-OECD(経済協力開発機構)を中心とする国際経済協力-

 

第2節 OECD(経済協力開発機構)を中心とする国際経済協力

 

 わが国が今や自由世界で国民総生産第2位という経済大国になるに至った事実は,OECDにおけるわが国の地位を確固たるものに高めたと同時に,OECD内においてわが国に対し,国際経済社会における地位にふさわしい義務の遂行を求める声を強めることとなった。

 OECDにおいては,発足以来事務総長の重責を全うしてきたクリステンセン氏が1969年9月末をもって退任し,代って,オランダの財政・金融問題の専門家ヴァン・レネップ氏が事務総長に就任した。

 

1.経 済 政 策

 

 OECD諸国の1969年の経済と貿易は,当初のスローダウンするだろうという予想に反して根強い拡大を持続した。とりわけ米国においては,財政措と置金融引き締めにもかかわらず,需要抑制は期待したほどには奏効しなかった。その他の諸国も需要は予想以上の強さを示し,1969年の実質成長率は5%程度(前年5.7%)になるものとみられている。

 反面,インフレと国際収支不均衡が一段と顕現化し,本問題は1969年の6月と11月に開かれたOECDの経済政策委員会(EPC)を中心に真剣に討議された。すなわち,この会合では主に(あ)需要調整の諸問題,(い)インフレに関する諸問題,(う)国際資本移動に関する諸問題の3つが議論された。そして,国別には米国,日本,ドイツがとくに問題とされたのであるが,なかでも,わが国が国際収支黒字基調下における国内の金融引き締め状況について,あらゆる機会を通じて批判の対象となったことは特記されねばならない。今後,わが国経常収支の増大に伴い黒字国の節度を1969年にも増していっそう強く要請されることになろう,先の経済政策委員会では,すでに,残存輸入制限の撤廃,関税の一方的引き下げの検討,資本輸出の促進等が具体的に主張されたが,今後は「黒字国の責任」を果たすためにもこれらを積極的に実行していく必要があろう。

 

2.貿 易 問 題

 

(1)加盟国間貿易問題

OECD加盟国間の問題としては,国際収支調整過程で貿易面でとられる措置の問題と政府調達とがある。前者については,1969年1月貿易委員会において提案されて後,過去にとられた具体的事例に基づいて検討を行なわんとしている。政府調達については国産品優遇措置を制限撤廃するとの方向でガイドラインの策定作業が行なわれている。現在のところ,バイ・アメリカン制度のごとく制度上の差別措置はさておき,運用面における事実上の外国品差別を重視すべしとの考えと,両者を並行して検討すべしとの考えがあり両者の調整がはかられている。

(2)東 西 貿 易

OECDにおける東西貿易の検討は,1967年秋以来中断されていたが,ルーマニアのガット加入問題との関連で,1969年12月より再開された。

(3)特 恵 問 題

特恵問題については,1968年春の第2回UNCTADにおける早期実施の決議にかんがみ,先進諸国はOECD貿易委員会の下に特恵作業グループを設けて検討を行なっていたが,作業の進展をはかるため,各国ともとりあえず暫定的品目リストを1969年3月1日を目標に,OECDへ提出することとなった。大部分の国は目標日である3月1日前後にリストを提出したが,米国は政権交替のため作業が遅れ,7月末にいたりようやくリストを提出したものの同リストでは米国がいかなる特恵供与を行なうかについては何ら表明していなかった。

しかるに,先進諸国は1969年11月15日までに何らかの文書をUNCTADへ提出するとの方針で作業を進め,事実11月14日に各国の特恵供与案をUNCTADへ提示した。

わが国は3月10日に暫定的リストをOECDへ提出したが他国の特恵供与案にくらべ例外品目数が多く,また無税でなく50%カットを原則としていたので,OECDにおける先進国間の協議の際もわが国国力に不相応で あるとして手きびしく非難された。このため,UNCTADへの提示にあたっては再検討を余儀なくされた。その結果,従来のエスクープ・クローズ方式によったのでは特恵供与品目を増大し,無税原則を採用することは非常に困難であることが判明したので,工業品についてはシーリング方式による特恵供与を行なうこととし,これをOECDを通じてUNCTADへ提示した。シーリング方式を採用したことにより,わが国は,原則無税, 例外なしの特恵供与を行なうことができ,またシーリング枠を設定することにより国内産業への影響を最少限にとどめ,かつ特に国内的に困難な事 情にある品目については,引下げ幅を50%カットとし,競争力概念を導入 する等の配慮を行なった。なお,農産加工品については従来どおり,品目毎に検討のうえ特恵供与品目を選定し,引き下げ幅を定めた。

上述のごとく,先進諸国はそれぞれの特恵供与をUNCTADへ提出したが,受益国,エスケープ・クローズの内容,原産地証明規則など特恵実施までに解決されねばならない事項はいまだ多く残されている。また,米国は,各国とも米国のごとく少数の例外品目を除いてシーリングなしの無税供与を行なうこと,既存特恵,逆特恵が廃止されることを特恵供与の前提条件としているが,これも調整を要する大きな問題である。

 

3.現代社会の諸問題

 

 クリステンセン前事務総長は,経済政策,農業,工業,科学,教育,労働,地域開発,独禁法関係等OECDで取扱っているあらゆる分野において,近年特に顕著になりつつある諸現象を「現代社会の諸問題」と名付けて,これらにOECDの全機構をあげて取り組もうというアプローチを示した。これに対し,ヴァン・レネップ新事務総長は,こうしたアプローチに批判的な態度を採るに至り,同じく現代社会の諸問題と称しながらも,対象を環境問題に限定し,これにWELFAREといった目標をとり入れた経済政策的観点 (すなわち資源配分の見地)を重視するラインを打ち出し,おおむね各国の賛同を得ることとなった。

 他方,事務総長より5月の閣僚理事会に間に合わせるよう,環境問題に関するアドホック準備委員会の設立が提案され,環境問題の各セクターごとにCost-benefitの観点から分析を行なうことが提議された。右準備委員会は,3月と4月にそれぞれ一度ずつ招集され,OECDのとり上げるべき対象分野,問題のとり上げ方等につき検討し,基本的には,経済政策的観点を見失わないとの立場から,さらに問題を閣僚理事会に上げた。

 

4.科学技術問題

 

 OECDは,加盟国の経済成長を促進するためには,科学技術の振興が重要であるという認識の下に,各国の科学政策のレビュー,技術格差問題の検討のほか,大気および水汚染,都市,輸送,材料,科学技術情報,道路,原子力等に及ぶ広範囲な問題について研究協力を行なっている。

 1969年2月の理事会で,当時の事務総長クリステンセン氏は技術革新に基づく経済の高度成長に伴って,新たに生ずる都市,公害,大学,農業等の諸問題,いわゆる「現代社会の諸問題」を総合的に把握し,これらに対処していくことの重要性を訴えた。これに関連した活動として,科学技術を政治活動と並ぶ国家政策の基本要素としてとらえ,そこから新しい科学技術政策の概念を生み出すことを目的とし,日本を含めた主要7ヶ国のハイレベルの有識者から成る事務総長直属のグループが設立され,1月に第1回会合が開催された。このグループは,年内に数回の会合をもち報告書を作成することになっており,これに基づき1971年春に予定されている科学大臣会議において,新しい科学技術政策の方向が打ち出されるものと思われる。

 また,OECDは,社会経済の発展に即応した人材の供給を目的とし,教育の量的成長と質的充実のための活動・研究を行なっているが,現在,1970年代における教育,初等中等教育における教員の需給,教育モデル,科学者技術者の国際的移動,教育工学,各国教育政策の検討等に活動の重点が置かれている。とくに注目すべきことは,教育政策に関する各国とのコンフロンテーションの一環として,1970年1月,5人の著名な教育問題専門家からなる調査団が来日したことである。

 

5.工業・農業・労働問題等の検討

 

 OECDの工業問題に関する最近の検討対象は,(1)各国の貿易・資本の流れ,雇用水準およびパターン,技術移動等にますます大きな影響を与えている多国籍企業の実態調査,(2)急速なテンポで進行する技術革新と発展途上国の追い上げという情勢における中小企業政策,(3)経営,技術革新に即応した経営能力向上のための教育,(4)過密・過疎等経済成長のもたらす地域間の不均衡是正(地域開発政策),(5)各国産業政策等である。1970年6月には日本において工業委員会が開催され,日本の産業政策に関するコンフロンテーションを中心に検討を行なうことが決定されている。

 また,制限的商慣行委員会は,多国籍企業,合併,企業力の現代的形態等企業の巨大化,国際化に関連する問題,販売拒否,パテント,排他的代理店契約等公正取引の諸問題,輸出カルテル等国際貿易上の問題の検討を行なうほか,制限的商慣行に関する事前通告国際協力を推進している。

 エネルギー問題について,OECDは,天然ガスの他エネルギーに及ぼす影響やエネルギー長期需給予測の見直し等を行なった。また,石油の安定的供給確保を主眼とした各国の石油備蓄事情の検討,石油に起因する大気汚染に関する各国の事情や対策(法制)の研究等を行なった。

 農業面では,1968年の農業大臣会議において,世界の農業は牛肉を除くほとんどすべての温帯農産物が過剰であり,農産物の需給および貿易の均衡回復が急務であるとの結論に達した。この結論に従って,農業問題の解決策につき主要国間でハイレベルの討議が行なわれ,従来提唱されて来た構造改善等の側面的な解決策のほか,生産調整や価格支持の凍結等直接的解決策の必要が強調されたが,結論を見なかった。

 農業委員会も,かかる大勢を十分意識しつつ,とくに早急な解決を必要としている酪農品,青果物について解決策を模索し,生産調整を含む解決策につき結論を出したほか,これら品目につき各国の保護措置の現状を分析し報告書を作成した。

 水産委員会は過去2年にわたる水産業不況を背景とし,1968年の水産業の実情分析や各国の保護の実情等の分析・検討を行なった。

 労働問題に関して,OECDは,1969年はとくに「現代社会の諸問題」を念頭において,社会問題関係事業の強化を試み,また,1971年に労働大臣会議の開催を決定した。積極的労働力政策の一環として,各国の最近の労働力政策につき検討したほか,「現代社会の諸問題」における労働面,とくに労使関係,労働力不足,賃金,物価問題等つき興味ある意見交換を行なった。

 このほか,1969年11月理事会において,消費者政策委員会に新設することが決定された。

 

6.資本および貿易外取引の自由化

 

(1)対内直接投資

現在,わが国では50%自由化業種(160),100%自由化業種(44)合わせて204業種が自由化されている。政府は,第1次自由化(1967年6月)の際,1971年度末までにかなりの分野を自由化するとの方針を決定したが,第3次自由化を目指して,1969年6月,外資審議会に調査小委員会が設置され,現在検討を進めている。なお,外資関心業種のひとつである自動車の自由化時期については,1969年10月,「1971年10月から実施する」ことで閣識了解を得た。

(2)対外直接投資

従来,対外直接投資は1件5万ドルまで日銀事務委任,5万ドルを超える案件については個別審査ときびしく制限されていた。しかし,(あ)国際収支の好調,(い)民間企業の海外進出意欲の旺盛,(う)投資規模の大型化等から内外の自由化要請が強まり,1969年10月1日から大要次のような自由化措置が実施された。

(あ)1件累積残高20万ドルまでは自動認可

(い)20万ドル以上30万ドルまでは日銀事務委任

(う)30万ドルを超える案件については個別審査もっとも,この程度では十分とはいえないという批判もあり,対外経済協力の推進,海外資源の確保等の見地からもいっそうの自由化が望まれよう。

(3)経常的貿易外取引にかかるOECD自由化コード上の留保項目の自由化

1969年4月,海外渡航の規制緩和(1回700ドルまで認められるようになり観光渡航に関する留保を撤回)を行ない,さらに1970年3月1日から1回1,000ドルに引き上げられそれに引き続き,現在わが国がOECDに対し留保している経常的貿易外取引項目のうち,円ベース支店の利潤送金,円べ一ス株式の配当金送金および移住者送金の項目について同年9月1日より自由化した。また,この措置と同時に,一般に外貨送金が認られていない「非居住者預金勘定」についても,自由化の一環として,その現存残高について外貨送金を認めるとともに,当該勘定への預入項目が整理された。

この結果,経常的貿易外取引の留保項目は,技術輸入関係(特許権,ノウハウ等)と保険関係の2つだけとなった。

 

7.造 船 問 題

 

 OECDにおける造船問題は,造船業の正常な競争を阻害する要因の除去を目的として,1965年に設立された理事会直属の造船部会に引き継がれて検討されてきた。1969年5月の理事会決議の骨子になる「船舶の輸出信用に関する了解」では,1969年7月以降交渉される新造船契約に対し,原則として輸出信用条件を(1)頭金20%以上,(2)返済期間8年以下,(3)金利6%以上とし,この条件に見合うよう各国の公的制度を調整することを規定している。本了解には,わが国を含め,英風ドイツ,スウェーデン,フランス,イタリア等の主要造船国13ヵ国が参加している。現在この13ヵ国は,世界の船舶輸出の90%以上を占めており,大部分の輸出船舶が本了解を適用されることになる。今後は直接建造補助,関税等の輸入障害,差別的税制措置,差別的な公的規則または国内慣行,国内造船業に対する投資および再編成のための特定援助等の漸進的除去について検討していくこととなっている。

 また,輸出信用条件に関しても最近の世界的な高金利現象にかんがみ,上記了解の金利を引上げようとする国もあり,今後の動きが注目される。

 

 

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