―国際文化教育交流の現状―

 

第2節 国際文化教育交流の現状

 

1.概  観

 

 近年文化・教育交流の充実を求める声が内外において高まりつつあるが,これはわが国の経済力の充実および各般の国際活動の活発化が顕著となるにしたがい,国際文化・教育交流活動の重要性が広く認識されるに至つたものである。外務省は,こうした趨勢にこたえ,以下のとおり文化・教育交流の強化に努力している。

(1)まず諸外国における日本研究および日本語学習に対する関心は最近とくに高まつており,1970年度においても日本語普及事業,日本研究講座の運営等各種の助成事業が政府の直接事業として実施されている。留学生招致を含め,これら教育面での協力はアジア諸国との間で最も活発に行われている。国内でも補助団体である財団法人国際学友会が,外国人留学生に対する援助を目的として宿舎提供と大学進学に必要な学科(特に日本語)の授業を行なつている。

(2)次に文化面の交流は,民間レベルでもとくに欧米先進諸国との間で盛んに行なわれ,かなりの効果をあげてきているが,政府としても,(イ)日本の伝統演劇の海外公演,国際美術展への参加等大規模で本格的なものや,現代インド絵画展のように相手国の催物については,財団法人国際文化振興会に対する補助事業としてこれらを助成し,(ロ)在外公館を中心として日本の伝統文化・現代文化の積極的紹介を行ない,(ハ)外国文化のわが国への紹介につきできるだけ便宜をはかる等努力している。

(3)上記の文化的諸行事と並んで,近年学術,科学および技術の分野において,わが国の政府や民間の関係団体との協力関係を拡大しようとする諸国が増加し,政府間文化委員会等各種の二国間会議が開かれている。

(4)以上の二国間の動きのほか,ユネスコ等国際機関を通じてボロブドゥール遺跡保存のためのキャンペーン活動をはじめ,アジアの伝統文化に対する関心と自覚が域内において高まる一方,文化社会面および教育分野において,アジア太平洋地域文化社会センターや東南アジア文部大臣機構のごとき地域協力が進展しつつあるので,わが国もこれらに協力している。

 

2.文化・教育交流に関する国際協定,国際会議,国際機構

 

(1)文化協定,文化協定に基づく混合委員会および定期協議等

 現在日本は13の国と文化協定を結んでいるが(このうちアフガニスタンとの協定は未発効),これら文化協定に基づく日墨,日仏,日英の混合委員会が開かれたほか,隔年毎に東京とワシントンで開かれることとなつている日米文化教育会議の第5回会議が1970年3月東京で開催され,日米相互理解等の問題について意見交換が行なわれた。

 上記混合委員会や日米会議あるいは通常の外交ルートの場以外に,大臣レベルの二国間定期協議の席上でも,その主要議題に文化関係がとりあげられていることが多く,1970年度は,イタリア(第2回。1970年11月),インド(第2回。1970年12月)との定期協議において,両国間文化交流拡大の方途について具体的な討議が行なわれた。

 また1970年3月31日より4月11日まで,ユーゴスラヴィアのヴェイノヴィッチ対外文化委員会議長が来日し,日本国際映画祭に参加したほか,文化協定の実施に関し,協議を行なつた。

(2)アジアとの文化教育協力関係

(あ) アジア太平洋地域(ASPAC)文化社会センター

 1968年10月に発足したアジア太平洋地域文化社会センターは,1970年7月から第3年度に入り,事業活動も一段と充実しつつある。同センターは,加盟国の新進著述家,学者,芸術家の域内研究旅行に対するフェローシップの供与,出版および図書事業,域内の文化・社会事情の調査・都市化問題についてのクリアリング・ハウス計画を実施しているほか,近くカリキュラム・ワークショップおよび文化財保存に関する専門家会議を開催する予定である。さらに,域内の短編作品の翻訳等の実施を検討中である。東京においては,日本政府の協力により,1969年10月,ASPAC加盟各国の視聴覚分野の専門家を招へいし,セミナーが開催されたほか,フィリピン政府は同時期に第2回ASPAC映画祭のマニラ開催を引受け,豪州政府も1971年1月キャンベラで開催された東洋学者会議への域内参加者の旅費を一部負担するなど各国の協力が地道に進められている。

(い) 東南アジア文部大臣機構(SEAMEO)

 1965年11月にハンコックで開催された東南アジア文部大臣会議は,その後憲章を採択し(1968年12月に発効),大臣機構として体制を整えるとともに,暫定期間を経て1970年7月より,英語教育センター(シンガポール),理科数学教育センター(マレイシア,ペナン),農業研究センター(フィリピン,ロスパニョス),熱帯医学公衆衛生計画(バンコックの中央調整理事会のほかに各加盟国に国内センターが設置されている)の4プロジエクトは本格的に事業を開始しており,熱帯生物学センター(インドネシア,ボゴール),教育革新及び技術センター(シンガポール)の両プロジェクトも準備段階にある。

 わが国は本機構のプロジェクトに対しては,要請に応じ,できる限り協力する方針で,1970年度は各プロジェクトの理事会,セミナーに専門家6名を派遣するとともに,理数教育センターには講師1名の長期派遣を行つているが,今後ともわが国への協力要請が強まることが予想される。

 

3.文化交流事業

 

(1)日本紹介のための音楽,舞台芸術の海外公演,巡回展示会,在外公館企画の催し物等

 1970年度において外務省は,財団法人国際文化振興会(KBS)補助事業として,宮内庁の雅楽,東京バレー団および桐朋学園管弦楽団の欧州公演,日本民族舞踊団の東南アジア公演,能・狂言の北米公演等の音楽,舞台芸術の海外公演(付表10の(あ)参照)や,各種の展示会の各地巡回開催(付表10の(い)参照)を実施し,いずれもきわめて好評であつた。

 また,各在外公館は自ら講演会・音楽会・展示会等の催し物を開いたり,各地における文化的行事に参加し,日本紹介に努力している(付表10の(う)参照)。

 さらに,KBSは,外務省の補助の下に第35回ヴェニス・ビエンナーン展および第2回インド・トリエンナーレ展に参加し,後者において吉原治良氏の作品が金賞を受賞する等の成果を挙げている。

(2)映画による日本紹介

 外務省は従来から在外公館主催によりわが国の劇映画及び文化映画の映画会を開催し,映画の上映による日本紹介を行なつている。在外公館を巡回した劇映画で1970年度において特に好評であつたのは,「家族」,「二人の恋人」,「荒い海」,「花ともぐら」で,文化映画では「浮世絵」,「花と日本人」,「流氷」であつた(付表11参照)。

 このほか,世界各地における国際映画祭へのわが国からの参加についても,外務省として斡旋,協力を行なつた(付表12参照)。

(3)図書出版物による日本紹介

 外務省は各国の日本研究機関に日本研究用図書を寄贈するほか,各種の図書展への参加,各地での日本図書展の開催への協力,日本紹介用図書資料の刊行の助成等の事業を行なつている(付表13の(あ)ないし(う)参照)

(4)在外日本文化会館の運営

 1962年に「ローマ日本文化会館」が,また1969年には「ケルン日本文化会館」がそれぞれ開館しているが,これら日本文化会館は,KBS補助事業の一環として活発な日本紹介行事を行なつている(付表14参照)。

(5)その他の事業

 以上のほか,東京国際版画ビエンナーレ展第7回展(海外259点,国内67点出点),東京国際アマチュア映画コンクール第7回コンクール(海外76点,国内83点出品)が1970年に開催された(以上KBS補助金事業)。

 また,インド政府の要請を受けて東京と京都で現代インド絵画展を開催し,日印文化交流に資した。

 以上のほか,外務省では,日本都市親善連盟を通ずる姉妹都市の提携に便宜を与え(付表15参照),国際文化交流促進に寄与する国内の催し物にも後援名儀を付与し,これらを支援している(付表16参照)。

 

4.教育学術交流事業

 

(1)  国際学友会による事業

 国際学友会は,外国人留学生に対し宿舎を提供するとともに,日本語学校を運営し,日本語等を指導するほか大学進学のあつせんを行なつている。

 宿舎の収容能力は東京本部154名,関西支部(大阪)62名及び京都支部35名の合計251名であるが,1970年度における宿泊者数は延べ810名である。なお1971年4月から仙台寮(収容能力50名)が建設される予定である。

 日本語学校は,東京本部及び関西支部において運営されており,学生定員は前者200名,後者60名であるが,1970年度においては,これら日本語学校において313名の留学生に対し,日本語をはじめ,数学,理科,社会などの基礎学科を教授し,これら課程の修了者に対し進学をあつせんした。

(2)パリ大学都市日本館

 パリ大学都市内の日本館は,フランス留学中の日本人学生に対する宿舎の提供を主たる任務とし,また,構内に日本関係の図書を収集して日本研究に便宜を与えている。

 外務省は館長を推薦し派遣しているほか,同館建物の内部修理費及び若干の備品費などに対し,援助を行なつている。

(3)外国人留学生等の来日

 海外においてわが国に留学を希望する外国人は著しく増加しているところ,わが国の国費留学生制度(文部省主管)により採用した外国人留学生の実績は付表17のとおりであり,また科学技術庁が招へいした外国人研究者の実績は付表18のとおりである。

(4)日米教育交換計画(フルブライト計画)

 1970年度における本計画に基づく,両国間学生,教授,研究員の交換実績は付表19のとおりである。

(5)日本人学生の海外留学

 1970年度において,外国政府または準政府機関の奨学金を受けて,海外へ出発した者の数は,付表20のとおりである。

(6)日本研究講座寄贈

 外務省は,東南アジア諸国における日本研究を助成するため,原則として教授1名及び講師2名よりなる日本研究講座を7大学に寄贈している。

 これまで寄贈した7講座の現況は付表21のとおりである。

(7)日本語普及事業

 外務省が,1970年度に海外における日本語普及のために講師謝金を支給し,あるいは教材を送付している施設の所在国(地)は,それぞれ付表22及び23のとおりである。

 また外務省は1969年より,在外公館または外国の日本語教育機関に,日本語教育専門家を派遣することになつたが,1970年には2名を増員,計5名となつた。これら派遣先の日本語教育機関は付表24のとおりである。

(8)日ソ学者,研究員の交流

 1965年以降,わが国はソ連との間に,毎年政府間取決めにより,相互主義に基く学者,研究員の交流を行なつているが,1970年に交換した実績は付表25のとおりである。

(9)海外学術調査隊に対する便宜供与

 1970年度の本件に関する実績は,付表26のとおりである。

 

5.人物交流事業

 

(1)文化人の海外派遣

 わが国の芸術,学術,思想,スポーツ等を紹介し国際親善を促進するため,引き続いて文化人,学者,柔道師範,卓球コーチ等の派遣を行なつたが,1970年度において派遣した実績は付表27のとおりである。

(2)外国の文化人等の招へい

 外国の文化人,学者をわが国に招へいして親しくわが国の事情を認識させ,わが国関係者と意見交換の機会を与えることを目的として,1970年度中に日本に招待した外国文化人の実績は付表28のとおりである。

(3)青少年交流

 外務省は,1970年度に新しい企画として日本研究専攻のアジア青年学生短期招へい事業を付表29のとおり実施した。そのほかわが国と外国との間の青少年交流に対し,便宜を供与しており,1970年度に総理府,地方公共団体,民間団体により行なわれた青少年交流の実績は,付表30及び付表31のとおりである。

(4)スポーツ交流

 1970年度に外務省が便宜供与をした海外へのスポーツ選手の派遣実績は付表32のとおりである。

(5)海外への登山隊の派遣

 1970年度に外務省が便宜供与をした海外への登山隊の派遣は,付表33のとおりである。

 

 

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