―国連第25回総会における政治問題―

 

第4章 国際連合における活動とその他の国際協力

 

第1節 国連第25回総会における政治問題

 

 第25回国連総会は,1970年9月16日から開会され,100の議題について審議を重ね131の決議を採択して12月17日閉会した。また1970年は国連の創立25周年にあたり,総会はこれを記念して10月14日から同24日まで記念会期を開催した(第2節参照)。

 

1.一 般 討 論

 

 総会冒頭の本会議一般討論は9月17日から10月2日まで行なわれ,計71カ国が発言した。

 この一般討論では,とくに中東問題,国連憲章の再検討問題,第二次国連開発の10年,南部アフリカ問題,中国代表権問題,ハイジャッキング等に関する論議が目立つた。

 愛知外務大臣は9月18日演説を行なつたが,佐藤総理が後記の国連25周年記念会期でわが国の基本政策につき演説を行なう予定であつたので,演説の趣旨を「平和への戦い」における国連のあり方の再検討にしぼり,(イ)国連の平和維持活動の明文化,(ロ)事実調査機能の強化,(ハ)安保理の構成の再検討,(ニ)経済分野の機構と機能の強化(ホ)旧敵国条項(憲章第53条1項および第107条)の削除,(ヘ)国際司法裁の強化の必要について述べた(付属資料参照)。

 

2.選  挙

 

 第25回総会は安全保障理事会,経済社会理事会ほか各種委員会の構成国の選挙を行なつたところ,わが国関係のものとしては,まず安全保障理事会の1971~72年のメンバーとしてわが国,アルゼンチン,イタリア,ベルギー,ソマリアが選出された。このほかわが国は国際商取引法委員会(1971~76年),海底平和利用委員会のメンバーに選出された。また,わが国国連代表部内藤参事官は分担金委員会委員に選出された。

 

3.中国代表権問題

 

 本問題は,1949年に中共政権が成立してから約20年にわたり争われてきたもので,国連発足以来非常に困難かつ複雑な問題として毎年世界の注目を浴びてきた。

 第25回国連総会は11月12日から19日まで本問題を審議し,その間50カ国が発言した。審議にさきだち,米国,日本等19カ国は「中国の代表権を変更するいかなる提案も重要問題であるとの決定を再確認する」旨のいわゆる重要問題指定確認決議案を,一方アルバニア,アルジェリア等18カ国は「中華人民共和国政府の代表権回復,中華民国政府追放」を趣旨とするいわゆるアルバニア型決議案をそれぞれ提出した。

 20日,本問題につき表決が行なわれた結果,重要問題指定確認決議案は賛成66(わが国を含む),反対52,棄権7,投票不参加1,欠席1で採択され,アルバニア型決議案は賛成51,反対49(わが国を含む),棄権25,投票不参加1,欠席1で出席しかつ投票する加盟国の3分の2の賛成票が得られず否決された。昨年と比較すると重要問題指定確認決議案は賛成票が5票減り,反対票が4票増えたため賛否の差が昨年の23票から14票へと縮まつた。アルバニア型決議案は賛成票が3票増え反対票が7票減つたため史上初めて賛否は逆転し賛成票が反対票を2票上回つたことが注目された。

 

4.中東問題

 

 中東戦争後既に3年の経過,70年8月再開されたヤーリング特使活動の中断等の情勢を背景に,第25回総会は実質的審議を求めるアラブ側の要求により,10月26日より中東問題をとり上げた。一般討論はアラブ側支持の発言が優勢のまま推移し,決議案としてはアラブ寄りのAA・非同盟決議案,イスラエル寄りの米国決議案,両者の中間をいくラ米決議案が提出され,最後にAA・非同盟案とラ米案との間で表決が争われた。AA・非同盟案は武力による領土獲得の否認を強調しつつ安保理決議242のバランスをアラブ側の有利に解釈し,かつ停戦延長には触れていなかつた。これに対しラ米案は安保理決議242の支持,適切な監視づきの3月延長を勧告する趣旨でイスラエルにとつても受諾できる内容であつた。ところがAA・非同盟案はその後フランス修正案の趣旨を受け入れ,その一方性を大幅に改善したため,ラ米案を押えて採択された。この決議2628は安保理決議242の撤退と戦争状態終結の二大原則をうたい,かつ停戦の3カ月延長,ヤ特使交渉再開を勧告している。わが国は両決議案とも中東の平和解決を求める強い意思から出たものであると考え,双方に賛成投票した。同年末イスラエルはヤ特使との交渉への復帰を決定した。なお,さきに69年4月に始まつた国連常駐代表による四大国会談は70年も引き続き続行されている。

 

5.朝鮮問題

 

 第25回総会では,朝鮮問題を審議した結果,ソ連圏等24カ国共同提案の国連朝鮮統一復興委員会・(UNCUURK)の解体,在韓国連軍撤退要求決議案をそれぞれ大差で否決し,日,米,豪等21ヵ国同提案の国連朝鮮統一復興委員会の活動継続,在韓国連軍の駐留継続決議案を賛成69,反対30,棄権23で採択した。この結果,朝鮮の平和的統一,同地域における平和と安全の完全回復という国連の目的と活動が再確認された。

 

6.南部アフリカ問題

 

 国連は本問題(南アのアパルトヘイト,南ローデシア,ナミビア,ポルトガル施政地域問題)を長年にわたつて審議してきたが,一向に解決のきざしがみられずAA諸国間には一種の挫折感が生じている。

 近年AA諸国間には1969年のルサカ・マニフェストにみられたごとき対話による本問題解決への動きに南ア,ポルトガルが好意的な反応を示さないため,第25回国連総会では,南ア,ポルトガルに対する憲章第7章による制裁措置および武力をふくむあらゆる手段による住民の独立闘争以外に本問題を解決し得ないとの考えが出てきた。このような考え方を背景に,第25回総会に提出された諸決議案は総じて調子の強いものが多かつた。これら決議案は,数の上で圧倒的多数をしめるAA諸国と,東欧圏,ラ米の一部の支持を得てすべて採択されたが,米英はじめ西欧諸国が反対したほか,従来AAに同調していた北欧諸国が棄権にまわつたことが注目された。

 わが国は従来より人種差別反対,植民地独立支持の原則を堅持する一方,問題の解決はあくまで平和的かつ現実的なものでなければならないとの立場をとつており,この点で必ずしもAA諸国と考えを一にしない。このためわが国は,ほとんどの決議案について留保をつけ,一部棄権せざるを得なかつた。

 AA急進派諸国の一部は,わが国のこのような態度に不満をもつており,討論の過程でわが国と南アの貿易関係の増進を批判するものもあつた。わが国に対するこれら諸国の風当りは今後強まつていくことが予想される。

 

7.憲章再検討問題

 

 国連の目的たる恒久世界平和を実現するには,国連の機構と機能が国際情勢に常に柔軟に適応していくべきで,このためには国連憲章の再検討が必要であるとの声が第24回総会で日本,コロンビア等からあがつたが,引き続き第25回総会においても,わが愛知外相は一般討論演説において,25周年を機にこれに着手することの時宜を得ている点を強調した。

 第25回総会での憲章再検討問題の審議においては,日本をはじめフィリピン,コロンビア等,主として中小諸国間に,程度や狙いの相違こそあれ憲章再検討ないし改正を主張する声が強かつた反面,安保理常任理事国をはじめ,東欧諸国,一部西欧諸国などはこれに消極的態度をみせた。とくにソ連は,憲章再検討ないし改正の一切の試みは国連の破壊につながるとして強く反対した。

 結局わが国を含む推進派はギリギリの線まで譲歩し,加盟国に対して1972年7月1日までに憲章再検討に関する意見を提出するよう要請すること,国連事務総長は,右を同年の第27回総会に報告すること,第27回総会の仮議題に「憲章再検討に関する意見を検討する必要性」なる議題を含める旨の決議の採択にこぎつけた。

 

8.総会手続きの再検討問題

 

 第25回総会において,国連機能強化のための総会手続きの合理化がカナダなどから提案された。

この提案は多数の支持を受け,わが国,カナダを含む32ヵ国は総会手続き再検討を行なうための委員会を設置する旨の決議案を提出した。ブルガリアなどは,手続規則合理化は一般委員会の任務であるとして委員会設置に反対したが,結局上記32ヵ国決議案が採択された。

 上記決議案に基づき総会は,総会手続き改善方法検討のための委員会メンバーに日本,米国,英国等31ヵ国を選定した。

 

9.国際安全保障の強化問題

 

 第24回国連総会において,ソ連は突如国際の平和と安全の維持に関する全世界に対するアピール案を提出した。アメリカをはじめ西欧諸国は,このようなアピールは不必要であるとして強く抵抗し,結局この提案の審議は,第25回総会にもちこされた。

 第25回総会においては西側,東側,ラ米,非同盟の四決議案が提出され混乱した。そこで第1委委員長の下に起草グループを作り統一決議案の作成をはかつた。西側グループが植民地解放,海外軍事基地等につき東側,非同盟両グループの提案に執拗に抵抗したため,当初この決議案の採択を予定していた国連25周年記念会期は過ぎてしまい,結局12月に入って,友好関係法原則宣言(第8節参照)などに準拠した無難な統一宣言案が採択された。

 

 

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