-国連の社会人権問題-
第5節 国連の社会人権問題
第24回国連総会は,社会の進歩と開発に関する宣言案を中心とする社会問題および人種差別撤廃,武力闘争における人権尊重,国連人権高等弁務官設置などの人権問題について審議したところ,注目すべき諸点は次のとおりである。
この宣言は,社会開発政策の共通の基礎として採るべき原則,目的,および手段を定めたものである。第24回国連総会は,前総会に引き続き第2部 (目的)と第3部(手段)を審議するとともに,この宣言全体を採択した。
なお,審議の過程において,先進国よりあらゆる援助を引き出そうとする開発途上国の激しい攻勢にあい,侵略により生じた損害の賠償金や軍縮により解放された資源を社会開発のために使用すること,核兵器実験禁止,生物化学兵器の開発,生産および備蓄の禁止,また国家管轄権外にある宇宙空間や海底資源の開発などに関する条項をこの宣言に盛り込む結果となった。これに対し,先進国はこれらの条項は,社会,人権および文化問題を取り扱う第三委員会の権限を逸脱するのではないかとの疑問を提起し,きわめて消極的な態度をとった。結局,発展途上国の数の前に押し切られたというべく,この宣言はきわめて包括的な妥協の産物となった。
ナチズム,南部アフリカにおける政治犯の処遇問題,アパルトヘイト,国際人種差別撤廃闘争年およびイスラエル占領地域の人権尊重に関し,それぞれ決議が採択された。これらのうち,ナチズム,南部アフリカ,アパルトヘイトに関する決議は例年どおりの非難決議である。国際人種差別撤廃闘争年に関する決議は,1971年をこの闘争年に指定するとともに,世界人権宣言を遵守し,人種差別撤廃のため努力するよう各国および国際機関に要請するものである。イスラエル占領地域の人権尊重に関する決議は,イスラエルが住民の人権を侵害しているとしてこれを非難する趣旨のものである。わが国は,イスラエルの人権侵害行為を既定のものとして断定,非難するこの決議の態度は特別委員会(第23回総会で設置された)の調査結果をプレ・ジャッジする虞れがあるとの立場から,決議案全体に棄権した。
なお,米国が北越における米軍捕虜の待遇問題を提起したが,これは1966年の安保理以来のことであり,とりわけ米軍捕虜の問題を国連で取り上げたのははじめてである。
国連事務総長は,第23回総会の決議に基づき,武力闘争における既存の国際人道条約の適用および新たな人道条約作成の必要の如何に関する研究の中間報告を提出し,各方面で関心を呼んだが,今次総会では時間不足のためこの問題を審議せず,来総会で最優先的に審議することになった。
以上のほか,国連人権高等弁務官談置問題も今次総会で審議されず,来総会に持ち越された。