-国連の社会人権問題-

 

第6節 国連の社会,人権問題

 

1. 国連国際大学

 

 ウ・タン事務総長は,1969年の第24回国連総会において国際大学の設立を提案した。この問題は70年1月の経済社会理事会,同年10月の第16回ユネスコ総会及び同年秋の第25回国連総会において引き続き審議され,いまだ設立に関して結論を得ていないが,現在,その目的,組織,財政などについてユネスコおよび国連の双方が検討している段階である。

 

2.人 口 問 題

 

 経済社会開発における人口問題の重要性は多くの国において認識されてきているが,第48回経済社会理事会は1974年に第3回世界人口会議を国連主催のもとに開催する旨,また第26回総会は1974年を世界人口年に指定する旨決議した。

 1967年国連事務総長によつて設置された国連人口活動基金は,国連ファミリーにおける人口問題解決のための活動(専門家の派遣,要員訓練,機材供与などの技術協力をはじめ人口統計の整備,調査研究等)に資金を供給することを目的とするが,1969年基金の管理が国連開発計画に移管されて以来,その活動は一段と拡大されてきている。

 人口問題は,倫理上または宗教上きわめて微妙,かつ複雑な問題となるおそれがあるので,基金は,各国政府の政策上の直接の介入を避けるため,個人の資格でわが国の岸元首相,ロックフェラー三世(米),カラドン卿(英)など20名の有識者から成る諮問理事会の助言を得て運営されている。わが国もこの趣旨に則り基金に協力する方針である。

 

3.社 会 防 衛

 

 近年における社会の激しい変動に伴つて発生している暴力行為,麻薬乱用などの新しい問題を審議するため第4回国連犯罪防止会議が1970年8月17日から26日まで京都において開催され,85カ国より約1,300名が参加した。会議は,その主要議題である「社会防衛攻策と国の開発計画」などについて審議し,最後に各国政府に対し自国の開発計画において社会防衛政策を強化するよう,また国連その他の国際機関に対し犯罪防止のための国際協力の強化を重視するとともにこのための効果的な技術援助を供与するよう要請する趣旨の宣言を採択した。

 

4.向精神剤の国際的取締り

 

 近時,一部青少年の間に流行しているLSD等の向精神剤(Psycyhotropic Substances)が世界的な社会問題となつており,このような向精神剤を何らかの形で国際的に規制する必要があるという議論は強く叫ばれてきたところであるが,国連の場においては,1970年2月に開催された国連麻薬委員会特別会期において向精神剤の使用を科学上および医療上の目的のみに制限し,その他の使用を禁止することを目的とする゛向精神剤に関する議定書案″が審議,策定された。この議定書案を基礎とする採択会議が1971年1月~2月にかけてウィーンで開催され,同会議は゛向精神剤に関する条約″を採択した。

 

5.婦人の地位

 

 第23回国連婦人の地位委員会は,1970年3月23日から4月10日までジュネーヴで開催され,婦人の参政権,経済的権利,教育,経済社会開発への参加及び未婚の母の地位などの諸問題について審議した。この会議には,藤田たき津田塾大学学長が日本代表として出席した。

 また,第25回総会は,国連諸機関の事務局において婦人を高級職,あるいは専門職にもつと採用するよう要請する趣旨の決議を採択した。

 

6.武力紛争における人権の尊重

 

 この問題は第25回国連総会第五委員会(社会・人権)において最も論議を呼んだ問題となつたが,同総会はわが国も共同提案国となつたジャーナリストの保護や米軍捕虜の取り扱い等に関し結局5つの決議を採択した。とくにジャーナリストの保護の問題については協定作成の可能性が1971年春の人権委員会で検討されたほか,事務総長報告に対する各国の見解が赤十字国際委員会主催の専門家会議に送付されるなど,本問題は今後とも慎重な検討が行なわれるものと考えられる。

 

7.国連人権高等弁務官設置問題

 

 本問題は,第25回国連総会第三委員会における重要議題と目されていた。同総会の審議においてぜひとも設置決定をと意気込んだ設置急進派諸国(米,仏,コスタ・リカ等)と,弁務官設置はもちろん同総会で本件問題を審議すること自体に強硬に反対するソ連圏,一部アジア・アフリカ諸国が真向から対立したが,結局,同総会では何ら実質審議を行なうことなく,審議を来会期まで延期するとの動議が採択された。

 

 

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