-国連専門機関-

 

第10節 国連専門機関

 

1.概   況

 

 国連専門機関は,国際連合と緊密な連携を保ちつつ,経済,社会,文化,教育,保健その他の分野において国際協力を推進するものである。わが国はすべての国連専門機関に加入しており,また大部分の専門機関において理事国等の重要な地位を占め,その活動に協力しているが,わが国が有する高度の技術と豊富な経験およびわが国の国際的地位の向上にかんがみ,今後わが国がこれらの国連専門機関の活動に対していつそう積極的に貢献することが期待される。

 国連専門機関の活動の最近の傾向としては,専門分野における情報の交換,国際世論の形成等の通常の活動のほかに,UNDP資金あるいは自己財源による開発途上国援助に力をそそいでいること,各種の多数国間条約の作成に主導的な役割を演じていることおよびハイジャック,環境・公害問題等の新らしい問題に積極的に取組んでいることなどが挙げられよう。

 専門機関においても国連におけると同様な政治問題及び行政・財政問題があり,これらの意義も軽視さるべきではないが,紙数の都合上これらは省略し,以下各専門機関の主として事業面の活動について述べることとする。

 

2.国際労働機関(ILO)

 

 わが国は1951年にILOに復帰し,1954年にILOの十大主要産業国の一員に選出されて以来理事会の常任理事国として重要な役割を果してきた。

 ILO第54回総会は,1970年6月3日から25日までジュネーヴにおいて開催され,「開発途上にある国に特に考慮した最低賃金の決定に関する条約(第132号)」「年次有給休暇に関する条約(第132号)」などを採択した。また,同年10月14日から31日まで同地で開催された第55回(海事)総会は,「船内における船員設備に関する条約(補足規定)(第133号),「船員の職業上の事故の防止に関する条約(第134号)」などを採択した。

 

3.国連教育科学文化機関(UNESCO)

 

 わが国は,1951年ユネスコに加盟し,現在執行委員会のメンバーとなっている。加盟以来わが国は,教育,科学,文化,伝達等の広範な分野におけるユネスコの事業活動に積極的に協力している。

 1970年10月~11月パリで開催された第16回ユネスコ総会は,教育開発戦略のための国際委員会の設置,国連国際大学の実現可能性に関する研究の継続,人間と生物圏に関する長期計画の開始,国連の海洋調査長期拡大計画におけるIOC(政府間海洋学委員会)の役割の重要化に伴うIOC規程の全面的改正,1972年を国際図書年として出版物の重要性を高揚する事業の展開のほか,文化財の不法な輸出,輸入および所有権譲渡の禁止および防止に関する条約ならびに図書館統計の国際標準化に関する勧告の採択等,各種の重要な決定を行なった。

 また,1970年8月末ヴェニスで開かれた文化政策の機構的,行政的,財政的側面に関する政府間会議(わが国も参加)によって,文化問題の意義が再認識され,今後のユネスコの事業において文化活動の比重が次第に増加することが期待されている。

 ユネスコはまた世界の文化遺跡保存活動を行なっている。ヌビア遺跡救済事業は,第一期計画であるアブ・シンベル神殿の移転を1968年に完了し,第二期計画としてフィレー神殿の移転事業が始められることとなった。わが国も,民間による協力のほか政府から,1970年3月までに7万ドルを拠出した。また,ユネスコはボロブドールの遺跡保存事業にも乗出すことになり,これについてもわが国の協力が期待されている。

 

4.国際食糧農業機関(FAO)

 

 わが国は,1951年FAOに加盟し,現在は理事会,商品問題委員会および水産委員会等のFAOの主要機関のメンバーとして世界の農業,林業および水産の分野におけるFAOの活動に積極的に協力している。1970年4月以降わが国が参加したFAO関係主要会議には,オランダのへーグで開かれた第2回世界食糧会議(6月16日―30日),豪州キャンベラで開かれたFAO第10回アジア極東地域総会(8月27日―9月8日),ローマにおける第45回商品問題委員会(10月19日―30日),同じくFAO創立満25周年を記念して開かれた第16回特別総会(11月16目)および第55回理事会(11月17日―12月1日)等がある。

 漁業資源の保存と合理的利用はFAOの重大関心事の一つであるが,FAOは1969年秋ローマで,コンゴ河口以南の南東大西洋における漁業資源の保存のための関係国会議を開催し,その結果,「南東大西洋の生物資源の保存に関する条約」が採択された。わが国は同条約の作成に積極的に貢献するとともに各国に先んじて1970年2月9日これに署名し,同年6月9日国会の批准を了した。そのほかわが国が参加したFAOの水産資源に関する会議としてはローマで開かれた第5回水産委員会(4月9日―15日),第2回インド洋漁業委員会(10月26日―30日),第1回インド洋まぐろ管理小委員会(10月22日―24日),及びバンコックで開かれた第14回インド太平洋漁業理事会(11月18日―27日)等がある。

 FAOは,余剰農産物の国際的処理が行なわれる場合の影響を緩和するために,1969年秋の第53回理事会で「農産物余剰処理原則に基づく加盟国の協議手続」を定めたが,余剰米問題をかかえているわが国としても右協議手続を受け入れることとし,その旨1970年4月20日FAOに通告するとともに,余剰処理協議小委員会に加入した。わが国は1970年4月以降71年1月までの間に近隣諸国に対し延払,贈与などの形で約75万トンに上る余剰米の供与を行なっているが,いずれも前記FAO余剰処理手続をふんだ上で行つたものである。

 また1970年1月23日国連本部で行なわれた国連とFAO共同の「世界食糧計画(World Food Programme-略称WFP)」の1971-72年目標額3億ドルに対する拠出誓約会議で,わが国は141万ドルを拠出する旨誓約した。ちなみに,WFPとは,開発途上国における経済社会開発と緊急食糧不足を農業物を利用して援助する多数国間食糧援助計画である。

 

5.国際民間航空機関(ICAO)

 

 わが国は,1953年ICAOに加盟し,1956年以降ICAOの主要機関である理事会及び航空委員会のメンバーに選出されている。加盟以来わが国は国際協力の下でわが国航空の健全な発達に努めているが,わが国の航空輸送事業の最近の急速な発展に伴い,ICAOの活動の重要性はいっそう増大している。

 ICAOは最近の航空に対する不法妨害事件の頻発にかんがみ1970年6月16日より30日まで臨時総会を開催し,民間航空機の乗っ取り,爆破等の不法妨害対策を検討したが,わが国は積極的に審議に参加し,また1970年12月16日にへーグで採択された「航空機の不法な奪取の防止に関する条約」には,よど号事件の教訓にもかんがみ,ハイジャック防止にはとくに国際協力が必要なことを痛感しているわが国は,率先してこれに署名し直ちに国会に対し批准の承認を求めた。なお,1970年9月29日より10月22日までロンドンで開かれた法律委員会では上記条約でカバーされない爆破等の民間航空に対する不法妨害行為防止のための条約草案が策定されたが,わが国も,この会議に代表を派遣した。

 航空輸送は,ジャンボやSST等の新機材の導入により一つの転換期を迎えつつあるが,ICAOは大量高速輸送時代に備えて,機材の安全基準の確立,空港設備の整備,航行援助設備の改善,旅客及び貨物の取扱いの簡易迅速化,ジェット騒音の基準設定等広範囲の問題の検討を打っており,わが国もこれらのICAO活動に積極的に貢献している。

 更に,航空運送人の責任および航空運送に使用される証券について統一的に規定した「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約(1929年ワルソーで作成,1955年へーグで改正)改正のための外交会議が1971年2月9日より3月8日までグァテマラ市で開催され,会議最終日に絶対責任制度の導入および運送人の責任限度額の大幅引上げなどを内容とする改正議定書が採択された。わが国はこの会議にも代表を派遣しその審議に積極的に参加した。

 

6.政府間海事協議機関(IMCO)

 

 世界の海運及び造船においてわが国が占めている地位からみて,IMCOの活動はわが国にとつてきわめて重要である。わが国は,1958年IMCOに加盟以来,理事会,及び海上安全委員会の有力なメンバーとなつており,第24回理事会(1970年5月),第22回海上安全委員会(10月)及び第25回理事会(11月)等IMCOの重要な会議に参加し,船舶による海洋汚染防止の技術的問題(たとえばタンカーのタンク・サイズの制限等)および国際海運関係の条約草案の準備等(たとえば1969年11月採択された「油濁損害に対する民事責任に関する国際条約」(通称私法条約)を補完する為の油濁損害補償基金設立条約,コンテナー輸送条約等)の問題の審議に積極的に参加した。また,わが国は,1969年11月IMCO主催の国際会議で作成された「油による汚染を伴う事故の場合における公海上の措置に関する国際条約」(通称公法条約)に12月15日受諾を条件として署名した。

 

7. 世界保健機関(WHO)

 

 関発途上国における保健,衛生状態の改善,国際的な人口移動の増加に伴う検疫の問題,さらに産業化に伴う環境衛生と問題等保健衛生面における国際協力の必要性はますます増大している。わが国は,1951年WHOに加盟し,現在理事国となつており,毎年,世界保健総会に代表団を派遣するとともに,食品衛生,伝染病に関する専門家諮問部会,薬剤の品質管理,国際検疫,環境衛生に関するセミナー等に参加し,保健分野における国際協力に貢献してい乱また,わが国は,技術援助の一環として,結核,痘そう撲滅,コレラ,マラリア対策専門家の派遣,WHO研修員の受入れを行ない,保健衛生分野における発展途上国援助に努力している。

 また,わが国は,WHOより,1970年5月,血清レファレンス銀行および同年9月,胃がんの診断等に関するレファレンス・センターに指定され,この分野において協力しているほか,1970年11月,12月に「WH0公害セミナー」を大阪に招致し多大の成果を挙げた。

 

8.世界気象機関(WMO)

 

 わが国は,1953年WMOに加盟し,1955年第2回世界気象会議以来,毎回同会議に代表団を派遣し,気象問題の国際協力に努めている。

 1970年7月には東京でWMO第5回アジア地区協会会議が開催され,同会議には16のメンバー国(領域)から代表団が参加し,アジア地区における気象についての国際協力問題の討議を行なつた。また第22回執行委員会が1970年10月8日から16日までジュネーヴで開催され,わが国からは執行委員である気象庁長官吉武素二ほかが出席した。

 

9.万国郵便連合(UPU)

 

 わが国は,1877年欧米以外の国として最初にUPUに加盟して以来,郵便業務の国際協力に貢献している。

 1970年5月6日より21日までベルンにおいて執行理事会が開催されたが,わが国は次回大会議まで同理事会に議長国をつとめることになつており,今回は,曾山郵政事務次官初め5名からなる代表を派遣し,円滑な議事運営に努めた。

 なお,本連合の地域的郵便連合であるアジアニオセアニア郵便連合の第2回大会議が1970年11月5日より17日まで京都で開催され,現行条約にかわる新条約が採択されたが,わが国は招請国としてまた会議中は議長国として会議の準備及び運営にあたつた。

 

10.国際電気通信連合(ITU)

 

 わが国は1879年ITUの前身である万国電信連合に加盟し,ITU創立後も国際電気通信の改善および合理的利用のため,連合の活動に積極的に参加し,1959年以降管理理事会の理事国に選出されてきた。

 第25回会期管理理事会は1970年5月23日より6月12日,ジュネーヴにおいて開催され,わが国も代表国を送つて積極的に審議に参加した。

 

目次へ