-諸外国における対日世論調査-
6.諸外国における対日世論調査
(1) オーストラリアにおける対日世論傾向調査
1 概 論
本件対日世論調査は,主として21才から60才までの豪州市民400名を対象とし(最低年令15才,最高年令79才),個別インタヴュー形式により,1973年1月初旬から2月上旬にかけて,各州首都及びキャンベラにおいて実施した。
今回の調査は豪州における初の対日世論調査であるので,我が国にとり益々重要の度を加えつつある豪州に対する今後の政策立案に寄与できるよう,単なるイエス・ノー形式によらず,かなり堀下げた設問を行なつた。
2 調査事項
今回の世論調査の調査事項は次のとおりであつた。
A 日本に関する一般知識
設問(1) 人口 (2) 面積 (3) 主要産業 (4) 政治形態
B 日本人に対する態度
設問(1) 日本人に会つたことがあるか。
(2) その日本人からどのような印象を得たか。
(3) 日本人をどう思うか。
(4) 第2次大戦のため日本人に悪感情を持つているか。
(5) 日本の文化及び生活様式について何を知つているか。
(6) 日本は過去25年間で劇的な変化を遂げたと思うか。もし,そうならどのような変化であつたか。
C 経済力から見た場合の日本について
設問(1) 世界経済のなかで日本は如何なる地位を占めるか。
(2) アジア経済のなかではどうか。
(3) 日本の経済的影響力は増大しつつあると思うか。
(4) 影響力の増大に何らかの不安を感じるか。または,豪州経済に何らかの問題を投げかけると思うか。
(5) 現在の日豪経済関係について何を知つているか。
(6) 豪州の貿易相手国としての日本をどう思うか。
(7) 例えば,羊毛及び鉱物資源の対日輸出に関し,豪州は日本から正当な取扱いを受けていると思うか。
(8) 日本の製品をどう思うか。
(9) 日本が豪州経済あるいは資源開発を支配するおそれがあると思うか。
(10) 日豪間の貿易は今後如何にあるべきと考えるか。
D 軍事的,政治的観点からみた場合の日本について
設問(1) 日本の現在の軍事上の地位を知つているか。
(2) 日本に軍事力の脅威を感じるか。
(3) 日本が豪州に対し軍事的脅威となるような情勢が予想されるか。
(4) 日本はアジアにおける新しい国際関係の下で,豪州の信頼できるパートナーになると思うか。
(5) 日本はアジア・太平洋地域において,より積極的な政治的役割を果すべきと考えるか。
(6) 日本はアジア・太洋地域の安定勢力であると考えるか。
E 文化及び人物交流
設問(1) 日本に打つたことがあるか。
(2) 日本は是非行つてみたい国の一つかどうか。
(3) 日本は,アジアで最も打つてみたい国か。もしそうなら,その理由。
(4) 日豪間の観光と文化交流の進展を好ましいと思うか。思うならその理由。
(5) 日豪間の観光と文化交流が増大しつつあると思うか。
(6) 日本人の豪州永住についての現行の規制を緩和することに賛成するか。
(7) 学校等において,日本及び日本語教育により一層努力を払うことに賛成するか。
F 日本に関する個人的な知識について
設問(1) 自分では日本をよく知つていると考えるか。
(2) 例えば,日本に皇室制度があることを知つているか。また,総理大臣の名前を知つているか。
(3) 日本に関する知識を主としてどこから得るか。
(4) 豪州の新聞,雑誌,ラジオ,TV等で,日本について充分に報道されていると思うか。
(5) 日本の政府及び産業界は,豪州において日本についての知識や興味を一層盛上げるべきだと思うか。思うなら,如何なる方法でか。
3 調査結果の概要
今回の世論調査を通じ明らかとなつたところから主要な点を列挙すれば次のとおり。
(1) 全回答者の63%が日本及び日本人に対し好意を抱くと回答しており,戦制によつてもたらされた恨みを持ち続けている者はごく少数(13%)である。
(2) 経済関係からみた日本については,多数の者(80%)が日本を豪州の良き貿易パートナーとみており,また,日本の商品に対しては,大多数の者(86%)が良いイメージを抱いている。
反面,日本の経済進出に対しては危惧の念を抱く者がかなり多く(47%),また貿易の実際面においても日本のやり方に必ずしも満足しないものも少なくない。
(3) 経済面で脅威を感じる者が多い反面,軍事的には日本を脅威と感じる者は極めて少なく(17%),回答者の3分の2以上の者(68%)が,近い将来日本が脅威になるとは思われないとしている。
(4) 政治的観点からみて,10人中7人が,日本を豪州の信頼できるパートナーとし,かつ,アジア・太平洋地域における安定勢力とみなしている。
(5) 回答者の多数は,日本に対しかなりの興味を示し,90%の者が両国間の観光及び文化交流の面における一層の進展を勧迎している。
反面,移民問題では,現行の規制の撤廃ないし緩和を望む者40%,望まない者41%と賛否ほぼ相半ばしている。
(6) 以上の結論として,豪州人のなかには日本に対して若干危惧の念を持つ者はいるが,全体としてみた場合はその多くが日本に対してかなり好意的であると言える。
4 調査結果の内容
A 日本に関する一般知識
この調査を通じて,一般の豪州人は日本に関し,ある程度の基礎的ないし一般的知識を有することが判明した。
(1) 人口については,回答者の半数以上(54.8%)がほぼ正確な知識を持つていた。
(2) 面積については,正確に答えたものは殆どなかつた。但し,これらの者は豪州の面積についても不正確な知識しか有していない。
(3) 主要産業については,次のとおり。
正確な知識をもつもの 1.0%
一応の知識をもつもの 47.5
知識のないもの 48.3
未回答 3.1
(4) 政治形態については,次のとおり。
正確な知識をもつもの 8.9%
一応の知識をもつもの 68.9
知識のないもの 7.3
未回答 14.9
B 日本人に対する態度
(1) 日本人のイメージ
回答者のうち,何らかの形で日本人に会つたことのある者76.7%,全く会つたことのないもの23.3%で,日本人に接触したもののうち,良い印象を得たと答えたもの71.7%,悪いと答えたもの12.4%であつた。
また,良い印象を得たという者は,日本人を形容する言葉として次のものを挙げている。
正直,礼儀正しい,知的,有能,友好的,勤勉,芸術的,清潔,真面目,明るさ,魅力的,良心的
他方,悪い印象を持つたという者の多くは,日本人が用心深いことのほか,日本人を理解することの困難さ,あるいは日本人と対話することの困難さを挙げている。
(2) 日本人に対する態度
全体として日本人に対する態度は,
好ましいとするもの 62.9%
好ましくないとするもの 12.3
その他 24.8
であり,ほぼ10人中6人が日本人に対し好意的である。
好意を持つと答えたものは,その理由として,日本の産業,日本人の信頼性,感受性,賢明さに対する尊敬の念を多く挙げている。他方,好意的でないと答えたものは全体の約1割強で,彼らは,日本人が攻撃的である,冷酷である,あるいは利益ばかりを追求する点をその理由としている。
なお,その他の24.8%という数字は,豪州人の4分の1が,日本人に対して無関心か,或いは意見を求められてもはつきり答えないか,答えを躊躇していることを示している。
(3) 戦争の影響
第2次大戦の結果,いまだに悪感情を持つかどうかとの設問に対しては,
悪感情を持つもの 13.3%
持たないもの 82.0
その他 4.7
という結果が出ており,戦争の後遺症は一部の人を除き殆ど残つていない。但し,「その他」のなかには,「悪意は持たないが,苦い記憶は残る」あるいは「敵意はないが,日本人を完全に信用できない」との回答も含まれている。
(4) 日本の文化及び生活様式についての設問に対しては,次のとおり。
良く知つているもの 5.2%
ある程度知つているもの 41.7
知識のないもの 47.5
未回答 4.7
日本への批判 0.8
(5) 日本は過去25年間に著しく変化をしたと思うかとの設問に対しては,回答者の4分の3が劇的な変化を遂げたとみており,理由としては,日本の西欧化を挙げている。
C 経済力から見た日本について
(1) 日本経済の地位
10人中4人が日本経済を世界の第3位にランクしており,また,10人中9人までがアジアで第1位を占めるとみている。
(2) 日本経済の影響力
圧倒的多数(95.3%)が,日本の経済的影響力は増大しつつあるとしている。
また,日本経済が豪州経済に及ぼす影響については,
懸念を表明したもの 39.9%
懸念を表明しなかつたもの 57.4
意見なし 2.7
のとおりであり,懸念を表明する理由として,(イ)あまりにも日本に依存し過ぎている,(ロ)豪州の産業を支配し過ぎている,(ハ)日本は経済的に冷酷である―などの諸点を挙げている。
(3) 日豪経済関係の現状については,次のとおり。
良く知つているもの 7.6%
ある程度知つているもの 39.4
知らないもの 44.4
意見なし 8.6
(4) 貿易パートナーとしての日本
日本を良き貿易相手国とみるかとの設問に対し,
好ましい 79.1%
好ましくない 9.7
はつきりしない 9.4
意見なし 1.8
の回答がでており,好ましいとする理由は,(イ)豪州の利益になる,(ロ)最上の顧客である,(ハ)必須である,(ニ)手強いが最大の市場である―などが挙げられる。
また,回答のうち,はつきりしないもののなかには,日本との貿易は「必要であるが何らかの規制を設けるべし」というもの,あるいは「貿易相手国に変化を持たせるべき」との意見もみられる。
(5) 個別商品貿易
日本を良きパートナーとみるものが,10人中8人を占めるにも拘らず,羊毛及び鉱産物について,日本が正当な取扱いをしているとみるものは,10人中6人(57.2%)にまで落ち込んでいる。
日本がフェアでないとみるものは,(イ)鉱産物の価格が安すぎる,(ロ)日本の取引方法に問題がある,(ハ)資源の輸出前の加工率が少ない―などの諸点をその理由としている。
(6) 日本の製品のイメージ
良いとするもの 86.4%
悪いとするもの 5.5
はつきりしない 7.3
意見なし 3.9
圧倒的に良いイメージを抱いているが,悪いとするものは,日本製はマス・プロ製品で安つぽい,デザインが悪い,こわれ易い(台所用品,玩具)などの欠点を挙げている。なお,条件付き回答のなかでは,日本製は品質は良いがアフター・サービスが悪い,修理に金がかかるなどの不満を洩らしている者がある。
(7) 日本の豪州経済支配の畏れ
この設問に対しては,次のとおり。
おそれあり 46.9%
おそれなし 40.5
はつきりしない 8.8
意見なし 3.9
「畏れあり」と答えたものは,日本による投資,日本企業の厳しい要求及び日本人による土地支配に対し懸念を表明している。これに対し,「その畏れなし」とするものの多くは,かかる事態が生じるか否かは豪州自体にかかつていると回答している。
(8) 将来の日豪経済関係のあり方
この設問に対しては様々な回答が寄せられたが,主要なものを列挙すれば次のとおり。
(イ)ジョイント・ヴェンチャーの拡大,(ロ)投資の促進,(ハ)経済共同体の形成,(ニ)豪州製品の対日輸出促進,(ホ)豪州による規制の強化,(ヘ)より現実的な関税,(ト)鉱産物の輸出前加工,(チ)豪州人による経済支配の強化,(リ)鉱産物の輸出価格値上げ,(ヌ)日本人による買付カルテルの阻止
D 軍事的,政治的観点からみた日本について
(1) 日本の軍事力
現在の日本の軍事上の地位を知つているかとの設問に対し,
知つていると答えたもの 46.5%
知らないと答えたもの 53.5
であり,結局,日本の軍隊は「自衛隊」であると正しく答えられた者は全体の半分以下である。
(2) 日本の軍事上の脅威
脅威を感じる 17.7%
脅威を感じない 64.7
その他 17.6
回答者の3分の2以上が日本に対し,何らの軍事上の脅威も感じていない。
双方のグループ,特に「脅威を感じない」と答えたグループのなかには,中国封じ込めのため日本の軍事力を必要とするとの意見を述べたものもある。
(3) 豪州に対する脅威
豪州に対し,日本の軍事力が脅威となるべき情勢が予想されるかとの設問に対しては,
予想される 26.4%
予想されない 67.6
条件付きないし意見なし 6.0
となつており,全体の3分の2以上がかかる情勢は予想されないと答えている。
「予想される」という回答の理由としては,(イ)日本は過去に侵略の歴史がある,(ロ)日本はすでにニューギニアに目をつけている,(ハ)日本の過去がそうであつたように,日本は国土を拡大する必要ないし繁栄を守る必要があり,そのため過去と同様の情勢が起りうるとみる者などがある。
(4) 日本は信頼すべき友邦か否か。
信頼できると答えたもの 70.7%
信頼できないと答えたもの 13.0
条件付きないし意見なし 16.3
上記のとおり,10人中7人が日本を信頼できるパートナーとみており,その理由としては,日本がアジアにおいて安定した国であること,及び日豪両国の経済的結びつきにより両国が共通の利害をもつ点を挙げている。
「信頼できない」と答えた者のなかには,一般に東洋人は信頼できないから日本人も信頼できないと回答した者も含まれている。
なお,「信頼する」あるいは「信頼しない」に拘らず,回答者のなかには日豪間の密接な経済関係を認めつつも,日本は自己の利益のみを追求しているとのコメソトを付したものも多い。
(5) アジア・太平洋地域における日本の政治的役割
積極的役割を望むもの 52.7%
それを望まないもの 34.9
条件付きないし意見なし 12.4
積極的役割りを肯定する理由として,(イ)中国の影響とのバランスをとるため,と(ロ)経済,貿易及び援助の面で日本のより積極的な活動の必要性があるとの2点が主として挙げられる。
(6) 安定勢力としての日本
日本はアジア・太平洋地域の安定勢力がとの設問に対しては,次のとおり。
肯定するもの 69.7%
否定するもの 17.5
条件付きないしその他意見なし 12.8
E 文化及び人物交流
(1) 日本訪問の有無につていは,
訪問の経験あり 16.4%
同なし 83.6
であり,このことから大部分の豪州人の日本に対する態度は直接の知識に基づくものではないと言いうる。
(2) 日本に行つてみたいと思う者は全体の3分の2(65.5%)に達している。
(3) しかしながら,日本はアジアで最も行きたいと思う国であると答えた者は46.5%に過ぎない。
行きたくないと答えた者の挙げた理由は日本の過密,公害及び高物価であり,また,他の国(例えば中国,シンガポール,香港,インド)の方に行つてみたいと思う者もかなりいる。
(4) 日豪間の文化及び人物交流
この設問に対しては,
交流の進展を望むもの 89.5%
望まないもの 6.3
その他 4.2
となつており,大多数が交流の促進を望んでいる。その理由としては,(イ)理解を増進するため,(ロ)文化的結びつきを深めるため,(ハ)貿易関係を強化するため,(ニ)対話を進め障壁をとり除くため,(ホ)日本は最大の貿易パートナーであるため ― などの諸点が挙げられる。
(5) 日本人移住問題
日本人の永住を許可するため,現行の規制の緩和を望むかとの設問に対しては,
緩和を望むもの 40.2%
緩和に反対のもの 41.2
その他 18.6
のとおり賛否はほぼ相半ばしている。
緩和を望む者が理由として挙げている点は,(イ)日本人は勤勉である,(ロ)良き市民である,(ハ)豪州のためになるなら,何故皮膚の色で差別するか,(ニ)豪州の進歩を促進する,(ホ)すでに西欧化している,(ヘ)現在の移民より優れている―などである。
他方,反対の理由は,日本人は同化しない,人種が交り合うのは好ましくない,などであるが,先例となるとの意見もある。
(6) 日本についての教育の必要性
この設問に対しては,10人中9人(87.9%)までが,その必要性を強調している。
F 日本に関する個人的知識
(1) 自分では,日本をよく知つていると考えるかとの設問に対しては,比較的知つていると思うと答えたものは,22.5%に過ぎない。
(2) 但し,日本に皇室制度があることを知つているものは,91.1%に達し,田中総理の名前も約半数の47.2%が知つている。
(3) 日本に関する情報をどこから入手するかとの設問に対しては,次のとおり。
新聞 74%
書籍,雑誌,定期刊行物 36
T V 34
ラジオ 19
人を通じて 17
その他(学校,映画,旅行案内書等) 12
(4) 日本に関する情報は充分と思うかとの設問では,
肯定するもの 41.0%
否定するもの 54.3
その他 4.7
(5) 日本に関する広報活動について,より広範に広報活動を行なうべきか否かとの設問に対しては,
行なうべきと答えたもの 79.9%
行なうべきでないと答えたもの 15.4
その他 4.7
であり,その手段としては,(イ)日本語の無料講座,(ロ)両国間の旅行計画の促進,(ハ)TVによる報道の強化,(ニ)日本についての映画,(ホ)貿易使節団及び貿易展,(ヘ)主要都市にトレード・センター設置,(ト)日本への奨学金制度の拡充,(チ)学校に対する日本関係資料配布の努力,(リ)スポーツ,芸術,文化グループの交流,(ヌ)航空運賃の値下げ,(ル)日本の広報センター設置など多数の提案がなされている。