-報道広報関係-
第6章 情報文化活動の大要
第1節 報道広報関係
戦後の外交は国民外交ないし世論外交と呼ばれているが,このことは日本についてもまた然りであり,わが国の外交を強力に推進するためには,国内においては広く国民の理解と支持を得るとともに海外においては,わが国の国情と政策についての認識を深めさせることが必要不可欠である。
そのため,国内においては,国民一般が国際問題をいつそう身近に感ずるようになり,わが国の外交政策や重要国際問題に対する関心が高まるにつれ,外務省は国内報道機関との接触や広報活動の強化拡充を通じて,国際情勢の動向とそれに対応するわが国外交の指針について正確かつ十分な説明を行なうべく努めている。
他方海外においても,わが国のめざましい経済発展と国際的地位の向上を反映して諸外国のわが国に対する興味と関心が高まるとともに国際社会においてわが国が果すべき役割に対する期待が増大しており,わが国の外交政策がさらに注目を集めるようになつてきている。かかる趨勢に呼応して,広く海外諸国に対してわが国の政治,経済,社会及び文化等諸般の事情を正しく紹介し,またわが国外交の基本方針や重要外交問題に関する立場を十分説明することによつて,わが国に関する知識の不足や誤解に基づく不正確な報道や認識を是正し,正しい理解を深め,ひいては対日世論のいつそうの好転を図ることが,わが国外交の推進上ますます重要となつている。このため,外務省は,外国報道機関との常時接触に努めるとともに本省及び各在外公館を通じての海外広報活動の強化拡充に努力している。
(1)国内・国外に対する報道事務
情報文化局は,外務省と内外報道機関との接点であり,国内的には主として外務省常駐の霞クラブ(主要新聞,テレビ,ラジオ,計36社が加盟)を通じて国内報道機関に対し,対外的には在日外国報道協会(Foreign Press in Japan,23ヵ国から164社が加盟)を通じて外国報道機関に対し,また在外公館においては現地報道機関に対し,常時わが国の重要外交問題や主要国際問題に関する発表や解説を行なつている。このため,
(あ) 霞クラブに対しては,外務大臣はじめ,事務次官,情報文化局長による記者会見,記者懇談のいずれかを毎日実施するとともに,重要案件については随時,主管の局部課長等によるブリーフィング(解説)を行なつている。
(い) 外国報道関係者に対しては,情報文化局長が毎週1回英語による記者会見を実施しているほか,各種の照会に関し,随時応接している。
(う) 上述の口頭による発表のほか,文書による発表として,外務大臣談語,情報文化局長談語,情報文化局発表,記事資料及び参考資料の形で随時,内外報道機関に配布している。
(え) 内外報道機関のみならず,在京の外国公館の広報関係者とも常に連絡を密にし,外交案件の説明あるいは照会に対する回答を行なつている。
(お) 主要国際会議の開催に当つては,プレス・アレンジメントを行ない,内外報道関係者のために,会議場での記者会見室,控室のアレンジ,会議に関する新聞発表,会見のあつせん等を行なつている。
(2)報道関係者への便宜供与
(あ) わが国の報道関係者が海外取材をする際に,本省と在外公館の双方で各種の便宜を供与し,諸海外事情の対内報道の充実にできる限りの側面的協力をしている(昭和45年4月~昭和46年3月間には482名の報道関係者に対して海外取材のための便宜を供与している)。
(い) 外国報道関係者に対しては身分証明書を発給し(46年3月1日現在の発給数299),わが国における取材活動をする際の便宜を供与し,あるいは総理大臣,外務大臣等との会見につきあつせんを行なつている。
(う) 外国の国賓,公賓の訪日に際しては,ほとんどの場合,記者団が随行するため,これら随行書記者団に対し,取材上の便宜を計つている。
(3)海外における対目論調収集及び編集
外国報道関係者に対し上述のごとき便宜を供与する一方,これら外国報道関係者がわが国に関しいかに報道しているかを在外公館等の報告を通じて観察するとともに,重要外交案件に関する諸外国の対日論調の収録,分析を行なつている。
なお,このほか,昭和46年1月より在外公館より送付されてくる各国主要紙のわが国に関する記事,論評その他本省にて入手し得る海外紙,雑誌等のわが国に対する論調を各月毎にとりまとめている。
(4)一般情報の編集
一般情報は,在外公館に本邦関係のニュースを速やかにかつ正確に伝え執務参考に供することを目的として編集しており,具体的には,(あ)総理大臣,外務大臣の外交に関する重要演説(い)外務大臣談話,官房長官談話,情報文化局長談話,情報文化局発表,記事資料,共同声明等(う)外務大臣記者会見記録(え)事務次官,情報文化局長,その他本省幹部(課長クラスも含む)の会見及びブリーフィングの要旨(お)外交関係の新聞記事(コメントを付す)(か)わが国外交上の重要案件,主要国内問題についての主要紙論説のとりまとめ(き)本省関係記事(く)外務省関係人事等を掲載している。一般情報は電報,郵送,ファクシミリ等の方法により,全在外公館に送付されている。
(5)在外公館に対する外国語によるニュース送達委託
在外公館に対し,わが国に関する重要ニュースをできるだけ速やかに知らせ,各館の執務参考にするとともに,広報活動および報道対策に役立たせる目的で,共同,時事両通信社に対し外国語(主として英語,一部にスペイン語と中国語)による本邦関係ニュースを在外公館に送達する業務を委託しており,45年度現在共同ニュースを26公館,時事ニュースを26公館に対してそれぞれ送付せしめている。
国内広報活動としては,国際情勢や当面の外交問題の解決を,刊行物の発行,あるいは講演会への講師派遣などによつて実施し,国民各層に国際情勢および外交問題をより正確に把握し,これらの問題について冷静かつ現実的に考えるための材料と機会を提供している。現在情報文化局において編集,発行しているものに「国際問題資料」「国際週報」がある。また編集のみを行なつているものに「世界の動き」,「われらの世界」がある。このうち,「国際問題資料」は月2回発行,「国際週報」は週刊で,それぞれ主として報道機関,専門家に配布している。さらに「世界の動き」は月刊で報道機関,政界,学界,経済界,中央・地方諸官庁,商工会議所,高校長,大学図書館,各種団体等に配布している。また「われらの世界」は中学・高校長,地方公共団体,各種団体等に配布している。これら刊行物に対する評価は年々高まりつつある。なお「世界の動き」と「われらの世界」は,世界の動き社(東京都港区西新橋1-6-14デトロイトビル電話504-1655)で発行している。さらに従来より各種団体および地方公共団体などの求めに応じ,国際情勢および外交問題に関する講演会,研修会などに省員の中から講師を派遣してきたが,1970年4月から1971年3月末までに派遣した回数は318回に及んでいる。なお,わが国の外交政策あるいは世界におけるわが国の立場に対する国民各層の正しい認識のための参考資料として重要外交案件に関する平易な小冊子を作成配布して国民の要望に応えているが,その主要なものは1971年2月現在次のとおりである。
1.日米安保条約早わかり
1.目でみる日本の安全保障
1.われらの北方領土
1.核兵器不拡散条約
1.1970年代を考える
1.これからの日本外交
1.新年を迎えた国際情勢と日本
1.25周年を迎えた国際連合
1.日本の経済協力
1.人間環境の諸問題
(1)概 況
高度の文化と伝統を保持しつつ,近代的な民主主義国家として発展をとげているわが国の実情と自由主義諸国の主要な一員として世界の平和と繁栄のために努める日本の外交政策をひろく,かつ,正しく諸外国の官民に周知せしめるため,外務省は積極的に海外広報活動を行なつている。
特に最近はわが国のめざましい経済発展にともない諸外国の対日関心が高まると同時に一部には対日批判ないし警戒心の台頭も見られるところ,外務省としてはこのような対日関心増大の気運をとらえて一般的な対日認識の増進をはかると同時に,わが国の実情ならびに外交政策を正しく知らせることにより,このような対日批判ないし警戒心の除去または緩和に努力している。
なお世界142ヵ所に置かれている在外公館には,最低1名(兼任を含む)の広報担当官を配置し,さらに主要公館には広報文化センターを順次設置し,講演・資料・映画・写真その他のあらゆる可能な手段を活用して,わが国の実情と外交政策の紹介に努めている。特に諸外国の報道機関とは常時緊密な連絡を保ち,これらの報道機関によつて正しい日本の姿が報道されるように努めている。
(2)広報資料の作成と配布
海外広報用として外務省が発行し,各方面に配布している資料は定期・不定期を通じ多種多量にのぼる。
不定期刊行物のうち,最も基本的なものは,わが国の現状に関する基本的な事実を総合的に説明した小冊子「今日の日本」である。この小冊子は従来より海外において多大の好評を博してきたものであるが,1970年度においては,これに全面的改訂を加え,内容,写真ともいつそうの充実を計る(カラー写真さし絵29頁,白黒写真さし絵28頁を含む計115頁)とともに,米・英語版のみならず,仏・独・西・露語等各国語版の改訂作成をも進めた。
この「今日の日本」は,高校生以上を対象としたものであるが,このほかに中学生および小学生をそれぞれ対象とした日本紹介小冊子も各国語版で作成されている。
また,従来より,わが国の外交,政治,経済等については,レファレンス・シリーズという比較的詳細かつ専門的な記述を含む20頁程度の小冊子を刊行しており,1970年度においては「北方領土問題」「国連と日本」等装丁にも工夫をこらしたものを作成した。本シリーズは1970年度末現在で英・仏・西語,33種類に達した。他方,明治維新以降のわが国の近代化の過程を総合的に紹介する写真入り小冊子「移り変る日本」は海外において多大の好評を得たので,従来の英・仏・西語版に加え,タイ,ヴィエトナム,中国,インドネシア,アラビア,イランの各国語版を新たに作成し開発途上国を中心に広く配布したが,今後ともわが国の実情について進んだ知識の提供を目的とする各種の解説資料を重点的に拡充してゆく予定である。
また,各種の照会に迅速に回答できるよう,わが国の憲法・地理・歴史・教育等の35項目をそれぞれ簡単に説明したファクト・シーツを主要5ヵ国語にて作成しているが,この改訂・拡充にも常時努力している。
このほか,日本の産業・文化・生活,観光地等を紹介する各種ポスター,大小地図,及び人形をテーマとした1971年周カレンダーを英・仏・西の3ヵ国語による説明文入りでそれぞれ作成した。色彩印刷の美しいこれら広報刊行物は,多大の好評を博し,わが国情の紹介にとどまらず,わが国の高度の印刷技術の紹介にも役立つている。
定期刑行物としては,わが国の外交・政治・経済その他各般の実情と政策を紹介する英文インフォメーション・ブレティンを毎月2回本省で発行しており,各在外公館は,これを基礎にそれぞれの地域の事情に応じて再編集の上,これを現地語で発行・配布している。現在かかるインフォメーション・ブレティンは26ヵ国語で発行されており,毎号合計約9万部に及んでいる。またグラフ誌「ジャパン」を年4回,英・仏・西・中国語および露語にて毎回計12万部近く刊行しており,近く独語版をも刊行する予定である。
(3)広報用映画,スライドおよび写真の作成配布
(あ) 広報用映画
映画は直接視聴覚に訴える極めて効果的な広報手段であるので,諸外国の官民がわが国の社会・経済・文化その他各般の実情を理解するのに役立つよう,広報映画(カラー16ミリおよび35ミリ)を毎年4種程度作成している。外務省作成広報映画には英・仏・西・葡・アラビア語をはじめとして約10カ国語版があり,全在外公館に配布の上,在外公館主催の映画会,一般貸出し,テレビ上映,広報車による巡回上映などを実施して非常な好評を博している。
1970年度には,「日本の皇室」(改訂版),「現代日本の女性」,」日本の工業技術」および「伝統音楽への招待」の4種を作成した。さらに諸官庁・団体・会社等が作成した映画の中で海外広報上有効と認められる広報映画45種を購入し,在外公館に配布した。
(い) 巡回広報車
アジア・アフリカ・中近東・中南米地域の特に電気のないような辺地において,映画による広報活動を積極的に行なうため,1960年以降,発電装置を備え,映写機,スクリーン,テープレコーダー・,拡声器等を搭載した巡回広報車を配置し,広報上大きな効果を挙げている。1970年度には在タイ,アラブ連合(以上買替),大韓民国,マダガスカルおよび象牙海岸大使館にこれを配布した。本広報車を保有する公館は,現在32公館にのぼる。
(う) 外国テレビ用スクリーン・トピックス
外務省は,毎月1回,比較的カレントなトピックスをあつかう「ジャパン・スクリーン・トピックス」(白黒15分)を企画・作成し,50の在外公館に配布している。これらの映画は配布先公館の所在する各国テレビ局の番組に組み入れられて,毎月定期的に放映されている。
(え) スライド
カラー・スライドの利用は,映画に次ぐ視聴覚手段として多大の効果があるので,在外公館保有のスライドの充実とその利用に努めており,1970年度には中高校生向きの「東京からの手紙」(英語解説テープ付)を作成し在外公館に配布した。在外公館では,日本事情紹介講演会その他の催しにあたつてスライドを利用し,また貸出しを行なつている。
(お) 写真
1970年度においては,3,000種,約60,000枚にのぼる各種写真を作成し全在外公館に配布した。これらの写真は,各国主要新聞,百科辞典,教育用図書および雑誌等にひんぱんに掲載利用されている。また1970年には「万博と今日の日本」(60枚1組)の展示用写真セットを作成し在外公館に配布したところ,各在外公館の写真展に展示され大きな効果を挙げた。
(4)報道関係者の招待および便宜供与
海外の有力報道関係者を本邦に招待し,あるいは来日報道関係者に本邦の各分野にわたる視察・会見などのあつせんの便宜を供与することは,これら報道関係者が新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等を通じて,わが国の正しい姿を彼らの見た目で紹介するので,極めて効果的な手段である。
(あ) 報道関係者招待
外務省は,世界各国より年間30~40名程度の有力報道関係者をそれぞれ約2週間招待し,わが国の外交・政治・経済・社会事情を視察・研究せしめている。
1970年度は,インド,インドネシア,ブラジル等より33名を招待したが,これら招待記者は,帰国後,各種の日本紹介記事を執筆し,また,日本紹介講演を行なつた。
(い) 報道関係者に対する便宜供与
本邦事情取材のため来日する報道関係者が近年急速に増加して来ているが,この中には国際的に著名な一流記者も相当含まれている。情報文化局は,これらの報道関係者に対し,可能な限りブリーフィング・会見・見学のあつせんを行ない啓発に努めている。ちなみに1970年度に外務省が便宜を供与した外国報道関係者数は,約470名に達する。
(5)外国教科書,百科辞典等の日本関係記述の是正
諸外国で発行され,使用されている教科書ならびに百科辞典等の中には,いまだに日本に関する誤つた記述があり,これを是正することは次代の諸国民の正しい対日理解をはぐくむ意味で極めて重要である。外務省は,このために設立された財団法人・国際教育情報センターと緊密な連絡を保ちつつ,誤つた日本関係記述の指摘,関係資料・写真の提供等により誤つた記述の是正に努めている。
(6)広報文化センター
各在外公館においては,わが国の実情および外交政策の紹介を図るため,講演の実施,広報資料の配布,映画の上映,日本事情に関する照会処理等あらゆる手段を活用していることは前述のとおりであるが,とくに重要な所には順次広報文化センターを設けて,広報活動の拡充強化を図つている。
ニュー・ヨーク,ロンドン,バンコック,ジャカルタ,ブェノス・アイレス,ジュネーブ,ニュー・デリー,カイロ,シドニー,ラゴス,ウィーン,マニラ,リオ・デ・ジャネイロ,メキシコ,香港,ウエリントン,サン・フランシスコ,パリ,クアラルンプールの既設19個所に加えて,1970年度には,ソウルおよびテヘランの2個所に広報文化センターの開設の準備を進めている。なお,1971年度には,トロントおよびカラチにも開設する予定である。
(7)対日論調
海外における対日世論の動向を迅速かつ的確に把握するため,在外公館においては,常に注意深く対日論調,日本関係記事等を検討分析するほか,関係記事を本省に送付し,本省においては,さらに総合的に分析の上,その結果を海外広報活動の立案および実施に組み入れている。
さらに外務省は,対日世論傾向把握のため,従来より各国の権威ある世論調査研究所に依頼して,米国その他の諸国において,対日世論調査を実施している。
1970年には,米国においては3月および9月に,それぞれ米国市民1,528名および1,513名を対象とし,英国においては3月に16才以上の同国市民1,855名を対象とし,またドイツにおいては,5月に16才以上の同国市民1,986名を対象として,初めての調査を実施した。これらの調査結果の主要な点は次のとおりである。
質問「日本は米国の信頼し得る友邦であると考えるか」(米国)
(答) 1970年9月 同3月 (1969年)
信頼し得る 42% 44% (43%)
信頼し得ない 34% 36% (37%)
わからない 24% 20% (20%)
質問「日本は英国の友邦と考えるか」(英国)
(答) 1970年3月 (1969年)
友邦である 31% (29%)
友邦でない 36% (38%)
わからない 33% (33%)
質問「日本という言葉を聞いて先ず何を連想するか」(ドイツ)
(主な答) 1970年5月
工業力,経済力 14%
万国博 14%
日本の地理ないし地勢 12%
工業または農業の特産品 11%
質問「日本はアジアにおける安定勢力であると考えるか」(米国)
(答) 1970年9月 同3月 (1969年)
考える 48% 50% (47%)
考えない 18% 17% (20%)
わからない 34% 33% (33%)
質問「1970年代に日本はアジアにおいてより重要な役割を演ずると思うか」(英国)
(答) 1970年3月
そう思う 51%
そう思わない 14%
わからない 35%
質問「日本からの輸入商品の品質をどう思うか」(米英両国共通設問)
(答) 米国1970年3月 (同1969年) 英国1970年3月 (同1969年)
優秀である 9% (7%) 5% (6%)
良い 36% (34%) 31% (29%)
普通である 36% (37%) 33% (33%)
良くない 13% (17%) 20% (21%)
わからない 6% (5%) 11% (12%)
質問「日本商品の品質をドイツ商品と比較してどう思うか」(ドイツ)
(答) 1970年5月
より良い 6%
同等である 57%
より悪い 19%
わからない 18%