-科学技術における国際協力-
第8節 科学技術における国際協力
IAEA第13回総会では,(イ)核物質基金の創設(ロ)理事会拡大(ハ)核爆発平和利用サービス(ニ)技術援助などの問題に関して,非核兵器国からのIAEAの機能に対する希望の増加が強くみられた。また,保障措置問題に関しては,保障措置業務の拡大に伴い,保障措置制度の効率化を訴える国がふえてきたこと,また,発展途上国においても,核兵器不核散条約と保障措置制度の結びつきが具体的に意識されだしたことが注目された。また日本代表は特に(イ)原子力平和利用分野には,核兵器不拡散条約下に認められているような核兵器国と非核兵器国との差別的取扱いを持ち込むべきではない,(ロ)日本はIAEAの保障措置に全面的に服しており,すべての国が日本と同様にIAEAの保障措置を受けるよう強く希望する。(ハ)保障措置業務の拡大に伴い,効率的な保障措置技術を開発すべきである。(ニ)原子力平和利用の飛躍的促進に欠くことのできない科学的技術的な核情報の円滑な国際的交換のために,国際的サービス組織の創設を支持する等の点を強調した。
(2) 非核兵器国会議関係
第24回国連総会においては,第23回総会の決議に基づき(イ)非核兵器国会議の結論の実施,(ロ)発展途上国の経済的科学的発展に対する原子力技術の寄与,(ハ)適当な国際管理の下での平和目的核爆発サービスのIAEA内への設立,についてそれぞれ事務総長報告が提出された。(ロ)の報告書作成にはわが国の専門家が参加した。さらに非核兵器国会議のフォローアップとして,わが国は関係国と協議して決議案を作成,または決議案の共同提案国となり,(イ)非核兵器国会議の成果実現のためIAEAなど関係機関に協力を要請する,(ロ)核兵器国に対し核爆発平和利用の情報をIAEAに提供するよう要請し,IAEAには核爆発平和利用の研究,活動報告書の作成を要請する旨の2決議案が採択された。
(3) 核兵器不拡散条約の下における保障措置問題
わが国は,核兵器不拡散条約の下での保障措置(査察)問題が論議されるようになって以来,機会あるごとにIAEAによる査察の簡素化,合理化およびそれを受ける各国間の平等性の確保を繰り返し主張してきた。1969年度における主な活動としては,IAEA第13回総会(前項参照)および4月,8月,12月にそれぞれ行なわれた査察技術に関する専門家会議に参加した。これらの諸会議において,わが国は(イ)核兵器不拡散条約の第3条の下での査察は,当事国のすべての平和目的の核物質(ウラン,プルトニウム等)に適用されるので,核燃料加工工場→原子力発電所→使用済燃料再処理工場へと移動する核物質の流れに注目して,その重要な箇所において,この流れ全体に使途不明の核物質がないことを機器等を用いて確認する(ロ)各国(または地域的国家群)の国内(または地域)査察制度をできるかぎり利用し,この信頼度が高ければ,IAEAはこの制度の運用を検証することによって,IAEA保障措置の直接適用の程度を軽減する方式を採用すべきである,などの主張を行ない,会議参加者の原則的な支持を得た。このような方式が採用されれば,IAEAが直接行なう査察の回数を軽減でき,査察員の近づく場所が狭くなり商業秘密の漏洩の可能性も少なくすることができる。これを実現するためIAEAおよび各国は協力して関連機器の開発とそれらを使用した総合的なモデル実験などを行なうこととなった。
(4) 国連放射線影響科学委員会
第19回国連科学委員会(1969年5月)は,核実験の放射能による環境汚染,人体の染色体異常の誘発などの問題につき,第24回国連総会に対する報告書を作成したが,この報告書は,1969年10月16日より国連総会特別政治委員会で審議され,その際,わが国代表は,同科学委員会の行なってきた作業を高く評価し,今後もひきつづき同委員会が作業を行なうよう要望する,また,わが国は国連総会決議案の16ヵ国共同提案に参加すると述べる一方,中共が1969年9月末行なった水爆実験を遺憾とする旨発言した。
(1) 宇宙空間平和利用における科学技術的国際協力
1969年3月の宇宙空間平和利用委員会科学技術小委員会では,宇宙技術の応用の面で国連のとるべき具体的措置が主要テーマとなり,これについて活発な討議が行なわれた。宇宙開発の最初の10年が過ぎて,今後の世界の宇宙開発がその技術の利用と普及の時代に向かいつつある時,宇宙後進国が宇宙開発から生ずる利益を享受するため,国連はいかに活動すべきかが問題の焦点であった。しかし,これはいまだ模索の段階であり,今会期においては発展途上国からの願望の一端が現れたに止まり,国連の活動の具体化は今後の問題として残された。
また,宇宙空間平和利用委員会は,衛星からの直接放送の技術的側面およびこれより生ずる法律的問題につき検討するため直接放送衛星作業部会を設立して2月および7月に会合したが,今会期では問題が各国より提起されたにとどまり,その解決策は今後の会期において審議されることとなった。
(2) 宇宙空間の平和利用における法律問題の検討
宇宙空間平和利用委員会法律小委員会は,1969年の会期にひき続き「宇宙損害賠償協定案」につき審議したが,主要項目に関して各国の意見が分かれたため,協定案成立にいたらず,次回の会期および宇宙損害賠償協定非公式協議において再び審議することとなった。
(3) 宇宙開発に関する日米協力
1969年7月31日外務省において,愛知外務大臣とロジャース国務長官の間で「宇宙開発に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協力に関する書簡」が署名,交換された。
この取決めの骨子は次のとおりである。
(あ)米国政府は,日本のQおよびNロケット並びに通信衛星その他の平和的応用のための衛星の開発のための技術および機器を米国企業が日本に提供することを許可することを約束する。
(い)日本国政府は,日本に移転された技術および機器が平和目的にのみ使用されること,移転された技術・機器およびこれらを使用して製作したロケット,通信衛星等が米国との合意による場合のほか第三国へ移転されないよう法令および行政手続に従ってすべての可能な措置を執ること,並びに米国との協力の結果開発された通信衛星がインテルサット協定(次項参照)の目的と両立するよう使用されることを約束する。
インテルサットは,1964年に署名された「世界商業通信衛星組織に関する暫定制度を設立する協定」および通信事業者が当事者である「特別協定」により設立され,現在加盟国は,74ヵ国である。
現在のインテルサットは,暫定的制度であるので,これを恒久化するため,1969年2月第1回全権会議を開催して恒久協定案につき審議したが,合意に達せず,同年6月,9月および11月に準備委員会を開き協定案作成に努力した。1970年2月16日より第2回全権会議が開催され,準備委員会の報告を基礎として検討したが,恒久制度における管理機構および理事会における投票権の問題につき,欧州諸国と米国が対立していたところ,わが国と豪州が妥協案を提出し合意に達するかに見えたが,最終的合意にはいたらず,次回の全権会議で審議することとなった。
第23回国連総会は,わが国をはじめ米,ソ,英,仏等42カ国からなる「国家管轄権の及ぶ範囲以遠の海底(以下深海海底という。)の平和利用常設委員会」を設置し,この委員会に(イ)深海海底の資源(主として石油・天然ガスが考えられているが,その他にもマンガン,ニッケル等多くの鉱物資源が存在する。)の開発が人類の福祉に貢献するような深海海底の法原則の作成(ロ)資源開発の促進(ハ)この分野での国際協力強化(ニ)非軍事利用の確保(ホ)海底資源開発を促進するための国際機関の設立(へ)海洋調査長期計画および(ト)資源開発による海洋汚染防止等の諸問題の検討を行なわせ,必要あるものについては勧告させることとした。
深海海底平和利用委員会は,1969年の2月,3月,8月,11月の4会期にわたって開催された。その結果,深海海底平和利用委員会は,経済技術面では(イ)資源の探査・開発技術の進歩(ロ)海底資源開発促進のための国際機関設置問題の経済技術面(ハ)海洋調査長期計画暫定案等の検討を行ない,法原則に関する法律面での検討結果と併せて,その報告書を第24回国連総会に提出した。
第24回国連総会は,この報告書および各国から提出された諸決議案を審議し,その結果,(イ)特に深海海底の範囲を明確にするために海洋関係4条約(1958年にジュネーヴで採択されたもの)を再検討する国際会議を早く開催することについて各国の意見を照会する,(ロ)深海海底平和利用委員会に,その審議を促進し,特に法原則宣言案を第25回国連総会に提出することを要請する,(ハ)深海海底開発のための国際機関についてさらに検討する,(ニ)深海海底について国際制度が制定されるまでは,いづれの国も,何びとも,深海海底での資源開発活動を差し控えること,また,この区域の海底とその資源に対する請求権は,一切認めないことを宣言するとの趣旨の4決議を採択した。
わが国は,特に,深海海底資源の開発は,人類全体の利益のために行なわれるべきであり,そのために,一方においては,この資源開発から得られた利益の一部を国際社会のために拠出するという思想を原則的に支持することを明らかにするとともに,他方,この資源開発が推進されるような条件が具備されなければならないとの基本的な立場を明らかにした。
1970年3月に開かれた海底平和利用委員会では法原則問題を重点的に審議したが,主として先進国グループと発展途上国グループの間の意見の相違のため何ら合意に至らなかった。
国連事務総長は,第23回国連総会決議にしたがい,1969年5月,1972年に開催される「人間環境に関する国連会議」に関連して,人間環境に関する報告書を提出した。同報告書は,先進国においても発展途上国においても,工業化,都市化によって,人間環境が急速に悪化しつつあるので,各国がその予防と回復を緊急にはかる必要があることを訴え,さらに,1972年に開催される国連会議で各国の研究,経験が紹介されれば関係国や国際機関が措置をとる際の指針となるとして,かかる意味で,この会議が国際協力による公害解決の契機として役立つものでなければならないとし,この会議の目的を定め,同時に会議開催の準備体制,参加国,参加団体,所要経費見積りなどを明らかにした。
第24回国連総会は,この事務総長報告書と,同報告書に関する経済社会理事会の審議報告および勧告を検討した後,(1)この会議を1972年6月にスウェーデンで2週間にわたって開催すること,(2)会議準備について事務総長に助言するために,日,米,ソ,英,スウェーデン等27ヵ国政府の代表で構成される準備委員会を設けること,(3)この会議の準備に当っては,関係国際会議特に1971年ヨーロッパ経済委員会がプラハで開催する会議の成果を考慮に入れることなどを骨子とした決議を採択した。
この決議に基づく準備委員会の第1回会合が1970年3月10日から20日まで国連本部で開かれ,わが国からは鶴岡国連大使を長とする代表団を派遣した。