―基本的指針―

 

第2節 基本的指針

 

 流動してやむことのない国際環境のもとで,絶えず変動する要素と,不動の基礎的骨組とを見分け,国益の存するところを明確に把握して,その確保に向かつて不断の努力を傾けることこそ,あらゆる国家を通じて対外政策の基本的指針である。

 まずわが国益の所在についてみれば,わが国の安全と繁栄は,アジア及び世界全体の平和と発展に深く依存するものであることを明確に認識する必要があろう。平和のもとに自由な国際的経済交流の維持されることこそ,わが国の生存にとつて不可欠の要件である。従つてわが外交目標は,諸外国との間に調和ある友好関係の増進に努め,政治,経済,文化の各方面にわたり国際協力を通じて平和の維持と相互の繁栄を図り,かつ国際緊張の緩和に寄与することに見出されなければならない。

 しかし,このような目標の追求に当つては,わが国力の充実が近年特に著しく,わが国に対する国際的な期待と注目が高まりつつあることを自覚して行動しなければならない。今やわが国は,国際社会において求める立場から与える立場へ,客体から主体へと移行しつつあり,わが国の決意と行動は,世界の大勢に少なからざる影響を及ぼさないではおかない状況にある。従つて狭い短期的な利益のみを追うことなく,諸外国との間の調和ある相互協力の関係を進め,彼我の利害の総合的な均衡点を見出すことによつて,長期的かつ大局的な国益の伸長を図ることが必要である。

 わが国の発展が急速度であり,かつ第二次大戦前のわが国が現状打破勢力の一員であつた記憶とも相まつて,わが国の動向はややもすれば諸外国から警戒の眼をもつて見られ,時には摩擦の原因ともなることが多い事実も注意すべき点の一つであろう。国際社会の既存の秩序や均衡を急激にくずすことなく,地道な外交努力を着実に積み重ねて行くことが,わが国の場合特に肝要であろう。

 

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