―わが国の経済協力の現状―

 

第3章 わが国の経済協力の現状

 

 近年におけるわが国の経済力の急速な充実に伴つて,わが国から開発途上国に対して供与される経済協力額は著るしい増加を示し,1968年以降の実績によれば,わが国は,英国を追い抜いて,米国,ドイツ及びフランスに続く第4の援助国としての地位を確立した。ときあたかも,国連において,1971年にはじまる10年を「第2次国連開発の10年」と宣言し,開発途上国の経済社会開発のために先進国,開発途上国が共同の努力を傾注することが決議された。1970年はこのような背景のもとに今後のわが国の経済協力のあり方を求めて積極的な活動がなされた年であつた。そのうち特筆すべきこととしては,第1にわが国は1975年までに国風総生産1%の援助量目標を達成すべく努力する,第2に政府開発援助の対国民総生産比を増大する努力を続けて行く,第3に国際機関に対する拠出および二国間政府開発借款のアンタイイングに原則的に賛成するとの政府方針が決定されたことである。

 かゝる重要な政府方針の決定にあたつては広く国民の総意が反映されるよう努力する必要があり,その意味で1969年10月改組再発足した対外経済協力審議会(民間有識者からなる)が経済協力に関する内閣総理大臣の諮問機関として重要な役割を果している。同審議会は,5月に援助量の国民総生産1%目標,政府開発援助量目標について審議会意見を提出,7月に技術援助のあり方についての中間答申を行ない,9月にアンタイイングについて,さらに,12月にわが国対外経済協力推進上当面の重要課題について審議会の意見を提出した。前述の政府方針は,いずれもこの審議会の意見を受けて決定されたものである。

 わが国としては,これら政府方針を達成し,あるいは実施するためには,今後財政的,制度的に十分な対応策を講ずる等積極的な努力を払つて行かねばならないが,政府は,高まりつつあるわが国に対する国際的期待にこたえるべく,敢てそれら政府方針を内外に宣明することにより南北問題の解決に積極的に貢献して行く姿勢を示したのである。

 以下にわが国の経済協力の現状を資金協力と技術協力に分けて述べるとともに,国際機関を通じて行なわれる経済協力のための国際協力について略述する。わが国の過去5年間の経済協力実績に関する統計資料を第3部に収録した。

 なお,個々の開発途上国に対する経済協力関係の詳細については,第2部第1章「わが国と各国との諸問題」,また経済協力に関する国際協調のうち,アジアの地域協力のための諸機構については,第2部第1章第1節2「アジアの地域協力機構とわが国」,更に国際連合を通じる経済協力については,第2部第4章で述べることとする。

 

第1節 資金協力の概況

 

1.政府べース協力の動向

 

 政府べース協力について国際的に使用される分類方法は,1969年のDAC統計指示書の改訂により改められ,政府べース協力は,「政府開発援助」と「その他政府資金の流れ」とから構成されることとなつた。政府開発援助は,政府機関またはその実施機関により,開発途上国または国際機関に対して,開発途上国の経済開発または福祉の促進を目的として,緩和された条件で供与される資金の流れと定義されており,その他政府資金の流れは,これ以外の政府資金の開発途上国または国際機関への流れを含むことになる。以下この分類に従つて,それぞれにつき略述する。

(1)       政府開発援助

 政府開発援助は,従来の分類で政府べース協力と呼んでいたものに相当し,二国間贈与,貸付け,国際機関に対する出資,拠出等が含まれる。1970年のわが国の政府開発援助は,約4億6,000万ドルに達し,1969年の約4億4,000万ドルより若干増加した。

 この政府開発援助の約1/2以上は,政府貸付で占められ,1970年においても,韓国,中華民国,インドネシア,フィリピン,インド,パキスタンをはじめとする各国に借款が供与された。

 二国間贈与については,フィリピン,インドネシア(本年で完了)に対する賠償およびビルマ,シンガポール,韓国に対する戦後処理に関連した無償経済協力約6,300万ドル,韓国,インドネシア,ラオス,セイロン,アフガニスタンに対するKR食糧援助約2,340万ドル,その他に外国為替操作基金(ラオス),プレク・トノット・ダム計画(ガンボディア)に対する拠出および昭和44年度より予算に計上された経済開発特別援助費がヴィエトナム(難民住宅建設等),ラオス(ワッタイ空港拡張工事)のために支出された。

 国際機関に対する出資および拠出等については,第2世銀(IDA)に対する約2,200万ドルの増資払込,アジア開発銀行(ADB)に対する5,100万ドルの出資および拠出,米州開発銀行(IDB)に対する約660万ドルの融資,その他国連諸機関およびアジア漁業開発センター等の国際機関に対する拠出が行なわれた。

(2) その他政府資金の流れ

 その他政府資金の流れは,政府べース協力のうち上記(1)の政府開発援助以外のもので,わが国においては,延払い輸出信用や直接投資のうち日本輸出入銀行,海外経済協力基金からの融資部分または政府機関による国際機関の債権取得等が含まれる。

 1970年のわが国のその他政府資金の流れは,約6億9,000万ドルに達し,1969年の約3億8,000万ドルより大幅に増加した。これは日銀による世銀(IBRD)への2億ドルの貸付および輸出信用と直接投資の著しい伸びによるものであつた。

 

2.民間べース協力の動向

 

 1969年からは,前記の政府べース協力の再定義に伴い,民間べースの経済協力としては,純然たる民間資金による協力のみを計上することとなつたが,形態別にみれば従来どおりの延払い輸出信用,直接投資および国際機関に対する融資等に加えて,1970年の統計指示書改訂により,民間非営利団体による贈与が含まれる。わが国の民間べースの協力は,わが国の好調な輸出を反映して従来着実に伸びて来たが,1970年においてもその額は,アジア地域を中心に約6億7,000万ドルに達し,1969年の約4億5,000万ドルより大幅に増加した。これは延払い輸出信用の着実な伸びに加えて,特に直接投資の伸びに著しいものがあつたことによるものである。

 

3.援助の量および条件

 

 わが国の援助量は,1968年には初めて10億ドル台に達し,DAC加盟諸国の中でも英国を追い抜き,米,仏,独に次ぐ第4位の地位を占めるに至つたが,1969年も順調な伸び(対前年比20.4%)を示し,その対国民総生産比は,0.76%とDAC平均0.73%をはじめて上回つた。このような着実な実積の上に,援助量は,1970年においても大幅な伸びを示し,その対国民総生産比は,一挙に0.9%台に達した。

 しかしながら,政府べース協力のうち政府開発援助については,1969年の対国民総生産比が0.26%であつたのに対し,1970年には国民総生産の伸び方が大きかつたこともあり,政府開発援助の対国民総生産比は,1969年のそれを若干下回る結果になつた。

 援助条件については,1969年には政府借款の平均条件が,金利3.7%,返斉期間19.5年(うち,据置期間6.1年)であつたのに比し,1970年においては,金利3.6%,返済期間21.6年(うち,据置期間6.1年)と改善されたが,なお国際的な水準(1969年のDAC諸国平均は,金利2.9%返済期間28年(うち据置期間6.7年)に較べて厳しい条件となつており,援助を受ける開発途上国からいつそうの緩和を要望されているとともに,他の援助国からも,援助の国際的調和(ハーモニゼーション)の観点から,わが国の援助条件の改善が希望されている。

 

 

目次へ