国と工業化の促進及び社会経済開発への協力,更にエネルギー保存,代替エネルギー源の開発及び新エネルギーの研究開発のような相互利益をもつ問題に関する産油国との協力についてIEA内の常設機関で検討して行くこととなつており,現に作業に着手されている。
(3)IEAの機構
前述のとおり,IEAはOECDの一機関として設立されたわけで,機構的には例えば既存のNEA(原子力機関)と同様の地位にあり,予算も第II部予算でまかなわれることとなつている。
IEAにおいては意思決定機関として機関理事会(Governing Board)があり,18の参加国はいずれもそのメンバーである。各国の首席代表は大臣又はそれに代わる高官である。
機関理事会の下に運営委員会(Management Committee)があるが,主として緊急時のスキーム発動に当たるためもあり,今のところ開催されていない。
この下に次の4つの常設作業部会(Standing Group)が設置され,IEPの主たる柱となる当該部門を担当して既に活動を開始している。
(イ)緊急時の問題に関するもの(SEQ)
(ロ)石油市場に関するもの(SOM)
(ハ)長期協力に関するもの(SLT)
(ニ)生産国及び他の消費国との関係に関するもの(SPC)
その他,理事会などは,IEPの実施に必要な他の機関を設立することができるようになつており,現に各常設作業部会の下にいくつかのサブグループがおかれ,またおかれることになつている。
(4)わが国のIEA参加の意義
わが国は,第一次エネルギー源の75%を石油に依存し,その石油のほとんど100%を海外に依存しているなどの点で石油供給不足に対し脆弱であるため,まさにこのような脆弱性を補ういわば保険措置としてのIEPがわが国にとり,きわめて有意義であると認め,IEAに参加した。