―朝鮮半島の情勢―

 

第7節 朝鮮半島の情勢

 

1. 概     況

 

 過去1年間における朝鮮半島の情勢は,北朝鮮からの大規模な挑発事件はみられず,波瀾含みながらも概して静穏裡に推移した。

 この間,韓国では1971年春に予定される大統領選挙をめざして政局は漸く動き始め,一方北朝鮮は,1970年11月に開かれた朝鮮労働党第5回大会に焦点をあわせ経済目標の達成に全力を傾けた。

 他方,米国のニクソン・ドクトリンの現実化,両独間の語し合いにみられる東西間の緊張緩和の傾向,さらにはインドシナ情勢の変転は朝鮮半島にも大きく投影した。

 

2. 韓国の動向

 

(1) 朴大統領は1969年秋の三選改憲に成功していらい,政情の安定と経済発展に努めてきたが,1970年春いらい不祥事件が相ついで発生し,その政治的立場を困難にした。加えて同年7月,米国政府が在韓米軍の削減を通告したことは韓国朝野に多大の衝撃を与えた。韓国政府は韓国軍の近代化に対する米国の協力をとりつけ,米国政府の在韓米軍削減方針に同意した。

(2) 国内政局は,大統領選挙および国会議員選挙を焦点として動いたが,朴大統領は,1970年12月に内閣と党首脳の人事異動を行ない選挙体制を固めた。これに対し野党の新民党は,同党大統領候補に新進気鋭の金大中議員を選出し,近来になく野党ムードのもり上がりを示した。

(3) 1970年8月,朴大統領は,韓国の元首としてはじめて統一問題についての見解を発表し,北朝鮮が戦争挑発行為をやめ,暴力による国土統一の意図を放棄することを求めると同時に,経済面における善意の競争を呼びかけ,内外の注目を集めた。

(4) さらに韓国は,緊張緩和の世界的風潮にかんがみ,その対共産圏政策に検討を加え,非敵性共産諸国との貿易その他の交流の道を開く柔軟な姿勢を示し始めた。

 

3. 北朝鮮の動向

 

(1) 北朝鮮は1970年11月,9年ぶりに朝鮮労働党第5回大会を開催した。北朝鮮では近来金日成首相の神格化を促進し,金日成体制を固めてきたが,今次党大会では党の思想的統一団結がとくに強調され,金日成首相中心の新指導部が選出され,金日成独裁体制はいつそう強化された。

(2) 北朝鮮は従来から国防建設および経済建設の併進策をとつてきたが,上述党大会における金日成報告では軍事国防優先の立場が貫かれており,また南北統一問題については,南朝鮮における革命戦略が強調されている。

(3) 経済面については,1961年からの経済7カ年計画(3カ年延長され1970年までの10カ年)の成果を公表し,北朝鮮は社会主義工業国の段階に入つたことを強調するとともに,重工業の自主性を強めるために,原料の自給率を高め,かつ技術革新に重点をおいた経済発展6カ年計画を採択した。

(4) 北朝鮮は流動するアジア情勢の中にあつて引き続き自主独立路線を堅持し,ソ連との緊密関係の持続をはかる一方,中華人民共和国との関係改善の実を挙げた。とくに,1970年4月には中華人民共和国の周恩来首相が北朝鮮を訪問し,両国の間で共同声明が発表された。さらに6月の朝鮮戦争20周年記念に際しては,平壌に中華人民共和国をはじめインドシナ各国の代表が参集してアジア人民の反米統一戦線の結成を呼びかけた。

(5) 北朝鮮は,1969年11月の日米共同声明以後,日本軍国主義の復活をとくに激しく非難し始めたが,日本軍国主義復活の脅威が朝中接近の共同基盤をなしているものとみられる。

 

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