―資 源 問 題―
第4節 資 源 問 題
1.資源をめぐる国際環境
最近の資源問題を世界経済の視野から考察した場合,まず第一に,世界経済の発展により世界全体の資源需要が増大し(たとえば,資源賦存の豊富な米国でも石油,ウラン等の重要資源の自給率が今後低下するものと予想されている),世界的規模で資源の探査,開発,加工,運搬,利用等資源問題全般について再検討の必要にせまられていることが指摘される。
第二に,1960年代においては,先進国と発展途上国との間の経済較差がいつそう大きくなり,また,世界経済のインフレ的傾向は工業製品価格の上昇をもたらしたが,資源の価格は必ずしもそうでなく,一般的には低位におかれてきた。これに対し,資源を保有する多くの発展途上国,たとえばOPEC〈石油輸出国機構)やCIPEC(銅輸出国政府間協議会議)諸国は「経済ナショナリズム」の高まりとともにいわゆる「天然資源恒久主権」の主張を強く打ち出し,保有資源がかけがえのない国家財産であるとの強い認識に立ち,その保有資源を効率的に開発,利用し,収益を最大にすることが自国の経済発展ないし工業化のための最大の戦略であるとして重要視し,保有資源にかかる権益擁護のため,その結束を強化してきており,資源保有国の政権の性格いかんによつては国有化等の問題も起つている。とくに,今回のOPEC諸国の原油公示価格,税率引き上げ等の石油問題を通じて,原油公示価格,開発利権,再投資義務,原油生産計画等一連の具体的政策理念(1970年12月のOPECカラカス決議に盛り込まれている)が表明され,上記の傾向が最も端的に表明された。
上記の資源をめぐる国際環境の変化に対し,わが国経済の規模は,最近のわが国経済の高度成長の結果,巨大化しているところ,これに伴い,今日の日本の資源問題の顕著な特色としては,第一に国内の資源賦存が不十分なため,わが国の海外資源輸入量が世界最大ないしそれに準ずるものとなつており,海外依存度が急速に高まつてきていること(たとえば,昭和44年度でアルミニューム,ニッケル,ウランは各100%,石油,鉄鉱石,原料炭についてはそれぞれ約99%,86%,77%であり,また銅鉱石については昭和38年度は約60%であつたが昭和44年度には約84%へと急上昇している。また,昭和55年度では世界貿易にしめるわが国の資源輸入シェアは3割前後となるものと予想される。),第二に,年々のわが国の資源需要量が他の先進国の場合の2ないし3倍の速度で伸びており,かつ,経済の高密化が進展しており,環境問題が深刻化しているわが国においては,いわゆる良質資源(たとえば,石油の場合,硫黄分の少ない低硫黄原油)の確保が必要となり,これらの資源需要を満たしていくことが先進諸国の場合に比較して困難の度合をますます深めつつあること,第三に,わが国業界は少くとも現在までは,危険負担が大きく,膨大な資金投入を必要とする海外資源開発に全力を傾注する余裕がなく,わが国において賦存の不十分な資源の多くは,欧米の国際資源産業資本の開発したものを主として単純輸入してきたものであり,資源消費国としては自由世界第2位,資源輸入国としては世界第1位のわが国の立場を資源の合理的価格による安定供給確保のため十分に生かすことが必ずしもできなくなつてきつつあり,従来の資源調達方式を根本的に再検討する必要にせまられていること,第四に,資源輸送の長期安定化のための条件を整備することが望ましく,輸入資源の邦船積取比率を高めると同時にタンカーの大型化などに対応した港湾整備をいつそう推進することが望まれること,第五に,今回のOPECをめぐる石油問題を通じていやおうなしにその不可欠なることを認識させられたごとく,石油等主要基礎資源の備蓄量の増大が望ましく,たとえば,原油について西独政府が行なつているように政府自体による備蓄または財政資金による備蓄強化対策をも早急に検討を要すること等の諸点をあげることができよう。
今後も,わが国経済のいつそうの発展のため,資源を合理的価格で長期安定的に確保する必要があり,従来の主要な資源入手方式であつた単純輸入,融資買鉱に加えて資本参加による海外資源開発を積極的に推進していく必要があるものと思われる。そのため,既存の国際資源資本に十分対抗し得るだけの官民あげての協力体制(事前基礎調査,海外投資保険,税制,技術情報収集,人材の育成等)をさらに整備していくことが望ましく,まず,最近の海外資源開発の本質に対する認識の高まりとともに,膨大な資金投入を効果的に行ない得る長期的視野に立脚した資金供給体制を構築することが望まれるとともに,資源開発の技術面では,低品位鉱等未開発ないし未利用資源の経済化のための技術,海洋資源開発技術等のいわゆる鉱業技術のほか原子力製鉄,高速増殖炉等の開発のごとき新らしい生産技術,資源代替技術,重油脱硫技術,鉱石の湿式精錬技術など環境問題に対処する技術等を含む技術開発体制をいつそう整備拡充する必要があるものと思われる。
国内体制の整備もさることながら,海外資源開発が外国において遂行される場合,ややもすると当該国に対しては資源略奪的開発ないし植民支配的資源開発の印象を与えやすいとの危険が常にひそんでいることを銘記する必要があり,資源保有国政府としては,現地精錬,精製,現地労働力の最大利用,現地資本との合弁など資源開発に伴うあらゆる開発効果を最大限に利用するための要請を今後ますます強めてくるものと思われ,いわゆる「自主開発」はむしろ「協力開発」(cooperative development)の形をとつて進出していくことが不可欠となるものと思われる。かかる資源確保の観点からますます国際協力関係を強化する必要があり国連の天然資源委員会,OECDの石油委員会等の既存の多数国間国際機関の場のみならず今後は資源保有の先進国,発展途上国およびわが国と同様の立場にある資源輸入国との間で,二国間ないしは多数国間での接触の強化を図るとの方向で資源外交を今後いつそう推進していく必要があろう。