-その他の重要外交文書等-
6.その他の重要外交文書等
(1) 日中覚書貿易取決めと日中政治問題に関する会談コミュニケ
(1969年4月4日)
中国中日覚え書き事務所代表と日本日中覚え書き貿易事務所代表は,1969年2月22日から4月4日まで北京で会談を行なつた。双方は当面する中日関係および双方が共通の関心を持つ問題について卒直に意見を交換した。
双方は1966年双方が会談コミュニケを発表していらいの中日関係の情勢を回顧した。
中国側は米帝国主義とそれに追随する日本の佐藤政府が中国敵視の政策をかたくなに推し進め,われわれの間の関係を含めた中日関係にさまざまな障害を設けたことを指摘した。
日本側は日中関関係を悪化させているさまざまな原因が日本政府の側にあることを卒直に認め,当面する情勢への憂慮にかんがみて真剣に反省する角度からこれらの障害を取り除き,日中関係の正常な発展を促すために積極的な努力を行なう決意であることを表明した。
双方は1968年に双方が確認した政治三原則((1)中国敵視政策をとらない,(2)「二つの中国」をつくる陰謀に参加しない,(3)中日両国の正常な関係の回復を妨げない)および政経不可分の原則が中日関係において守らなければならない原則であり,われわれの間の関係の政治的基盤であることを確認することを重ねて明らかにするとともに,上述の原則を遵守し,この政治的基盤を守るために引き続き努力する決意であることを表明した。
中国側は,佐藤政府が中日関係において「政経分離」の政策をかたくなに堅持していることは中国敵視の政策であり,中国人民の断固反対するところであるときびしく非難した。
日本側は日中関係において日本政府のとつている「政経分離」の政策が政治三原則および政経不可分の原則とあい対立し,日中関係の発展を妨げているきわめて大きな障害であり,したがつてこの政策をすみやかにあらためなければならないことを表明した。
中国側は佐藤政府が米帝国主義への追随に拍車をかけ,「二つの中国」をつくる陰謀活動に参加して中国敵視の政策を露骨にとつていることを強く非難した。
中国側はまた,台湾解放は中国の内政問題であつて中国人民は必ず台湾を解放するし,日本政府がすでに早くから中国人民に見捨てられている将介石一味と結んだいわゆる「平和条約」は中国人民を敵とし,不法な,中国人民の断固反対するものであることを重ねて明らかにした。
日本側は中国側の厳正な立ち場に同意した。日本側はさらに,中華人民共和国政府は中国人民を代表する唯一の合法的な政府であり,台湾省は中国領土の不可分な一部であり,こうした認識にもとづいて日中国交の正常化を促し,いかなる形であれ「二つの中国」をつくる陰謀活動に反対しなければならないことを明確に表明した。
中国側は佐藤政府が米帝国主義のアジア侵略の政策に前にもまして激しく追随し,日本人民の願いにそむき日米「安保条約」を堅持していることをきびしく非難した。
中国側はさらに,この条約は日本人民を圧迫するものであり,中国人民を敵としてアジア人民を敵とする侵略的な軍事同盟条約であり,それはアジアおよび世界の平和を大きく脅かしているばかりか日本人民にも大きな災いをもたらすものであり,中国人民は日米軍事同盟条約に断固反対することを表明した。
日本側は中国側の立ち場に理解を表明するとともに,日米「安保条約」が中国に対する脅威,アジア各国人民に対する脅威であり,日中関係における大きな障害であることを重要視した。日本側はさらに,独立自主の立ち場に立つて日本を侵略戦争にまき込まないために,またこのような主権の重大な制限から脱却するために,積極的に努力することを表明した。
双方は,中日両国が近隣であり,両国人民の間には伝統的な友情があり,両国人民の友好関係を増進し両国関係の正常化を促進することは中日両国人民の共通の願いにかなつているばかりか,アジアと世界の平和を守る上にも役立つものであると一致して考える。
双方は1969年度の覚え書き貿易事項について取りきめを結んだ。
(1969年4月11日)
1.同盟は,西側の防衛とともに東側との永続的な和解という目的を持つ。加盟国政府は交渉を通じてこの面における真の進歩に努め,適当な交渉案件を調査検討する。
2.加盟国政府は東欧の情勢を特に考慮し,国際関係の真の改善は国家の主権およびその領域の保全,内政不干渉,各国民が自己の将来を形成する権利,武力による威嚇もしくは武力行使を行なわない義務などの諸原則を尊重することを前提とするものであることを想起する。
3.同盟は相互の協議を維持しながら,いかなる具体的案件が交渉に成果をもたらし,早朝解決に到達し得るかをソ連および東欧諸国との間で探究していくことを提案する。理事会はかかる案件のリストを作成し,もつとも有益な交渉がどうすれば可能となるかを検討し,次回の閣僚理事会に報告するよう常任理事会に訓令を発した。いかなる交渉に際しても事前に十分準備を整えなければならず,また欧州の政治解決実現に参加が必要なすべての国が参加しなければならないとは明白である。
4.同盟は軍備縮小および現実的な軍備管理,さらに武力不行使交渉の面においても努力を続ける。
5.同盟内部の政治的結束は東西交渉へと近づくにあたつて最も重要なことである。この結束は,同盟および加盟国の利害に関連ある場合,交渉に察して理事会において周到に協議するとの原則を忠実に守ることにより保たれる。この了解のもとに同盟各政府は米国がソ連との間で攻撃用,防御用戦略兵器の制限について話し合いに入ることを歓迎する。
6.加盟諸国は交渉の時代にあつても同盟の防衛体制をゆるめるべきでなく,各懸案事項について時期尚早の解決を期待すべきでないことに意見の一致を見た。
7.加盟諸国は引き続き核戦略および通常戦略の面において共同の防衛力および抑止力堅持の努力を続ける。加盟諸国は前進戦略,柔軟反応戦略を確認し、核抑止力および十分な兵力による通常抑止力を維持する。
8.加盟各国国防相は1969年5月28日会合し,防衛力の維持および強化に関する具体的諸問題につき包括的な検討を加える。
9.理事会は最近のベルリン情勢を検討した。加盟各国はベルリンヘの通行権を維持せんとの3カ国(米英仏)の決意を支持する。
10.加盟各政府はベルリン問題につき関係3カ国がその特別の責任の枠内で問題解決のため適当な措置を検討することを支持した。
11.次回の理事会は69年12月ブラッセルで開催する。
(3) 中共9全大会における林彪の「政治報告」(外交部分要旨)
(1969年4月27日)
序言 9全大会開幕の第1日目である4月1日に林彪副主席によつて行なわれた「政治報告」は,14日の全体会議によつて採択され27日発表された。
本報告は8章より成り,毛沢東思想絶対主義の立場より文化大革命の経験を総括することに重点が置かれており,今後の国内政策については基本方向を述べるに止つているが国際情勢の分析と対外政策を取り上げている第7章は、全体の約5分の1を占め,比較的詳細に述べられている。
第7章の構成は,先づ冒頭に中共外交の基本原則と当面の国際情勢に関する分析を述べた後,国際情勢の見透しに対する基本概念をあきらかにしている。ついで,「米帝」および「ソ修」の「罪状」と両者が「ハリ子の虎」であるゆえんを宣伝的な言辞をもつて詳細に述べているが「米帝」に関する部分は比較的短かいのに比し「ソ修」に関する部分は,中ソ境界問題をふくめかなり長く,第7章のほぼ半分を占めている。
報告は,さらに「平和共存」をふくむ三項目の外交政策を確認し,「米帝およびソ修に対する統一戦線の結成」に集約される九項目にわたる対外支援の措置を列挙している。
要旨 (あ)報告は,まず冒頭において,世界のプロレタリア階級と被抑圧人民,被抑圧民族の革命闘争との相互的支持の下に,帝国主義反対,現代修正主義反対,各国反動派反対の闘争をやり抜くとの決意を表明し,中共外交の基本原則を打ち出している。
(い)当面の国際情勢については,日毎に良くなつているとして,その理由を(i)アジア,アフリカ,ラテン・アメリカにおける人民の武装闘争の強大化,(ii)日本,西欧および北米における革命的大衆運動の勃発,(iii)真のマルクス・レーニン主義の兄弟党と兄弟組織の発展(iv)「米帝」および「ソ修」の政治的,経済的ゆきづまりに求めている。
(う)国際情勢の見通しに関する基本概念として,報告は,現代世界における四つの矛盾を列挙し,これらの矛盾の存在と発展は,必然的に革命を引き起こす,と断定している。
四つの矛盾とは,(i)被圧迫民族と帝国主義,社会帝国主義とのあいだの矛盾,(ii)資本主義国,修正主義国内部のプロレタリア階級とブルジョア階級とのあいだの矛盾,(iii)帝国主義国と社会帝国主義国とのあいだ,各帝国主義国のあいだの矛盾,(iv)社会主義国と帝国主義、社会帝国主義とのあいだの矛盾である。
社会帝国主義国とは,ソ連のことであるとされており,上記の理論により,ソ連は中共の敵対矛盾の一つとして,資本主義国と同列に置かれている。
(え)また,世界大戦と革命との関連については,レーニンの命題を確認した上,「世界大戦の問題については,二つの可能性しかない。一つは戦争が革命をひきおこすことであり,一つは革命が戦争をおしとどめることである。」との毛沢東の最近の言葉を紹介し,帝国主義,修正主義,各国反動派が第3次大戦を世界におしつけることは,その滅亡を早めるのみであると警告している。
(お)「米帝国主義」に関する部分においては米国が台湾を「不法に」占領しているとして攻撃しながらも「米帝」はますます下り坂をたどり,ぬけだすことのできない経済危機に直面し,帝国主義諸国間におけるその指揮棒はますますききめを失なつていると述べる等専らその窮状を宣伝するのに努めている。
(か)「ソ連修正主義裏切り者集団」はブレジネフ政権誕生以来,いつそう「社会帝国主義」「社会ファシズム」を推進したと述べており,チェコスロヴァキアの「占領」と珍宝島に対する「武力排発」を例にあげ,「わが国に対する侵略の脅威を強めている」と指摘している。
また,右との関連で,ソ修は,いわゆる「有限主権論」「国際独裁論」「社会主義大家庭論」を鼓吹しているが,これらはヒットラーの「ヨーロッパの新秩序」あるいは日本軍国主義の「大東亜共産圏」と同じものであるとして,はげしく非難している。
(き)中ソ境界問題については,本問題は,中国に対するツアー・ロシア帝国主義の侵略によつてつくり出された歴史的産物であるとの前提の下に,1960年以降の両国の交渉が不調に終つた責をソ連政府の「大国排外主義」と「社会帝国主義」に帰している。
今後の方針としては,外交ルートによる解決と解決されるまでの時期における現状維持がわが党とわが国政府の一貫した主張であると述べ3月29日のソ連政府による協議申し入れに中共政府が回答を考慮中であることをあきらかにした。
(く)ついで,中共の対外政策として三項目を,また,世界戦略上の対外支援措置として九項目を列挙している。
対外政策の三項目とは,次のとおりである。
(i)プロレタリア国際主義の原則のもとに,社会主義国との友好相互援助協力関係を発展させること。
(ii)すべての被抑圧人民と被抑圧民族の革命闘争を支援すること。
(iii)領土保全と主権の相互尊重,相互不可侵,相互内政不干渉,平等互恵,平和共存という五原則に基づいて,社会制度の異なる国ぐにとの平和共存をかちとり帝国主義の侵略政策と戦争政策に反対すること。
上記の政策については,一時的,便宜的なものではなく長期にわたつて実行するとして,その不変性を強調している。
(け)対外支援措置の九項目とは,次のようなものである。
(i)アルバニア人民の反帝・反修闘争の支持
(ii)ヴィエトナム人民が抗米救国戦争を断固推進することについての支持
(iii)ラオス,タイ,ビルマ,マラヤ,インドネシア,インド,パレスチナおよびアジア,アフリカ,ラテン・アメリカのその他の国ぐにと地域の人民革命闘争の支持
(iv)「米国支配集団」に反対する米国のプロレタリア階級,青年学生,黒人大衆の正義の闘争支持
(v)「ソ連修正主義裏切り者集団」をくつがえすソ連のプロレタリア階級と勤労人民の正義の闘争支持
(vi)「ソ連社会帝国主義」に反対するチェコスロヴァキアとその他の国ぐにの人民の正義の闘争支持
(vii)日本,西欧,太平洋の諸国人民の革命闘争の支持
(viii)世界各国人民の革命闘争の支持
(ix)「米帝」と「ソ修」の侵略と抑圧に反抗するすべての正義の闘争支持
(こ)なお,報告は,末段に近い箇所において,「米帝」,「ソ修」が大規模な侵略戦争をひき起こす可能性があると警告し,彼等が奇襲戦争,通常兵器による戦争,あるいは核戦争をしかけてくるすべての場合において,真剣に戦備を強化する必要があることを強調している。
また,侵略があつた場合には,かならずこれを撃滅すると豪語しながらも,「相手が侵してこなければこちらも侵さない。相手が侵してくればこぢらもかならず侵す。」と述べ,自ら攻撃をおこなうことはないとの態度を示している。
-1969年10月29日付プラウダ紙掲載-
フサーク第1書記を団長とするチェコスロヴアキア党・政府代表団は1969年10月20日から28日までソ連を公式訪問し,プレジネフ書記長(団長),ポドゴルヌイ最高会議幹部会議長,コスイギン首相らのソ連党・政府代表団と会談した。
I
会談においては今後の両国関係の全面的発展の方法につき完全な意見の一致が確認された。
信頼,同志的相互援助,積極的国際的連帯,同権,独立,内政不干渉,相互主権尊重は両国関係の確固たる基礎である。
会談においては,社会主義経済および両国経済関係の発展問題が重要な位置を占めた。
両国は経済の中央指導と各企業の広範なイニシアティヴを結合させた計画経済のすべての利点を利用する考えであり,経済構造,計画のやり方,管理方法を改善するための諸措置を不断に講ずることに大きな意義を認めた。
1960年度に比し,両国の商品交換は現在までに1.8倍に増大し,そのうち機械設備の相互供給は2.3倍に増えた。
会談では1975年までの国民経済計画の調整に関する具体的問題が審議された。ソ連はチェコスロヴァキア側の要請にこたえて,石油,銑鉄,綿花その他重要原料ならびにチェコスロヴァキアが切実に必要としている機械設備の供給を当初の予定を超えて増大させるであろう。
ソ連側は1970年度には耐久商品を追加供給し,またチェコスロヴァキアで不足している若干の商品を外国市場で買付けるために助力を与えることについて同意した。両国は,両国の経済関係において機械製作,エネルギー,化学,電子工学の各工業および消費財生産の分野における専門化と協業がますます大きな意義をもちつつあることを確認する。
原子力エネルギー分野での協力を拡大することが合意された。ソ連は科学技術援助を与え,チェコスロヴァキアに新しい強力な原子力発電所建設のための必要な設備を供給するであろう。双方は原子力発電所の設備の生産および計算機の生産における広い協力を長期にわたつて発展させるべく合意した。プラハの地下鉄建設に対するソ連の援助は増大している。チェコスロヴァキアにおけるトラックの生産増大に関しても密接な協力の可能性が検討されよう。
ソ連の発注によりチェコスロヴァキアにおける機械および生産設備のより効果的な稼働が実現されるであろう。
II
会談においては党・政府の問題につき相互に説明が行なわれた。チェコスロヴァキア側は4月,5月および9月の中央委総会で作成された諸措置の実施状況について説明した。これは党の役割の強化,右翼日和見主義に対する徹底的斗争,社会主義的社会関係の強化をめざす方針であり,1968年1月に採択された中央委決定の積極面の発展に向けられている。ソ連側はこれに対し完全な理解と支持を示した。
チェコスロヴァキアの同志達は,右翼日和見主義勢力が党を指導した結果,プチブル的アナーキー的傾向が生じたことを強調した。このため国家的・政治的転覆の現実の危険,社会主義体制に対する直接的脅威が生じ,チェコスロヴァキアおよび他の社会主義同盟諸国,世界の社会主義の事業の利益にとつて重大な損害を与えた。
チェコスロヴァキア代表団は同党9月中央委総会および国会の決議に基づき,社会主義5ヵ国の行動を反社会主義・反革命勢力の道を阻止するに役立つた国際的連帯行動として評価する。
ソ連およびチェコスロヴァキアは社会主義国家の主権の評価につき意見を同じくする。両代表団は主権の階級的概念は,各社会主義国および各共産党がその社会主義建設の形式と方法を決める固有の権利をもつと同時に,労働階級の権力および社会主義の成果を擁護する直接の義務を含むものであるとの立場に立脚している。この意味で各党は自国の国民に責任をもつと同時に社会主義共同体および国際共産主義運動に対する国際的義務をもつている。ブラチスラヴア声明に沿つて,双方は社会主義の成果の擁護はすべての兄弟国の共通の国際主義的義務であると考える。
ドイツの帝国主義,復讐主義との斗争の歴史的経験から,チェコスロヴァキア国民は,チェコスロヴァキアの西部国境が全社会主義共同体の最前線であることを理解する。この関連において,ソ連軍の臨時駐留協定は重要な基本的意味を有する。
III
ソ連とチェコスロヴァキアは国際問題において一致した路線を進めている。双方とも社会主義共同体の団結強化に協力することを崇高な義務と考える。双方は今後ともワルシャワ条約機構の防衛力向上に間断なき注意を払うであろう。双方は社会主義的統合のいつそうの発展をめざした第23回コメコン特別会議の決定の実施を不断に進めてゆくであろう。
IV
両党および両国は社会主義および共産主義建設の方法の理解において一致している。双方は共産主義の敵が共産党および社会主義国家に対し,イデオロギー破壊活動をますます強めている現状においては,すべての反共主義に決定的反撃を与えつつ,イデオロギー活動を強化することの重要性を認識している。この点マス・コミ手段は非常な重要性をもつており,マス・コミによる党の指導性の弱化は社会主義の利益に重大な損害を与えることとなる。
★
双方はチェコスロヴァキア解放25周年を記念し,戦後の期間に増大した両国関係の水準にふさわしい新しい友好・協力・相互援助条約を締結することを取決めた。
チェコスロヴァキア代表団は同党中央委,大統領および政府の名においてソ連代表団がチェコスロヴァキアを公式訪問するよう招待し,同招待は感謝の意をもつて受諾された。
(1969年12月5日)
1.北大西洋条約機構理事会(以下単に「理事会」と称す)は1969年12月4,5日の両日、ブラッセルで閣僚レベルの会議を開催した。同会議には全加盟国の外務大臣および一部加盟国の国防および大蔵大臣が出席した。
2.20年前に北大西洋条約が署名されて以来加盟国は自由と安全の擁護に努め,欧州の諸懸案問題のできうる限り平和的な解決に寄与すべく,東西関係の改善に尽力してきた。加盟国は今後とも同様の努力を継続する。
3.1967年12月加盟国政府は同盟の将来の任務に関する報告を承認し,侵略および他の形態の抑圧を阻止し,侵略が発生した場合に加盟国の領域を防衛する上で十分な軍事力および政治的団結を維持すること,並びに欧州において正義にかなつた安定した秩序を樹立し,ドイツの分割を克服し,欧州の安全を促進する上で適切な政策を検討することを決定した。
4.防衛と緊張緩和の二つの配慮に基づく東西関係の将来の発展に関する閣僚の見解を盛り込んだ宣言が本コミュニケの付属として発表された。
5.戦略兵器制限交渉の開始を歓迎し,軍縮委員会,国連等で示された海底非武装化,生物・化学兵器戦争に対する措置への関心に留意した。
また軍縮に関するあらゆる問題について詳細な協議がなされ,右協議は軍縮交渉の準備にきわめて有益と認められた。常設理事会に対し当該問題の検討を継続するよう要請が行なわれた。更に欧州および世界において緊張を緩和し,平和を強固にしていく上で,すべての国家の安全保障と合致し適正な国際的管理により保障された真の軍縮措置の持つ重要性が再確認された。
6.事務総長より提出された地中海情勢に関する報告書が検討され,1968年6月27日および同年11月16日付コミュニケを想起しつつ,当該地域情勢に対する加盟国政府の関心が表明された。本問題についての同盟諸国間の十分な協議の価値が再確認され,常設理事会に対し地中海情勢の検討に最善を尽くし来春の閣僚理事会にその結果を報告するよう要請された。
7.1969年4月の閣僚理事会は現代社会の生沽環境に関し,右が福祉と進歩を危険にさらすおそれがあるところ,右を加盟国共通の課題として同盟が右の研究を行なう可能性について注意を喚起した。その結果,常設理事会は現代社会の挑戦に関する委員会を設置した。12月8日にその第1回の会合を開く新委員会は加盟国が単独で,または共同して,または国際組織を通じて行なう活動を推進するために緊急な社会環境問題について討議し,結果を来春の閣僚理事会に報告する。
8.NATO統合防衛計画に参加している加盟国閣僚は1969年12月3日防衛計画委員会を開催した。右委員会において事務総長および軍事委員会委員長より同盟内における防衛計画の現状について一般的説明が行なわれた。その後,前回1969年5月28日の委員会以後の活動が検討され,将来の作業についての方針が決定された。
9.真の緊張緩和の推進にあたりNATO防衛体制の有効性を維持することが右を国際情勢の不安定化を招来することなく遂行するために不可欠であることが確認された。従つて安全保障の現状を変更しない,規模およびタイミングにおいて均衡した東西相互兵力削減に関する合意が成立しない限り,NATOはその総合兵力の削減を行なわないであろう。
10.1970年度兵力計画の検討に当り,欧州本土およびNATO全域の防衛についてのNATO戦略と合致し,十分かつ即応性を有する通常戦力,核戦力を維持する必要性に注意が払われた。防衛計画委員会は,1969年5月28日の防衛計画委員会に続いて開始された在欧カナダ軍に関するカナダ当局との協議の成果を了知し,1970年度の兵力計画の維持および右に関する中欧における十分な兵力を維持する上で必要な一連の補完措置を確認した。現在更に追加的補完措置が考慮されている。
11.NATOの柔軟反応にもとづいた前進防衛戦略の遂行と緊急時におけるNATO軍の補給制度の実施に必要な措置に関し討議が行なわれた。その他現在進行中のNAOとワルシャワ条約機構との兵力比較に関する包括的研究の中間報告にも注意が払われ,同研究の継続について指示が与えられた。更に側面防衛の研究を含むその他の防衛計画研究の状態についての吟味がなされた。
12.閣僚理事会はまた,核防衛問題委員会の構成国(ベルギー,カナタ,デンマーク,ドイツ,ギリシャ,イタリア,オランダ,ノールウェー,ポルトガル,トルコ,イギリスおよびアメリカ)の国防大臣に対し,核計画グループの前年度の活動および将来の作業計画を検討する機会を提供した。核防衛問題委員会はカナダ,ドイツ,イタリア,オランダ,ノールウェー,トルコ,イギリスおよびアメリカが1970年1月1日以降核計画グループを構成することを決定した。
13.核防衛問題委員会の勧告に基づき,防衛計画委員会は,11月にアメリカで開かれた核計画グループで作成された,核使用に関する協議手続の一般原則とNATO地域防衛における核兵器の戦術的使用に関する二つの政策文書を採択した。これらの文書は1967年12月以降一貫して採用されてきたNATOの柔軟反応戦略に基づくものである。
14.防衛計画委員会の次の閣僚レベルの会議は1970年春に開かれる。
15.次の閣僚理事会は1970年5月26,27日の両日イタリアで開催される。
(1969年12月5日)
1.NATO閣僚会議は,1969年12月4,5の両日ブラッセルで開催され,加盟諸国が同盟の約束に従い今後とも緊張緩和の推進と正義にもとづく恒久平和を追究していくことが再確認された。
2.欧州における平和と安全は主権平等,政治的独立,および領土保全,民族自決権,紛争の平和的解決,政治的社会的体制のいかんにかかわらない内政不干渉,武力による威嚇の放棄等の諸原則の全般的尊重の上に築かれねばならない。過去の経験の示すところによれば,これらの諸原則は必らずしも共通の解釈を受けていない。欧州における基本的諸問題はこれらの原則を基礎としてのみ解決が可能であり,また,真実のそして永続的な東西関係の改善はつねにそれらに対する条件や留保の付かない尊重を前提としているのである。
3.1969年4月のワシントン会議において,ソ連および東欧諸国との間で成果ある交渉と早期解決の可能な具体的問題を探究するという加盟国政府の意図が表明された。この目的のために理事会は予備折衝および本格交渉の対象となり得べき諸問題に詳細な検討を加えてきた。交渉手続についてより精密な検討が必要であることが認められ,常設理事会は次の閣僚理事会会議に当該問題につき報告するよう要請された。
4.「交渉の時代」においては特定の明確に定義されたテーマの討議を通じて漸進的な緊張緩和が可能となり,また右はより基本的な諸問題の討議を促進すると考えられる。
<軍備管理および軍縮〉
5.軍備管理および軍縮に対する同盟の関心が再度表明され,1968年レイキャビクにおいて採択され,1969年ワシントンにおいて再確認された相互的かつ均衡のとれた兵力削減に関する宣言に関し,同盟加盟国は今日に至るまでこの提案が何の成果ももたらしていないことに注目した。しかしながら,加盟国は本件問題に現実主義的な基盤に立つた肉づけを行ない,右について東側に積極的働きかけを行なうことにより,本件が東側との成果ある交渉の出発点となり得るか否か確定すべく検討をつづける。常設理事会はできるだけ早く相互的かつ均衡のとれた兵力削減のモデルについての報告書を提出するよう要請された。
6.NATOの統合防衛計画に参加している加盟国の閣僚は相互的かつ均衡のとれた兵力削減に関する検討が進ちよくした結果,削減に一定の基準を設定することが可能になつたと考える。兵力の削減は,適切な管理と査察の下に行なわれるが,右はすべての関係国の安全保障を害するようなものであつてはならない。兵力相互削減は軍備競争を終らせ核軍縮を含む一般的完全軍縮を達成する道程における具体的な一歩前進となるであろう。
7.統合防衛計画に参加している加盟国は相互的かつ均衡のとれた兵力削減についての取決めに伴う諸措置に関する検討の推進を指示した。この諸措置は軍隊移動および軍事演習に関する事前通告,軍事演習における監視者の交換,更には監視所の設置を含むこととなり得よう。査察の技術および方法の検討もまたいつそう進めなければならない。
<ドイツおよびベルリン>
8.閣僚会議はアメリカ,イギリスおよびフランスの政府がそのベルリンとドイツ全体についての特殊な責任の枠組の中で,ベルリンの情勢の改善と同市への自由な近接の確保に関しソ連の協力を得るために行なつた努力を歓迎する。ベルリン特に同市への近接について,従来からの諸困難を除去することは東西の分割を招来している他の具体的な諸問題について真剣な討議が行なわれる可能性を高めるであろう。更に,もしベルリンの東欧諸国との貿易が促進されうるとすれば,ベルリンは東西経済関係の拡大に建設的な役割を果たすことができるであろう。
9.正義と恒久平和にかなうドイツ問題の解決は,ドイツ民族の自由な決定と欧州の安全保障上の利益に基づくものでなければならない。ドイツ問題の解決が実現されるまでの間,ドイツの両部分間における暫定協力の締結,および武力または武力による威嚇の不行使についての宣言の交換を呼びかけたドイツ連邦共和国の提案は,もしもそれが積極的な反応を得るならば,他の問題に関する東西間の協力を実質的に促進することは確かである。閣僚理事会はドイツ連邦共和国のかかる努力は欧州における緊張緩和への建設的歩みを象徴するものであると考え,従つて,加盟国がドイツ問題に対する自国の態度を決定する時には,右を考慮に入れるよう希望する。
10.これらの両分野における具体的な進展は欧州における平和への重要な貢献とみなしうるであろう。欧州における関係改善や協力を目指す交渉の見通しを判断する場合には東側のこれら提案に対する反応に十分注目しなければならない。
<経済的・技術的および文化的交流>
11.加盟国政府は利害関係国間における,経済的および技術的交流のみでなく文化交流もまた相互に利益をもたらし,相互理解を深めるものであると考える。東西間における人,思想および情報の移動の自由の拡大は,文化交流により大きな成果がもたらされるであろう。
12.生活環境の分野における同盟の活動はもしもそれがより広範囲にわたる協力の基盟となりうるならば,大きな利益をもたらすことになろう。この活動にはワルシャワ条約加盟国も関心を示しており,従つてワルシャワ諸国との話し合いの対象として直ちにとり上げ得ると認められる。海洋学等のより専門化された分野においては,いつそう緊密な協力が可能であり,二国間ベース,多数国間ベースまたは利害関係国により構成されている現存国際機関の枠内でかかる分野における努力が強化されるべきである。
<交渉の展望>
13.本宣言でとり上げられた欧州の安全保障と協力に関する具体的諸問題は,ソ連やその他の東欧諸国との間に将来行なわれることあるべき討議または交渉の議題となり得ると考えられる。加盟国政府は,個々の議題に応じ最も適当な方法を選択することにより交渉の最も確実な進展が期待できるとの考慮から,二国間,多数国間を問わずあらゆる適当な経路を通じて相手側との接触,討議または交渉を継続しかつ積極化していくであろう。従つて閣僚理事会は,武力および武力による威嚇の放棄に関する取決めの締結を目指すドイツ連邦共和国政府のソ連およびその他の東欧諸国に対する二国間ベースでの働きかけを支持し,現在の接触が発展し,すべての関係国が欧州における協力と安全保障の実質的な問題についての討議および交渉に確実な見通しの下に参加できるようになることを希望する旨表明した。
14.加盟国は,ソ連および東欧諸国が欧州における緊張緩和と協力促進への措置の討議に前向きの態度をとり,この目的のために建設的行動をとることを期待する。この点で加盟国は,欧州安全保障会議の早期開催の可能性に関するソ連東欧諸国の呼びかけに注目したが,かかる会議の開催には慎重な事前における準備と具体的な成果への展望が不可欠であるとの点で合意に達した。包括的アプローチの一貫として既に開始されているまたは近日中に開始される,欧州の安全保障の基本的問題に閲する二国間ベースおよび多数国間ベースでの討議および交渉において進展が見られるならば,欧州における政治的雰囲気の改善に多大の貢献をなすであろう。かかる討議および交渉の進展は,北米の同盟加盟国が当然参加する本件会議が,欧州における協力と安全保障の実質的諸問題について成果ある討議と交渉を行なうことを保障するであろう。
15.加盟国は,1国又は数国の一般的会議を含むあらゆる建設的可能性を考慮した際,いかなるそのような会議も欧州の分割された現状を固定化に導くべきではなく,またそれはすべての利害関係国が現在当該諸国間に意見の相違を来たさせている諸問題と取りくむ共通の努力の成果でなければならないとの確約を希望する加盟国の立場を確認した。
(1970年1月22日)
(ヴィエトナム問題)米国外交政策の重要かつ緊急の目標はヴィエトナム戦争の終結である。議会の支持もあり,わが国はその目標に向かつて進展を遂げつつある。米国は今世紀中に全世界の国と和平関係に立つことを目標としているが,わたくしは後日外交報告を発出してこの点を詳しく論ずる予定である。
(グアム・ドクトリン)米国は第2次大戦後とつて来た外交政策を国際情勢の推移に照らして再評価すべき時期に来ている。ヨーロッパ諸国および日本,並びにラテン・アメリカ諸国等いずれも新たな衿持と尊厳の上に立つて自国の防衛につき責任を負うとの決意を持つに至つている。この点がわたくしのグアム・ドクトリンの基礎であつて他国の防衛,開発がすべてあるいは主として米国の任務であるということはない。米国は条約上の約束は遵守するものであるが,他国の問題への介入および米軍駐在は縮小することとなろう。この点は米国が責任を回避するということではなく,責任を他国と分担するということである。
(欧州・ラテン・アメリカ)米国と欧州諸国の関係は相互間の協議と責任に基づく強力かつ健全なものである。ラテン・アメリカ諸国に対しては米国はそのパトロンではなく,パートナーたらんとする新らしいアプローチを開始している。
(アジア・日本)アジア諸国は米国のいうパートナーシップという考え方を歓迎している。米国は日本との間に日米友好協力関係のための新たな歴史的な基盤を発展せしめたが,これは太平洋地域の平和を守る「輪止めくさび」である。
(ソ連・中共)米ソ関係の進展は今世紀の平和に関する重要な要素である。米ソの立場に種々相違はあるが,対立の時代から話し合いの時代に着々と歩を進めている。戦略兵器制限交渉は両国がナイーブな感傷的な気持によつてではなく,相互の国益という観点からこれに臨めば交渉成功の見通しははるかに大きくなろう。
米国がワルソーにおいて中共との話し合いを再開したのも同じ精神に基づくものてある。対中ソ関係における米国の関心事は大きな衝突を避け相互間の相違を平和裡に解波する強固な基礎を築くことである。
(議会との関係)議会と行政府とが民主党,共和党の枠を越えて活動するという関係が今後維持出来るとしたら,平和確立のための機運は大いに促進されることとなろう。
(1970年2月18日)
序 論
「1970年代の米国外交政策:平和への戦略」と題する同教書は,まずその序論冒頭に「懐疑主義者ではなく理想主義者こそが社会を建設するものである。また米国は国広りみならず外国の要請にも同時に応ずるべきである。」と述べ,この教書の目的が昨年1年の回顧のみではなく,米国の原爆独占,米ソ冷戦の時代を過ぎ,西欧・日本が復興して多極化した「新時代」の国際関係において「永続する平和」への道をさぐることにあるとして,「パートナーシップ」,「米国の力」,そして「交渉に応ずる前向きの姿勢」の3つをその柱として挙げている。
まず「パートナーシップ」に関しては,米国がすべての安全保障の責任を負うのではなく,まず自助の原則に基づいてパートナーが責任を負い,その上で米国およびそのパートナーの国益保全の緊要度に応じた米国のコミットメントが再検討されるべきであるとして,「グアム・ドクトリン」を再確認している。また「米国の力」に関しては,軍事費節減の必要は認めつつも力は平和に不可欠であるとして,国力を効果的に利用すべく他の国政施策を含んだ国家的優先事項の再検討を現政権は行なつているとしている。最後に,「交渉に応ずる前向きの姿勢」として,同教書は,昨年12月6日の国務長官の「米国は東西間の緊張緩和のため可能なあらゆる緒口を探求する。」と述べた演説を引用して,平和のために東西のイデオロギー上の差異をさしおいて米国はビジネスライクに共産主義との交渉に進んで応じて行くとしている。
第1部 国家安全保障会議の機能
国家安全保障会議の機能につき,これが効率の高い新外交政策をあみ出しうるものでなければならないとその重要性を強調している。
すなわち,同会議は(イ)創造性にとんだ場当りでない体系的な企画力を具備しなければならず,(ロ)事実関係の的確なる把握が要請され,(ハ)広範な選択,代案の上に緊急事態に対処しうる最良の方策を築かねばならず,かつ(ニ),線香花火的でなく,政策の継続的遂行能力を備えたものでなければならないと述べている。
第2部 パートナーシップとニクソン・ドクトリン
(欧州)
本外交教書は,西欧との強固な同盟関係こそが世界戦争を抑止するものであり,欧州の平和が世界平和の前提条件であると西欧諸国との友好関係の重要性にまず言及している。
すなわち,就任早々大統領自ら欧州に飛んだゆえんを説明したのち,西欧との友好関係があつてはじめて対ソ関係が成立つと判断する旨述べ,NATO戦略の維持継続の必要性をうたい,対ソ戦略兵器制限交渉を進めるに際しても西欧諸国と密接な協議を重ねる旨約している。
なお,昨今の風潮たる公害問題にもふれ,西欧先進諸国との関係は,軍事,政治の伝統的分野に止まらず,公害対策の面でも密度を加えて行く要がある旨説いている。
(ラ米)
ラ米関係では,客年10月31日発表されたニクソンのラ米政策(すなわち,理念としてはラ米の開発イニシアティヴヘの米国の協力の立場を強調した「ニュー・パートナーシップ」をかかげ,具体的政策としては,特恵等貿易問題および投資問題で米国としてできるだけの努力をはかり,援助については,援助額の増額よりもタイミング等実施手続の緩和と多角機関を通ずるそれへの重点移行をうたつた。)をとるに至つた背景および政策内容を再び詳細に述べている。
(アジア太平洋)
まず,(イ)現政権のアジア政策の基本概念を掲げ,次いで(ロ)防衛並びに政治的,経済的パートナーシップの2分野における協力の方途を示し,結びとしての今後の政策実施に際して配慮すべき諸要点を指摘している。すなわち,(イ)としては,米国はアジアに留ること,アジアに新しい協力関係が生まれつつあり,なかんずく日本は平和的進歩のため,より大きな責任を負う立場にあること,さらにかかるアジアの新情勢により米国の役割りを変更しうることを述べている。(ロ)としては,安全保障についてのグアム・ドクトリンの要点を繰り返した上,防衛に関する米国の役割りは過大であつても過小であつてもならぬとなし,次いで韓国,台湾タイ,シンガポール,マレイシアの発展ぶりと地域協力の動きを指摘した上,日本については,わが国とのパートナーシップがニクソン・ドクトリンを成功させるかぎであるとの見地より沖繩返還という重要決定を行なつたと述べ,同時に佐藤総理は日本のアジア援助拡大の意向を示したのであり,これによつて1970年代の日米協力関係の基礎を築いたとしている。さらにインドネシアに対する多国間協力が成果をあげつつあるとし,また,インド,パキスタンについてその発展の可能性と両者間の平和維持の重要性を指摘している。(ハ)としては,アジアの紛争に対処するにあたつては個々の事態につき十分慎重な配慮を行なうこと,中共,ソ連を含む大国のヘゲモニー争いを回避すべきこと,日本との健全な関係維持が平和と繁栄にとつて必要であり,日本との協力関係拡大を求めるが,日本国民の抱く国民感情に反するごとき責任の負担は求めないこと等を指摘している。
(ヴィエトナム)
ヴィエトナムにおける目標は,正義に基づく平和であるとし,この目標達成のため交渉と戦争のヴィエトナム化という2つの方策を遂行しつつあると述べ,そのそれぞれについてこれまでに米国のとつた諸措置と現在の方針を示した上,今後の課題は北越をして妥協による解決を受諾せしめることにありとし,そのため,これまでヴィエトナムでいかほどの成果を達成しえたかについて見きわめることに努力していると述べている。また米兵捕虜について人道的取扱いを求めることを強調している。全体として米国が現状評価に力を入れていることを強調しており,そのため関係当局首脳よりなる特別調査グループが分析活動に当つていることも指摘している。また,目標とする平和は米国民が一致して支持しうるものたるべしとし,安易な平和につくことによつて将来の災禍を招き,もつて米国民の政府に対する不信を招来するごときはなしえぬと指摘している。
(中東)
中東平和達成の心要性と同地域の有する豊かな発展の可能性の2側面を指摘している。中東紛争については,当事者相互のかかえる困難を認めつつも,解決達成の最小限の条件として,国連の停戦決議の遵守が必要であると説き,これを基礎として当事者双方が妥協を行なうことによつてのみ解決が可能であると述べている。また仮に最終的解決がえられないにせよ,紛争の規模は局限されるべきであり,大国の介入は制限されねばならないとし,この関運で武器供与制限の必要性をあらためて繰返している。
次いで開発面については,同地域が自身で多くの資金を有することを指摘し,米国の援助は資金供与よりも技術,投資,訓練の面に重点がおかれる方向にあるとしている。
(アフリカ)
米国のアフリカに対する関心の度合いを示しつつ,開発援助,人道的援助の実施,内政不干渉,アフリカ諸国の自主自立尊重等こそが米国の基本方針である旨説明している。
(国際経済政策)
(1) 経済面における各国の協力は,経済的にも政治的にも有益である旨述べ,米国の責任は重大であり,米国経済の非インフレ的成長,ドルの安定,国際金融の強化および自由貿易の促進が重要である旨指摘している。同時に,米国のアプローチは国際経済においても国際的責任を分担することであると述べ,また,経済面においては,ガット,KR等に示される国際的協力の長い歴史がある旨述べている。
(2) 国際金融政策
国際金融制度は,国際経済関係の中核をなしているとし,貿易,資本交流および政治的関係の繁栄のためには,(イ)各国間の不均衡をファイナンスするための十分な流動性,および(ロ)不均衡の拡大,長期化を避けるため有効な国内経済政策の調整手段が確立されなければならないと述べている。上記(イ)については,SDRの創設が適切,かつ,重要な措置であつたとし,支払い準備として金の比重は減'じて行くべきもので,またドルヘの依存も過重であつてはならないとしている。またドルの信認を維持するため,なによりもまず米国の経済安定を確保すべきことを強調している。上記(ロ)については,70年代において国際金融制度のいつそうの発展を期するためには,各国が国際均衡をはかるために健全な国内経済政策をとる必要があることを強調する一方,各国通貨間の為替レートを随時適切に変更するための調整方法に関する国際的検討の結果に期待を寄せていることを明らかにしている。
さらに,上記のような事情にかんがみ,国際取引に関する現存諸制限の縮減は可能であり,米国としても1969年以来対外投融資規制の緩和等,その点に関する具体的措置をとつてきたことを述べている。
(3) 通 商 政 策
まず自由貿易は各国の経済的繁栄および政治的摩擦の防止に貢献する旨述べ,主要国はすべて自由貿易を追求しなければならないことおよび通商政策においても真の相互主義が求められることを指摘している。1969年に米国は諸外国の貿易障壁の軽減ないし撤廃をはかり,また新通商法案を提案したと述べ,同法案の内容を簡単に紹介し,さらにNTB協議の開催を呼びかけ,米中経済関係における規制的措置の緩和を行なつたと述べ,発展途上国の発展のためには,対外援助だけでは不十分であり,これら諸国との貿易の拡大も必要であるとの認識の下に,リベラルな特恵の供与を提案した旨述べている。さしあたりの懸案としては,新通商法案の議会通過,NTBおよび農産物貿易に対する障碍についての国際的協議の促進,および特恵問題の妥結を挙げ,また将来の問題としては,近く新設される「国際貿易および投資政策委員会」において,(イ)対外投資が貿易に及ぼす影響,(ロ)国内的なディスラプションを避けつついかに自由貿易を促進するか,(ハ)東西貿易(対共産圏貿易が拡大されうるよう,共産圏諸国との関係が改善される日を待ち望むと述べている。),(ニ)EECと米国を含む域外諸国との関係について検討することとしたい,と述べている。
(国連)
国連が危機外交の場となり,多数国間の協議の場として有用であり,現に過去25年間に幾多の業績を挙げてきたことは事実であるが,国連だけでは国際紛争,特に超大国間のそれは解決しえないのも事実であるとし,国連の平和維持機能には自ずと限界もあることを指摘している。国連の掲げる諸原則に対する支持を強調しつつ,当面国連に期待される業績として,政治的紛争解決もさることながら,国際航空の安全の確保,経済開発および人口調節のための種々の方策の開発,宇宙の開発等客年のニクソン大統領国連演説の際の諸提案に言及している。
第3部 米 国 の 力
(1) 本外交教書は,米国の外交も米国の力を背景にしてこそ成り立つゆえんを説き,そのため1969年1月米国の国防政策は再検討の必要性に当面し,国家安全保障会議における検討を通じ,1970年代に相応しつつ均衡のとれ,かつ,予算と内政上の要請をも考慮した国防政策を策定し,1971年度の国防予算はこの再検討の結果を反映している旨述べている。
(2) 従来国防政策はややもすれば外交上,内政上の重点事項とは別個に策定されるきらいがあつたので,国防政策討議に予算局長等を加えることにより,かかる欠陥の是正を図り,また多くの政府機関が国防および外交政策につきばらばらに関与することから一国に対する政策に調整を欠くきらいがあつたので,これも予算編成等の過程で是正することを図るとともに,受入れ国の希望に合致するように努めた旨述べている。
(3) 戦 略 部 隊
ソ連の戦略兵器充実にかんがみ,1970年代においてわれわれは,他国が戦略兵器の優位をかさにきて米国およびその同盟国に対し,一方的におのが意思をおしつけることを排除するだけの広義における確実な破壊力を維持しなければならない。米国が一方的,かつ,急速に戦略部隊を削減することも,また増加することも米国にとつて利益ではなく,ソ連との核軍縮を図ることによつてお互いに無駄をはぶく必要がある旨を指摘している。
(4) A B M
ソ連の拡大する核戦力にかんがみ,またいかなる国よりする小さな核攻撃であつても,米国を破壊におとしいれる危険があるので,ABM拡大を決定し,近く国防長官が明らかにする。この拡大計画は最小限のものであつて,また対ソ戦略兵器交渉上の柔軟さを阻害するものでもないと述べている。
(5) 一般目的部隊
米国の軍事力は内乱,ゲリラ戦,民族解放戦等に対しては万能薬ではなく,これらに対してはかかる事態にならないよう経済発展,社会改革および警察力による対処をより必要とする。米国は経済,軍事援助によつて当該国を助けることができる。軍事力により直接介入する場合は,明らかな軍事兵力による侵略があり,かつ,米国の国益,既約束および同盟国の努力に照して決定される。
従来米国は同時に2つの大戦と1つの火消し戦争を実施する一般目的部隊を保持してきたといわれる。しかし,今後は1つの大戦と1つの火消し戦争とのみを同時に実行しうる一般目的部隊を維持することとした。
われわれは今後とも欧州およびアジアに地上軍支援戦術空軍を海空軍とともに保持するとともに,十分な兵力を米本土にも維持するとして,均衡のとれた現実的な国防政策の重要性を強調している。
第4部 交渉の時代
「an era of negotiations」と題し,対共産圏外交の基本姿勢から説きおこし,対ソ連,対東欧,対中共政策および軍縮交渉を論じている。
(1) 冒頭共産圏外交を進めるにあたつての基本的情勢認識として,核時代に入つてから,(イ)力の行使は政策目標を実現せず,対決(confrontation)よりも話し合い(negotiation)が重要であること,(ロ)地域的紛争において大国の利害関係は当該地域諸国の勢力にほとんど影響力を行使しえないことを米国も共産諸国も認識するにいたつたこと,(ハ)不測の事態の進展あるいは誤算という共通の危険を両体制とも認識するにいたつたこと,および(ニ)両体制にとり現実は期待どおりにはならないことが証明されたこと,の4点を指摘している。
(2) 従つて,米国も共産諸国も恒久平和実現のためには話し合いをしなければならないのであり,米国としてはこの話し合いを進めるに当つては,次の3原則を堅持すると論じている。すなわち,(イ)共産国家も国家的利害の追求を計るものとみなし,この認識の下にかれらに期待しうべきことを正確に認識した上で共産諸国と話し合うのであり,彼らとの話し合いの場を冷戦のやりとりの場とするものではない。(ロ)米国としては急いで大きな成果をあげようとは思わない。過去において両体間制の話し合いはそれが首脳会談であれ,それ以下のものであれ,話し合いの内容よりも話し合いがもたらす心理的な効果の方が大きかつたが,現政権は準備を重ね忍耐をもつて目的を達成する考えである。(ハ)話し合われる問題を正しく評価した上で対処する次第であり,現政権は現下の国際情勢が複雑にからみあつていることを十分認識しているとして,米国としては原則は譲らないが,現実的に話し合いを進めるとの意向を明らかにしている。
(3) 上記の原則は,共産圏外交にも適用される。
(ソ 連)
米ソ関係について過去1年間に軍縮交渉の進展,SALTの開始,海底資源平和利用,NPT批准等の成果があつたが,ヴィエトナムおよび中近東についてのソ連の態度は建設的ではなかつたとし,70年代においては,ソ連が過去の政策を捨て,恒久平和探究への姿勢を示すことを期待すると論じている。
(東 欧)
ソ連の安全保障上の正当な利害をそこねることは米国の意図ではないと述べた上,東欧諸国をそれぞれ主権国家として認め,現存する緊張を緩和する目的で東欧諸国との関係を,東欧諸国が適当と考える程度および速度において漸次正常化する用意があると論じている。
(中 共)
7億以上の人口を有する中国を国際社会から孤立させておくべきではなく,長期的には中共は世界,ひいてはアジアの安定のために欠かすべからざる存在であることをまず述べ,米国は歴史的に中国人と友好的な関係にあり,米国の基本的な利害の多くは中国のそれと相容れないものではないが,他方猜疑心とイデオロギーの深溝があることも認識せざるをえない,と指摘している。
米中関係の基本として,台湾問題があり,米国としては国府防衛のコミットメントを維持する意向であるが,同時に中共とも相互に利益となる新らしい行動のパターンを確立できるような話し合いを深めたいとし,米国が北京との実際上の関係(practicalrelations)改善のためにできる限りの措置をとることは,アジアおよび世界の平和と安定に利することになると論じている。
さらにワルソー会談再開については,これにより大きな進展は期待されないとしつつも,上記が有益なものとなることを希望していると述べている。
(4) 軍 縮
今回の交渉の特徴として,米ソがそれぞれ特定の対案を固めて出すという従来の軍縮交渉の方式を捨て、双方の意図および可能性を共同でつめつつ合意に到達しようとするアプローチをとつていることが挙げられる。すなわち,まず双方から合意しうる事項のモデルを示しあつて,問題点の所在を明らかにしあつた。これに基づき米側では,査察研究パネルを任命して,兵器体系別にソ連に関して一方的査察を行ないうる米側の能力を分析した。査察能力の分析は,戦略兵器制限の各種の組み合せを研究する上での積み上げ材料を提供した。これらの組み合せは大きく分けて,(イ)ミサイルの数,(ロ)ミサイルの数および能力の双方,(ハ)攻撃兵器の削減,の3つのオプションであり,それぞれ防禦ミサイルの各配備段階と関連させて分析されている。この積み上げ方式のおかげで米大統領は特定の米国案にこだわらず,問題点と種々の可能な選択を包括的に評価することができ,今後の交渉に臨んで弾力的な立場を与えられている。ヘルシンキ交渉では,この積み上げ方式の正しさが証明され,ソ連もこれを歓迎しており,ビジネスライクに討議が進められている。
なお,SALTはNATOおよび日本との安全保障問題とも基本的に関連しており,米国としては,これらの諸国と十分に協議し,交渉の各段階でこれら諸国の見解も反映させているが,今後とも密接な協議を続けるつもりであると説明している。
なお,このほかCB兵器使用制限問題および大量破壊兵器の海底敷設の禁止問題等について,国際協定到達のために行なつている米国の努力についても言及している。
(5) 将来の課題
将来の課題として,(イ)戦略兵器制限問題,(ロ)紛争地域への武器輸出問題,(ハ)東西間の重要な政治問題の解決(米国は共産諸国との話し合いはするが,自由陣営の基本的利害について譲歩するつもりはない。)および(ニ)危機に際しての緊密な協力,の4点を指摘し,共産圏外交において自由陣営の利益に十分留意しつつプラクティカルな話し合いを進めると結んでいる。
6.結 び
最後に,「平和の新しい定義」と題して,平和が公正であるべきこと,力を必要とすること,寛大であるべきこと,分ち合われるべきこと,現実離れせざること,等をるる述べるとともに,新らしい平和の概念は,科学を人間に奉仕させるものであり,戦争を放棄せしめ,多様性を評価し,異民族が異なつた体制の上に生存するの権利を尊重するものであり,武器の縮減をはかる代わりに理性を高まらしめるものでなければならないと,「平和」に対する賛歌をもつて本教書を結んでいる。
ニクソン大統領の外交教書(日本関係部分の仮和訳)
1.(序論部分)
ニクソン・ドクトリンが宣明された地域であるアジアにおいては,日本と米国とのきずなが強化されている事実に如実に示されているとおり,パートナーシップが米国の政策にとつて特別の意味をもつであろう。アジア諸国との協力は,これらの諸国が相互に協力し,地域的機構を発展させるに従い促進されるであろう。
2.(第2部「アジアと太平洋」の部分)
日本は世界の大工業国の1つとして,新しいアジアの発展に果すべき独自の緊要な役割りを荷つている。昨年中の日本に対する米国の政策は,米国が探求しているすべてのアジア諸国との間の創造的なパートナーシップという考え方を具体的に示すものである。
大統領就任に際し,わたくしは,米国と日本との関係の将来にかかわる枢要な問題,すなわち,沖繩の地位という問題に直面した。在沖繩米軍基地使用の現状を変更することなく,米国による沖繩の施政を維持して行くことと,今後長期にわたつて日本との関係を強化して行くことと,いずれをわれわれはより重要と考えたのであつたか,われわれは後者の道を選んだ。これは他のアジア諸国が平和裡に発展するのを援助するというわれわれの努力にとつて,日本との協力関係が決定的な重要性を有するからである。日本とわが国とのパートナーシップは,アジアにおけるニクソン・ドクトリンの成否を決める「かぎ」となるであろう。
かかるがゆえにわたくしは,昨年11月佐藤総理のワシントン訪問の際,同総理との間に,1972年中に沖繩を日本に返還するための準備を進めるとともに,返還後在沖繩米軍基地は日本本土内の基地と同一の地位におかれることとなることに合意をみたのである。これは,わたくしが大統領として下した最も重要な決定の1つであつた。
他方,総理は,日本政府としては,日本経済の成長に応じて,そのアジアに対する援助計画の拡大と改善を図る意向である旨を表明した。発展途上の諸国の経済上の必要と取り組むことが国際の平和と安定の促進にとつて緊要であることに,総理とわたくしとは見解の一致をみた。総理は,日本の貿易および資本についての制限の縮小と廃止を進めるとの日本の意図を述べた。総理はまた,ヴィエトナム戦争後の東南アジアに安定と復興をもたらすため,なにをなすことができるかを日本は探求している旨述べた。総理は,米国が東アジアにおける防衛条約上の義務を十分に果すことは,日本にとつて有益である旨確言した。
われわれは,かくして1970年代の日米協力関係の基礎を築いたのである。
3.(第2部「アジアと太平洋」の項の結論部分)
日本との健全な関係は,太平洋地域の平和,安全および生活水準の向上を確保するという日米双方の努力の成否にとつて決定的な重要性を有する。われわれは,1969年に深めえた日米間の協力関係を拡張して行くことを待望している。しかし,われわれは,日本に対し,日本国民が抱いている深い関心に反するような責任を負うべく要求することはしないであろう。