-国会におけ内閣総理大臣および外務大臣の演説-
1.国会における内閣総理大臣および外務大臣の演説
(1)第64回国会における佐藤内閣総理大臣所信表明演説
(外交に関する部分)
(昭和45年11月25日)
(前略)
わたくしは,先般,国際連合創設25周年記念総会に出席して,自由を守り,平和に徹するわが国の基本理念を広く世界に訴える機会を得ました。
わたくしは,国際連合憲章が戦争の惨禍を二度と繰り返すまいという人類の悲願にこたえたものであり,わが国の憲法と同じ時代精神の現われであることを述べるとともに,国際紛争の平和的解決を強く訴えてまいりました。戦後二十数年にわたる平和と,国民のたゆみない努力によつて,世界でも枢要な経済力を有するにいたつたわが国が,今後どのような方向に進もうとしているかについて国際的な関心が高まつております。このため,わたくしは,わが国が今後とも経済成長によつて得た余力をもつて世界の平和建設に貢献する決意であり,発展途上国への経済協力にいつそう積極的に取り組む姿勢を表明いたしました。必ずや全国民のご支持とご理解を得るものと確信しております。
また,わたくしは,この国際連合の場においてわが国固有の領土である北方領土問題について,わが国の基本的な考え方を明らかにいたしました。すでに日米間の友好と信頼関係に基づいて小笠原諸島の復帰が実現し,沖繩の施政権もまた,1972年に返還されることが決定しております。他方,北方領土はいまだに祖国復帰の見通しがたつていないことは,まことに遺憾であります。しかしながら,近年日ソ関係はきわめて好転し,善隣友好の度合いを深めていることを確信しておりますので,この両国の友好関係をさらに緊密にするためにも,できるだけ早い機会に日ソ間において領土問題の最終的な解決を図りたいと念願しております。わたくしは,国民各位のご期待にこたえて,北方領土問題を解決するため,今後とも格段の努力を傾ける決意であります。
さらに,わたくしは,分裂国家問題は民族の悲劇であることを強調し,四つの分裂国家のうち三つまでがアジアに存在し,しかもその二つがわが国の隣国であり,分裂国家問題の解決は,わが国の安全保障の問題としても重大な関心をいだかざるを得ないことを指摘いたしました。そして分裂国家問題に大きな責任をもつ米ソ二大国が,より深い関心をはらうことを期待するとともに,全世界が勇気をもつてこの問題の平和解決に役だつ国際環境をつくり出すよう努力することを強く訴えたのであります。
最近のアジア諸国における経済発展と国内基盤強化の動きにはみるべきものがあり,また,地域協力推進の動きとも相まつて相互の連帯感と自助勢力の高まりも目ざましいものがあります。しかしながら,全体としてみれば,アジア情勢は今後もなお流動的に推移するものと予想されますが,中でも中国問題は,アジアにおける最大の問題であります。
さきにカナダ,続いてイタリアが北京政府との国交を樹立いたしました。わが国といたしましては,今次の国際連合総会の動向や,今後の国際情勢に留意しつつ,国際信義を重んじ,国益を守り,極東の緊張緩和に資するという観点から慎重にこの問題に対処してまいりたいと考えます。
わたくしは,国際連合記念総会に出席した機会にニクソン米大統領と会談し,わが国外交にとつてきわめて重要な日米関係をはじめ国際間の諸問題について隔意のない意見交換をいたしました。その際,両者は,沖繩返還の準備が円滑に進んでいるのをはじめ,日米間の基本的な友好信頼関係はますます強固になりつつあることを確認し,今後,両国間になんらかの問題が生じた場合には,すみやかな話し合いによつて問題を処理することで意見の一致をみました。日米間にはきわめて幅の広い協力の素地があり,両国が相たずさえて事にあたれば,両国の利益のみならず,広く世界の安定と繁栄に大きく貢献できるものと確信いたします。
現在,日米両国が当面している最も大きな問題は経済問題,とくに両国間の貿易をめぐる諸問題であります。日米両国間の貿易総額は,昨年度90億ドルに達し,今年度は百億ドルを越えようとしております。このようなぼう大な商品の交流に伴つて若干の摩擦が生ずることは,避けられないところであります。すでに,繊維製品の米国における輸入規制の問題にみられるように,米国では保護貿易の動きが出ております。このような傾向が続くことは両国関係,さらには世界経済の円滑な発展にとつてきわめて憂慮に堪えません。日米双方が互恵互譲の精神に基づいて問題の早期解決に努めるならば,必ずや解決の端緒を見いだしうるものと信じ,目下全力を傾けております。そしてこのことこそ,日米友好信頼関係の維持のみならず,世界の自由貿易体制の健全な発展のためにもきわめて重要であると考えるものであります。(後略)