-各国との友好関係と相互理解の増進-

 

第3節 各国との友好関係と相互理解の増進

 

 国際緊張の緩和といい,平和のための秩序の形成といい,その基礎は国家間,民族間の友好,信頼,相互理解関係である。そのためには,何よりもまず世界のあらゆる国との能うかぎりの友好関係と相互理解を増進しなければならない。わが国は自由諸国と,民主主義,自由を基本的な指針としている点で,共通の利害をもっているが,経済的にも,わが国の貿易,金融面での協力,技 術交流の大部分は,自由諸国との間に行なわれており,自由諸国との政治,経済更には科学技術での円滑な協力関係の維持促進なくしては,わが国の安全とよりいっそうの繁栄は期しがたい。自由諸国との友好関係の維持促進は,わが国の外交政策にとって不可欠である。

 他面,今日の世界において世界的規模の紛争が発生する可能性ありとすれば,その原因は東西対立であり,また多くの局地的紛争の背景にも東西の対立が存在している以上,かかる対立の緩和のため,わが国としてもできうる範囲内での努力をなすことが必要であり,また,二大共産国であるソ連と中共はわが国の近隣国でもあるので,これら共産圏諸国と接触,交流を深め,相互の立場の理解と尊重の上に立って,友好関係の増進に努めるべきであろう。

 

1.米    国

 

 わが国にとって米国との関係は,他のいかなる国との関係にもまして重要である。すなわち,わが国のおかれた地政学的位置,国力国情からしてわが国独自で安全確保に必要な抑止力を備えることは極めて困難であるので,政府はわが国の安全を守るため,わが国の自衛力の整備を図る一方,その足らざるところを日米安全保障条約によって補完するとの政策をとっている。また政府は,日米安保体制の堅持とその効果的運用が,わが国に対する直接の侵略を抑止するのみならず,わが国の安全と不可分な極東の平和の維持のため,下可欠な役割を果たすものであるとの認識に立ってきた。日本は日米安保条約下に,過去17年余の間安全を確保し繁栄した。政府としては,今後も日米両国間の相互協力によって,日米安保条約の円滑かつ効果的な運用をはかる方針である。また,自由諸国との貿易の中でも,とりわけ米国との間の貿易は,わが国の全貿易額の約三分の一を占めていることに見られるように,わが国経済発展にとって,米国との商品,資本,技術等各種の経済交流が果している役割は大きい。もちろん往復80億ドルを超えるに至った貿易関係に伴い,時に若干の摩擦が起こることはあろうが,このような摩擦が,わが国にとってかくも重要な日米関係を損うことがないように措置することが必要である。政府としてはこれらの問題は話し合いにより円満に解決をはかっていく方針である。

 日米両国が,政治,経済,文化などあらゆる分野にわたって長期的に安定した信頼と協力関係に立つことは,わが国の安全と繁栄のみならず,アジア,更には世界の平和と繁栄を促進するための重要な要素である。なぜなら,日米両国は自由と民主主義を基本的指針とし,アジアひいては世界の平和と繁栄のために協力しうる分野が多く存するからである。

 

2.ソ    連

 

 ソ連との関係は,貿易,航空等を通じて,近年とみに密接の度を加えている。米国とともに世界の軍事的均衡を維持し,また極東およびアジアにおいて米国,中共と並んで大きな政治的影響力を有する隣国ソ連との善隣友好関係を維持していくことは,緊張緩和に貢献するものである。また,わが国周辺において,安定した国際情勢が保たれることは,とりもなおさず,わが国の安全 を増し,それはまたわが国の繁栄のための欠くべからざる条件である。

 しかしながら,沖縄返還について日米間に合意をみた現在,北方領土問題の解決はわが国の全国民の最大の願望であり,この問題の解決の上に立つ平和条約の締結があってはじめて日ソ間の永続的平和と友好関係のいつそうの発展の基礎が築かれる。わが国としては今後とも北方領土の返還につき,忍耐強くソ連と交渉を続けていく方針である。また,北方水域での安全操業については,領土問題が解決するまでの暫定措置として,人道的見地からこの問題を早急に解決するようソ連側に申し入れている。

 

3.中    国

 

 中国問題はわが国の外交にとり最大の問題の一つである。

 わが国が外交関係をもつ中華民国との友好協力関係は今後とも維持する方針であり,また,台湾地域における平和と安全の維持は,日本の安全にとって重要な要素であり,台湾に武力行使が行われるべきでないと考える。

 他面,わが国と歴史的に深い関係にある中国大陸に8億近い人口を支配する北京政府があることは厳然たる事実である。また,体制を異にする政府とでも可能な限り友好関係を増進するのがわが国の一般的方針である。

 したがって,わが国としては,北京政府がその対外関係において,より協調的かつ建設的な態度をとることを期待しつつ,相互の立場と国際環境の現実とを理解し合い尊重し合った上で,友好関係の増進を図り,経済,文化,報道などの各面から積みあげて,日中間の交流と接触を促進していく方針である。

 

4.朝 鮮 半 島

 

 韓国の安全は極東の安全,従って日本自身の安全にとって緊要であるが,朝鮮半島の情勢は,依然として緊張をはらんでいる。かかる情勢のもとで,この地域の安全が保たれているのは米国の戦争抑止力によるところが大である。

 他面,一国の安全保障の根本は,国内の政治的安定と経済的発展であり,わが国としては韓国の経済建設に対し,ひき続き協力していく方針である。

 

5.ヴィエトナム

 

 ヴィエトナム政府は一日も早くヴィエトナムに和平が実現することを強く念願しており,また,和平実現に至る過程においても,民生安定のための援助を強化していくとともに,和平実現に伴い,ヴィエトナムおよびその周辺諸国に対して,幅広い国際協力の下に,戦後の復興と民生向上のため可能な限りの援助を行なう方針である。

 

6.アジアにおける地域協力の推進

 

 近年アジア諸国の間には自助の精神,地域協力の気運が高まっている。わが国としても,1966年東南アジア開発閣僚会議を主催し,東南アジアの経済開発という共通の目標の達成のために具体的な努力を払ってきた。また,1969年6月にはわが国においてアスパック,すなわち,アジア太平洋協議会の閣僚会議が開かれた。アスパックは平和と進歩をめざした建設的協力のための機関であり,軍事的提携を企図するものではなく,参加国の総意をその運営の基礎とし,その門戸をアスパック地域の未参加国に対し常に開いている。政府は,東南アジア開発閣僚会議およびアスパックの機能をいっそう充実し,また,域外の先進諸国とも力を合わせて,エカフェ,アジア開発銀行等の国際協力機構の強化をはかり,もってアジア諸国との友好協力関係をますます深めるとともに,アジア地域全般の発展に寄与する考えである。

 

7.西    欧

 

 1970年代において,わが国の国際的地位の著しい向上が見られるように,西欧もEECを中核とする統合への動きが進捗し,欧州の独自性を固めていくことにより,国際関係における地位を強化していくことが予想される。 わが国と西欧はともに,東西関係においては,自由主義陣営,南北関係においては先進工業国に属しているので,それぞれの国際的地位の向上に伴い,協力関係の緊密化,貿易関係の拡大等,あらゆる分野において友好協力関係の強化拡大をはかる必要がある。

 

8.そ の 他

 オーストラリア,ニュー・ジーランド,カナダの太平洋周辺先進国は,わが国と政治上経済上密接な関係にある上に,アジアの安定と繁栄にますます大きな関心を払いつつあり,また中南米諸国は国連を始めとする国際機関の場で常に安定した勢力を有し,わが国の強力な協力者となっている。わが国は,これら諸国との関係のいっそうの緊密化をはかるとともに,更には中近東,アフリカ,東欧の諸国との関係もより緊密化していく方針である。

 

 

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