1. 文化外交の推進
ユネスコ憲章は,「政府の政治的及び経済的取極のみに基づく平和は世界の諸人民の一致した,しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よつて平和が失われないためには人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない」と謳つているが,国際関係の緊密化に伴い,このような認識が現実的な政策のうちに生かされる必要性が益々強まりつつある。
この意味で諸外国との間の文化・教育・学術面の交流は,わが国外交の不可欠の要素をなすものであり,この分野を今後一層拡充していくことは,現在のわが国の外交政策の基本的課題の一つとなつている。
今日世界の主要諸国は文化交流の活発化に努めており,政府又は政府関係機関の手により大規模な活動が行われている。もとより文化交流にはこれらのほか,民間の行つている広い分野の活動があり,民間の自主性と創意を尊重しなければならないが,多額の費用を要するものや,高度な専門的知識を要するものを始め民間のみの活動によつて行うことにはおのずから限界があるものが多い。政府としては,上記のような基本的認識の下に,民間による活動を必要に応じ支援するとともに,在外公館を通じ,或は国際交流基金(後述)の手により文化交流の促進に努力している。
文化交流は,二つの側面をもつものと考えられる。第一は,海外に対する自国文化の紹介及び普及を通じ,自国の思考・生活様式,芸術などに関する諸外国の理解を得ることである。このため,わが国は,学者・文化人等の派遣による相手国での講演会,シンポジウムの開催,展覧会,映画会,音楽会など各種催し物の開催等を通ずる現代並びに伝統的日本文化の紹介,諸外国における日本研究の促進,日本語普及に対する各種援助,図書,視聴覚資料の寄贈等を行つている。
また,開発途上国に対する文化協力,教育協力は,近年その必要性が急速に高まつているが,わが国は,これら開発途上国が,わが国に関して正しい基本的知識を得,またそれぞれの国の文化,教育水準を更に向上させるため協力する必要を認識し,これら諸国からの留学生,研修生の受入れ,又は,教員の交流,教材援助,文化施設に対する資材の供与等の活動を通じて,文化,教育,学術面における交流,協力の拡大に努めており,特にアジア諸国に対しては,ユネスコ,東南アジア文相機構,アジア太平洋地域文化社会センター等の国際機関をも通じて,拠出金,専門家派遣,フェロ一受け入れ,会議開催ないし参加等種々の形で協力を行つている。
文化交流の第二の側面は,我々が諸外国の文化に対する積極的な理解と認識をもつことである。このため,わが国は,諸外国からの文化人の招へい,学者,留学生の交換等の人物交流,外国の芸術作品を日本に紹介するための催し物,展示会等をわが国の関係政府機関が主催ないし共催し又は後援を行い,また,外国の秀れた文学書,学術書の翻訳,出版の援助等の多様な活動によつて,わが国民が出来る限り外国の文化を理解するための機会が得られるよう努めている。
諸国民との相互理解を増進することは,わが国外交の基本的課題であるとの認識の下に,わが国は,国際社会の要請に応え積極的かつ組織的な文化交流を推進するため,72年10月,国際交流基金を設立した。同基金は,設立後,2年余の経験を経て,その活動も順調な軌道に乗り,今やわが国文化交流事業の実施機関として内外から大きな期待が寄せられており,その事業規模も年々着実に拡大している。同基金の74年度までの出資金総額は250億円余となつている。同基金は,文化人の派遣・招へい等の人物交流,外国の諸大学に対する講師派遣等による海外の日本研究の促進,外国の日本語講座に対する教材供与等日本語の普及援助,巡回展等各種催し物の実施及び援助,資料の作成及び配布等文化交流活動の全般にわたり活発に活動し,わが国文化の海外紹介と外国文化の日本への紹介に努めている。
また,在外公館は,その所在各国(地域)の事情に即した効果的な文化交流を推進しており,各種展示,講演会,音楽会,映画会等の開催,国際的文化行事への参加等わが国文化の紹介を中心とする文化事業を行つており,特に26の公館には,広報文化センターが設置され,わが国の文化や国情の紹介に力を注いでいる。
以上のほか,外務省以外の関係省庁などによつても文化交流が進められており,留学生の交換,青年の船の派遣等の青少年交流,美術館等による諸外国との芸術作品の交流等が実施されている。