-わが外交の基調-

 

第2章 わが外交の基調

 

 

第1節 時代の特徴

 

 常に変転して行く国際情勢の中にあって,真の国益を追求して行くことが外交の使命である。1970年代の初頭にあたって,60年代の世界情勢をふり返って見ると,最も顕著なことは,核兵器の破壊力についての国際的な認識を背景として,米ソニ大国の聞において,核全面戦争またはそれに至るおそれのあるような事態を避けようという意思のあることが相互に理解され,いわゆる平和共存関係が定着してきたことにある。

 このように,主として米ソの核抑止力により世界的規模の戦争が回避されているという枠の中で,種々の新たな問題が生じている。一つは,超大国が,その保有する最も強力な武器を容易に使えないことになった結果,局地紛争等を抑制し,または解決しようとする場合,大国の政治的影響力は,必ずしもその軍事力を反映しないようになった。また60年代を通じての米ソ以外の各国の国力の相対的な伸長と相まって,各国が自主性を発揮し得る分野が増大して来たが,これが新たな国際的均衡を達成するのにいかなる役割を演ずるかは,いまだ模索の段階を出ていない。いま一つは,世界の多くの国,特に先進諸国において,永く続いた平和,めざましい生活水準の向上,社会の変化の結果,環境問題,インフレ,小暴力等,いわゆる現代社会の諸問題が発生している。また,他面,戦後の冷戦の時期および激しい植民地独立運動の時期が,60年代という転換期を通じて次第に過去のものとなり,各国の関心が,観念的なものから現実的なものへと移ってきたこともあって,最近の世界における重要な特徴として,大国といわず中小国といわず,各国が国内問題により多くの精力を傾けるようになってきている。

 ひるがえってわが国を見れば,60年代は驚異的な経済成長の時期であり,60年代末期に至って成長は,ますます高度化し,定着して,70年代に向かってもこの趨勢が続くと予想されている。

 これから派生する問題としては,経済大国として国際的責任をいかに果たすか,わが国経済力の海外伸長に伴う国際的摩擦を,いかに調整し,また,わが国に対する各国の理解を深め,無用の警戒心を解かせるか,また,公害インフレ等,いまや先進諸国共通の問題といかに取組むか等があろう。

 外交面においては,60年代後半にまず,わが国と最も近い国である韓国との間の国交が正常化され,その後両国関係は緊密化の度を加えた。ついで,わが国にとって他のいかなる国との関係よりも重要である日米関係においては,小笠原返還に続いて,戦後最大の懸案であった沖縄返還が両国の理解と信頼の上に立って合意され,自由諸国との戦後懸案の解決はここにほとんど終了し,わが外交に一つの時期を劃した。

 さらに,60年代を通じて,国民の意識の中での大問題であったわが国の安全をいかに守るかという問題については,1970年を前にして日米安保条約を継続させる方針について広範な国民的理解が得られた。これにより,日米友好関係は一段と強固な基礎の上に置かれることになり,また,わが国の安全を守る方途についての国民的合意の上に立って,より長期的かつ広い分野における平和外交を展開する素地が作られた。

 

 

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