―科学に関する国際協力―

 

第9節 科学に関する国際協力

 

1. 原子力の平和利用

 

(1)国際原子力機関(IAEA)第14回総会

 1970年9月IAEA第14回総会が開かれたが右は1970年3月に核兵器不拡散条約(NPT)が発効してから最初の総会であつた。同条約はIAEAの保障措置に関する責任の増加をもたらしたがさらに同条約によりは原子力平和利用のいつそうの促進のため,科学技術情報の交換をはじめとする国際協力にも重要な役割を果たすべきであることが各国に認識された。他方発展途上国からはIAEAが保障措置に力を注ぐあまり技術援助等の面が手薄にならないよう強い要請があつた。また,加盟国の増加等により理事会の構成国数および地域的分布が実情にあわなくなつてきたため理事会の拡大が検討されてきたが,第14回総会でこのためのIAEA憲章第6条の改正が決定された。さらに原子力分野の科学技術情報の円滑な交換を図るため1970年に発足した国際的サービス組織(INIS)を評価するとともに,今後,環境問題についても積極的に取組んでいく必要があるとの空気が強かつたことが注目される。

 とくにわが国としてはNPTの下での保障措置協定のガイドラインとして,簡素にして合理的な保障措置が適用されるという原則が確立されたことは有意義である。

(2)非核兵器国会議関係

 第25回国連総会においては,第24回総会の決議にもとづいて(イ)非核兵器国会議の結論の実施,(ロ)適当な国際管理下での平和目的核爆発サービスの設立,についてそれぞれ事務総長報告が提出された。さらに,わが国が共同提案国となつて提出された非核兵器国会議の成果実現のためIAEAなど関係機関に引き続き協力を要請する旨の決議が採択された。

(3)核兵器不拡散条約(NPT)下の保障措置問題

 NPTの発効にともないIAEAは1970年4月の特別理事会で保障措置委員会を設立し,NPT第3条に基づいて締約国との間で保障措置協定を交渉する際のガイドラインを検討することとなつた。この委員会は1970年6月会期で原則的事項について合意し報告書をIAEAの同年7月の特別理事会に提出した。またその後同年10月会期では手続事項の審議が行なわれ,1970年12月会期では手続事項のうちもつとも重要な査察(条項についての検討)が行なわれた。わが国は原子力平和利用の健全な発展を阻害しないよう査察は必要最小限のものとすることを主張し,関係国とも協力してわが国主張の実現に努力してきた。その結果,従来の保障措置制度における査察の方式に比べ簡素化,合理化が図られた。また,具体的な査察最大業務量を設定し,これがその国の核物質管理制度の有効性,原子力施設の種類等の基準に照らして減少されることとなつた。これにより各国とも査察量につき同一の基準にしたがうことになり,わが国が従来から主張してきた各国との平等性確保のための骨組ができたものといえる。

 

2.宇宙空間平和利用における国際協力

 

(1)宇宙空間平和利用における科学技術的国際協力

 1970年4月の宇宙間平和利用委員会科学技術小委員会では,宇宙物体の国際登録の技術面の検討に関するカナダ提案および資源探査衛星に関するワーキング・グループを設置し,同問題を国連の場で検討しようとするスウェーデン提案が,論議の焦点となつた。

 カナダの国際登録案は,打ち上げ宇宙物体の登録を国連事務局に義務的に行なうこと,宇宙物体識別のため宇宙物体に特別のマークを付すること等思いきった提案であつた。わが国,フランス等がカナダ案を支持したが,米ソの両宇宙大国は経済的および技術的理由からカナダ提案は実行不可能であるとし,一致して反対し結局合意は見られなかつた。

 資源探査衛星に関するスウェーデン案についても,米ソ両国は資源探査衛星ワーキング・グループ設置は時期尚早であるとし,こぞつて同案に反対した。しかし,英国が妥協案を提出し,この問題の討議は次期会議まで延期されることとなつた。

 また,宇宙空間平和利用委員会は1970年5月第3回目の直接放送衛星作業部会を開催し,直接放送衛星の技術的法律的等すべての面につき審議を行なつた。直接放送衛星に関する現時点での諸問題は一応討議し尽されたので,今後新たな問題が生じたら,再び作業部会を開催することとなつた。

(2)宇宙空間平和利用における法律的国際協力

 宇宙空間平和利用委員会法律小委員会第9会期は,1970年6月に開催され,前年に引き続き「宇宙損害賠償協定案」につき審議したが,西側と東側諸国の最大の対立点である「宇宙物体による損害を算定する基準となる適用法」および「クレーム委員会」の2項目につき,依然として合意に達せず,協定案全文の作成には至らなかつた。しかし,その他の事項については,暫定的合意ができ,上記2項目を除いた13条よりなるテキストが作成された。

(3)インテルサット(世界商業通信衛星組織)恒久化会議

 1964年に署名された「世界商業通信衛星組織に関する暫定制度を設立する政府間協定」および通信事業者が当事者である「特別協定」を恒久化するため,1969年および1970年2月に開催された2回の全権会議および準備委員会に引き続き,1970年6月9月11月の3回にわたり会期間作業部会が行なわれた。

 右作業部会では,恒久制度下での管理機関の態様および政府間総会の権限問題につき,対立していた米国および欧州諸国が,わが国および豪州の妥協案を受入れ,合意に達した。その結果一部の細部にわたる問題を除いて,加盟国の合意を得た一本化された協定案作成に成功した。

 

3.海底平和利用に関する国際協力

 

 国連海底平和利用委員会(日・米・ソ・英等42ヵ国により構成)は1968年以来,国家管轄権の範囲を超える(大陸棚制度の下に国の主権的権利の及ぶ大陸棚以遠の)いわゆる深海海底の資源開発および平和利用に適用される法原則案の作成に従事してきたがその進捗は思うにまかせず,委員会は1970年の通常会期(3月及び8月)のほかにも6月と7月に非公式協議を重ねてその作業の促進に努力したにもかかわらず1970年度の全会期を終了した時点までには遂に合意案を作成することができなかつた。

 その後,同委員会の委員長(セイロン代表)が中心となつて更に非公式に協議を行なつた結果到達したとりあえずの合意案を「現段階で最も多くの支持を博しうる妥協案」として第25回国連総会に報告した。

 第25回国連総会は「深海海底の平和利用」という議題の下で,(イ)深海海底原則宣言案(前記の海底委員会・委員長案),(ロ)深海海底の鉱物資源開発問題の検討,(ハ)深海海底の資源開発に関する内陸国の特殊問題についての検討,および(ニ)海洋法国際会議の開催とその準備に関する4つの決議案を審議し,採択した。(上記(ニ)海洋法会議については第8節参照)。このうち,深海海底法原則宣言は(イ),国家管轄権の及ぶ範囲(大陸棚)を超える深海海底とその資源は「人類の共同財産」であること,(ロ)いづれの国または何人も,この区域及びその資源を領有又は所有することができないこと,(ハ)この区域での資源開発などの活動の安全及び秩序維持のために,本原則を基礎として適当な国際機関の設立を含む国際制度が普遍的性格を有する国際条約によつて設立されるべきこと(ニ)いづれの国も,この新らしい条約および原則宣言に反して権利を主張し,または,行使することができない,(ホ)この区域の資源の探査及び開発は開発途上国の利益と必要を特に考慮に入れた全人類の利益のために行なわれなければならないこと,また,(へ)この宣言は上部水域の法的地位に影響を与えるものでないことなどの諸原則を国連総会決議の形で明らかにしたものである。また,海洋法国際会議の準備に関連して,海底平和利用委員会のメンバーは,さらに44ヵ国が追加され86ヵ国に拡大された。

 わが国は,従来,海底平和利用委員会でわが国の立場を明らかにするとともに,原則宣言案の作成にも積極的に貢献してきた。第25回国連総会における宣言案の採択に際しては,深海海底の資源開発の法制化は緊急の問題であり,この原則宣言がその第一歩となること,また,その内容についてもおおむね同意できるものであつたので賛成した。ただし,この宣言にもとづいて今後新らたに作成される国際条約は,公海に関する国際法で既に規則が確立している生物資源を対象とすべきではないなど若干の点についてわが方考え方を明らかにした。

 なお,1971年3月に行なわれた拡大海底平和利用委員会の模様については第8節を参照ありたい。

 

4.人間環境に関する国連会議

 

 第24回国連総会決議に基づき,1972年にスウェーデンで開催される「人間環境国連会議」のための第1回準備委員会が1970年3月10日から20日まで国連本部で開催された。

 ウ・タン事務総長は準備委の開会演説の中で,「現在の環境危機の問題ほど各国にとつて一様に関心のある問題は国連25年の歴史上かつてなく,今こそ国連は,すべての国々の行動を調和させるための中心とならねばならない」旨強調した。

 準備委の目的は,(イ)72年会議の議題項目の選択と定義,(ロ)各種文書の準備,(ハ)人間環境宣言の準備の検討等であつたが,とりわけ(イ)が中心課題であつた。

 準備委は,まず国連決議の趣旨にしたがい72年会議をできる限り行動指向型のものとすることを再確認した上で,世界の人間環境保全のためとられるべき国家的,地域的,国際的レヴェルでの行動について検討を行なつた。

 さらに準備委は72年会議が(イ)人間居住の環境的局面,(ロ)天然自然資源の合理的管理,(ハ)環境汚染,の3つの分野を中心に準備されるよう提案した。

 その後,72年会議の準備作業の進め方に関して,1970年7月の第49回経済社会理事会において,(イ)第2回以降の準備委を1971年内に国連第25回総会で決定される場所で開催すること,(ロ)同準備委で72年会議前にとりうる行動につき討議すること,(ハ)72年会議の議題の選定にあたつては発展途上国の立場を十分考慮すること,(ニ)関係政府および機関の支持を要請すること等を骨子とした決議が採択された。

 1970年の第25回国連総会においては人間環境に関する概略次のとおりの決議が採択された。

(イ)72年会議の第2回準備委を1971年2月ジュネーヴで,第3回準備委を同年9月ニューヨークで開催する。

(ロ)第2,3回準備委の議題に発展途上国の経済発展を擁護,促進するために経済および社会面に関する項目を含める。

(ハ)準備委は発展途上国の環境保護のために可能な財政措置を検討する。(ニ)事務総長は第2回準備委の報告書を第51回経社理に提出する。(ホ)事務総長は第3回準備委終了後,72年会議の準備の進捗状況に関する報告書を第26回国連総会に提出する。

 上記国連決議に基づき,72年会議のための第2回準備委員会は1971年2月8日から19日までジュネーヴで開催された。

 本準備委は,(イ)人間居住,天然資源管理および環境汚染などの72年会議の議題を確定するとともに,(ロ)72年会議前までに早急に着手すべき行動分野として,人間環境宣言,海洋汚染,環境監視,自然保護,および土壊汚染の5分野を確定した。さらに,この5分野については,それぞれに政府間作業グループを設置し,今会期終了後も具体的な検討を行なうことを決めた。

 なお,同時に,第3回準備委を本年9月13日から24日まで第4回準備委を72年初期にそれぞれニューヨークで開催することを決めた。

 

5.南極条約協議会議

 

 南極条約は,1959年12月,ワシントンで署名され,1961年6月23日発効(有効期間30年)し,現在,締約国は合計16カ国である。

 この条約は,南緯60度以南の条約適用地域を,地球上で,はじめての「平和地域」として設定し,その平和的利用,科学的調査の自由と協力,領土権主張の凍結という3つの原則的事項を含め,かつ,そのための必要な措置として,核爆発及び放射性廃棄物の処分禁止,査察制度,南極条約協議会議,科学情報の交換,などを定めている。

 南極条約協議会議は,これまで,1961年,以来2年毎に開かれてきた。

 第6回南極条約協議会議は,原署名12カ国の代表が参加,1970年10月19日より31日まで東京で開催された。

 本件会議の議題は,主として次の通りであつた。

(イ)南極洋上あざらし捕獲規制条約草案の検討(ロ)南極気象(ハ)電気通信(ニ)南極生物資源保護保存合意措置実施進捗状況の検討(ホ)史蹟(ヘ)南極環境問題(ト)放射性同位元素を用いる実験(チ)南極観光(リ)特別保護地域問題(ヌ)科学調査ロケット打ち上げの事前通報大洋調査船についての情報交換

 これらの議題の審議のため,気象と通信,並びに史蹟については,それぞれ,ワーキンググループが設置された。また,あざらし,海上におけるあざらしの保存問題は,南極条約協議会議の枠外で審議することに決定し,協議会議参加12カ国が東京で協議会議と切り離して会合審議の結果,南極あざらし保存条約草案が起草された。

  第6回協議会義は,その成果として15の勧告を採択し,次期協議会議は,1972年にウェリントンで開催されることとなった。

 

 

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