1. 国連における74年の主要動向
(1) 近年,経済社会分野における構造的変化に関連して国際社会の直面している問題の解決のため,国連はイニシアチブをとつてきているが,74年は特にこの傾向が顕著になつた年であつた。すなわち,例年9月からニュー・ヨークにおいて行われる国連総会に加えて,4月のニュー・ヨークにおける資源と開発に関する特別総会,6-8月のカラカスでの海洋法会議,8月ブカレストで開かれた人口会議,11月ローマにおける食糧会議と国連の下での大規模な国際会議が相ついだことである。これは,資源,エネルギー,食糧,人口等いずれも世界レベルでの解決を要する諸問題が深刻化し,もはや二国間乃至少数国間のアプローチのみでは有効に処理しえない事態となりつつある,との世界的な認識を反映したものであり,このような諸問題解決のための場として,最も普遍的かつ総合的な国際機関である国連の役割が改めて再認識されたものといえよう。上記諸会議が扱つた諸問題に加え,国連が扱う問題は,今日では平和維持,軍縮,開発協力,社会,人権,科学技術,宇宙,環境等人間生活の殆んどあらゆる分野に及ぶようになつており,国連が国際協力を機能的かつ総合的に促進するとの役割を相対的に高めてきているといえよう。
(2) もとより国連が憲章上最も期待されている国際平和維持の役割の面においても活発な活動がつづけられた。73年10月の第4次中東戦争及び74年7月に再燃したサイプラス紛争収拾の過程において紛争の拡大,再発防止を目的とするいわゆる「国連の平和維持活動」が積極的に利用されたが,これは,国連のかかる活動が直接当事者及び関係国の平和への外交努力を補う現実的な役割を果しうることを示したものとして注目に値しよう。また,イラン・イラク国境紛争(注)において事務総長特使の仲介が成功したことも看過しえない。国際連盟の時代に手がつけられ国際連合になつてからも永きにわたつて作業が続けられてきた「侵略の定義」が遂に完成したことも評価されよう。
(3) 国連の役割が期待されているもう一つの分野は軍縮であるが,75年5月に核兵器不拡散条約の再検討会議が予定されていること,また74年には10年ぶりで新たな核保有国(インド)が出現したこと等から,ジュネーヴの軍縮委員会,第29回国連総会において,核兵器不拡散問題,非核地帯の設置等をめぐつて近年にない議論の盛上りがみられたことも74年の1つの特色であつた。
(4) 現象的に見て74年を通じて極めて顕著であつたのは,非同盟諸国を中核とした開発途上国の発言力が更に強くなつたことであつた。特に,資源開発特別総会における新国際経済秩序樹立のための宣言と行動計画の採択,国連総会でのパレスチナ問題審議におけるアラファットPLO議長の特別待遇,イスラエル発言権の制限,自決権に関する決議及びPLOへオブザーバー・ステータスを付与する決議の採択,南アの同総会における権利停止,国家間の経済権利義務憲章の採択,UNESCOにおけるイスラエルの西欧グループへの所属拒否等においては,中国,ソ連,東欧諸国も加わつて西欧諸国の強い反対を数で無理に押し切つた印象を残し,総会末期近くなつてかかる傾向に反発した米及び一部EC諸国とこれらの国の間で激しい論争が見られた。
(5) 上記(4)の新勢力は,多くが新興独立の開発途上国であり,現状改革の方途として近年国際社会の基本的な枠組である現行秩序手直しの主張を強めてきている。74年においては,エネルギー危機を通じ経済的地位を高めた一部開発途上国を先頭に,開発途上国側はその政治的経済的地位の抜本的改革を強く主張した。すなわち,既に述べた海洋法会議の開催,4月の資源・開発特別総会における原則宣言,第29回国連総会における国家間の経済権利義務憲章の採択に加えて,同総会における国連憲章の再検討を目指すアド・ホック委員会の設立等はこうした主張が具体的な形を取りはじめたものとして注目される。
(1) わが国は,従来より国際平和の維持と諸分野における国際協力を目的とする国連に期待するところは大きく,国連がその目的達成を目指して行う諸作業に積極的に参加,協力していくことをわが外交の一つの柱としてきた。こうした見地からわが国が特に力を入れてきたのは,軍縮,経済社会開発,国連の基盤強化の3つの分野であつた。わが国の74年における主要な動きは以下のとおりである。
(2) 経済社会開発面では,資源と開発に関する第6回国連特別総会において,わが国は「対話と協調」の必要性を強調し,現下の経済情勢のもとで最も打撃を受けている一部開発途上国に対する緊急援助に積極的に協力するとともに,世界食糧会議では,開発途上国の農業生産向上のための自助努力の重要性を強調した。他方,経済権利義務憲章の審議等では,開発途上国との決定的対決を避けつつ,わが国の主張をもり込む努力を行つたが,必ずしも満足すべき結果は得られていない。
(3) 第29回国連総会の一般討論演説において,木村外務大臣は,核兵器不拡散問題及び経済社会分野における作業の統合調整の問題を取りあげて提言を行い,それらはそれぞれ,核兵器不拡散のために,効果的な措置を速やかに生みだすべくすべての国際的フォーラムにおいて努力を結集するよう訴える決議,経済社会理事会の機能強化に関する決議となつて結実した。
(4) 69年の第24回総会で議題として採択されて以来わが国が国連強化の見地から一貫して支持してきた国連憲章再検討が2年ぶりに第29回国連総会で審議され,わが国は他の再検討積極派諸国とともに国連憲章再検討に関するアド・ホック委員会の設置決議案を推進して,その採択に成功した。
(5) 朝鮮,カンボディアという国連総会における二大アジア問題においては,わが国はいずれも採択された決議の共同提案国としてそれらの推進に努力した。すなわち,朝鮮問題については,南北両当事者間の対話促進・多面的接触の拡大及び朝鮮における平和と安全の維持を重視する立場から,73年の第28回国連総会コンセンサスの履行を求め,国連軍司令部については安全保障理事会が休戦協定を危くしない措置を併せて執りつつその解体をも検討する趣旨の決議案を共同提案し,また力ンボディア問題については,代表権交替はカンボディア人に一つの選択を押しつけ,また国連にとつて悪い先例となるので好ましくなく,国連としてはカンボディア問題の平和解決のため可能な範囲で側面支援を行うべきであるとの立場から,他のアジア・太平洋諸国とともにカンボディアの直接当事者に話し合いを呼びかけ,また事務総長の尽力を要請する決議案を共同提案した。
(6) 南アフリカ,パレスチナ,経済権利義務憲章等では,わが国は概ね棄権した。一般に,わが国は先進工業国として西側先進諸国と考えを同じくすることが多いが,他方アジアの一国としてアジア・アフリカ諸国の主張には深い理解と同情を有しており,アジア・アフリカ諸国と西側先進諸国が意見を異にする場合,わが国としては双方間に妥当な歩みよりができるような可能な限りの調整がなされるよう努力している。しかしかかる努力が実らず表決により黒白を明白にさせられる場合には極めて困難な選択を迫られることになる。わが国が前記の三問題について棄権したのは,そうした困難な状況の結果であつた。
(7) 最後に,わが国は国連の作業にはできるだけ機会をとらえて積極的に参画するとの見地から,主要機関や実質的審議の行われる各種委員会等の作業にわが国の参加が確保されるよう努力しているが,第29回国連総会におけるこの面での成果は著しい。まず,国連の両輪ともいうべき安全保障理事会及び経済社会理事会の双方に同時に立候補し当選した。また国連工業開発理事会,国連環境計画理事会,食糧理事会の理事国に選出され,更に国連行財政コントロ-ルに重要な役割を果す行財政問題諮問委員会(ACABQ)及び国際人事委員会にわが国より委員を送り込むことに成功した。このようにわが国が重要なポストの選挙にすべて当選したことは,わが国に対する各国の評価が高まつていることを示すと同時に,わが国の責任もますます重大なものになつていることを物語るものである。
(注) | イランの国境侵犯につき安保理審議を求めたイラクの要請に応え,74年2月安保理はイラン・イラク国境紛争調査のための特使派遣を事務総長に要請する旨のコンセンサスを採択した。同年5月,イラン・イラク両国は同特使を通じ情勢改善のための4項目の措置に合意し,安保理はこれを歓迎する旨決議を採択した。 |