―諸外国との関係と増進―
第3節 諸外国との関係の増進
イデオロギーや国情の差違にかかわらず,あらゆる国との間に相互理解を深め,友好関係の増進を図ることが必要であり,かつ望ましいことはいうまでもない。しかしわが国は,自由と民主主義を基本的な政治理念としている点で,他の自由圏諸国と共通の利害を持つ上,経済面においてもこれら諸国との間に特に緊密な交流を有するのであるから,自由圏諸国との協調関係の増進を特に重視することは当然である。
他面,東西間の対立と緊張の緩和のため,中ソの二大隣接国をも含め,社会主義諸国との間にも接触と交流を進め,相互の立場の理解と尊重の基礎の上に,相互関係の増進を図ることも必要であろう。
1. 米 国
日米安保条約は1970年6月,当初の有効期間を終えて自動継続の時期に入つたが,政府はこの条約を今後も堅持する方針である。通常兵器による国土侵略に備えて自衛力の整備を図る一方,米国の核を含む総合的抑止力に依存してわが国を含む極東の平和の維持を図ることが,わが国の外交,国防の基本方針であり,日米安保条約の堅持はそのための不可欠の要件である。
日米関係がわが国にとつても米国にとつてもかけがえのない重要性を持つことの意味は,単に安全保障面に限定されるものではない。日米両国の世界的影響力と責任,両国が共通して保持する政治的理念や価値体系等に照らしても,日米関係の帰趨は,既存の国際的秩序の政治的,経済的基盤に大きな影響を及ぼさないではおかないであろう。米国が沖繩の返還について日本国民の総意にそつた形での解決に同意したのも,かかる日米関係の重要性についての認識に基づくものであり,かつこれによって日米間の永続的な相互協力の基礎を築こうとの配慮に出たものであることは明らかである。
それぞれに世界経済の中で大きな比重を占める日米両国間の経済交流は,それが盛んになればなるほど,一部に摩擦を生ずることは避け難い現象である。しかしながらこれがため,日米間の協力と相互信頼の基調に影がさすようなことがあつてはならないのであり,両国は世界経済の維持,拡大に対する各々の責任を自覚しつつ,互譲互恵の基礎に立つて問題の解決に努めなければならない。また政治,経済,文化の各面を通じて各種の交流をいつそう促進し,各界,各層における相互理解と連携を更に深めることも肝要であろう。
わが国は隣国たるソ連との間に善隣友好の関係を維持発展せしめることが,ひとり日ソ双方の利益のみならず,極東の平和と安定にも資すると考え,今後とも能う限り,貿易,経済,文化等の分野で,ソ連との関係を深めて行く意向である。
しかしながら,わが国とソ連との間には,北方領土問題が依然未解決のまま残され,これが両国関係を真に安定的な基礎の上に発展せしめる上に大きな障害となつている。特に最近では,北方領土の返還を求めるわが国の正当な要求を,ソ連側は一部の策動によるものと見なし,これを報復主義,ないしは軍国主義の復活として非難する態度すら示している。政府としては,日ソ間の相互理解をいつそう深めるとともに,全国民の強い要望と支持のもとに,忍耐強くソ連政府との折衝を続けて,歯舞群島,色丹島,国後島及び択捉島の返還実現を図ることに努める方針である。
中国問題は,1970年代のわが国の外交にとって,重要な課題の一つであり,今後の国際政治においても重大な問題となりつつある。
しかしながら,中国問題はわが国においても,世界の主要諸国においても,これまで20年あまりにわたつて,真剣に討議され,研究されながらも,いまだに解決がもたらされていないことからもわかるとおり,きわめて困難かつ錯綜した問題である。特にわが国は,その地理的位置およびこれまでの関係の複雑な経緯等から,中国問題に関しては,他のいかなる国よりも慎重かつ広い視野からこれに対処せねばならぬ立場にある。
わが国は,1952年,わが国が中華民国政府との間に日華平和条約を締結して以来,中華民国との友好関係を維持している。他面,政府としてはわが国と歴史的に深い関係にある中国大陸に8億に近い人口を擁する中華人民共和国政府が存在する事実を事実として率直に認め,日中間の民間交流を促進するとともに,内政不干渉,相互の立場尊重という原則の下に日中関係の改善をはかつてきた。
政府としては今後中国問題にどのように対処するかについては,中国をめぐる国際情勢の動きを見きわめつつ国際信義を尊重し,わが国の国益をはかり,かつ極東の緊張緩和に資するという観点から慎重に検討する考えである。日中関係の改善は政府としても,もとより望むところであり,そのための第一歩として,政府間接触をも含め,日中間の各種交流を促進することによつて相互理解をはかつてゆきたいと考えている。
1970年秋の国連総会での中国代表権問題の審議において,中華人民共和国政府を中国の唯一の合法的代表と認め,中華民国政府を国連から追放するとのいわゆるアルバニア決議案が,はじめて反対票を上回る賛成票を獲得した。政府は,このような変化をもたらした国際環境等について綿密な分析を行ない,今後の国際情勢の推移をも見きわめつつ本問題についての方策を慎重に検討する方針である。
朝鮮半島の情勢は,わが国の安全にきわめて密接な関係にある。最近においては紛争件数も減少し,比較的平穏を保つているとはいえ,依然として緊張は消滅していない。韓国が従来に引き続いて着実に経済建設を進めていることは歓迎すべきことであり,わが国としては,韓国の発展と国民福祉の向上のため今後もできる限りの協力を続けるとともに,朝鮮半島の緊張が緩和の途をたどることを希求するものである。
インドシナ半島については,わが国としては一日も早く和平の実現することを強く念願しており,カンボディア問題に関するジャカルタ会議へのわが国の参加とその後の努力の例にみられたごとく,この地域の和平実現のためわが国として果し得る役割があれば,積極的な努力を傾ける方針である。またこの地域の民生安定と経済開発のため,情勢の許す限り,できる限りの援助を行なう方針である。
アジア太平洋諸国の間には,近年地域協力推進の気運が高まりをみせており,これら諸国間の国際的協力のもとに,この地域に共通の問題を解決しようとする努力が払われつつある。政府はこの努力を高く評価し,今後も積極的にこれに協力して行く方針である。
豪州,ニュー・ジーランド,カナダの太平洋沿岸先進諸国は,政治的,経済的にわが国と特に緊密な協力関係にあり,かつアジアの安定と繁栄について深い共通の利害を有している。従つてわが国としては,今後ともこれら諸国との連携強化のためいつそうの努力を尽す方針である。
ヨーロッパにおける東西間の交渉や欧州共同体の拡大の気運に伴う新たな情勢の推移は,国際関係の中での西欧の自主性の高まりとその地位の向上につながるものであり,国際政治の安定的要因として歓迎されるものである。わが国としては,政治的理念価値体系を共にし,経済的先進国の立場にあるこれら西欧諸国との間に,相互協力の関係のいつそうの緊密化を図る方針である。
中近東における紛争は一応の停戦が維持されており,現在は平和的解決達成のためのきわめて重要な段階にある。わが国は,1967年11月の国連安保理決議に基づき,この地域に一日も早く公正かつ永続的な平和が確立されることを強く希望しており,かつそのため国連の場等を通じて協力を惜しまないものである。また中近東地域はわが国に対する石油の供給源としてきわめて重要であり,わが国としても経済技術協力などを通じて,この地域の政治的安定と経済的発展に寄与するとともに,石油資源の安定的確保に努める必要がある。
中南米,アフリカの諸国においては,近時ナショナリズムの台頭が顕著である一方地域協力や経済統合の促進を通じて経済的自立の動きが盛んである。わが国としては,通商,経済協力等の面でこれらの諸国との関係の増進に努め,これら諸国の国造りの努力を側面から支援して行く意向である。