―技術協力の概況―
第2節 技術協力の概況
1.概 説
1954年にスタートしたわが国の開発途上国に対する技術協力は年々拡大してきており,1970年のわが国技術協力支出額(DACべース)は,2,185万ドル(1969年支出額1,896万ドル,対前年比増加率15.2%)となつている。
技術協力は,開発途上国の人的資源の開発と質的向上を目的とする重要な援助分野であるとともに,わが国の資金協力の効率的な実施を確保する上に重要な役割を担うものであり,わが国としても従来その拡充に努めているが,他の先進諸国と比較した場合絶対額においても,また援助額全体に占める割合からいつてもまだまだ小さい。そのため,わが国の技術協力の飛躍的な拡充を求める声は,国の内外各方面から年々強まつてきており,1970年7月には対外経済協力審議会より総理大臣に対し,各種技術協力の質,量の両面において大幅な拡充を要請する中間答申が提出された。
外務省は,1970年度においてひきつづき開発途上国に対する技術協力の拡充を図り,その効果的推進に努めるとともにその実施機関たる海外技術協力事業団のいつそうの拡充に努めたが,そのための予算として,(イ)海外技術協力事業団に対する海外技術協力実施委託費―65億6,319万1千円(対前年度比15.4%の増加),(ロ)同事業団の運営費たる交付金―9億5,132万8千円(対前年度比22.5%の増加)および(ハ)同事業団出資金―4億8,800万円を計上した(なお,海外技術協力事業団に対しては,以上のほか,外務省経済開発計画実施設計等委託費1億5,000万円,通商産業省海外開発計画調査委託費1億3,818万7千円および文部省理科,農業教育協力費2,773万5千円が委託された)。1970年度の海外技術協力事業団関係の事業は,従来に比べ内容面でさらに改善されたが,その主な点は次のとおり。
(1) 研修員の受入れ
受入れ研修員数の増加を図つたほか,研修員の滞在費の増額,民間機関への受入れを増やすための民間研修委託費,研修監理員業務強化費および国際セミナー運営費の新設ならびに帰国研修員アフターケアー費の新設等事業内容の充実化のための措置がとられた。
(2) 専門家の派遣
前年度と同様に優秀な専門家を確保すべく専門家の待遇の改善に重点がおかれ,このラインに沿い前年度の在勤俸改訂に引き続き本俸の増額,本俸支給期間の拡充,帰国専門家の身分保障の拡充,専門家の一時帰国制度の専門家家族への拡大適用等の措置がとられたほか,いわゆる高級専門家に対して技術報酬を支払う特別技術報酬制度が新設された。
(3) 海外技術協力事業団の強化
技術協力の規模の拡大,内容の多様化に対処すべく同事業団のいつそうの整備拡充を図るため,同事業団職員および海外駐在員等の増員,海外事務所の拡充,名古屋研修センター,同事業団本部,増改築のための措置がとられた。
わが国は上記のほか,国連機関,国際機関,民間団体等の技術協力活動に対しても拠出金,補助金等により積極的な協力を行なつている。外務省関係の主要な協力は次のとおり(カッコ内1970年度予算額)。
国際稲研究所訓練コース拠出金(3,052千円)
国際家族計画連盟拠出金(36,000千円)
アジア工科大学院奨学金(3,976千円)
東南アジア文部大臣機構協力(5,120千円)
海外農業開発財団補助金(1,380千円)
また,1971年3月東京においてアジア地域の医学・医療分野における地域的協力を推進するためのアジア医療機構(Asian Medical Organization略称AMO)の構想について東南アジア諸国関係者間で審議する会議が開催された。そのほか,1970年度に外務省が認可した技術協力に関係の深い民間団体としては,東南アジア農業教育開発協会,国際開発センターおよび麗沢海外開発協会がある。
上記予算措置の下に実施された1970年度の技術協力実施状況は次のとおりである。
(1) 研修員の受入れ
アジア諸国1,211名,中近東およびアフリカ諸国233名,中南米諸国213名,その他3名,合計1,660名の研修員を受入れた。この結果,1954年度から1970年度までの累計は14,149名となつた。
(2) 専門家の派遣
アジア諸国148名,中近東およびアフリカ諸国65名,中南米諸国28名,合計241名の専門家を派遣した(但し,下記(6),(7),(8),(9),(10)による派遣専門家の数を除く)。このほか,エカフェ,東南アジア漁業開発センター,アジア開発銀行,その他の国際機関に対しても計10名の専門家を派遣した。なお,1954年度から1970年度までの専門家の累計は2,516名にのぼつている。
(3) 日本青年海外協力隊の派遣
1970年4月にザンビア,12月にウガンダとの間にそれぞれ協力隊派遣に関する取決めが締結され,取決め締結国数は13カ国となつた。本年度の派遣隊員数はアジア地域139名,中近東アフリカ地域66名,中南米地域13名,計218名で協力隊事業発足以来の派遣隊員総数は943名となつた。
(4) 機材供与
タイ工業省に対する窯業訓練用機材,パキスタン首都開発公社に対する水道漏水対策用機材,エティオピア水資源省に対するさく井機材,ナイジェリア,ヤパ工科大学に対する土木工学実習機材,ボリビア地質調査所に対する鉱物分析用機材など,アジア,中近東,アフリカおよび中南米の18カ国に対し25件,総額1億5,840万円相当の機材を供与した。
(5) 海外技術協力センターの設置,運営
予算7億419万円をもつて,前年度に引き続きフィリピン家内工業,メキシコ電気通信,シンガポール原型生産,ケニア小規模工業,ガーナ繊維,韓国工業,ウガンダ職業訓練,中華民国工業,インドネシア漁業の9センターに対し協力しているほか,既に協定による協力期間が終了し相手国政府にセンター運営を引継いだ各種センターに対しても,機材の供与,専門家の派遣などの協力を行なつた。
これまでわが国の協力により設置されたセンターは17カ国に対し,30カ所にのぼつており,また本年度においてはイラン電気通信研究センターの設置が予定されている。
(6) 開発調査
投資前基礎調査(外務省),海外開発計画調査(通産省)あわせて約4億2,200万円の予算をもつて,30件の開発調査(アジア22件,中近東アフリカ6件および中南米2件)を実施した。このほか,ラオスのワッタイ空港拡張(第2期工事),マレイシアのクチン港建設(継続),およびシンガポールのジュロン日本庭園(新規)の4プロジェクトに対し実施設計を実施した。
(7) 医療協力
予算9億1,000万円をもつて,インドネシア,タイ,中華民国,イラン,ガーナ等8カ国に調査団を派遣するとともに従来から協力してきたヴィエトナムのサイゴン,チヨーライ両病院,タイのガン・センター,エティオピア公衆衛生省中央研究所,ブラジルのペルナンブコ大学熱帯医学研究所等37プロジェクトならびに新しく着手したイランのフイルズガル医療センター,タンザニアのダレサラーム大学およびケニアのケニアッタ病院の3プロジェクトに対し,専門家の派遣,機材供与および研修員の受入れ等の形で協力を行つた。
(8) 農業協力
予算約6億8,444万円をもつて,従来から協力してきたインドネシアの西部ジャワ食糧増産,フィリピン稲作開発,タイ養蚕開発,セイロンのデワフワ地区農業開発等プロジェクトならびに1971年度から始められたヴィエトナムのカントウ大学農学部,ラオスのタゴン地区農業開発,インドのダンダカラニヤ地区農業開発,インドネシア食用作物共同研究およびマレイシア稲作機械化訓練の5プロジェクトに対し,専門家の派遣,機材供与などの協力を行つた。また,ネパールおよび東パキスタンに対し農業開発のための調査団をそれぞれ派遣し,1971年度以降に開始される本格的協力のための基礎調査を行つた。
(9) 開発技術協力
1970年度には,1億6,000万円の予算を持つて,前年度に引き続きインドネシア・東部ジャワおよびカンボディア(1970年8月より事実上中断)のとうもろこし開発ならびにタイ一次産品(油糧種子,大豆)開発の3プロジェクトにつき専門家の派遣および機材供与により協力した。そのほか,とうもろこし開発のためにタイ(ラムナイ地方)およびインドネシア(ランポン州)にそれぞれ予備調査団を派遣した。
(10) 理科および農業教育協力
文部省予算約2,700万円により,タイ,マレイシア,インドネシアおよびセイロンに対し理科教育専門家を各1名,またイランに対し農業教育専門家1名をそれぞれ派遣し,1,280万円にのぼる指導用機材を供与した。