-国際連合における活動とその他の国際協力-

 

第4章国際連合における 活動とその他の国際協力

 

第1節 第24回総会における政治問題

 

 

1.わが代表団の構成と愛知外務大臣の一般討論演説

 

 国連第24回総会に対するわが国政府代表は次のとおりであった。

  愛知 揆一 外務大臣

  鶴岡 千仭 国際連合日本政府代表部特命全権大使

  安倍  勲 国際連合日本政府代表部特命全権大使

  大木金次郎 青山学院長 赤谷源一外務大臣官房審議官

  久米  愛 日本婦人法律家協会々長

 愛知外務大臣は69年10月4日の総会本会議において一般討論演説を行ない,平和への戦いのテーマの下に国連の平和維持活動,ヴィエトナム,朝鮮,中国,中近東,南部アフリカ,軍縮,経済社会開発等の問題に言及し,また1970年は,国連25周年に当ることにかんがみ,憲章の再審議も含め国連のあり方再検討の問題を提起し,さらに,経済社会開発諸機関の事業調整等の問題について発言した(同演説全文,資料2の(4)参照)。

 

2.中国代表権問題

 

 本問題は1949年10月1日,中国大陸に中共政権が成立し,同政権が同年11月18日国連に対し,中共は中国人民を代表する唯一の正統政府であること,中華民国代表の法的地位は否認されるべきことを通告してから,約20年にわたって中華民国,中共のいずれが国連において中国を代表する権利を有するかの問題として争われてきたもので,国連が発足以来直面した最も困難かつ複雑な問題として毎総会世界の関心と注目を浴びているものである。

 第24回総会は11月3日から11日まで本問題を審議した。一般討論では44ヵ国が発言したが,本年はソ連,カナダ等の諸国が一切発言せず,またイタリア,ベルギー,チリ等も一般討論に参加せず,例年に比べてやや低調に終った。審議に際し,日本,米国,オーストラリア等18ヵ国は,「中国の代表権を変更する提案はすべて重要問題であるとの決定を再確認する」旨の決議案を,アルバニア,カンボディア,キューバ等17ヵ国は「中華人民共和国の代表権を回復し,蒋介石の代表を追放する」旨のいわゆるアルバニア型決議案をそれぞれ提出した。本会議は11月11日関係決議案の表決を行ない,重要問題確認決議案を賛成71(わが国を含む),反対48,棄権4で採決し,アルバニア型決議案を賛成48,反対56(わが国を含む),棄権21で否決した。前回の表決と比較すると今回は重要問題決議案の賛成票が2票減少し,他方アルバニア型決議案の賛成票が4票増加して基本的態勢に変化はなかったがやや中共側 に有利な結果に終った。なお,1966年以来イタリア,ベルギー,チリ等の諸国が推進してきた委員会設置決議案は第24回総会では提出されなかった。

 鶴岡代表は,一般討論において,本問題は世界の平和,国連のあり方に重大な影響を及ぼす重要問題と考えており,また国連から中華民国を一方的に 追放することには反対する旨の発言を行なった。

 

3.朝 鮮 問 題

 

 国連は1947年の第2回総会で朝鮮の独立問題,次いで1948年大韓民国,北朝鮮両政府の成立に伴い第3回総会以降毎総会朝鮮の統一問題を審議してきたが,北鮮が国連の権威と権限を否認して国連のあっせんによる解決を拒否しているため,総会ではなんら具体的成果をあげるに至っていない。

 第24回総会では,第1委員会(政治,安全保障,軍縮)で10月28日から30日まで韓国,北朝鮮両当事者の招請問題,11月11日から17日まで実質問題を審議した。

 (イ)招請問題ではソ連など北鮮支持国24ヵ国共同提案の韓国,北鮮の同時無条件招請決議案を賛成40,反対55,棄権27で否決し,日本,米国,オーストラリアなど16ヵ国共同提案の「韓国代表の招請を決定する。北鮮代表は国連が憲章の範囲内で朝鮮問題について措置をとる権威と権限を受諾することを条件に招請する」との趣旨の決議案を賛成65,反対31,棄権26で採択した。この結果,例年どおり韓国代表だけが投票権なしで朝鮮問題の審議に参加することを認められた。

 (ロ)実質間題では,11月17日第1委員会で表決の結果,ソ連など北鮮支持国共同提案の在韓国連軍撤退要求決議案を賛成29,反対61,棄権32で,また「国連朝鮮統一復興委員会(UNCURK)」解体決議案を賛成30,反対65,棄権27で,また朝鮮統一問題審議取り止め決議案を賛成29,反対65,棄権28でいずれも否決し,日本,米国,オーストラリアなど19ヵ国共同提案の「国連朝鮮統一復興委員会」の活動継続,在韓国連軍の駐留継続支持決議案を賛成71,反対29,棄権22で採択した。本会議は11月25日UNCURK存続,在韓 国連軍駐留継続支持決議案を賛成70(わが国を含む),反対26,棄権21で採択した。

 

4.国連のあり方再検討問題

 

 第24回総会は,1970年が国連創立25周年にあたることから,一般討論演説等を通じて国連のあり方の再検討や憲章改正の問題にふれた国が多くみられた。

 愛知外務大臣は,一般討論演説で,国連の25周年を機会に国際連合を,より効果的な機能を発揮しうる機関とするために,過去において国際連合がいかなる点で所期の成果を挙げ得なかったかを反省し,将来進むべき方向の指針を見出すとともに,その一環として,憲章の再審議をも行なうことは,時宜に適するものと考えられること,国連憲章に掲げられた目的と諸原則は,25年後の今日の時点においても加盟国の行動の規範として十分に支持しうるものではあるが,現実の世界は,憲章が予想した世界とはほど遠い発展を示しており,国連はこの現実をふまえたうえで,国連創立の理念を実現する最善の道は何であるかを真剣に探究すべきであるとの基本的な考え方を述べた。このほか,一般討論演説で,国連のあり方の再検討や憲章改正の問題にふれた国は,ニュー・ジーランド,ウルグァイ,フィリピン,ジャマイカ,コロンビア,ケニア,南イエーメン,インドネシア,中国,イタリア,セイロン等が挙げられる。そのうち,憲章改正にもっとも前向きの関心をみせたのは,わが国以外では上記のうちフィリピンとコロンビアであった。フィリピンのロムロ外相は,変化した国際情勢に有効に対処できるよう国連の平和維持機能は強化されなければならないので憲章の再検討が次期総会の議題となるよう希望する旨の趣旨を述べた。また,コロンビアのロペス外相は,現在の世界の力関係は,1946年当時とは異なっており,これに合わせ憲章の改正が必要であること,中共の参加も検討すべきであること,また,安保理には常備軍をおいて,強制措置の実効を高めるべきであるとの主張を行なった。

 コロンビアは,11月21日「国連憲章改正のための諸提案を審議するための特別委員会の設置」と題する議題の追加を要請,これが一般委員会で採択され,第6委員会の審議に付託された。しかしながら,米,英,仏,ソ等の安全保障理事会常任理事国は,現状維持,憲章改正に反対との基本的立場に基づき,かかる問題を第24回総会で審議することに消極的態度を示したため,コロンビアは結局,本件を十分に審議するための時間的余裕がなかったことも考慮して,特別委員会の設置案を断念し,12月3日,本件を第25回総会に持ち越し,「国連憲章再審議に関する諸提案を審議する必要性」と題する議題を第25回総会の仮議事日程に含めるとの趣旨の手続決議案を提出した。ソ連はもち論,米,英,仏等は,かかる手続決議案にも難色を示したが,第6委員会の審議を経て結局12月12日本会議は,同決議案を,賛成69(わが国を含む),反対11(ソ連圏等),棄権22(西欧等)で採択した。

 

5.国連創立25周年記念行事

 

 国連は国連創立25周年にあたる1970年を期して,各種の記念行事を挙行することを検討していたが,第24回総会において(1)25周年のテーマは平和・正義・進歩とする(2)1970年10月24日を頂点とする短期間,記念会期を開催し,重要宣言の調印または採択を行なう(3)記念会期には加盟国の元首または首相が出席するよう勧奨する(4)国連主催のもとに世界青年会議を開催する(5)記念メダル,記念切手を発行する(6)加盟国,専門機関等に対して適当な25周年記念行事を企画するよう要請するとの趣旨の決議を採択した。わが国はこの決議の趣旨に則り,国連における各種の記念行事に積極的に参加するとともに,25周年を単なる祭典に終らせることなく,国連の機能強化のための諸方策を探究する機会とするよう努力することを考えている。また,国内においても地方公共団体,民間団体の協力を得て有力加盟国にふさわしい記念行事を挙行することを計画中である。

 

6.南部アフリカ問題

 

 近年アジア,アフリカ諸国の間で本問題に対する政策を再検討しようとの動きがあったが,今次総会において,南部アフリカ問題は,話し合いにより解決されるのが望ましく,強硬策にのみたよるべきではないとする「南部アフリカ・マニフェスト」を歓迎する趣旨の決議が採択された。しかしながら,個々の問題,例えば南ローデシア問題については,英国による武力行使,南アおよびポルトガルヘの制裁の拡大を,また南アのアパルトヘイト問題については,加盟国に南アとの経済関係等の断絶を要請するなど従来とほとんど変らない強硬な決議が採択された。

 特に今次総会で注目されたことは,本問題審議において多くのアフリカ諸国が南アと経済関係を深めている国として,わが国を英,米,独とならべて名指しで近年になく激しく非難したことであった。わが国は,従来より人種差別反対,植民地独立支持の原則を堅持する一方,問題の解決はあくまで平和的かつ現実的なものでなければならないとの立場をとっており,この点で必ずしもアジア,アフリカ諸国と考えを一にしないので,今後わが国に対する風当りは強まることも予想される。

 

7.国際安全保障に関するソ連提案

 

 ソ連は,1969年6月に発表された「アジア集団安全保障」構想とも関連した「国際安全保障強化」を,総会の追加議題に採択するよう要請した。ソ連の考え方は,占領地域からの外国軍隊撤退と民族運動の弾圧中止,効果的地域安全保障体制の創設,安保理事会強化,侵略の定義の明確化と監視の強化等の点を国連総会が宣言として採択すべきであるとしたものである。

 ソ連提案は,第1委員会の審議に付託されたが,ソ連案に全面的賛成を示したのは,東欧,アラブ圏諸国をのぞいてはほとんどなく,各国の態度が全くまちまちであったため,結局本件審議は第25回総会に持ちこされるところとなり,各加盟国は1970年5月1日までに,本問題に対する見解をまとめ事務総長に提出することとなった。

 

 

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