―商品問題をめぐる国際協調の動き―

 

第5節      商品問題をめぐる国際協調の動き

 

1.総  説

 

 一次産品の価格安定と輸出収益の増大を目的とした国際協調の試みは,国連,専門機関,ガット,UNCTAD等の場においても積極的にとりあげられている。しかし個々の産品について輸出国と輸入国の協調の実をあげているのは,穀物(小麦),砂糖,コーヒー,すず,オリーブ油の5品目について締結されている商品協定,及び綿花,ゴム,鉛・亜鉛,羊毛について組織されている研究会であるといえよう。わが国は上記協定及び商品研究会には,オリーブ油を除いてすべてに参加している。またFAOの場においては,硬質繊維,米穀,穀物,バナナ,甘橘類,茶の研究部会があり,問題点が検討されているがわが国も積極的に参画している。

 なお1968年2月の第2回UNCTADにおいてはタバコ,マンガン鉱,こしよう,シェラック,りん鉄鉱石,雲母等についても何らかの国際的措置が早急にとられることが勧告されているが,まだ需給事情等の事実的検討が行なわれているに過ぎない。

 わが国の場合には食糧および工業原料の輸入依存度が高く,今後とも相当量のこれら産品の輸入を必要とするものと考えられるが,これら一次産品の公平が安定した価格による供給を確保することは極めて重要であり,また一次産品生産輸出国の多数を占める発展途上国の経済発展に貢献することともなる。したがつてわが国としては一次産品問題の解決,とくに,商品協定,商品研究会の活動については可能な限り積極的に協力するとの基本的姿勢をとつている。

 因みに昭和45年度中においては,ココア協定の作成準備,第3次国際すず協定及び67年国際穀物協定の更新交渉が行なわれた。このうちココア協定の交渉会議は開催されるに到らなかつたが,すず協定と穀物協定はそれぞれ,新協定の作成に成功した。(後述参照)

 

2.各商品協定と研究会の活動

 

(1) 穀 物 (小 麦)

 1967の国際穀物協定は,ケネディ・ラウンド交渉の一環として1967年国際小麦理事会主催のもとに行われた交渉において作成され,1968年7月1日から3ケ年の有効期限をもつて発効した。1970年12月末日現在の小麦貿易規約への加入国は,輸出国10ヵ国,輸入国35ヵ国である。

 現行の小麦貿易規約の骨子は,米国,アルゼンティン,オーストラリア,EEC,スウェーデン,ギリシャ,スペイン,メキシコの代表的銘柄14種を基準小麦とし,それぞれについて,メキシコ湾岸の港における,f.o.b.価格で表示された価格帯を設定して輸出国はこの価格帯内の価格で輸出することを約束し,また輸入国は通常の取引で購入する小麦の総量のうち,できる限り大きい割合を規約加入国から買入れることを約束するものである。しかしながら,穀物協定発効の当初より米国,カナダ等の主要生産国の豊作,大手輸入国であるインド,パキスタンの自給努力などによる輸入需要の減少,ソ連,中共の生産回復,安定等により市況は軟調気味に推移し,下限価格を下回つて輸出する加盟国も相次いだため,小麦市況はかなりの混乱を経験した。本協定の有効期限は1971年6月末であるところから,将来の国際穀物協定をどのようなものにするかについてわが国はじめ米,加,豪,英,ソ連,ブラジル等11ヵ国からなる準備グループが設けられ,70年8月と9月の2回にわたり,討議が行なわれたところ現行協定は価格規制が厳格であるため,これを十分弾力的なものとすること,価格水準を妥当な線にまで引下げる要あること,小麦貿易について何らかの国際的規制が必要なこと等の意見が明らかとされた。しかしながら71年1月18日からジュネーヴにおいて開催された67年協定の改訂のための交渉会議では経済条項をめぐり米国とカナダの意見が調整できなかつたため,ついに経済条項をぬいた形で協定を改訂することとなり,他方食糧援助規約についてはほぼ現行どおり継続するとの諒解の下に交渉が進められ,2月20日1971年の小麦貿易規約と食糧規約からなる有効期間3年の「1971年の国際小麦協定」のテキストが採択された。新協定は3月29日から5月3日までワシントンにおいて署名のため開放される。新協定は前述のとおり価格や輸出入国の権利,義務規定を除いた形のものとなつたが,当面小麦の需給は過剰供給の基調を持続するものと考えられ,小麦理事会における輸出入国の協議により,安定供給の実現は期待できると考えられている。

(2) 砂    糖

 現行の「1968年の国際砂糖協定」は1958年の協定の後をうけて1968年10月国連砂糖会議で採択され,1969年1月1日より発効したものである。1971年1月末日現在の協定加入国は輸出国34ヵ国,輸入国15ヵ国で合計49ヵ国である。現行協定は年間約2,000万トンの世界砂糖貿易量のうち,特恵市場(米国内向け輸出,英連邦砂糖協定による取引,キューバの長期的協定に基く対社会主義諸国輸出等)以外の自由市場(年間の貿易量は約900万トン)を対象としたものであり,その骨子は,ポンド当り3セント25~5セント25を指標価格帯として,需給の動向,国際価格の変動に応じて,輸出国に対する輸出割当量を調節することによつて,国際価格の安定化を図らんとするものである。

 昭和45年度には,砂糖の価格は,協定による輸出規制と一般的需要増によつて次第に上昇し,1970年3月にはポンドあたり3.25セントを上回るに至つた。同年7月には価格は3.75セントを超えたので,わが国等輸入国の要求が反映されて125,000トンのショートフォール(第47条の輸出未消化分)の再配分が行なわれ,更に年末にはこれが4.00セントを超え,1971年2月には実際の輸出割当は基準輸出総量の110%となつた。わが国は,自由市場最大の輸入国として,現行協定の締結交渉に主導的役割を果したばかりでなく,その後の協定の運営,実施面においても大きな影響力を及ぼしている。なお1971年は協定第70条に基づくレヴューの年であり,6月には過去2年間の運用経験に照らして協定の再検討が行なわれることになつている。

(3) コ ー ヒ ー

 1963年に発効したコーヒー協定は,1968年9月30日に失効したが,これに先立ち国際コーヒー理事会は,1968年2月この協定を改正し「1968年の国際コーヒー協定」の名称で,同10月1日から有効期間5ヵ年の新協定を採択し,同協定は1968年12月30日に正式に発効した。その骨子は旧協定とほぼ同様であるが,価格安定のための輸出割当の設定,品種別価格帯制度,生産規制,多角化基金の整備,非加盟国からの輸入制限等の内容に関しては旧協定よりかなり強化されている。1970年12月30日現在の協定加入国は,輸出国41ヵ国,輸入国21ヵ国である。わが国は,旧協定に引き続き1969年5月28日輸入国として新協定に正式加入した。わが国は,旧協定の場合と同様新市場国(1人あたりの消費量はいまだ少ないが将来著しく増加する可能性のある国を新市場国として特別扱いとし,この新市場国に対する輸出は,加入輸出国に対する輸出割当のわく外として取扱われる)の地位にあるので,加入輸出国から輸出割当外のコーヒーを買付けることができる。

 コーヒーの国際市況は,ここ数年来軟調気味に推移したが,1969年7月世界最大のコーヒー生産国であるブラジルが大規模な霜害に見舞われたため上昇に転じ,国際コーヒー理事会が再度にわたつて,先期(1969年10月-1970年9月)の輸出割当量を拡大し,昨年8月の国際コーヒー理事会は今期(1970年10月-1971年9月)の輸出割当量を拡大したため,最近は軟調に転じ,生産国側は特別理事会の開催等によつて価格の維持に努めている。

(4) す   ず

 すずについては,1966年7月1日より第3次国際すず協定が実施されている。市況は,1969年から70年にかけ,強含みに推移したため,価格帯改定の動が高まり,1970年10月の理事会において,従来の価格帯を約7%引き上げ,トン当り最低価格1,350英ポンド,最高価格1,650英ポンドとする新価格帯が定められた。

 なお,1971年6月末日に失効する現行協定に代る第4次国際すず協定は,1970年5月,ジュネーヴで開催された国連すず会議で採択され,わが国も,1971年1月26日,これに署名した。

(5) コ  コ  ア

 ココアに関しては,生産国に対する販売割当および緩衝在庫の併用を骨子とする協定案の作成を目的とする国連ココア会議は,一部協定のメカニズムに関し合意に達せず,1967年11月-12月ジュネーヴで開かれた会合を最後に中断されたままとなつている。他方1969年6月および1970年6月に生産国(ガーナ,ナイジェリア,ブラジル,カメルーン,エクアドル,メキシコおよび象牙海岸)と消費国(米,独,英,オランダ,ソ連,スイスおよび仏)はジュネーヴで会合を開き,前記協定案に関していまだ合意に達していない諸問題(主として価格問題)について討議を行なつたが具体的な結論を得るに至らなかつた。しかしながら,1969年後半以降ココアの市況は軟化基調に転じており,今後の動向が注目される。

(6) ゴ   ム

 ゴムについては国際ゴム研究会において,ゴムの生産,消費,貿易等に関する一般的研究及び情報交換の外,天然ゴムと合成ゴムとの競合問題がとりあげられている。マレイシアをはじめとする天然ゴム生産国は,天然ゴム市況軟化の一因が合成ゴムの不当に有利な販売条件にあるとして,1967年末以来フェアー・マーケッティング・コード(市場取引を公正化するための規約)の作成を強く要求していたが,1968年10月パリで開催された同研究会の第83回会合で,市場攪乱防止等の努力目標をかかげたコード(法的拘束力はない)が採択され,次いで1969年7月ロンドンで開催された同研究会第20回総会において承認された。1970年10月シンガポールで開催された第21回総会では,NR(天然ゴム)生産国側の要望により,NRの海上輸送問題につき,同盟側と話合う民間団体機関(International Rubber Association)が設立された(このIRAが運賃引上げ等を含むNRの海上運送上の諸問題を同盟側と話合うこととなろう)。今後の問題としてはこのIRAの活動や価格水準の推移如何によつては,前記コードに法的拘束をもたせることを要求したり,あるいはUNCTADの場において先進諸国に対し天然ゴムの輸入関税の引下げを迫つてくる可能性も考えられる。

(7) 茶

 1969年1月,FAO主催によりウガンダで開かれた第3回茶特別協議会は,最近の茶価格の下落状況にかんがみ,当面する茶産業の諸問題,消費の促進を討議し,茶の価格安定のための国際取決めに関する作業部会を設置し,短期的措置として年毎に更改する価格安定のための措置及び,長期的措置として輸出割当方式による茶協定案につき検討を行なつた。その結果正式に協定についての話合いが行なわれるまでの間の措置として輸出国間で,7月モーリシャスにおいて茶輸出国会議が開催され,1970年の茶の輸出割当が決定実施されることとなつた。(総量13億1,140万ポンド)その後1970年9月(ローマ)の輸出国会議は1970年の輸出割当とショート・フォールの配分がなされ,71年の国別割当は71年3月の輸出国会議に持ちこされた。しかるに長期的措置すなわち輸入国を含めた商品協定への動きは具体化していない。

 

 

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