―公海の漁業に関する諸問題―

 

第6節 公海の漁業に関する諸問題

 

1.国際捕鯨問題

 

(1) 国際捕鯨委員会第22回会合

 国際捕鯨委員会第22回会合は,国際捕鯨取締条約加盟国15ヵ国のうち12ヵ国,オブザーバーとして3ヵ国,国際機関7の参加の下に,1970年6月22日より26日までロンドンで開催され,わが国からは委員会議長である藤田委員以下の代表団が出席した。主要討議事項は次のとおりであつた。

(イ)南氷洋における捕獲総頭数

 1970~71年漁期の南氷洋における母船式捕鯨によるひげ鯨の捕獲総頭数の決定は,1970年同様,各国の科学者による資源推定値に大きなへだたりがあつたため問題の解決は容易ではなかつたが,結局1970~71年漁期同様2,700頭(白ながす鯨換算)とするとの合意をみた。

(ロ)北太平洋における捕獲頭数

 従来北太平洋における捕鯨規制は,出漁国である日米加およびソ連の自主規制により行なわれて来たが,今回会合において,北太平洋捕鯨規制も委員会の枠内で行なうこととなり,1971年漁期のながす鯨およびいわし鯨の捕獲頭数をそれぞれ1,308頭および4,710頭とするとの合意をみた。

(ハ)国際監視員制度

 本制度をすべての海域における母船式捕鯨並びに基地式捕鯨について早急に実施すべしとの各国の強い意見が出され,次期会合の直前に,本制度実施のための作業部会を開催することに原則的合意をみた。

(2) 南氷洋捕鯨国会議

 委員会が決定した1970~71年漁期の南氷洋における母船式捕鯨による,ひげ鯨の総捕獲頭数を日本,ソ連およびノルウェーの3出漁国間で配分するための南氷洋捕鯨国会議は,委員会会合に引き続き開催され,1969~70年漁期と同様日本1,493頭,ソ連976頭,ノルウェー231頭と配分することを内容とした南氷洋捕鯨規制取決めを作成した。同取決めは7月24日東京において署名が行なわれ即日発効した。

(3) 北太平洋捕鯨国会議

 委員会が決定した1971年漁期の北太平洋における鯨種別の捕獲頭数を,日本,ソ連および米国の出漁国間で配分するための北太平洋捕鯨国会議は,委員会会合に引き続き開催され,日本,ソ連および米国の間で,ながす鯨を568頭,700頭および40頭,又いわし鯨を3,132頭,1527頭および51頭と配分することを内容とした北太平洋捕鯨規制協定を作成した。同協定は12月16日東京において署名が行なわれ即日発効した。

 

2.北太平洋おっとせい委員会

 

 日本,米国,カナダおよびソ連の間で1957年採択された「北太平洋のおつとせいの保存に関する暫定条約」(「わが外交の近況」第1号参照)に基づき設置された北太平洋おつとせい委員会は,おつとせい資源の最大の持続的生産性を達成するための最適な猟獲方法に関し,1962年第6回年次会議において「現在の知見の下では管理された陸上猟獲が最適の猟獲方法であり,海上猟獲の可能性については引き続き調査を実施すべきである」との勧告を行なつたため,1964年条約を一部修正の上6年間延長し,陸上猟獲との関連において海上猟獲が許容されるか否かの研究を続けることとなつた。しかしながら,1968年の11回年次会議においても委員会は,本問題を最終的に決定するに至らず1969年条約は更に6年間延長され現在に至つている。

本委員会第14回年次会議は1970年3月ワシントンにおいて開催され,我国からは大口委員他が出席した。

 

3.ソ連との漁業交渉

 

(1) 日ソかに交渉

 ソ連は1960年12月に大陸棚条約に加入し,1968年2月には,ソ連邦最高会議幹部会令により,ソ連の大陸棚に関する国内的措置に伴い,ソ側は,北西太平洋のかに漁業を従来の日ソ漁業委員会から切り離し,別個に政府間取決めを締結するよう申し入れてきた。わが国は大陸棚条約に加入しておらず,また,かにを大陸棚の資源とするソ側の立場は認め得ないが,かにを日ソ漁業委員会以外の交渉の場において語し合うことには合意し,1969年より日ソ漁業委員会会合とは別に,毎年,かにに関する政府間交渉が始められることになつた。

 第2回交渉は,1970年2月9日から4月7日までモスクワにおいて行なわれ,かに資源に対する日ソ双方の法的立場を棚上げした上で,1970年におけるかにの漁獲量を合意するに至り,4月16日,大和田臨時代理大使とスハルチェンコ漁業次官との間に書簡が交換され,合意議事録が署名された。

 この取決めにより,1970年の北西太平洋におけるわが国のかにの漁獲量は,全体として従来の実績を若干下まわることとなつたが,全漁船の操業が確保された。

(2) 日ソ漁業委員会第14回会議

 北西太平洋日ソ漁業委員会第14回会議は1970年3月2日からモスクワにおいて開催され,4月30日,日ソ双方の委員が合意議事録に署名して終了した。

 その結果,1970年のさけ,ます年間総漁獲量は,A区域45,000トン,B区域45,000トン(ただしB区域については10%以内の増減があり得る)と決定された。

 

4.北太平洋漁業国際委員会

 

 北太平洋漁業国際委員会第17回年次会議は,1970年11月2日から6日まで,東京の外務省において開催された(これに先立ち10月19日から同じ場所で同委員会の生物学調査小委員会等が開催された。)

 この会議における主たる討議事項は下記のとおりであつた。

(1)         1953年に発効した「北太平洋の公海漁業に関する国際条約」(日米加業条約)に基づいて日本が漁獲を抑止している西経175度以東の水域におけるさけ,ます,べーリング海を除く水域における北米系のおひようおよびカナダ沿岸の一部水域におけるカナダ系のにしんについて,これらの魚種が抑止のため必要とされている条件を引き続き備えているかどうかの検討。

(2) 東部べーリング海のおひようの共同保存措置の決定および締約国政府に対する半の実施のための勧告

(3) アラスカ湾で日本が行なつている底引漁業が同水域のおひよう資源に及ぼす影響

(4) 西経175度付近における北米系とアジア系さけ,ますの混交の状態

(5) 東部べーリング海のたらばがにおよびずわいがにの資源状態

(6) 北東太平洋のおひよう以外の底魚の資源状態

(7) 委員会の財政運営事項

 なお以上に加えて韓国漁船による北洋出漁問題が討議され,その結果,本件操業が漁業資源保存という条約目的の達成を阻害するものであるとの見地より,委員会が各締約国政府に対し,韓国をしてかかる操業を差し控えせしめるためさらに適切な措置をとるべきことが合意された点が注目される。

 

5.大西洋まぐろ類保存国際委員会

 

 1966年5月ブラジルで採択され,1969年3月に発効した「大西洋のまぐろ類の保存に関する国際条約」に基づき設置された大西洋まぐろ類保存国際委員会は現在,日本,米国,カナダ,フランス,スペイン,南ア,ガーナ,ブラジル,ポルトガル,モロッコおよび韓国の11カ国により運営されているが,その第1回通常理事会が1970年12月マドリッド(事務局所在地)において開催され,大西洋のまぐろ資源の評価及びその管理のための意見交換等を行なつた。

 

6.北西大西洋漁業国際委員会(ICNAF)

 

 1949年採択され1950年7月3日発効した「北西大西洋の漁業に関する国際条約」に基づき設置された北西大西洋漁業国際委員会は,現在,米国,英国,アイスランド,カナダ,デンマーク,スペイン,ノルウェー,ポルトガル,イタリア,フランス,独,ソ連,ポーランド,ルーマニア及び日本の15ヵ国によつて運営されており,北西大西洋の漁業資源の保存及びその合理的利用の見地より,この漁業に関する調査研究を行ない,その結果に基づき総漁獲量の決定及びその他の規制措置を締約国に勧告する任に当つている。1962年より同水域で試験操業を開始したわが国は,同委員会の要請に基づき,1964年以後毎年委員会年次会議にオブザーバーを派遣し,また委員会の勧告措置を自主的に遵守するという形で協力して来たが,その後本格的な出漁が予想されたため1970年7月1日北西大西洋の漁業に関する国際条約に加入し,委員会の一員としてさらに積極的に協力することとなつた。

 

7.全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)

 

 1949年採択され1950年3月3日発効した「全米熱帯まぐろ類委員会の設置に関するアメリカ合衆国とコスタ・リカ共和国との間の条約」に基づき設置された全米熱帯まぐろ類委員会は,東太平洋のまぐろ類資源につき調査研究を行ない,その結果に基づいて必要な措置を締約国に勧告する等の任務を負つている。

 同水域におけるわが国のまぐろ漁業は従来はえなわ漁法に限られていたため,条約に加入することなく,外部から実質的に協力するとの態度をとつて来たが,最近大型まき網漁船による本格的操業が行なわれることとなつたため,1970年7月1日この条約に加入し,さらに積極的に協力することとなつた。現在加盟国は,米国,コスタ・リカ,パナマ,メキシコ,カナダ及び日本の6カ国である。

 

8.その他各国との漁業問題

 

(1) 日米漁業問題・漁船だ捕問題

(イ).日米漁業問題

 1966年の米国漁業水域設定に伴い1967年5月に締結され,1968年に修正延長された「アメリカ合衆国の地先沖合におけるある種の漁業に関する交換公文」,および米国の大陸棚漁業資源漁獲を違法とする等の内容の「外国漁船の米領海内操業禁止法」の成立に伴つて1964年に締結され,1966年及び1968年に修正延長された「東部べーリング海のたらばがに漁業に関する日米取決め」は,いずれも1970年末までの暫定取決めであつたため,1970年11月10日より同24日まで東京において,日米両政府代表者が会合し,討議を行なつた。その結果,前記2取決めに必要な修正を加えた上で,引き続き2年間その規定を適用することに合意を見,同年12月11日東京において,愛知外務大臣とマイヤー駐日米大使との間で,合意確認の公文交換が行なわれた。

 前者の取決めについては,米国距岸12カイリ内の水域で日本漁船が転載を行ないうる区域を新たに3所追加し合計8ケ所となつたこと。後者のかに取決めについては,日本の年間たらばがに漁獲量を従来の8.5万函を3.75万函とし,ずわいがにを新たな規制対象としその年間漁獲量を1,460万尾としたこと,並びに,両取決めとも,その有効期間を1972年末までとしたことが,主な修正点である

(ロ).丸漁船だ捕問題

 1970年に米国による日本漁船のだ捕事件が4件発生したが,いずれもアラスカ州沖合で,かつ,米国漁業専管水域侵犯容疑であつた。だ捕漁船は,日魯漁業の第11曙丸,東海漁業の第18加喜丸,第一漁業水産組合の第51喜代丸,室蘭漁業協同組合のきょう洋丸で,いずれも1万ドルの罰金(このほか船体,漁具没収の代りに2万ドルから3万5,000ドルの示談金)を支払つて釈放された。

 これらの事件を通じ,日本側は米側に対し,米国距岸3海里以遠の水域におけるわが国船舶に対する裁判管轄権はわが方にあり,米側が行なつた上記裁判の結果については,日本政府の法律的立場および権利を留保するとの主張を行なつた。

(2) 日韓漁業共同委員会

 日韓漁業共同委員会第5回定例年次会議は,1970年6月10日から13日までソウルにおいて開催され,両国が行なつた漁業資源の科学的調査の結果を審議するとともに,両国漁船間・事故の未然防止の強化および事故多発時期・水域を勘案した連携巡視・視察乗船の重点的実施を両国に勧告することを決定した。

(3) 日墨漁業協定第2回定期会合

 1968年6月に発効した「日墨漁業協定」にもとづく両国間の第2回定期会合は1970年8月10,11日の両日東京において開催された。外務省人見中南米審議官を団長とするわが国代表団と,ローゼンツワイク外務次官補を団長とするメキシコ側代表団との間で,上記協定に定める操業区域におけるわが国まぐろ漁船の操業に関連する諸問題につき意見の交換を行なつた。

(4) 日豪漁業協定に関する書簡の交換

 1968年の日豪漁業協定並びに同パプア地域及びニュー・ギニア信託統治地域に関する合意議事録に基づき,これら両地域の地先沖合における漁業等に関して日豪両国政府間で協議が行なわれた。その結果,これらの地域の地先沖合における漁業等に関する取決め案につき合意に達したので,12月25日東京において,日本側愛知外務大臣,豪州側フリース在京豪大使との間で書簡の交換並びに「パプア地域及びニュー・ギニア信託統治地域に関する合意された議事録」の署名を行なつた。

 同交換公文及び同議事録の主な内容は,次のとおり。

(1) わが国の漁船は,パプア及びニュー・ギニア両地域の指定水域内で,1975年11月27日迄の期間まぐろはえなわ漁業に従事する。同時期以降の操業については,両地域における漁業及び水産加工合弁事業設立の進捗状況にてらして1974年11月27日迄に,両国政府間で協議される。(交換公文)

(2) わが国のまぐろはえなわ漁船は,1973年12月31日迄の期間ラバウル及びマダン両港に寄港できる。この寄港期間の延長については,豪州政府により下記(3)の進捗状況に照らして考慮される。(合意議事録)

(3) わが国政府は,マダン地域における漁業に関し,投資前基礎調査をできる限り早期に実施する。(同上)

(5) 日中民間漁業協定

 日中民間漁業協定第3次協定(1965年12月締緒)が67年及び68年に各1年延長され,また69年に半年延長された結果,70年6月まで有効であつたところ,70年6月,日中漁業協議会と中国漁業協会との間に調印された日中漁業会談コミュニケにより,さらに2年間延長された。

 また,上記協定は底曳網漁業に関する規定であるが,旋網操業についても,70年6月のコミュニケに基づき,70年12月末,旋網漁業に関するコミュニケが調印された。有効期限は,底曳網漁業の規定と同様,72年6月までである。

(6) モーリタニアとの漁業交渉

 1970年2月に締結されたわが国業界とモーリタニア政府との間の漁業契約(同年4月発効,有効期間1カ年)の改定交渉が1971年2月よりモーリタニアで行なわれ,3月5目両者間で新契約が調印された。

 

 

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