-技術協力の概況概説-
第2節 技術協力の概況
わが国の1968年の技術協力支出額(DACベース)は,1,370万ドルにのぼり,1967年の1,100万ドルと比較すると,270万ドルの増加となっている。
しかし,わが国の技術協力はこれまで年を追って着実に伸長して来たにもかかわらず,これを他の先進諸国と比較した場合,その規模はまだまだ小さく,とくに経済協力額全体のうち技術協力の占める割合が著しく小さいことが際立った特徴ととなっており,そのいっそうの拡大が内外各方面より強く要望されている。
外務省は,1969年度において発展途上国に対する技術協力を拡充するとともにその実施機関である海外技術協力事業団をいっそう拡充すべく努力したが,そのための予算として,(イ)海外技術協力事業団に対する海外技術協力実施委託費56億9,000万円(前年度比,13.3%の増加),(ロ)同事業団の運営費である交付金7億8,000万円(前年度比,約23.4%の増加)および(ハ)同事業団出資金3億5,000万円を計上した(なお,海外技術協力事業団に対しては,以上のほか,外務省経済開発計画実施設計等委託費1億円,通商産業省海外開発計画調査委託費1億1,800万円および文部省理科・農業教育協力費2,600万円が委託された)。このほか,技術協力の範疇に属する文部省留学生受入経費4億256万円,海外技術者研修協会(6億2,5405万円)等の民間ベースの技術協力関係団体に対する通商産業省の行なう技術協力のための経費等の合計は約16億8,000万円に達した。
わが国政府ベースの技術協力事業の大宗を占める海外技術協力事業団関係予算につき,従来に比べ改善された点の主なものを詳述すれば,次のとおりである。
(1)研修員の受入れ
受入れ研修員数の増加を図ったほか,研修員の書籍購入費,福利厚生費等の増額が行なわれた。また研修員に対する日本語教育を強化する措置がとられた。
(2)専門家の派遣
専門家の派遣数は前年度の規模に留め,もっぱら専門家の待遇および身分保障の改善に重点を置いた。すなわち専門家在勤俸の増額,専門家技術指導を能率化するための現地語教科書作成費および専門家が調査報告書,設計書を提出する場合の設計報告書作成費の新設等が実現したほか,長年の懸案であった専門家の一時帰国制度が新設された。
(3)海外技術協力事業団の強化
技術協力の規模の拡大,内容の多様化に伴い,同事業団のいっそうの整備強化が急務となっているところ,同事業団職員および海外駐在員の増員,名古屋研修センターの新築,茨城農業研修センター,同事業団本部増改築のための措置がとられた。
上記予算措置の下に実施された1969年度の技術協力実施状況は次のとおりである。
(1)研修員の受入れ
アジア諸国,1,184名,中近東およびアフリカ諸国243名,中南米諸国159名,その他5名,合計1,591名の研修員を受入れた。この結果,1954年度から1969年度までの累計は,12,489名となった。
(2)専門家の派遣
アジア諸国300名,中近東およびアフリカ諸国95名,中南米諸国30名,その他7名,合計426名の専門家を派遣した。このほか,東南アジア漁業開発センター,アジア開発銀行等の国際機関に対しても33名の専門家を派遣した。1954年度から1969年度までの専門家の累計は,2,265名にのぼっている。
(3)日本青年海外協力隊の派遣
1969年度においては10月シリアとの間に協力隊派遣に関する取決めを締結し,2名の隊員を派遣したほか,すでに隊員を派遣している9ヵ国に対し新たに145名の隊員を派遣し,協力隊事業発足以来の派遣総数は667名となった。また2年の任期を終了し帰国した隊員のうち約10名が専門家として任用され目下活躍している。
(4)機 材 供 与
1969年度においては中華民国放送局に対するテレビ中継車,ネパール家内工業省に対する和紙製造機材,サウディアラビア石油鉱物資源省に対する鉱物鑑定機,ケニア航空局に対する航空無線用機材,コスタ・リカ農牧省に対する水産研究器具など,アジア,中近東・アフリカおよび中南米の21ヵ国に対し22件,総額1億4,000万円相当の機材を供与した。
(5)海外技術協カセンターの設置・運営
1969年7月,インドネシア政府との間に水産協力センターの設置協定が締結され,その結果これまでわが国の協力により設置されたセンターは30ヵ所にのぼったが,このうち既に協力期間を終えて相手国政府にセンター運営を引継いだものを除き,現在ブラジル繊維工業,ガーナ繊維,パキスタン電気通信,ケニア小規模工業,フィリピン家内工業,メキシコ電気通信,シンガポール原型生産,韓国工業,ウガンダ職業訓練の9センターに対し協力している。このほか模範農場を改組したインドの農業普及センター(4ヵ所)および引き継ぎ済みのその他の国のセンターに対してもあらたな機材の供与,専門家の派遣などの協力を行なっている。
(6)開 発 調 査
1969年度には,投資前基礎調査(外務省),海外開発計画調査(通産省)など約3億6,000万円の予算をもって,23件の開発調査(アジア17件,中近東・アフリカ4件および中南米2件)を実施した。このほか,ラオス・ヴィエンチャン空港拡張,マレイシア・クチン港建設およびカンボディア・チュルンスマイ港建設の3プロジェクトに対し実施設計を実施した。
(7)医 療 協 力
1969年度予算9億1,000万円をもって,インドネシア,フィリピン,中華民国,マレイシアおよびケニアに調査団を派遣するとともに従来から協力してきたヴィエトナム・サイゴン,チョウライ両病院,タイ・ガンセンター,エチオピア公衆衛生省中央研究所,ブラジル・ペルナンブコ大学熱帯医学研究所等40近くのプロジェクトに対し,専門家派遣,機材供与および研修員受入などの形で協力を行なった。
(8)農 業 協 力
インドネシア・西部ジャワ食糧増産,マレイシア農業機械化,フィリピン稲作開発,カンボディアとうもろこし増産開発,農業畜産両センター,ラオス・タゴン農業開発,タイ養蚕,セイロン・モデル農業開発およびインド農業普及センターの各プロジェクトに対し,専門家派遣,機材供与などの協力を行なった。さらにインド・ダンダカラニア地区開発およびヴィエトナム・カントウ大学農学部設立に伴う協力に関し所要の調査を行ない1970年度より開始される本格的協力に対する基礎固めを行なった。
(9)開発技術協力
1969年度には,1億4,000万円の予算をもって,インドネシアおよびカンボディアとうもろこし開発並びにタイー次産品(ケナフ,大豆,油糧種子,飼料作物)開発の3プロジェクトにつき,専門家派遣および機材供与により協力した。さらにカンボディア木材開発プロジェクトの予備調査を実施した。
(10)理科および農業教育協力
文部省予算約2,600万円により,中華民国,シンガポール,ウガンダ,イラン等の諸国に対し,それぞれ1名の専門家を派遣し,1,680万円にのぼる指導用機材を供与した。