-商品問題をめぐる国際協調の動き-
第4節 商品問題をめぐる国際協調の動き
世界貿易に占める発展途上諸国のシェアーは約20%程度にすぎないが,これら諸国の輸出額の80%以上が一次産品によってしめられ,これより得られる外貨収益は,発展途上諸国の経済発展にとっては,重要な資金源となっている。
一次産品の価格安定と輸出収益の安定的増大を目的とした輸出国と輸入国の間の国際協調の具体的な動きとしては,すでに殻物,砂糖,コーヒー,すず,オリーブ油の5品目について商品協定が締結されており,わが国もこのうちオリーブ油を除く4つの商品協定に加入している。1968年2月の第2回UNCTAD(国連貿易開発会議)において緊急に国際措置をとるべき商品としてとりあげられた諸商品のうち,砂糖に関しては国連砂糖会議において1968年10月新協定が採択され,さらに天然ゴムに関しては1969年7月の国際ゴム研究会第20回総会においてフェアー・マーケッティングコードが採択された。そのほか採油用種子および油脂,ジュート等の硬質繊維については目下FAO(国連食糧農業機関)において検討が続けられている。また第2回UNCTADで事務局長の下に研究を開始することが合意された鉄鉱石,タバコ,マンガン鉱,雲母,こしょう,シェラック(絶縁材料),りん鉱石のうち,鉄鉱石,雲母,シェラックに関してはすでに需給事情等に関する検討が開始されている。このほかバナナ,甘橘類,綿花,タングステン,茶,米等 についてはFAOの研究部会等において問題点の研究が行われている。
わが国の場合には食糧および原料の輸入依存度が高く,今後とも一次産品の輸入量は増大していくものと考えられ,一次産品価格の安定化,安定的供給源の確保に関してはとくに大きな関心を有しており,またわが国が輸入している一次産品の生産国のなかには,東南アジア諸国をはじめとして外交上わが国と密接な関係を有している発展途上国も含まれているので,わが国としては商品問題の解決にあたっては,可能な限り協力するとの基本的姿勢をとっている。
現行の国際穀物協定は,ケネディ・ラウンド交渉の一環として1967年国際小麦理事会主催のもとに行われた交渉において作成され,1968年7月1日から3ヶ年の有効期限をもって発効した。国際穀物協定は従来の国際小麦協定の考え方を踏襲した小麦貿易規約と食糧援助規約より構成され,アルゼンティン,オーストラリア,カナダ,デンマーク,フィンランド,日本,ノールウェー,スウェーデン,スイス,英国,米国,EEC各国は,前記両規定の双方に加入することを条件として穀物協定への加入を認められているが,その他の国はいずれか一つの規約に加入することが認められている。1970年2月末日現在の小麦貿易規約への加入国は,輸出国10ヶ国,輸入国33ヶ国である。
現行の小麦貿易規約の骨子は,米国,アルゼンティン,オーストラリア,EEC,スウェーデン,ギリシャ,スペイン,メキシコの代表的銘柄14種を基準小麦とし,それぞれについて,メキシコ湾岸の港におけるf.o.b.価格で表示された価格帯を設定して輸出国はこの価格帯内の価格で輸出することを約束し,また輸入国は通常の取引で購入する小麦の総量のうち,できる限り大きい割合を規約加入国から買入れることを約束するものである。しかしながら,穀物協定発効の当初より(1)1968年における米国,カナダ等の主要生産国の豊作,大手輸入国であるインド,パキスタンの自給努力などによる輸出国の在庫量の増大,(2)ソ連および東欧諸国(いずれも協定未加入)による低価格輸出などにより,市況は軟調気味に推移し,下限価格を下回って輸出する加入国も相次いだため,小麦市況はかなりの混乱を経験した。現在のところ輸出国による価格引下げ競争は一段落をつげ,市況も小康状態にあるがいまだ価格帯の下限の水準を回復するに至っていない。なおわが国は従来,小麦の買付先を米国,カナダ,オーストラリア3国に限定していたが米国の対極東地域輸出価格の引下げが遅れたのを機として,買付をグローバル方式にきりかえた。なお現行の穀物協定の有効期限は1971年6月末日であるので,本年度中には改定交渉が行われることとなろう。
第二次大戦後の砂糖貿易に関しては,国際価格の安定化を目的として,すでに1953年および1958年の二回にわたり国際砂糖協定が締結された経緯がある。現行の「1968年の国際砂糖協定」は,1958年の協定の後をうけて1968年10月国連砂糖会議で採択され,日,英,加,ソ連等の輸入8ヶ国,豪,キューバ,ブラジル等の輸出28ヶ国の加入により,1969年1月1日より暫定発効,同年6月17日より正式発効したものである。わが国は,1969年6月17日正式加入国となった。1970年2月末日現在の協定加入国は輸出国34ケ国,輸入国13ヶ国で合計47ヶ国である。現行協定は年間約2,000万トンにのぼる世界砂糖貿易量のうち,特恵市場(米国内の消費向け輸出,英連邦砂糖協定による取引,長期的協定に基くキューバの対社会主義諸国輸出等)以外の自由市場(年間の貿易量は約900万トン)を対象としたものであり,その骨子は,ポンド当り3セント25~5セント25を指標価格帯として,需給の動向,国際価格の変動に応じて,輸出国に対する輸出割当量を調節することによって,国際価格の安定化を図らんとするものである。現行協定と1958年の協定との間の主要な相違点としては,指標価格帯の幅が拡大されたこと,相場がポンド当り6セント50をこえた場合に輸出国に対し供給保証義務を課したこと,相場がポンド当り3セント25を下まわった場合には,輸入国は非加盟国からの輸入停止の義務を課せられていること,救済予備枠などの発展途上国優遇措置がおりこまれたこと等をあげることができる。
現行協定の発足当初においては,1969年の輸出割当総量が,各国の基準輸出総量よりやや低めに決定されたため,相場は一時上昇基調を示したが,1969年8月中旬から,下降に転じ,1969年8月にはポンド当り価格は3セント25を下まわるに至り,このような事態に対処するため,1969年8月27日以来,加盟輸入国は協定第28条一項に従い非加盟国からの輸入を全面的に禁止されていたが70年3月に至って3セント25を上まわったので,非加盟国からの全面的輸入禁止は解除された。わが国は,自由市場における最大の輸入国として,現行協定の締結交渉に主導的役割を果したばかりでなく,その後の協定の運営面においても大きな影響力を及ぼしている。なお,はじめて協定にとり入れられた第30条の供給保証に関する実施規則は3月中旬の理事会会合において正式に採択され,これに基ずいて価格高騰時における供給保証の細目が取引国間で交渉されている。
1963年に発効したコーヒー協定は,1968年9月30日に失効したが,これに先立ち国際コーヒー理事会は,1968年2月この協定を改正し「1968年の国際コーヒー協定」の名称で,同10月1日から有効期間5ヵ年の新協定を採択した(同協定は1968年12月30日に正式に発効した)。その骨子は旧協定とほぼ同様であるが,価格安定のための輸出割当の設定,品種別価格帯制度,生産規制,多角化基金の整備,非加盟国からの輸入制限等の内容に関しては旧協定よりかなり強化されている。1969年12月30日現在の協定加入国は,輸出国41ケ国,輸入21ヶ国である。わが国は,旧協定に引き続き1969年5月28日輸入国として新協定に正式加入した。わが国は,旧協定の場合と同様新市場国(1人あたりの消費量はいまだ少ないが将来著しく増加する可能性のある国を新市場国として特別扱いとし,この新市場国に対する輸出は,加入輸出国に対する輸出割当のわく外として取扱われる)の地位にあるので,加入輸出国から輸出割当外のコーヒーを買付けることができる。
コーヒーの国際市況は,ここ数年来軟調気味に推移したが,1969年7月世界最大のコーヒー生産国であるブラジルが大規模な霜害に見舞われたため上昇に転じ,国際コーヒー理事会が再度にわたって,今期(1969年10月-1970年9月)の輸出割当量を拡大したにもかかわらず,相場は依然として増勢基調にある。
すずについては1966年7月1日,5ヶ年の有効期限をもって第3次すず協定が発効した。しかるに1967年以来すずの市況は生産過剰のため軟調に転じ,「緩衝在庫基金」による買上げにもかかわらず一向に回復のきざしがみえなかったため,生産国は1968年9月の国際すず理事会の決定に従って輸出制限を行った。その結果,1969年の市況は総じて強含みに推移し,11月には価格が上限価格帯(ロングトン当リ1515英ポンド-1630英ポンド)に入るに至ったので,国際すず理事会は,1969年末日をもって生産国こよる輸出制限措置を廃止する旨の決定を行った。
なお,1971年6月末日に失効することとなっている現行第3次すず協定を更新するための交渉は,本年4月13日よりUNCTADの主催のもとにジュネーヴにおいて行われる。
ココアに関しては,生産国に対する販売割当および緩衝在庫の併用を骨子とする協定案の作成を目的とする国連ココア会議は,一部協定のメカニズムに関し合意に達せず,1967年11月一12月ジーネーヴで開かれた会合を最後に中断されたままとなっている。他方,1969年6月,生産国(ガーナ,ナイジェリア,ブラジル,カメルーン・エクアドル・メキシコおよび象牙海岸)と消費国(米,独,英,オランダ,ソ連,スイスおよび仏)はジュネーヴで会合を開き,前記協定案に関しいまだ合意に達していない諸問題(主として価格問題)について討議を行ったが具体的な結論を得るに至らなかった。しかしながら,1969年後半からココアの市況は軟化基調に転じており,また1969年12月,国連総会において,1970年早期に協定締結のための交渉を行うべしとの決議も採択されているので,今後の動向に注目する必要がある。
ゴムについては国際ゴム研究会において,ゴムの生産,消費,貿易等に関する一般的研究および情報交換の外,天然ゴムと合成ゴムとの競合問題がとりあげられている。マレイシアをはじめとする天然ゴム生産国は,天然ゴム市況軟化の一因が合成ゴムの不当に有利な販売条件にあるとして,1967年末以来フェアー・マーケッティング・コード(市場取引を公正化するための規約)の作成を強く要求していたが,1968年10月パリで開催された同研究会の第83回会合で,市場攪乱防止等の努力目標をかかげたコード(法的拘束力はない)が採択され,次いで1969年7月ロドンで開催された同研究会第20回総会において承認された。1969年には,(1)米国の戦略備蓄在庫からの天然ゴムの放出停止,(2)1968年におけるソ連・中共の買付増大,(3)インドネシアの不作等を背景として天然ゴム価格が高水準を維持したため,天然ゴム生産国の動きは一応小康状態にあるが,今後の価格水準の推移如何によっては,前記コードに法的拘束をもたせることを要求したり,あるいはUNCTADの場において先進諸国に対し天然ゴムの輸入関税の引下げを迫ってくる可能性も考えられる。
1969年1月,FAO主催によりウガンダで開かれた第3回茶特別協議会は,最近の茶価格の下落状況にかんがみ,当面する茶産業の諸問題,消費の促進を討議し,茶の価格安定のための国際取決めに関する作業部会を設置した。同作業部会は1969年5月ローマにおいて開催され,1年毎に更改する価格安定のための短期的措置と長期的措置として輸出割当方式による茶協定案につき検討を行なった。その結果正式に協定の話合いが行なわれるまでの間は輸出国間で非公式に協議を行なうこととなり,これに基づき,7月モーリシアスにおいて茶輸出国会議が開かれ,1970年の茶の輸出割当案を討議した。他方,1969年の第44回FAO商品問題委員会において,常設的機関として,茶協議会の設置が認められ,その第1回会議が12月初旬ローマで開催され,「1970年における国際措置」の議題の下に前記モーリシアス会議の輸出割当量を一部修正の上決定した。(総量13億1,140万ポンド)