-邦人の海外渡航-
第5章 邦人の海外渡航,移住の現状と在外邦人の保護
第1節 邦人の海外渡航
1.旅券発行の状況
1970年1月~12月の旅券発行数は,655,732冊にのぼり,対前年比172,283冊,36%増と引き続き高い伸び率を示した。
旅券の発行数は,外国為替管理面において,1963年に業務渡航が,ついで翌64年に観光渡航が自由化されて以来,毎年激増の一途をたどつており,最近の傾向としては観光のための海外渡航の増加があげられる。これには日本経済の高度成長に基づく国民所得の増加,国民の対外的関心の増大などが大きく影響しており,また,渡航者の階層の多様化,割安な団体旅行の普及,航空機の大型化などが渡航者数の増加に拍車をかけているものと考えられる。
1952年以降の旅券発行数の推移は,A表のとおりであるが,1970年の旅券発行数は,1952年当時にくらべ,実に50倍に達している。
(1)最近の一般旅券の発行件数を渡航目的別に分類すると,B表のとおりであるが,これをみると,近年,観光渡航が数的にその首位を占めているばかりでなく,1968年には一般旅券発行数全体の49%と,それまでは半数以下であつた観光が69年には54%と半数をこえ,さらに45年には59%に達した。
他方,経済活動(業務,役務提供,赴任など)のための渡航者も観光についで多数を占め,その絶対数は毎年増加しているが,一般旅券発行数全体に占める率は,1968年37%,69年34%,70年31%と,逐年低下してきている。
したがつて,最近の旅券発行数の激増は,観光のため海外に旅行する者が著しく増加していることに起因するといえよう。
(2)一般旅券発給申講の際,申請書に記載された主要渡航先を地域別に集計するとC表のとおりであり,これにより渡航先の趨勢をみることができるが,これによると,アジア地域が全体のほぼ半数を占め,ついで,北米,欧州の順となつている。
さらに,これを年をおつてみると,アジアが1968年,69年とも全体の53%であつたのが,70年には49%と半数を割つたのに対し,北米が,1968年26%,69年27%,70年31%と,全体に占める率は増加してきている。
なお,欧州は,1968年以来15%台で横ばいである。
(3)渡航者の大部分は短期渡航者であり,永住,赴任,長期業務,留学,学術研究など,渡航先において3ヵ月以上滞在する予定の長期渡航者数を渡航先の地域別に集計するとD表のとおりであり,全体の10%にもみたない。
長期渡航者に対する旅券発行数の対前年比伸び率は,1969年,16%増,70年22%増となつており,旅券発行数全体の伸び率より相当下まわつている。D表を地域別にみると,北米(全体の約40%),欧州(約20%),アジア(20%弱)の順となつており,これは,上記(2)で述べた一般旅券全体の主要渡航先の,アジア,北米,欧州の順とくらべ,アジアが非常に少なく,北米欧州が相対的に多くなつている。
本節の冒頭で述べたように,近年,海外渡航者数は激増の一途をたどつており,また,渡航者の態様も非常に変つてきているので,20年近く前に制定された旅券法では,最近の渡航者の実態と合わなくなつてきていた。
このような情勢に対処するため,旅券法の大幅な改正が行なわれ,また,旅券事務の機械化が推進されてきた。
(1)旅券法の改正
1970年の第63特別国会において,「旅券法の一部を改正する法律」が成立し,5月27日に法律第105号として公布された。同法は,諸般の準備のつごうもあつて,12月1日から施行されたが,改正の主要点は次のとおりである。
(あ) 5年間数次有効の旅券を大幅に発給しうるようになり,また,その渡航先も,一部の除外地域を除き,原則として全世界に有効というように,包括記載することができるようになつた。
(い) 都道府県知事に一般旅券に関する事務の一部が委任され,事務処理の迅速化がはかられた。
(う) 申請者の出頭義務の緩和,旅券の合冊,査証欄の増補制度の採用など,旅券制度の合理化がはかられた。
(え) 手数料が改訂された。
(2)旅券事務の機械化
外務省では,1965年以来,コンピューターを利用して旅券発給事務処理を行ない,事務の能率化をはかつてきているが,1969年度からは,さらに,旅券申請の窓口となつている各都道府県と外務省との間の機械化を推進してきている。
この機械化は,外務省と都道府県とにテレタイプを設置して,これを専用回線で結び,これによつて,旅券申請データを都道府県から外務省に伝送し,コンピューターによつて処理された旅券作成データを外務省から都道府県に伝送するというシステムを導入することにより,旅券の発給事務の迅速化をめざすものである。
そのため,1969年度においては,北海道,神奈川,愛知,大阪,兵庫および福岡の6道府県が機械化され,ついで70年には,宮城,千葉,静岡,京都の4府県が機械化された。1970年度までは,技術的な問題もあり,外務省から都道府県への伝送,すなわち片道伝送を行なつてきたが,71年度からはこれを往復伝送に切り替える予定である。
東京都は,外務省と距離的に近いので,データ伝送は行なわず,さん孔された紙テープを託送する方法をとつてきたが,1971年度においては,将来の機械化システムの向上にそなえ,東京都との間も専用回線で結ぶ計画である。